13 虚に狂気の華が咲く
爵位階級(上から)
公爵→侯爵→伯爵→子爵→男爵
相手の男はこのいかにも世間知らずな青年が、取り込んで利用しやすそうな手駒であることに気づいたようだった。僕を卑下する視線が一瞬僕の顔に落ちて、何事もなかったように戻る。
「私はリオ・ヴィリナーズだ。エドワード君、君のような清純な人間がこの国にいることを嬉しく思うよ。」
リオ・ヴィリナーズ。頭の中で記憶の羅列が高速でスクロールされていく。...あった。第一派閥の子爵。中世以来由緒ある家柄の中堅貴族である。
マナー上、目を合わせないようにほんの少し視線を下げて嬉しそうな顔を作る。
「身に余るお言葉です、閣下。」
僕はそっと嗅ぎタバコ入れ――この会話のきっかけとなったその落とし物を差し出した。鈍く輝くそれが紳士の手に渡り、僕の手から遠ざかるその瞬間。
「ところで、」
相手が退こうとする一歩手前で、僕は声をかけた。不安げに視線を彷徨わせ身をすくめて実におずおずとした態度で。相手の目には、引き際をわきまえない無作法な若者に見えただろうか。会話を打ち切らせはしない。その打算が滲み出ていないことを願う。僕は背中に冷や汗が落ちるのを感じながら、言葉を続けた。
さぁ、勝負時だ。
「今宵の主催者様はどちらにおられるか、ご存知でしょうか。このような素晴らしい場に一言、お礼とご挨拶に伺いたいのです。特に、軽食には驚きました。我が国の潤沢な交易の賜物ですね。...そういえば最近、社交界の知識人たちが忌まわしい奴隷取引を抑え込むために貿易の規制に動いているようですよ。まったく、騒ぐしか能のない退屈な連中です。第一皇子殿下のような高潔なお方が、そんな野蛮な利権に関わるはずがないというのに、妙な邪推をする者がいるものです。」
これは、ある意味強烈な皮肉がかかった鎌である。世間話を装ったそれは、果たして正しく伝わっただろうか?
「...ああ、そうだな。公爵様ならメインホールにいらっしゃるはずだから、ぜひ行くといい。きっと喜ばれると思うぞ。」
相手の変化はわずかなものだった。ほんの少し眉が寄り、一瞬視線が外れた。たったそれだけである。...やはり、場慣れしている貴族はこんなことではたじろがない。
だが情報は十分だ。
「本当ですか?のちに伺って参ります。貴方様も、良い夜をお過ごしください。」
僕は最後にぶかぶかと一礼して踵を返した。頭の中に浮かぶのはうっすらと浮かんできた糸の繋がり、そして先の計画のことであった。
これにて、第一章終結とします。これまで読んでくださった方々、これほど拙い文章を落胆せず読んだくださりありがとうございます。しばらく期間が空いて、本格的に寒くなってきたら第二章を始めます。では、またお会いしましょう!




