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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原皐月
第4章 分水嶺

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(12)突撃

「失礼します」

 申し訳程度にノックの音が聞こえた直後、ドアを開けて倉庫に入ってきたマグダレーナを見て、室内で作業をしていたドルツとエルネストは目を丸くした。


「はぁ?」

「マグダレーナ嬢? どうしてここに?」

「こちらにいらっしゃると、事務係官室でレンドル様にお聞きしました」

 放課後にエルネストが事務係官室を訪問するのを把握していたマグダレーナは、首尾よく相手を捕まえられたことで微笑みながら告げた。それを聞いた二人は、揃って渋面になる。


「あの野郎……」

「どんな言葉で脅したのかな?」

「まぁ、人聞きの悪い。率直に殿下の所在をお尋ねしたら、快く教えてくださいましたわよ? ところで何をしておいでですの?」

「外部の業者から納入された物品を、品目と数量を確認しながら、所定の保管場所にしまっているところだ。お嬢さんもやっていくかい?」

「ドルツさん! 何を言い出すんですか!」

 無視するどころか誘いをかけたドルツに、エルネストは非難の声を上げた。しかしドルツは、諦め顔で言葉を返す。


「エルネスト。お前の言いたいことは分かるが、ここまで押しかけてきたお嬢さんが、邪魔だと言ってもおとなしく引き下がると思えんのだが? お嬢さん、そうだろう?」

 そこでマグダレーナが笑みを深める。


「ドルツ様にご理解いただいて嬉しいです。ついでに私のことも、マグダレーナと名前で呼んでいただいて構いませんのよ?」

「いや、あんたはこれまでのあれこれで全く知らない仲ではないが、流石にそれはなぁ……。お嬢さんで勘弁してくれ。それと俺のことはドルツ様ではなくて、ドルツさんとでも呼んで欲しい」

「お互い、それが妥協点ですわね」

 二人で意気投合したところで、エルネストが苛立たしげに会話に割り込む。


「冗談じゃない。どうして君がここに乗り込んで来るんだ」

「殿下がどんな事をしているか、少々気になりまして。ドルツさん。先程のお言葉ですと、ご一緒させていただけますよね?」

「ああ。こっちの箱を頼む」

「はい。お預かりします」

 マグダレーナは素っ気なくエルネストに答えると、ドルツに向き直る。半ば自分を無視して、箱を受け渡しする二人を見て溜め息を吐いた。


「ええと……、こちらのインク壺の保管場所はどこですか?」

「こちらの引き出しだ。色や大きさごとに分けてあるから、確認しながら入れてくれ」

「分かりました」

 作業台に置いた箱の中身と、一緒に渡されたリストの内容を確認しながら、マグダレーナは黙々と作業を始めた。そして、時折分からない事をドルツに尋ねながら、テキパキと作業を始める。


「取り敢えず、発注品目と数量は合っているわね。次は用紙類だから……」

「…………」

 ブツブツと独り言を言いながら備品を収納していたマグダレーナだったが、紙の束を棚に置いたところで、それを横目で見ていたエルネストが口を挟んできた。


「ちょっと待ってくれ」

「どうかしましたか?」

「そのまま重ねないで、元々保管してある物を上にしてくれ」

 指示された意味が分からなかった彼女は、思わず手を止めて尋ね返す。


「え? どうしてですか? 紙ですから、食べ物みたいに悪くなることはありませんよね?」

「確かに食べ物ほど傷みはしないが、普段多く使われる紙はそれほど品質が良くない物の方が多い。順に使っていかないと、いつまでも古い紙が残ってしまって、それが劣化してしまう可能性がある」

「はぁ……、なるほど。それは分かりましたが、それほど気にしなければいけない事なのですか?」

 困惑も露わにマグダレーナが再度問い返したところで、笑い声が生じる。


「うわははは!」

 それに驚いたマグダレーナは、怪訝な顔を向けた。


「え? ドルツさん、どうかしましたか?」

 すると彼は、笑いを堪えながら告げる。


「実は以前エルネストと、今と同じやり取りをしたものでな」

「あら……、随分と訳知り顔だと思ったら、全く同じ注意を受けておられたのですね」

 事情を知ったマグダレーナも、おかしそうに笑う。それを目の当たりにしたエルネストは、若干気分を害したように断りを入れてきた。


「……用事を思い出したので、これで失礼します」

「おう、そうか。それじゃあな」

 気を悪くしたような風情を見せず、ドルツは豪快に笑いながらエルネストを見送った。彼がドアの向こうに姿を消してから、マグダレーナは苦笑気味に感想を述べる。


「あらあら……、お手伝いすると言っておいて途中で投げ出すとは、責任感の欠片もございませんね」

「あんたも相当だな。あのエルネストを怒らせることができるとは」

「せっかくですから、私は最後までお手伝いいたしますわ。かえって足手まといになるかもしれませんが」

 その謙虚な物言いに、ドルツが好意的な笑みを浮かべた。


「あんたは分からない事は分からないと言えるし、正直だな」

「できない事をできると言ったり、分からない事を分かると言って虚勢を張るのは、無駄な事だと思っているだけです」

「そうか。それじゃあ作業を続けようか」

「そういたしましょう」

 そして二人は何事もなかったかのように、中断していた作業を再開した。



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