薄暗い牢の中で
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。薄暗い牢の中、座り込んで楽ちゃんを抱きしめていた。腕の中の楽ちゃんの温かさが私の折れそうな心を支えてくれる。
ギィ…
コツン、コツン…
扉が開く音、それから足音が聞こえる。一人…いやもう一人いる?
「誰?」
「異界からの客人よ、申し訳ありません」
少年のような男の子の声がした。足音が近づいて来るにつれて、人の輪郭が見えてくる。現れたのは、中学生ぐらいの背丈のとても綺麗な男の子だった…
「お初にお目にかかります。私はミークレイ王国第2王子のロズウィエル・ミークレイと申します。こちらがお呼びしたにも関わらずこのような場所に閉じ込めてしまい、何とお詫びすればいいのか…」
ロズウィエル王子は片ひざをつき、座り込んでいる私に目線を合わせてくれた。
「お願いです!ここから出して下さい。私たちを元の国へ返して下さい!」
「申し訳ありません。私もそうして差し上げたいのですが、力が及ばず…」
「そんな…」
ロズウィエル王子は拳を握りしめ、悔しそうに顔を歪めた。
「…私たちはどうなるのでしょうか?」
「それは…分かりません。私には兄の考えていることが分からないのです。本来であれば聖女様は我が国ではなく隣国に顕現されるはずでした。ですが、兄が召喚の儀を行い、無理やりに聖女様を…」
「呼び出した、と?」
「はい…あなたは聖女様の侍女をされていて、聖女様について来られたのだと聞きました」
「違うんです!」
「え?」
「だから、違うんです!」
「違うとは?」
「私は侍女じゃありません!彼女とは初対面です!」
やっと言えた…
「では、聖女様に怪我をさせたというのは?」
「それも誤解があります」
私は一生懸命説明した。こちらの不注意もあるかもしれないが、そもそもルールを守っていなかったのは彼女の方だと。
「なるほど」
「信じてもらえないかもしれませんが…」
「そうですね…」
やっぱり信じてもらえないか…
「私にはどちらが真実を話しているのか判断する材料がありません…ですが、少なくともあなたが牢に入れられなければならないような人だとは思えないのです」
「殿下、そろそろ」
少し離れた場所に控えていた人が王子の側に来た。
この人…さっきの…
「すみません。そろそろ時間のようです。内密にこちらに伺ったものですから…」
「そんな…お願いです!この子だけでも助けて下さい!」
自分より小さな男の子にすがらなければならない…そんな何も出来ない自分に腹が立つ。
「申し訳ありません。どうか力の及ばない私を許さないで下さい。それからこれを…」
ロズウィエル王子は牢の柵を掴んでいた私の手をそっと掴み、手のひらを上に向けさせ、何かをその上にのせた。
「これはカルの実です。よく噛んで食べると3日は何も食べなくても平気になります。これからどうなるか分かりません。見つからないうちに、その子と一緒に食べて下さい」
ロズウィエル王子は私の手を両手でそっと握る。
「殿下」
「分かっている」
促された王子はお付きの彼と共に、振り向くことなく足早に出ていった。




