表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ほどよく眠る  作者: 鈴本 案
破章『灰色のライダーズ』
5/6

オレたちに愛はない(挿絵あり)







 なんなのよこれ。


 私は眼前の光景が信じられなかった。


 ヴェルシュタット校内にある、私にぴったりなお庭。

 木々と長椅子、鳥のさえずり。

 気分を変えたい時に訪れてリラックスできる、美観のいい場所。

 そんな素敵な場所が。

 美しいイメージが。

 吹き飛ばされる、


 裸体の男たち、重なる山。


 あられもない裸、裸。

 今まで見た記憶もない、男の下品な姿が積み重なってるんだわ。

 砂山みたいに見える裸体の上。一人だけ服を着た男子がいて、不覚にも安心してしまう。

 アイツは制服のような黒い上着を脱いで肩にかけ、白い服の姿で座っていた。

 もう忘れられない憎々しい面構えが私を見下ろしてる。


挿絵(By みてみん)


「よう、ステラ。いや、コールと呼べばいいのか。まったく、糞みたいな世界でさらに面倒臭いやつら」

「なっ。ア、アンタが魔法をかけてこうなったんでしょ!」


 コウは両手をあげて首を振ってる。


「本意じゃない。お前になりたかったステラの願い。オレは単なる使い魔ですよ、ご主人様」


 山の上で丁寧にお辞儀してきた。


「ご、ご主人様って。なによ急に」


 バカにされてる? 仰々しい劇を見せられてる気分。


「オレは召喚された身です。主人であるステラ様にはオレの魔法も通じません。今は彼女の魂がコールの体に、コールがご主人様の体に。ジュデッカの印、まあ簡単にいえば契約書ですが、二つに分裂したんです。ご主人様が二人に増えました」


 先日ステラから聞いたけれど、召喚で人が出るなんて。無機物や動物型しか見たことがない。


「じゃ、じゃあ私の願いも聞くの? 今すぐ体を元へ戻しなさいよっ」

「できない。願いが矛盾する」


 期待した私がバカ。


「なら願い自体はどうなるのよ。聞く気はあるの」

「願望の強さ、エネルギーにもよるが可能性はある」

「答えが願いなら質問にも答えられる?」

「ああ」


 なら大きな疑問があるわ。


「あなたは何者でどこからきたのよ」

「言っても正確に理解はできないだろうが、ここでは肉体を得た存在。そうだな、元々は水みたいな状態。そんな世界から来たと思えばいい。まあ水とは全然違う」


 水? どっちなのよ。


「オレの思考や文化的な価値観と感覚は、地球という場所の水準に基づいている」


 質問しておいてだけれど、案外お喋りで驚く。


「その地球ってあなたの故郷?」


 鼻で笑われた、気がした。


「いや。オレたちにとって地球とは、いわば()()。まあお前や今のオレには無関係な話」

「そう。なら、あなたは元兵士みたいなものかしら。ステラのせいでこの世界に出張してきたと」

「そんなところだ」


 ちょっと待ちなさい。


「そもそもこの状況はなんなのよっ。オ、男たちは」


 全裸の男たちが放置された状況で、ゆうゆうと私はなにを話してるのよ。


「ステラの願いも叶えて暇だったからな。肥溜めにいても少しは楽しみを味わうために、売られたケンカを買った結果だよ。コイツらはオレの人物像が気に入らなかったらしい」

「ケンカ、にしたってこんなひどいあり様は尋常じゃないわ。聞かせなさいよ。あなたどうやったの」

「まず魔法を使えないようにした。オレが『魔法なんて使わずにかかってこい』と声をかければ通じる。あとは全員をぶん殴ってやった」


 言ったコウがニヤっと笑って、私は鳥肌が立った。

 私の様子を感じとったのか、コウが告げてくる。


「それからコイツらの服を全部剥いてやった。裸にしてから積み重ねた。もちろんオレだけでは苦労する。行動は当人たちにやってもらったんだ。最後は『気絶しろ』『眠れ』と言えば完成する」


 ろくでもない相手の悪趣味を聞かされてる気分。


「わかった、もういいわ。好きにしたらいい。授業があるから帰る。こっちはステラの体になってただでさえ苦労してるのよ。元に戻せないなら構っていられない」


 まだ誰にも言えないでいる。誰かに教えても信じてもらえる状態でもない。奇妙な曲者を介したこんな奇怪な魔法も前例がない。

 それでもなんとかして元に戻る方法、または魔法を見つけないと。

 見つかるまではステラのふり、面倒を増やさずにやり過ごすのよ。


「コール、気にならないか。コイツらの中にお前が知ってる人物がいないかを」

「なんですって」


 なにを言い出すの。


「性悪なお嬢様は願ったはずだ。ステラと入れ替わった時、コールになったステラもやはり落ちぶれるのを」

「失礼な」


 けどそんな想像もしたかも。もしかしたら独り言でもつぶやいたの。かもしれないけれど、


「お前が“氷の微笑”だった人生でもっとも情熱を感じてたもの、それはなにか。一人、いるな。名前は、ハイン・ストラウス」


 なに。


「なんで彼の名前を。なに、どうして、どういう」


 頭の芯で熱がぐるぐる回る。


「コールになったステラ、要はコールだったお前が人生で一番嫌な出来事はなにか」


 ぐるぐる回る。


「おとしめるために必要な手はなんだ」


 コウが足元を見回してなにかを探してる。


「いたぞ。ほら、お前が大好きなハイン・ストラウスだ」


 見つけた様子でなにかを力強く引っ張り上げたと思ったら。

 綺麗な金髪なのに顔が見る影もなくボコボコしてる全裸の男、


「いやああああああ」


 今まで見る機会がなかった彼の全裸や股間。憧れがこんなふうに。

 ハレンチな状況で叶ってしまった。


「ハハッ、ほらよ」


 コウが手を放したら、ハインがゴロゴロと転がって地面で仰向けの大の字になった。


「きゃああああああ」


 もう見てられない。手で顔を覆うしかない。


「このザマが広まれば彼女もソイツとはやり辛いだろう。なんならオレがさらに、ソイツがコールを避けるように仕向けてもいい」


 うう。もうどうしたら。

 けど。だけどアイツを。

 どうにかして。


「そういえば入れ替わったと言ったが、本当にそう思うか。もしかしたら、お前はステラのままでコールの記憶を植え付けられたのかもしれない。人格を変えられたのかもな。それともお前はステラの分身なのかも。または、お前の体をステラに変化させただけかもしれない」


 なんなの、なんなの、なんなの。

 でも一泡、一泡だけでも吹かせたい。


「事実がハッキリしないなら、対応する魔法を解く方法なんて見つかるのか」


 声をあげて笑ってる。

 高笑いだけでも止めてやりたい。

 だから私は、願いを告げてやった。


「私を……好きになりなさい!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさかの入れ替わり話なのにビックリしました! 最上位と最下位の女性が入れ替わったことで今後どんな展開があるのか!? 続きが楽しみでたまりません。 更新を楽しみにお待ちしておりますね。
[良い点] なにやら大変なことに…Σ(・□・;)二人はどうなってしまうんでしょう…
[一言] Twitterの企画から読ませていただきました。 内面も外面も、地位さえも全く違った2人の入れ替わり。 よくある話かと思いきや、ぶっ壊れた異世界人によって展開が全く読めなくなりました。 まだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ