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《視点》風見梨子②

一斉に視線を逸らされたことに動揺する。アルト王子が立ち上がり、私の肩を持ち、私を抱き寄せた。


「リコ、そなたの侍女らは、ニホンという国には帰れぬよ」


「どういうことですか?」


「無礼な!侍女の分際で王子殿下に話しかけるなど!」


オバサンがアルト王子に話しかけたことに対し、髭をはやした小太りのおじさんが怒鳴る。


「オルガス。まぁ、よいではないか。今までリコに尽くしてくれていたのだから、褒美代わりだ。質問を許すぞ」


“私の王子様は優しいのね。けど、あの親子、速く追い出してほしいわ。じゃないと、バレるじゃない。”


「私たちは帰りたいんです!どうか、お願いです。日本へ帰る方法を教えて下さい!」


王子の優しさに甘えて、なおも質問するオバサン。


“しつこいわね、これだからオバサンはイヤなのよ!”


「方法があるなら教えてやりたいのだが、何千年という歴史の中で、この世界に訪れた聖女は、誰一人として自分の国に帰られたことがないのだ。つまり、いまだその方法が分からぬということだ。しかも、そなたらのように侍女とその子どもが一緒に来るなど前例がない。分かったか?聖女が帰れぬのに、ただの侍女とその子どもであるそなたらが帰れるわけがないであろう」


「そんな!」


“あら、残念ね。帰れないって分かったんだから、早くここから出ていってくれないかしら。”


なんて、思ってるとオバサン親子の寸劇が始まった。


「しぃちゃん…」


「楽ちゃん、大丈夫だよ。しぃちゃんと一緒ならどこに行っても楽しいでしょ?」


「もうおうちにかえれないの?」


「…それは、分からない。ごめんね。でも、しぃちゃんは楽ちゃんから離れないからね。ずっと一緒だよ。」


「…うん!しぃちゃんといっしょなら、ぼくおうちにかえれなくてもだいじょうぶだよ!」


「楽ちゃん…」


“あ~!!もうっ!!まだ終わらないの?!”


私の我慢は限界だった。


「もういいかしら?私疲れたんだけど。そこの親子のせいで膝も擦りむいて痛いし、服も汚れたし。」


“早くゆっくりしたいんだけど。”


「なんと?!聖女様に狼藉を働いたのか?!」


さっきの小太りじいさんが、上手い具合に乗ってくれた。


「そんなこと」


オバサンが否定しようとしたら、小太りじいさんが、有無を言わせず遮った。


「黙れっ!」


“いいわよ、いいわよ!小太りじいさん、なかなかやるじゃないの!”


「リコ、行こう。君の部屋へ案内するよ。それに君の衣装、ニホンという国は皆そんな衣装なのかい?我々には刺激が強すぎる」


私の肩を抱いていたアルト王子は、いつの間にか自分のマントを外しており、私に羽織らせてくれた。


“アルト王子のマント、すごく高そうね。そうよね、王子だものね。経済力はあるし、優しいし、イケメンだし、身長もある。完璧じゃない。あいつとは比べ物にならないわ。私って本当についてるわ!”


「ありがとうございます、アルト様」


体をしならせて、上目遣いでお礼を言う。


“私はこの人の妻になるんだもの。アルト王子なんて呼び方じゃなくて、アルト様ってお呼びしなくちゃっ!”


「行こう」


「はい、アルト様。」


私は、差し出されたアルト様の手に手を重ね、部屋を出ていく。


「ちょっと」


後ろからオバサンの声が聞こえたけど、気にしない。


“バイバイ、オバサン。”


私が召喚された部屋は地下にあったらしく、部屋の外の廊下は薄暗かった。


「怖くないか?足元に気をつけて」


私を気遣う声をかけてくれるアルト様。


“何て気分がいいのかしら!”


上の階へと続く階段を登ると、まぶしい光に目が眩む。光に目がなれてくると、そこには豪華に飾り付けられた長く続く廊下があった。


“うわぁ!素敵!”


「リコ、おいで」


そういうとアルト様は私を横抱きにして、抱えあげた。私は、そっとアルト様の首に手をまわし、アルト様と視線を合わせる。


(わたくし)、自分で歩けますわ」


「いけないよ。足を怪我しているだろう。地下通路はせまいから、無理して歩かせてしまったが…キミに辛い思いはさせたくないんだ」


「アルト様…」


私に微笑みを向けたアルト様は、前に視線をうつし、歩き始める。磨き上げられた廊下はピカピカと輝き、廊下ですれ違う人々が道をあけ、頭を下げる。


“なんて気分がいいのかしら!”


しばらく進んでいくと、金の縁取りの白い大きな扉の前でアルト様が立ち止まった。扉には金で様々な模様が施されている。


「着いたよ。キミの部屋だ」


侍従が扉をあけようとすると、横から声がかかった。


「兄上!」


扉の向こうをワクワクしながら見ていた私は、邪魔をしてきた声の主を睨み付けようと顔を向ける。


“誰よ!いい気分を邪魔するのは!”


キッ!と睨み付けた先には美少年が。私は、咄嗟に表情を整える。アルト様よりも明るい金髪に透きとおった緑の瞳を持つ美少年に思わず見とれてしまう。


「何か用か?」


「兄上…その女性は?」


アルト様は美少年を見てフンッと鼻で笑う。


「聖女様だ」


「!?」


聖女様と聞くと美少年は、目を見開いた。


「まさか…本当に召喚を!?」


「あぁ、やると言ったではないか」


「あれほどお願いしたではないですか!!なぜですっ!!なぜ…」


美少年は表情を浮かべグッと唇を噛む。


「なぜ?分からぬか?千年に1度しか聖女様の訪問はないのだぞ。そのうち、聖女様が生きておられる期間はほんの僅かだ。ほとんどの者が聖女様には会えぬのだ。嘘か本当かもわからぬ。私も伝承程度でしか思ってはなかったが、隣国に聖女様訪問の兆しが見え、真実味が帯びてきた。なぜ、この機会を逃さねばならぬのだ。兆しが見えている間は、この大陸全体の魔力が高まっておるため、通常では行えぬ召喚の儀が可能なのだぞ。私にしてみれば、なぜ他の国が聖女様をお迎えしようとせぬのか、不思議でならぬ。」


「それは、伝承で欲を出した国は滅びると!」


「伝承?フンッ!伝承など、ただの噂に過ぎぬ。恩恵を与えて下さる聖女様が来て下さったのに国が滅びる訳がなかろう」


「ですが!」


「くどい!!我が国に恩恵を与えてくれる聖女様をお呼びして何が悪い!現に聖女様は来てくださった。国が滅びるのであれば、召喚が成功するわけがないだろう?違うか?」


「そうかもしれませんが…」


“あら、美少年が言い負かされているわ、可愛い。”


私はアルト様の胸あたりの服を軽く掴み、アルト様の視線をこちに向ける。


「アルト様、こちらの方は?」


「あ、あぁ、失礼した。私の弟、第2王子のロズウィエル・ミークレイだ。」


アルト様に紹介をされると、美少年はこちらを向き、表情を整えた。


「お初にお目にかかります。私は、第2王子のロズウィエル・ミークレイと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。聖女様にお会い出来て光栄でございます」


ロズウィエル様は、胸元に手をあてて、頭をさげる。


「まぁ、ありがとうございます。(わたくし)リコと申します。リコとお呼び下さい。よろしくお願いしますね」


「さぁ、リコ。部屋に入ろう」


「待ってください、兄上!!」


「聖女様はお疲れなのだ、分からぬか!」


アルト様は、ロズウィエル様にこれ以上話をさせることなく、私を部屋の中へと連れていった。

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