(11)報告会
「あははははっ! 今日は本当に面白かったし楽だったな!」
「リロイ、笑いすぎよ」
「そうは言っても! まさかエルネスト殿下に加えて、陛下まで絡んできてくれるとはな! やはりマグダレーナは相当陛下に好かれているな!」
馬車に乗り込んで屋敷に向かって走り出すなり、リロイは笑いが止まらない状態だった。それをネシーナが嗜めたが、彼は笑ったまま妹に視線を向ける。
「それで、どうだった?」
「何の事をお尋ねですか?」
「カモフラージュに立て続けに目立つように踊った挙げ句、殿下と踊った成果は?」
問いを重ねられたマグダレーナは、僅かに気分を害したように口を開いた。
「思っていたより、食わせ者なのは分かりました。意外に、物事が見えているということもです」
「あれだけ騒ぎを起こして耳目を集めて、それを再確認しただけか。お前にしては、随分とリスクが大きい事をやらかしたものだな」
含み笑いで言われてしまったマグダレーナは、僅かに反感を覚える。
「……私でも、偶にはそういう事を考えずに、動きたい時がありますわ」
「そうだな。確かにやられっぱなしは、お前らしくない」
「分かっているのなら、黙っていて欲しいですわね」
険悪な空気を醸し出し始めたマグダレーナを見て、ネシーナが困ったように口を挟んでくる。
「私達が観察していたけど、マグダレーナのカモフラージュは十分で、あなたがエルネスト殿下と踊っても特に注目する方はいなかったようだわ。私が話をした方々の関心も、もっぱらユージン殿下とゼクター殿下の動向についてでしたし」
そこでマグダレーナは、半ばリロイを無視して義姉に尋ねる。
「ちなみに、私が二人にエスコートされて登場した挙げ句、彼らが両殿下と揉めた件についての反響はどうでした?」
「あれでローガルド公爵家とシェーグレン公爵家が、両殿下の派閥から抜けたと認識されましたね。それを目の当たりにして、僅かに動揺していた面々もおられましたよ?」
それを聞いたマグダレーナは、納得しながら頷く。
「両派閥から抜け出したくても、きっかけが掴めなかったり踏ん切りがつけられない方々ですね。その辺りは、お兄様達が把握されていると思いますが」
「今回はリロイというより私が、でしたけど」
「お義姉様?」
クスクスと笑いをこぼしたネシーナを見て、マグダレーナは怪訝な顔になった。そんな義妹に、ネシーナが笑みを深めながら報告する。
「これまでキャレイド公爵家と交流がなかった家が急接近したら周囲から怪しまれるけど、私はこれまでほとんど主だった方々と関わり合いがありませんでしたからね。当主とは接触がなくとも、夫人やご令嬢、義理の娘などと新たに交流を始めるのは不自然ではないでしょう?」
それを聞いたマグダレーナも、自然に笑顔になりながら言葉を返した。
「温室の珍しい花を見るように誘われたり、貴重な骨董品とかを披露するとかの誘いを受けたりですか?」
「ええ。皆さん、物知らずの私に親切にしてくださいます。それに、義母と義妹に余計な事を口外しないよう厳命されているのをご存知の方ばかりなので、ついついポロッと愚痴めいた話を聞かせていただくこともありますし」
「その折に、派閥を抜けたいなどと匂わせる方もおられるのですね」
「本当に、皆様大変そうですわね。今夜は色々お誘いを受けましたので、しばらく忙しくなりそうです」
「よろしくお願いします。お義妹様が社交に励んでいらっしゃるのに、お兄様ときたら……」
姉に軽く頭を下げたマグダレーナは、再び顔を上げるとリロイを睨みつけた。しかし当のリロイは、ヘラヘラと笑いながら応じる。
「そうは言っても、私が切れ者の様子を見せたら周囲が警戒するじゃないか。私は私なりに、きちんと与えられた役割を果たしているよ」
「はいはい、そうでしょうとも」
投げやりに言葉を返したマグダレーナに、リロイは顔つきを改めて尋ねる。
「ところで、相変わらずあのやる気なし殿下の尻を叩く材料はないままか?」
その率直すぎる物言いに、マグダレーナは深い溜め息を吐いた。
「お兄様……、もう少し言い方と言うものが……」
「言葉を取り繕っても仕方があるまい」
「いまだに手詰まりですわね」
「そうだろうな。引き続き頼む」
「……分かっております」
うんざりとした表情を隠さないまま、マグダレーナは兄の言葉に頷き返したのだった。




