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After P  作者: ちゃいす
Stage3「エオン編」
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S3-24「三倍超」

「ギャハハハハハ! そいつぁすげぇや! まさかあれだけいいようにボコられててんなこと言われるとは思わなかったぜ!」

 鈴江の言葉を聞いた男は思わず声を上げて笑いだした。

 しかし、鈴江はそれに無表情で応える。

「笑いたきゃ笑ってりゃいい。……そのうちわかる」

「ほぉ~? じゃあやってみろよ! こっちもパワー全開、一瞬でぶっ潰してやんよ!!」

 男の咆哮とともに再び戦いの火蓋は切って落とされた。

 ナイフを片手に出鱈目かつ不規則、それでいて高速で繰り出される攻撃に鈴江は避けるか受け流すことに集中する。

 状況はさっきと全く同じだが、鈴江の目は何かを待っているように鋭く相手をとらえていた。

「おらよぉ!」

「――! でやぁ!」

 相手がしびれを切らして大降りの技を繰り出したとき、それに合わせるように鈴江は反撃に出た。

「うわ!」

 リーチの差、その利により男の攻撃より一瞬早く桜花の切先が敵の腕に届く。

 しかし男は損傷を受けた腕をそのまま全力で振り抜き、鈴江はそのまま吹き飛ばされた。

「や、やっぱりムチャです! ダメージが意味を成さないうえに()()()()()()()は……!」

 後方から全体を見ていた高音はその時点で鈴江に側の勝ち筋が全く無いように感じていた。

 鈴江は何か奥の手のようなものを隠して、期を待っているかのように思えるが、相手の能力が強力故にその()がこない。

「身体のリミッターを外して、しかも損傷を気にする必要がないということは常に無茶をし続けてフルパワーで戦えるということ……!」

 火事場の馬鹿力という言葉がある。それは窮地に陥った時、瞬間的に実力以上の力を発揮できるという事の喩えであるが、正確にはそれは誤りである。

 正しくは普段は自ら身体に損傷を与えることのないよう無意識に押さえ込んでいる力をその一瞬に限り解放しているというだけである。

 人間は普段、本来出せる最大出力の三割程しか使用できない。それ以上は自損の恐れがあるからだ。

 仮にその自損のリスクを完全に無くすことができれば、常に十割出力でも問題ないことになる。

 その際の強化倍率は単純計算で()()()である。

 この三という数字だけ見ると大したようには思えないかも知れないが、身体強化における三倍はかなりトチ狂った強化率である。

 参考に術式魔法による身体強化のレートはせいぜい高くても1.5倍程度である。それ以上は先述の通り心身ともに持たなくなるからだ。

「――よっこらよっとぉ!」

「なっ!?」

「うぃぇ!?」

 一連の攻防の後、後ろへ跳躍して距離を取った男は側にあった商品棚をまだ物が積まれた状態だったにもかかわらず軽々と頭上へと持ち上げた。

「……っ! まずい! 櫻笛!」

 男の標的は外野だった筈の高音だった。男は頭上の重量物を豪快な投擲で相手に放り投げたのだ。

 敵の攻撃範囲外にいると油断していた高音は反応が間に合わず、避けようとしたときには既に棚は目の前まで迫ってきていた。

「――黒波斬こくはざんっ!!」

 質量と速度の暴力が高音を引き潰しそうになったとき、側方から飛んできた黒い何かが棚を吹き飛ばした。

「なっ……え……!?」

 目をぱちくりさせながら唖然とする高音。

 吹き飛んでいった棚の方へ目をやると、それは見事に真っ二つに分かれていた。

「大丈夫か?」

 その声で我に帰る。駆け寄ってきた鈴江はすまなさそうに目を伏せている。

「悪い、油断していた」

「いや、私は大丈夫です。でも、そのせいで……」

 高音は気づく、今の技はおそらく鈴江が使っていた波状攻撃の強化版、それもかなりの威力の物。ひょっとすると鈴江が狙っていたのはこれだったのではないか。

 鈴江はさっきよりも少なからず消耗している。それほどにあの技は力を使う物だったのだろう。それをこのタイミングで相手に見せてしまったのは明らかな失敗だったはずだ。

 思考の連鎖が徐々に焦りを生む。高音の顔は不安に塗りつぶされつつあった。

「……安心しろ」

 その顔を一瞥した鈴江は、くるりと背を向けそういった。

 その姿は確かな自信に満ちていたように高音は感じた。


「もう既に、手は打ってある」

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