第16話 『出撃する三人』
アルタイルがヌンキに弟子入りして、一週間が経とうとしていた。
アルタイルの修行は終わった。
夕方。
師弟は外にいた。
無言で立っていた。
アルタイルが口を開く。
「一週間、ありがとうございました」
「……ああ」
「なんだか全く上達した気はしませんが。少し自信がつきました」
「……そうか」
「修行の成果は実戦で発揮したいと思います」
「頑張れよ」
この一週間、アルタイルは様々な特訓を行った。
実物の弓矢を使った訓練。
新たな聖哲体の開発。
精神修行。
筋力の増強。
数キロ先への買い出し。
酔っぱらいの相手、毎晩。
どれもこれといって効果は得られず、アルタイルは疲れた。
ヌンキは話す。
「俺の休暇はもう明日で終わりだ。明日の朝にはここを出て空に戻らないと」
「はい」
「と言っても、ここに来ることは誰にも伝えていないんだがな」
「……」
「その、なんだ。……もう一日ぐらいだったら」
「師匠。ありがとうございました。私もできれば明日の朝に出発したいので、今晩も泊めさせてもらいたいのですが」
「あ、ああ、もちろん。それは構わないぜ」
二人は別荘に戻った。
夕食の時間。
ヌンキは酒を飲まずにいた。
アルタイルの作った料理を、二人で黙々と食べる。
食事をしながらヌンキが言う。
「昨日も話したけどな。君の聖哲体から放たれる矢からは、何か別の意思を感じる」
アルタイルは、その言葉に実感がわかないといった表情。
そして、聞き返す。
「どういう事なんでしょう?いまいち分からなくて」
「俺にも詳しくは分からないが、的を狙って放った矢が、自分の意志でその的を避けているように感じた時が何度もあった」
「矢が意思を持っている。……矢自身の意思で動いている」
「君はそう感じなかったか?」
「うーん、特には」
「もしかしたら、それが君の特異能力に何か関係があるのかもしれないな」
「私の特異能力……」
星使いがそれぞれに持つ特異能力。
他の星座の星使いが持たない、使えない固有の能力の事を言う。
常に発動する事ができるものや、聖哲体などと連動して発揮されるものなど、その種類や発動条件は様々である。
代々受け継がれてきた能力もあれば、突如として発現するものもある。
アルタイルの特異能力は未だに判明していない。
ヌンキから、また喋る。
「実物の弓矢の時は何度か的に命中していたよな」
「ええ、まあ。」
「でも下手なのは変わらなかったけど」
「いっその事、全部外れてくれれば、自分は呪いでもかけられているんじゃと思えるんですけどね」
「それはともかく料理の味付けは、だいぶマシになったな」
「急に話変わりますね。しかも美味しくなったて言ってくださいよ!」
「美味しくはない。ただし不味くもない」
「それ最初の頃と感想変わってないじゃないですか」
「ほんとだな。じゃあ、あんまり変わってないな」
「ひどいなあ」
二人はその後も談笑しながら食事を楽しんだ。
翌日の朝。
アルタイルはヌンキよりも早く目が覚め、出発の準備を整えた。
個室を出て居間に来る。
「ここへ来る事も、しばらくはないんだろうな」
と、一人つぶやく。
ドンドンドン!
と、玄関のドアを強く叩く音が聞こえる。
急に鳴ったその音に、驚くアルタイル。
もう一度、同じように鳴る。
どうやら来客のようだ。
アルタイルはドアを開けた。
「あれ?ヌンキの旦那は?」
ドアを開けた先にいたのは、アルタイルよりも背の高い一人の少年だった。
アルタイルは答える。
「師匠ならまだ寝ていますよ」
「……君は?君も星使い?俺は獅子座のレグルス」
「初めまして。私は鷲座のアルタイルです」
レグルス。獅子座の星使い。職位は十二星座。
男性。年齢は17歳。髪はオレンジ色。
服はオレンジ色と、黒。
声は低め。
「へー、君がアルタイルか。それは、ちょうど良かった」
「?」
「部屋の中、入ってもいい?」
「あ、どうぞどうぞ」
レグルスは「変わっていないなここも」と、言いながら居間のソファーに腰かける。
すると、ヌンキが寝間着のまま居間に来た。
レグルスを見たヌンキはすぐに話しかける。
「レグルスか?どうしたーこんな朝早くに」
「どうしたじゃないっすよ。命令書を届けに来たんです」
「命令書?何々?中身読んで」
ヌンキはキッチンに向かいながら言う。
レグルスはその命令書を開け読み始める。
アルタイルはその様子を眺めた。
命令の内容は、古都アーテナインの魔獣掃討作戦の内容であった。
人員は、隊長に射手座のヌンキ。その下に、獅子座のレグルスと鷲座のアルタイル。
またもう一人、十二星座のうち誰か一人を後から加えるとの事。
ヌンキ、レグルス、アルタイルの三名は本日中にアーテナインに向かえとの指示もある。
ヌンキが水の入ったコップを片手に居間に戻ってくる。
「俺が隊長!?なんで?」
「知らないっす。陛下の命令なんだから仕方無いでしょ」
「休み明けから急にこれかよ」
「どうせここに来ていると思って、旦那がわざわざ空に戻ってくる前に来てあげたんですよ。感謝してください」
「ありがとよ。おかげで眠気も覚めたよ」
コップの水を飲むヌンキ。
アルタイルがヌンキに言う。
「凄いですね。師匠が隊長だなんて!」
「ん……。まあ、たまたま近くにいたからじゃねーのか。俺自身こんな命令初めてだし、驚いているよ」
レグルスがヌンキに聞く。
「さっきから気になってたんですけど、その師匠って呼び方はなんなんですか?」
「ああ、ここ最近、修行をつけてやってたんだよ」
「それで三賢者を相手に師匠を名乗っていたんですか」
「人聞きの悪い言い方するなよ!師匠と呼べだなんて一言も言ってねえし!」
「けど結果的にアルタイルがまだここにいて良かった。下手にアーテナインに向かっていたら、一人で大変な事になっていたかもしれないし」
「どういう事だ?」
「魔獣の数がかなり多いらしいっすよ。数えきれないくらいいるとか」
アルタイルは少しぞっとする。
レグルスが思い出したかのように言う。
「それと、この別荘は我々が前線基地として使え、との事でした」
「はあ?ここを!?ここ俺の別荘なんだけど」
「けど、そういう約束で建てたんでしょ?有事の際は連合体で使用するって」
「……確かに、そんな約束もあったような」
「ここからならアーテナインも近いし。たしか2・3キロ西に進めば街の端に出る」
「え?そんなに近かったっけ?」
「旦那は地上に来ても酒にしか興味無いっすからね。どの町がどこにあるかも、ろくに把握していないんでしょ?」
「失礼だね!その通りだけど!」
「早く支度してくださいよ。午前中には向こうに着きたいし」
「はいはい。分かったよ。朝飯まだだろ?」
「いや食べてきましたけど」
「もう一回、食べろよ。弟子の手料理が食えるぞ」
「えー。じゃあ少しだけなら」
アルタイルは急いで朝食の準備に取り掛かる。
その約一時間後、三人は西の古都アーテナインに向かう。
天気は快晴。
視界は澄んでいた。




