1.追放と能力の解放
「な、なんだこれは! 小石程度しか入れられない収納魔法ではないか!」
大聖堂の礼拝堂に響き渡る、お父様の怒鳴り声。授かったばかりの収納魔法を実演すると、憤怒の表情でこちらを睨みつける。
「このっ……価値のない役立たずめ! ここまで生かしてやったというのに、極小の収納魔法しか得られなかっただと!? お前など、もう必要ない! 辺境の地に追放してやる!」
床を踏みしめてこちらに近づくと、大きな拳で頭を殴ってきた。その衝撃で私は倒れ、頭を強く打つ。
その瞬間、前世の記憶が戻ってきた。日本で社畜として働き、誰よりも必死に会社へ尽くした。
けれど、会社の赤字を隠すため、私は横領犯に仕立て上げられてしまう。すべてを失い絶望の中を歩いていた時、不慮の事故で命を落とした。
……それが、私の前世。利用され、最後には切り捨てられた人生だった。そして、今も切り捨てられようとしている。
お父様はアラカマン王国の国王だが、私のお母様はメイドだった。お遊びで出来た庶子、それが私だった。
普通なら放逐されても可笑しくない立場。だけど、国王の血を引いている子には特別なスキルが授かることが多かった。だから、私はスキルを授けられる十二歳までここに置いてもらえていた。
だけど、その待遇は悲惨なものだった。庶民よりも酷い食事、庶民よりも酷い衣服しか与えられず、常に庶民以下の待遇を余儀なくされた。
でも、それだけじゃない。
「ふん! やはり、下賤な血が混じったから、ろくなスキルじゃなかったな。それがお前の価値だ」
「ふふふっ。やっぱり、生きる価値のない子でしたわね。気持ち悪いから、さっさとここからいなくなればいいのに」
「あははっ! ドブネズミはドブネズミなんだよ! 俺たちとは大違いだ!」
長男のアルフレド、長女のリリアンヌ、次男のリンガーダ。兄や姉たちが私を指さして笑い出した。
私を奴隷のようにコキ使い、見下してきた異母兄弟たち。なぜ、そこまで見下すのかというと――。
「アルフレドは『賢者』。リリアンヌは『聖女』。リンガーダは『剣聖』を授かったというのに、ユマは『極小収納魔法』とは……。良くも私に恥をかかせたな!」
お父様が鋭い目で睨みつけ、宣言する。
「お前には汚れた大地で作物一つも育たないデルトール地方の領主にする。ろくに食料も育たず、空気も水も汚れ、人の住処ではない場所は無能なお前にこそふさわしい」
「どうせ、そこで野垂れ死ぬことだろう。早くそこで死んでくれ。一緒に生きていることが恥ずかしい」
「あんたが苦しむ姿を見れないのは残念だけど、勝手に苦しんで死んでくれるだけでいいわ」
「どうせなら、俺の剣で殺したかったが、剣が汚れちまうからな。勝手に死んでくれた方が楽でいいわ!」
私をあざ笑う声が聞こえる。そんな非情な声をかけられたが、私は冷静だった。
「ありがとうございます」
この人たちとようやく離れられる。その喜びが胸いっぱいに広がっていた。
私の言葉に四人は呆けて突っ立っている。だけど、そんなのに構っている暇はない。
大丈夫、極小の収納魔法にも使い道がある。前世で考えていたことを実行する時が来た。
もう、私を縛り付ける人はいない。今度は人に踏みにじれない、自由を手に入れた。それだけで、私の可能性は無限に広がっている気がした。
◇
「ユマ様、何事もありませんでしたか!?」
「エリザ、大丈夫だよ。でも、辺境の地のデルトール地方に飛ばされることになっちゃった」
「デ、デルトール地方ですか!? あの、汚れた大地で人が住めない土地と言われた!? ユマ様を殺す気ですか!」
私が小さいころから面倒を見てくれるメイドのエリザに話すと、憤怒の表情で怒ってくれた。いつも、私のことを思ってくれて本当に嬉しい。
「今、抗議してきます! ユマ様をそんな場所に行かせられるわけがありません!」
「残念だけど、もう決定事項なんだよね。それに、私はここから離れて、自由に生きたい。折角、私を縛り付けるスキル授与も終わったんだし」
「そ、そんな……ユマ様は人の住めない土地に行っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫。私にはこの収納魔法があるから。さっ、荷物をまとめて移動しよう」
私が明るく声をかけると、エリザはしぶしぶ荷物をまとめだした。私たちの荷物をまとめると、エリザは部屋から出ていこうとする。
「あっ、部屋を出ていく必要はないよ」
「えっ? どういう意味ですか? これから辺境のデルトール地方に行くんですよね?」
「ここにいても移動出来ると思う」
私の言葉にエリザは不思議そうに頭を傾けた。
私の考えが正しければ、この収納魔法――裏返しにすれば何かが起こると思う。それは前世から私が考えていた、収納魔法の活用方法だ。
収納魔法を可視化させると、目の前に小さくて透明な袋が現れた。これが、私の収納魔法の容量だ。本当に小さい。
だけど、これを裏返しにすれば――収納魔法の内側が外側に作用すると思う。そうすると、世界が私の収納魔法の内側に入ったことになるのだ。
そっと、収納魔法を裏返した。すると、自分の感覚が広がっていくのを覚えた。これは、本当に収納魔法の内側が外側に作用したみたいだ。
もし、この世界が私の収納魔法の内側になったとしたら――。
「エリザ、手を握って」
「えっ、い、いいですか? で、では……遠慮なく」
エリザはおずおずとした様子で私の手を握る。そして、私は意識を集中させた。
もし、ここが私の収納魔法の内側なら――自由に物を移動させることが出来るはずだ。
そして、力を使うと――私たちは自分の部屋から一瞬で出て、気づいたら荒れ果てた大地に立っていた。
「こ、これは!? デルトール地方!?」
一瞬で変わった景色にエリザはとても驚いている様子だった。それを見て、私はニヤリと笑った。
やっぱり、収納魔法を裏返すととんでもないことが起こった。




