第23話 『目に合わせる』
アルタイルは、いつの日か父に言われた事を思い出す。
「この世界に無関係なものは存在しない」
全ての存在が自分と関りを持っている。
それは、ほんの些細な事もあれば、大きく影響するものもある。
感じる事が出来ないものも当然ある。
人はそれを無関係だと割り切る事で、自分という存在を守っている。
それこそが人の魔術でもなんでもない、結界だ。
結界術など使わなくともそれは無意識に発動しているのだ。
しかし、リリア。
お前はいずれ星使いとなり、三賢者となる。
その結界は、意識的に外す事を覚えなさい。
興味と関心。
それこそが星使いにとって重要な力となる。
星使いの始まりの力、創造術の糧となる。
地上に暮らす事を許された選ばれし五つの一族。
その中でも三賢者は、この地上を旅する事を義務付けられている。
地上の視察、人々の監視、重要なのはそこではない。
見聞を広め力を蓄える。
それこそが三賢者にとって最も重要な役目だ。
その時が来るかどうか定かではないが、いずれその力が役に立つ時が来る。
お前が使わずとも次の世代にそれが受け継がれていけばそれでいい。
何度も言うが、視野を広く持ちなさい。
そして興味を抱いたものは、とことん追求しなさい。
自分が納得いくまで。
そこからまた、リリアの世界は広がっていくのだから。
「アルタイルや私には、三賢者にしかできない、簡易的な封印術があります」
と、ベガが言う。
アルタイルは、ほんの一瞬だけ昔の事を思っていたが、引き戻される。
日暮れが近い。
辺りは薄暗く、建物の影は濃い。
5人は街の中で止まって喋った。
ヌンキがベガに聞く。
「簡易的な封印術か。聞いたことがなかったな」
「最近では使われることはほとんどありません。伝統として残っているだけのものですが。私たちは修行で身に着けています」
「君も?でもさっきはアルタイルだけがと言っていたが」
「種類が一族によって違うのです。私の場合、使うのは音です。相手の聴覚に訴えかけます」
「うん、なるほど」
「ですがアルタイルの場合は光。つまりは視覚です」
「あいつには耳も鼻も無いが目ならある、か」
「この術は対人制圧用に開発された、言わば反乱を鎮圧するためのものです」
「そういう時代に作られたって訳だな」
「その通り。この術は一定時間、相手の意識を封印するもの。術者によっては数分ほど止める事ができます」
「意識の封印か。それならあの魔獣も結界を張れなくなるか」
「そう願います。それと、アルタイルの場合一度に封印できる時間は約4秒です」
「4……4秒!?短くないか!?」
「私の場合は最大で2分程度ですが、アルタイルの場合は4秒です。その4秒間で他の4人が攻撃して倒します」
今度はレグルスが聞く。
「いくつか気になるんだが」
「はい。なんでしょう」
「それは対人用の術だろ。効くのか?」
「……敵がより人間に近く進化を遂げているなら、効く確率は高いと思います」
「結界越しにも効くのか?光線はことごとく弾かれていたが」
「この術は必要最低限の光情報の操作だけで行います。物体の見え方が人間に近ければ、結界を通しても効くはずです」
「相手の目が飾りだったら?」
「アルタイルの術は効きません」
「術をかけるまでに必要な時間と距離は?」
「10秒から15秒。距離は2メートル以内です」
「分かった。俺は賛成。その作戦に乗る」
「ありがとうございます」
ヌンキがアルタイルに尋ねる。
「で?当の本人はやれるのか?」
「無論やります。私にできることなら」
「じゃあ時間が無い。これ以上暗くなる前に、ここで奴と決着をつけよう」
「はい!」
アルタイル達は来た道を走って戻る。
「魔獣に近づくのは危険だけど……」
と、サダルメリクがアルタイルに言う。
アルタイルは驚き、聞く。
「アルタイルがそう決めたのなら、僕は必ず君を守る」
「はいっ!!」
「術に集中して。周りは僕が片付けるから」
「お、お任せします」
緊張した。
眼前に広がる、無数の魔獣。
レグルスが斬り、道を開く。
周りの魔獣をヌンキとベガが倒す。
アルタイルは浮遊する魔獣目掛けて走る。その後ろでサダルメリクがアルタイルに襲い掛かる魔獣を瓶の聖哲体の光線で撃って片付ける。
アルタイルは手鏡の聖哲体を右手に具現する。
鏡を浮遊する魔獣に向ける。
視線も向ける。
目が合う。
鏡に魔獣の顔が映る。
術の発動条件が整った。
数秒。
魔獣はアルタイルから目を離さない。
その間も魔獣は手のひらから、赤い物体を落とし、魔獣を増やそうとする。
赤い物体が魔獣になろうとする瞬間、サダルメリクの光線が、物体を全て焼き払う。
視界は遮っていない。
瞬間、浮遊する魔獣が倒れ込む。
強力な結界が解けた。
空中に浮きながら、ゆっくり落下しながら地面に倒れようとする。
4人は急な事に驚き、攻撃が遅れる。
一番近くにいたサダルメリクが光線で攻撃。魔獣の頭部を狙い撃つ。
同時に放っていたヌンキの矢が光線にぶつかり、軌道がずれる。
魔獣の左肩を吹き飛ばした。
その直後、魔獣の意識が戻る。
結果が戻る。
二人の攻撃が見えたレグルスは、邪魔にならないようにと攻撃が出せなかった。
ベガも同様に手が出なかった。
そして、ベガが叫ぶ。
「アルタイル!もう一回!!」
アルタイルはベガの言葉を聞くまでもなく。
じっと魔獣を見続けている。
手鏡が魔獣の姿を捉えている。
浮遊する魔獣が突き出した右手を握りこぶしに変え、アルタイルに殴り掛かる。
攻撃してきた。
アルタイルは後ろに一歩下がりそれをかわす。
視線は合ったまま。
魔獣はそのまま振りぬいた右手を自身の帽子のつばに持っていき、掴み、下げる。
ヌンキが思考する。
やられた!視線を遮らた!
アルタイルの封印術は、術者と相手の視線を合わせ、さらに手鏡に相手の顔を映すことで発動する。
視線を外された以上、術は発動しない。
「もう発動しています。皆さん」
アルタイルがそう言った時。
すでに魔獣は気絶している。
帽子のつばを右手の親指と人差し指でつまんだまま。
前のめりでゆっくりと地上に落ちていく。
レグルスの斬撃が右腕を斬り飛ばし。
ヌンキの矢が顎から上を吹き飛ばし。
サダルメリクの光線が残りを消していく。
日没。
浮遊する魔獣を撃破する。
アルタイルが誰にも聞こえない声で、つぶやく。
「殴り掛かってこなければ、先に目を隠されていたらと思うと……」
4人が駆け寄ってきた。
アルタイルは安心し、笑顔に変わる。




