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終わり

刃斗達が村に入ると村人が次々に家から出て来て刃斗達を見ては視線を怪しい者達を見る目に変えていった。その村人の中から一人の老人が代表して刃斗達に声をかけて来た。  

この村の村長のようだった。

「私はこの村の村長のオルドマンですじゃ。貴方様方は何用でこの村まで来たのですかな?」

 村長が警戒する様な目で見ながら刃斗達の来訪の目的を聞いて来た。無理もない刃斗達の格好を見て旅人だとは思えずましてや自分達が出したモンスター討伐依頼を受けに来た者たちとはとても思えなかっただろうから。

猜疑心に満ちた村人の視線を気にもせずフレイは依頼書を見せて言った。

「これを受けに来たのよ」

 依頼書を見た長老は驚き。

「な、なんと! モンスターを退治して下さるので?」

「ええ、そうよ。私とこの女性達が退治するわ」

 さりげなく刃斗は省かれていた。(……いいんだ……僕なんて……)

「そうですか。ではひとまずわたくしの家に来て下さい。そこでお話ししましょう」

 そう言って村長が自分の家に刃斗達を案内した。

 村長の家に着きテーブルの周りの椅子に全員座り。村長のオルードは娘に刃斗達のお茶を出すよう命じた後部屋の奥に行き何やら探し物をしにいった。出されたお茶を飲みながら刃斗達は分け前のことを話し合っていた。

「ソフィア、エリシア、分け前のことは刃斗から聞いてるわよね?」

「ええ、もちろん要りませんわ」

「エリシアも要りませんですぅ」

「あら? 私には聞かないのですか?」

 シスがなぜ? って顔でフレイに聞いていたが他の全員は暗黙の了解でわかっていた。

 この人がお金を貰わない筈がないって事に。

「……私はまだプロポーズされたくないもの」

「? どう言う意味?」

 これもシス以外の全員が理解していた。シスにお金のことで絡むとプロポーズ(鞭で叩かれる)が待っていることを。それが死を意味していると言うことも。

「それじゃあ、賞金は私とシスの山分けで良いわね?」

 これにソフィアとエリシアが頷いた。シスはなんか納得がいかないような顔をしていたが賞金が山分けと言うことを聞いてしぶしぶ納得した。

「それで? 賞金はいくらなのです?」

「五万よ」

「……いくらですって?」

「だから、五万よ、五万マルキン」

「……」

 この金額にシスは絶句していた。刃斗も少し呆れていた。この世界に来て三か月刃斗にもこのアラーズの通貨がどの位か分かるようになっていた。それと言うのもシスに借金をした所為だった。通貨や利率を勉強しないとシスへの借金がいくらなのか分らなくなる、死に物狂いで刃斗は勉強した。それはどうしてかと言うとシスの利率が常軌を逸していたからだった。

 普通なら十日で三割の利率で借りた場合十日後に元本の三割の利子か元本を払うのだがもし払えなくても元本は変わらないのが通常である。しかし、シスは利子が支払われないと十日ごとに利子が元本に追加されるのだ。つまり、百万マルキン借りて十日経ち利子を払わないと元本が百十万マルキンになる、そして、今度はその百十万マルキンから三割の利子が十日後に取られる仕組みなのだ……どこかの帝王もビックリの仕組みであった。

 刃斗は借りてから一回も利子を払ってないので今刃斗の借金はどの位あるのか分からなく、分かったのはたぶん一生かかっても返せないことだけだった。

それから、五万マルキンとは日本円で五万円である。

「……貴女は――」

 シスが呆れながら一言言おうとした処に。

「凄いですぅ! フレイ様! わずか五万マルキンで民の為にモンスター退治をするなんて……尊敬しますぅ」

 キラキラと目を光らせフレイを見ている。

「わたくしも尊敬いたしますわ。五万マルキンと言えばわたくしの持つこのハンカチと同じ値段ですわ。ハンカチ一枚のお金で民の為に……」

 目に涙をにじませて五万マルキンのハンカチで拭っている。

 そんな二人の純粋な尊敬を前にして。

「そ、そうなのよ。た、たった五万で、モ、モンスターなんか退治してやってやるわよ。オ、オ~ホホホホホホホホ……」

 どこか乾いた笑い声を上げ体裁を整えた。とても下着を買う為なんて言える雰囲気じゃなかった。(び、貧乏が憎いわ……)

 事情を知っている刃斗とシスは温かく見守るしかなかった。

 そんなこんなと時間が経ち村長のオルドマンが丸まった羊皮紙を持って来てそれをテーブルの上に広げた。それはこの村の周りを記した地図であった。

 オルドマンはその地図を村から四方向別々の所に赤い印を付けて言った。

「この印を付けた所がモンスターの拠点でいつの間にか住み着くようになってしまったんですじゃ。そして、周に一度、村から金品や食物を搾取していかれる、そんなもんで村から出せる賞金は5万マルキンがやっとなんですじゃ。どうかこのモンスター達を退治してくだされ」

 娘と二人で頭を下げる。それを見てフレイ達は頷いてから個々に言った。

「任せて私達にかかればモンスターの一匹や百匹すぐに退治してやるわよ、ね?」

「ええ、お任せ下さいませ」

「エリシア頑張るですぅ」

「任せて下さい。……さ、それじゃあ、作戦会議をするわよ」

 そう言うとシスはどの拠点にどんなモンスターが居るかをオルドマンに聞いた。

相性を調べるつもりだったのだ。今いるメンバーは一人一人属性が違う。戦闘になれば相性の違いで負けることもある。まあ、フレイ達の魔法レベルはこの辺のモンスターでは手が出せないのだがシスは念の為に相性の良い所に皆を分けるつもりだった。地図を指差しながら誰が何所へ行くのかを決めた。そして、モンスターの討伐は明日になった。


 翌日、太陽が頭上に来ている時間、村の真ん中に在る広場で刃斗は一人で立ち尽くしていた。他の四人はモンスターの討伐に行ったからだ。なぜ刃斗だけ一人で村の広場に居るのかと言うと、討伐に連れて行ってもらえなかったからだった。

 

 三〇分前。

「僕も行きます! 一人だけ安全な村に残って待つなんて嫌です!」

 自分が付いて行くことをシスに却下されての言葉だった。

「駄目です。魔神様では約に立ちません。それどころか魔神様が居ることで魔神様を庇って誰かが命を落とすかも知れません……それでも付いてきますか?」

 刃斗はこの言葉に何も言い返せないでいた。自分でも分かっていた約に立たないことをゲームで言えば自分は唯の町民でしかないということを、それでも何かしたかった。

 刃斗の心の中で、もうこの四人は大切な存在だった。その人たちが危ない所に行こうと言うのに自分だけが安全な所に何ていれるわけがないと思っていた。

そんな刃斗の思いを四人は感じていた。

「わたくし達なら大丈夫ですわ。逆に刃斗様に何かある方が耐えられません。ここはわたくし達を思って此処で待っていて下さいまし……お願いしますわ……」

 ソフィアが憂いを帯びた瞳で刃斗を見つめて言った。

「そうですぅ。刃斗おにいさまに何かあったらエリシア……とにかく刃斗おにいさまは安全な此処で待つんですぅ。大丈夫ですぅすぐに帰ってきますですぅ」

 途中刃斗に何かあった時のことを思い浮かべ沈んだが最後には笑って刃斗に言った。

「そうよ、今のあんたは約に立たないんだから……でも、あんたは魔神になれる。その時はこの村処かこの国を救ってもらうから今は我慢しなさい! わかったわね?」

 人指し指を刃斗に突きつけフレイは言った。そのフレイに刃斗は言う。

「……僕が一番心配しているのはフレイなんだよ?」

 その刃斗の言葉に女性陣の心が騒然となった。

(そ、それってまさか……そう言う意味?)フレイの心がドキンドキンと揺れた。

(……刃斗おにいさま……女王様のことが……)エリシアの心はドクンドクンと揺れる。

(そんな……刃斗様……殺生ですわ……)ソフィアの心もドクンドクンと揺れる。

(……どうせわたしはお局で論外なんだわ……)シスの心はささくれ立っていた。

(私の心だけ扱いが違くありません……?)心の中でシスが睨んでくる。

 そ、そんなことはありません……シスがまだ睨んでいるが話を進める。

 みんなの心の中に台風を巻き起こした後刃斗が続きを言う。

「だって、一番戦闘が出来ないじゃない」と。

『……』

 女性陣が黙りこみ各々に自分の心を保護していた。

(べ、別に刃斗なんかに思われてなくたって……)

(刃斗おにいさまはやっぱりエリシアの刃斗おにいさまですぅ)

(刃斗様……やはりわたくしのことを……)

(……私が一番傷ついたと思うのは間違いでしょうか……?)

 シスだけは保護に失敗したようだった。

「私は大丈夫よ。なんてったって女王なのよ? そこらの雑魚モンスターに負けると思う?」

(……馬車の時のことは今言うべきかな?)

 刃斗がそんなことを思っているとシスが。

「大丈夫ですよ、フレイは確かに戦闘が出来ませんけど、モンスターを倒せないわけじゃないのよ。前にフレイの部屋で私の氷をフレイが体の周りに出した炎で防いだでしょ? あれをやりながらモンスターと戦えば、武器なんてフレイの体に届く前に蒸発してしまいますし敵を殴るだけで大抵のモンスターは蒸発してしまうわ。でも、この子はそれが嫌で遠距離魔法を使うんだけど。それさえ止めれば勝てないモンスターはこの辺には居ないわ」

 シスの説明を受けても刃斗の不安は拭え得なかった。


 そして今、刃斗の中で不安がドンドン増大していった。シスに言われて納得はしたもののどうしても気になった……フレイのことが。

 刃斗はいつの間にか駆けだしていた。フレイが向かった方へ。

(自分に何が出来るかわからない、おそらく何もできずに見ていることしか出来ないだろうけど、でも、じっとなんかは出来ない!)

 森の中を一直線に走る、地図で見た道を思い出しながら、全速力で走った。

 そして、刃斗が着くとフレイが頭から血を流して立っていた。フレイの体面にはモンスターの集団が見えた。

「フレイ!」

 声をかけるとフレイが振り返った。

「刃斗? どうして?」

 肩からハアハアと息を切らしながら言う。

「フレイこそ、どうして怪我をしてるの?!」

(炎を体に帯びていれば無敵なんじゃ?)

 駆けよってフレイの肩を掴んで聞いた。

「あいつがマジックキャンセルの魔法がかかった盾を持っていたのよ。その盾を振り回されてちょっとかすっちゃっただけよ」

 フレイがそう言うあいつを刃斗は見て見た。頭が虎で体は狼を人間にしたような体つきをしていてそのほとんどを体毛で覆い二本足で立っていた。そのモンスターはワーウルフと呼ばれるモンスターだった。そのワーウルフの左手に一つの盾が見えた。

(あれがその盾か……たしかマジックキャンセルは魔法が無効になる。と、なるとフレイに勝ち目は無いじゃないか……)

 そう思った瞬間フレイの手を掴み刃斗は言った。

「逃げよう! フレイ!」

 そのまま引っ張って逃げようと力を込めたがフレイは動かなかった。

「駄目よ……こいつ等をほっておけない」

「そんなの! 五万で命かける必要なんてないじゃないか! 下着なら僕がなんとかするから、だから逃げよう!」

「……五万だから逃げられないの、私たち以外に五万でこの村を助けてくれる人なんていないから、それに下着は大事よ? 気になる男の子が出来ても汚れた下着じゃ、ね?」

 刃斗を見つめて言うフレイの気持ちをこの時の刃斗はわかってあげられなかった。

 ただ、このまま戦えばフレイが死んでしまう、そのことで頭が一杯になっていた。

「お願い、フレイ、一緒に逃げて……」

 懇願するように言うが。

「……ごめんね、刃斗。刃斗は逃げて!」

 申し訳なさそうに言ってからフレイは刃斗の手を振り払って両手を天に突き上げた。

そのまま呪文を唱えてから両手をワーウルフに向けて魔法を放つ。

炎熱地球玉(フレイムアースボール)

 直径五メートルの火の玉がワーウルフめがけて飛んで行く。

 だが、ワーウルフは目の前に炎熱地球玉が迫って来ても涼しい顔をしていた。

 手に持っている盾を火の玉の前に持って行く火の玉が盾に当たった瞬間、炎熱地球玉は徐々に掻き消えていく。それを見てワーウルフと子分達が一斉に笑いだした。

「ギャッギャギャ! さっき試して駄目だったことはわかっていただろうに、まあ今回のはさっきよりも大きかったがなぁ、結果はこの通りだ!」

 五メートルもの火の玉が徐々に消えていく様を子分と共に笑っていたワーウルフは次の瞬間凍りついた。火の玉の脇から自分に向かってフレイが飛び出してきたからだ。

炎を纏いながら。

「それを無効にしている今ならあんたに攻撃が届くんじゃない?」

 そう言って全身の炎を右の拳に溜めて盾の外側からワーウルフに打ちつける。この攻撃は想定外だったのかモンスターのボスが慄き叫んだ。

「ウ、ウォオオオオオオオオオ!」

 そして、フレイの拳が後一息で当たる瞬間、いきなり炎がかき消えた。

 その後 ペチン と唯の女の子のパンチがワーウルフの頬に当たった。

「な、なんで?」

 パンチが当たった後、炎が消えた自分の手を見て驚きながら疑問の言葉を発した。

 そのフレイに向かってワーウルフが言った。

「どうやらこの盾は持ち主の周りにも効力がある様だ、な!」

 最後の言葉と同時にフレイの魔法を打ち消し終った盾を、フレイに向かって叩きつけた。

 ドゴォ!

「きゃーっ!」

 フレイの体が後方で見守っていた刃斗の前に飛んで来た。刃斗はその体を自分の体で後ろに倒れながら受け止めた。そのまま後ろから抱き締めて刃斗が叫ぶ。

「フレイ! 大丈夫?!」

 その声に弱弱しくフレイが答える。

「だ、い、じょう、ぶ、よ……ご、めんね……刃斗、守れなさそう……」

 そう言うとフレイは気絶した。刃斗は驚いていた、フレイが勝手に此処まで来た自分を守ろうとしていたことに、そして、シスの言葉を思い出して自分への怒りがこみ上げた。 

こんな……なにも出来ない僕を気にするなんて……。

「お! 死んだか? ギャッハハハハ、小娘が出しゃばるからそう言う目に遭うんだ!」

 その言葉が刃斗の耳に入った瞬間、刃斗の中で何かが……切れた。

 ドクン ドクン ドクン

 心臓の音がドンドン高くなっていく、頭の中が静まり返りそれとは逆に体が熱くなっていく、それが限界に達した時刃斗の頭の中に次々と呪文が浮かびあがる、それは刃斗がこの世界に来てから見た魔法を刃斗がいま自分の中でイメージしたからだった。

――目の前の敵を滅ぼす為に――

頭の中で呪文が渦を巻いて脳に次々と吸い込まれていった。それらが終わりを迎えた時、刃斗の中に魔法が生まれていた。

 刃斗は左手でフレイを抱きしめながら右手をワーウルフに向かって突き出して。

 それから呪文を詠唱する、ほどなくして詠唱が終わり、刃斗は怒りと共に魔法を放つ。

「……消えろ……」

雷光雷神撃(ライジングボルト)

 バリバリバリバリ―――――――ッ! 

 冷徹な目と口調で突き出した手から雷光の魔法がワーウルフ達に放たれた。

ソフィアの雷光撃の何十倍にも値する雷光、それは一筋の雷を何十本も束にしたものであった。例えるなら宇宙戦艦の波動砲だ。それがワーウルフの眼前に迫る。

「お、おぉああああああああああああああああああああっ!」

 ワーウルフは波動砲の様な雷光の束を恐怖に震えながらマジックキャンセルの盾を前に突き出した。盾から光が出てモンスター達を包んだ。

 その光と雷光がぶつかってせめぎ合う。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ! 

 雷光を受け止めたことにワーウルフの口元が一瞬緩むが――。

次の瞬間、盾が跡形もなく砕け散った。雷光がモンスター達を包みこむ。

「う、うそだああああああああああっ!」

 ギャギャギャ―――――――――――ッ!

 そんな叫び声を上げた後、モンスター達は一瞬で消し炭になった。


 フレイを背負いながら村への道を刃斗は歩いていた。

「……ん」

 フレイが目を覚ます。

「フレイ、大丈夫?」

 優しく声をかける、刃斗はもう元の刃斗に戻っていた。

「ん~大丈夫……ねえ、モンスターは?」

「うん、それがね、フレイが気を失った後、男の剣士が突然現れてね、モンスターを全部やっつけちゃったんだ」

 刃斗は自分のことを隠した。あの後正気に戻ってから魔法を使ってみたが使えなかったからだ。どうやら刃斗が切れた時にしか使えないみたいだった。自分の思い道理に使えない魔法ことなんて言わない方が良いと刃斗は思った。それで、この作り話と言うわけだ。

「……男の剣士? 何処にいるの?」

「モンスター達をやっつけた後、すぐに何所かに行っちゃったんだ。凄くかっこよかったよ~フレイが起きてたら絶対惚れたと思うな」

「……惚れるわけないじゃない」

「どうして?」

「どうしてもよ!」

 それはフレイがもう他の男に惚れていたからだった……自分を背負っている刃斗に。

 実はフレイはあの時起きていた。確かにワーウルフに吹っ飛ばされて一時は気を失った、でも刃斗が呪文を唱え始めた時、その刃斗のとんでもない魔力で目が覚めた。

 フレイは一部始終を見ていたのだ、刃斗があの後魔法を使えなかったところも、だから刃斗に期待を掛けて重荷を背負わせたくなかった。それで、恍けた。

「……刃斗……ありがと……」

 刃斗に聞こえないくらい低い声で礼を言った。

「ん? 何か言った」

「ううん、なにも言ってないわよ」

 フレイはそう言うと刃斗の首筋に強く抱きついたのだった。


 村が目の前に見えて来た。

 そして、フレイは実感してきた。何はともあれモンスターは倒したのだ。これで賞金の二万五千マルキンが貰える、それだけあれば安い下着が十枚は買えた。これで好きな男の前でも下着を気にせずに居られる……刃斗の前で。

 そんな思いで村に帰って来たフレイに待っていたのはエリシアとソフィアの嫉妬だった。

他の場所のモンスター達を退治して戻って来た後、エリシアとソフィアは帰って来たらいなくなっていた刃斗を心配してずっと村の広場で待っていた。

そして、心底心配して待っていた二人の前にフレイを大事そうに背負った刃斗が現れた瞬間二人は嫉妬の鬼と化した。二人で刃斗達に走って詰め寄り。

「……刃斗おにいさま? ……どう言うこと? ……説明して? ……して、ですぅ…」

エリシアは完全に猟奇ラブコメアニメのヒロインになっていた。

「……刃斗様? 教えてくださいます? どうしてこうなったのか? ことと次第によってはわたくし、覚悟を決めないといけませんの……ふふふ……ふ、ふ、ふ」

 ソフィアはホラー恋愛映画の女優になっていた。

『……』

 刃斗とフレイは恐怖で固まっていた。そんな四人を離れて見つめる人物がいた。

シスである。

「ふふふ、若いっていいわね」

 そう言う顔は笑っていたが目が笑っていなかった。

 その後、嫉妬に狂ったエリシアとソフィアが今回のモンスター退治の賞金を要求した。

 フレイはどうして? と、聞いたが嫉妬に狂った目を向けられて渋々従った。

 賞金は五万マルキンなので四人で割った金額がフレイの手元に残った。それを見つめ買える下着の枚数が減ったことを悲しんで居るフレイの手からシスがお金をむしり取った。

「ち、ちょっと、シス、何するのよ!」

「何って、これは貴女の温泉に泊まった時の旅費でしょ? 貴女払ってなかったじゃない」

「あれはシスが奢ってくれたんじゃないの?」

 旅館に泊まった時、シスがまとめて払った。その後請求がなかったからフレイは奢ってくれたものとばかり思った。

「あの時の貴女には現金なんて持ってないと思ってましたから、他の二人からは貰いましたよ? ……それに、私が人に奢るとでも思ったのですか?」

(……そうよね、守銭奴だもんね……となると私の稼ぎは零? ……ま、いいか)

 そう思った後、未だエリシアとソフィアに攻められている刃斗の方を向く、今回の旅で得たモノを愛おしくフレイは見つめた。それはたぶん、お金より大事なモノであった。



 刃斗達が城に帰りつくと城内は騒然となっていた。兵士が城内に集まって右往左往していた。その中で指揮を執っていた、兵士長が馬車に乗った女王のフレイに気付き慌てて走り寄って来て言った。

「女王様! 何所にいらしてたのですか?!」

 喚き散らすように言う兵士長に驚きながら。

「ど、どうしたの?」と聞くと。

「シルフィード王国が本日の早朝、宣戦布告して来たのです!」

『……え、ええええええっ?!』

 この兵士長の言葉に全員が馬車の上で驚きの声を張り上げた。

「……どう言うことです? いくら、シルフィード王国とは言えこのイフリート王国に攻め込めばただではすまないと知っているはずです。それなのに責めて来るとは……」

 シスが独り言のように呟いた後そのまま考え込んだ。

「ど、どうしよう、刃斗おにいさま!」

 エリシアが刃斗の右腕に抱きつく。

「刃斗様……戦争になるんですのね……」

 ソフィアが神妙に言った後刃斗の左腕に抱きついた。

 どさくさにまぎれて刃斗にスキンシップを二人はしていた、それを見てフレイは。

「……あなた達、女王命令です。刃斗から離れなさい!」

 権力を振りかざした。

「女王様、オウボウですぅ。エリシア権力には負けませんですぅ!」

「そうですわ。この戦いには権力ではなく魅力で勝負するべきですわ!」

「あ、あなた達……い、いいわよ、勝負してやろうじゃないの!」

 三人の乙女が此処に宣戦布告していた……。

(……みんな、いまそれどころじゃないんじゃ?)

 本当の戦争のことを忘れ三人は乙女の戦争に突き進んでいった。

 そんな三人をよそに置きシスは兵士長に聞いた。

「今日、布告をして来たと言いましたね?」

「はい! 朝方使者が来られました、シス大臣様」

「宣戦布告以外にシルフィード王国から何か言ってきましたか?」

「……はい。降伏勧告も一緒にしていきました……」

「降伏? 我が国に?」

(おかしい、我が国とシルフィード王国にそこまでの力の差は無かったはず……ここにきてどうしてそこまで強気になれるのかしら。……まず、それを知らなければね)

 そこまで考えてシスは兵士長に命令した。

「今すぐに住民の避難と防戦の準備をしなさい!」

「はっ!」

 兵士長は敬礼して駆け足で命令をこなしに行った。

 そしてシスは刃斗に向き直り言った。

「魔神様! お願いしたいことがあります。良いですか?」

 刃斗は初めてシスに頼られたことに感激して。

「はっ! 何なりと言って下さい。シス様!」

 その刃斗の従順ぶりを三人は見つめながら思っていた。本当の敵はシスなんじゃないか? と言うことを。

 

 それから五人はフレイの寝室に来ていた。

「それでは、魔神様、鏡の精霊にシルフィード王国の軍隊を見せてくれるよう頼んでいただけませんか?」

 鏡の精霊は刃斗の頼みならどんなものも映し出せることをシスは思い立ち刃斗にたのんだのだった。刃斗は頷いてから鏡に向かって言った。

「鏡の精霊さん? 出て来てください」

 鏡の中で渦が巻き起ったあと美少女が膝を折りその膝に両手をかけ胸を前に突き出すポーズで現れた。

「何かや?」

「……何でそんなポーズでそんな恰好をしているの?」

 美少女の精霊はスクール水着を着てそれを行っていた……眼福である。

「ふむ? 前に魔神殿が次に出てくるときはこの恰好とこのポーズでと言ったのではないか」

(そう言えばそんなこと言っていたな~。……ならば!)

「……胸をもっと大きく出来る?」

「? こうかや?」

 そう言った瞬間、そのポーズのまま胸だけがシスの胸を超えた……グッジョブ!

 その胸に刃斗は我を忘れいつの間にか手に持っていたデジカメでその胸を永遠に記録に納めようとした。その刃斗にシスが一言。

「……今がどう言う時かわかっていてそれをやると言うのですね?」

 今まで聞いたことがないほどの冷たい声であった。

「……ごめんなさい……取り乱しました」

 そんなやり取りを側で見ていた、フレイ、エリシア、ソフィアの三人の乙女は一時休戦をして同盟を結んで小声で話し合っていた。

「ねえ、あの鏡割った方がよくない?」

「そうですわね、お手伝いいたしますわ」

「エリシアも今だけ悪い子になるですぅ」

 無い無いシスターズが有る者を妬んでそんな会話を繰り広げていた。

「……鏡よりも先に始末しなきゃならないのがいるみたいね~?」

「ええ、……(わたくしは平均ですわ!)」

「……ナイナイシスターズ? なんだかアイドルみたいですぅ」

 エリシアの言葉にフレイとソフィアはハテナ顔になった。

「なに? そのアイドルって?」

「初めて聞く単語ですわね」

 そう聞いて来る二人にエリシアが説明した。

「アイドルとは刃斗おにいさまの世界で若くて可愛い女の子が歌って踊ったりするグループのことですぅ。刃斗おにいさまはそのアイドルが好きで命を掛けているそうなんですぅ」

「……命を? 私、なろうかしらそのアイドルとやらに……」

「それならわたくしもなりますわ!」

「エリシアもなりますですぅ!」

「じゃあ! ここにナイナイシスターズの結成ね!」

「はい、ですわ」「はい、ですぅ」

 こうして、胸が無いのを売りにするアイドルユニットが戦時中に誕生した。

 その三人の結成を横でシスと共に見ていた刃斗がオタ芸踊りで祝おうとした。

 両手を頭、左ナナメ上空に上げて踊りだそうとした処に。

「……何をする気かは知りませんけど、これ以上私を怒らせないでくださいね?」

 シスはにこやかに笑って言った。

「……ハイ……」

この時刃斗は初めてシスの笑顔を見た。今までのどんな言葉や表情より怖かった。

「あの三人のことは放っておいていいわ。どうせ、私は若くないですしね……」

 途中小声になってアイドルユニットに誘ってもらえなかった愚痴を言った。

「え?」

「コホン! な、何でもありません! そんなことより早く精霊に言いなさい!」

 ごまかすように刃斗を急きたてた。

「は、はい、あの、精霊さん、シルフィード王国の軍隊を見せてもらえますか」

「へ?」

 刃斗がそう聞くと、精霊は鏡の中で踊っていた。密かにアイドルユニットに入る積りだったようだ。シスはその精霊に白けた目を向けた。

「あ、はいはい、軍隊じゃな? ん~それ!」

 精霊が魔力を込めたあと、精霊が消えシルフィード王国の軍隊が映し出された。それを見たシスと刃斗が叫び声を上げた。

「な、なんですか! これは!」

「う、うそ!」

その二人の叫び声に後ろにいた三人が近寄り鏡を見ると。

「そ、そんな……」フレイはその映像に絶句し「こ、こんなことって」ソフィアは信じられないような顔をし「うわ~大きな御船がイッパイ飛んでいるですぅ」エリシアは驚いていた。

 エリシアが驚いているように、鏡の中の映像には大砲を積んだ巨大な戦艦が何十隻も空を飛んでいる処が映しだされていた。

「有り得ません! 飛空戦艦はこのアラーズではシルフィード王国が持つ一隻だけのはずです! それがどうしてこんなに……いくら飛空戦艦を作れるただ一つの国と言ってもここまでの数を作れるわけが……まさか、作ったのではなく、本々持っていた? それを隠していたのなら……」

 シスは頭でそこまで考えたあと行動に移した。いまだ映像を見て信じられない顔をしているフレイ達に言った。

「私は今から古文書の解読をやり直してきます。もう、何度もした事ですが、この危機を乗り越えるには魔神の力を持ってでしかありえません。皆は自分のすべきことをしなさい!」

 そう言って古文書のある自分の執務室に行こうとしたが、刃斗が声を掛けて止めた。

「待って下さい!」

 歩きだした足を止めてシスが聞き返す。

「なんです!」

 シスの声は苛立っていた。朝に宣戦布告をして来た風の国の軍隊が飛空戦艦に乗って何時来るかわからない。だから早く古文書を調べに行きたかったのだ。いつもなら女の人の苛ついた声にはビビる刃斗だったが、今回は違った。シスの目を見すえて言う。

「……降伏、降伏は出来ませんか? そうすれば戦争はしなくても良いはずです」

 刃斗はオタクでゲームが好きだ、ファンタジーゲームをやっている時よく思うことがあった、国と国が戦争をするのに色々理由をつけているが主に、王に居る者がその王位を自分の為に守ることが理由として大きいと刃斗は思っていた。なら、それを捨てれば戦争は回避できるんじゃないか、とゲームのことの中のことだがそう思っていた。そして、今自分は女王の側にいる、なら戦争を回避できるんじゃないかと思ったのだ。戦争になって人が死ぬよりフレイが女王を辞めさえすれば戦争はしなくていいはずだ、と考えた。

 だが、それは現実を知らない者の考えであった。

「……確かに、降伏をすれば私たちは助かるでしょうね」

「だったら!」

「でも、フレイは死にます」

「え?」

「戦争に負けた国の王族は処刑されます。これは何処の世界でも同じと思いますが、魔神様の世界では違うのですか?」

 違わなかった、刃斗が居た世界でも戦争に負ければ王族は殺されたりしていた。

ただ、刃斗が居た国があまりにも平和すぎたのだ。

(……フレイが死ぬ?)

 そう思いながらフレイを見る、するとフレイも刃斗の方を見ていた。その目と表情が何かを悟った様な風だった。フレイが目を閉じ何かを思ったあと、口を開いた。

「うん! そうね、降伏しましょう! それがやっぱり一番ね! 戦争をしなくてすむし、それに……死なせたくない人もいるし、ね……」

 自分のことを見ながらそんなことを言うフレイに何か声を掛けようと刃斗は思ったが……何も思い浮かばなかった。

(こんな、魔法も満足に使えない僕が何を言えるって言うんだ……この国もフレイも誰も僕は救えない……何で僕はこんなにも弱いんだ……)

「駄目よ! 貴女は絶対に死なせない! 私が守るわ! わかったわね?」

 それは力を持つ者の力に溢れた言葉だった。

刃斗は自分がそれを言えなかったことに情けなさを感じていた。

 シスの剣幕にフレイはたじろぎながら。

「う、うん、わかった」

 フレイの返事を聞くなりシスは執務室に駈け出して行った。

 シスが駆けて行ったのを見送るとソフィアとエリシアが言った。

「わたくしも女王をお守りいたしますわ!」

「エリシアも女王様を守るですぅ」

「……二人とも……私のことはフレイで良いわよ。……ありがとね……」

 それから、それぞれの持ち場に一端戻ろうと言うことになり、女王のフレイは防衛の準備をしている兵士の元にソフィアは魔法少女隊の詰め所に行こうとした。

 エリシアも自分の持ち場の牢屋に行こうとした時フレイが言った。

「エリシア、何所に行くの?」

「え? 牢屋ですぅ?」

「この戦時中に誰も居ない牢屋の牢屋番なんて要らないわ。魔法少女隊に戻りなさい」

「……戻っていいんですぅ?」

「ええ」

 笑顔で言うフレイを見てエリシアも笑顔になって、ハイッ と元気に言ってソフィアと一緒に詰め所に行った。

 こうして、フレイは刃斗との約束を守り兵士の所に行った。

 そして、フレイの寝室に行くところもすることも無く一人残された刃斗は考えていた。

(……僕はどうして、この世界に呼ばれたんだろう……)



 その夜、夜空に無数の飛空戦艦がイフリート王国の上空に現れた。

 刃斗、フレイ、ソフィア、エリシアは城の中庭でその光景を見た。シスだけはいまだに古文書の解読をしていて、その場には居なかった。そして、その場にいる全員は絶望を感じながら空を見ていた。心の中で思いたくないことを思いながら……。

「……あんなのは卑怯……ですわ……よ……」

「……あんなのないですぅ? どうしたらいいんですぅ?」

「……どうしようもないわね。魔法も届かない、城内にある大砲でも届かない、空を飛ぶ魔法も有るけどそれは敵国の専売特許、わが国にはその魔法を使えるシルフィード王国の者が居ない。居ても人間じゃあの戦艦には勝てないでしょうしね……」

 三人が空を見上げながら絶望的な言葉を口にする中、刃斗は考えていた。

(どうする? どうすればこの大事な女の子達を守れる? 今まで何も無かった世界から

この世界に来て、やっと出来た大切な存在の女の子達なんだぞ? ……この人達を守れるならこんな僕の命、幾らでもかけるのに……)

 刃斗はやっと出来た家族にも等しい女性達をどうしても守りたかった、がその力が無かった。無い自分の力の代わりに何かないかと頭の中を総動員したが、出てくるのはゲームの中でなら出来るが、現実では実現不可能なことばかりだった。ゲームの中なら出来ないことなど無い様に作れるが、現実はどんなに頑張っても出来ないモノは出来ない、と刃斗は思い知った。そんな刃斗達に飛空戦艦の方から声が聞こえて来た。

『我が名は、シルフィード王国飛空戦団提督「バルク・キャノン・シルフィード」である』

 魔法で高められた大きな声が国中に聞こえていた。

『我が君主シルフィード王国女王「ローラ・ウール・シルフィード」の名と命によって貴国攻め入って来た。少しの間、考える時間を与えよう……願わくば無血降伏を選んで貰いたい』

 それだけ言うと声が途絶えた。

「勝手なことを! シルフィード王国の女王はまだ八歳よ、戦争なんて指示出来るわけがないじゃない!」

 今の発言にフレイは憤慨していた。フレイの言う通りシルフィード王国の女王はまだ八歳であった。今回の戦争はその女王を操っている大臣達の仕業であった。

「……でも、今はそんなこと言っても仕方がないわね……」

 憤慨していたフレイが突如神妙な顔になってこの中庭に居る兵士に向かって叫んだ。

「……みんな! 聞いて! 私、フレイ・ルーズ・イフリートは此処に降伏することを宣言するわ! だからみんな、もう戦争は終わりよ……今までこの国と私の為にありがとう」

 フレイがそう言うとその場にいた全員が黙りこんだ。

「ダメだ! フレイだけが死んで僕たちが助かったって意味がない!」

「そうですわよ、じょうお……いいえ、フレイ、わたくし達の乙女の恋の戦いはどうなるのです? 不戦勝なんて許しませんわ!」

「そうですぅ……フ、フレイお姉様、恋の勝負はとっても、とっても、大事なんですぅ!」

 刃斗達の言葉に自然とフレイの目から涙が溢れた。

「……二人ともやっと名前で呼んでくれたわね……嬉しい……私に友達で恋のライバルが出来るなんて夢にも思わなかった……でも、もう終わり、もうこれしかないの、ごめんね」

 フレイが諦めの言葉を言ったその時、周りにいる兵士の一人が叫んだ。 

「女王様が死ぬなんてダメです!」

 その兵士はそう叫んだ後刃斗達の前に出て来て。

「自分はポーリー村の村長の息子です。モンスター退治の張り紙を出したのは自分であります。今日、親父殿から魔法でモンスターが退治されたことを知りました。……退治して下さったのは女王様達ですね?」

 その指摘に刃斗達は驚き、周りに居る兵士達も驚きを隠せないでいた。刃斗達が黙っていると。

「……国中の傭兵や冒険者に頼み込みました。だが、誰も五万マルキンなんて賞金じゃ動いてくれなかった。モンスター達に搾取され続けられる村に自分の給料も村に送っていました。それ以はどうしても出せなかった……それなのにたった五万で命を掛けてくれる人達が居た。聞きました親父殿から、モンスターに殺されそうになったことを……」

 モンスターを倒した後、村長が村の皆を呼んで宴をやった。その時刃斗が自分がフレイを背負っていた理由をソフィア達に聞きだされていた。それを村長は聞いたのだろう。

「女王様、村を代表して改めてお礼を言います。ありがとうございました! そして、自分は女王様の為なら死んでも構いません! 戦いましょう!」

 その兵士の叫び声にその場に居た兵士全員が呼応した。一国の女王が一つの村の為にそこまでしてくれる。そんな、女王様だけを死なせるものかと全員思った。

『戦いましょう! 女王様!』

 一気に士気が上がったがフレイはそれに水をさした。

「駄目よ! やっぱり戦えない! あなた達を一人も死なせたくない! ……お願い私にあなた達を助けさせて……」

 悲痛なフレイの言葉に全員が黙りこむ、そして、一人の兵士がある事を言った。

「くそ! あの国が戦争なんて起こさなければ! ……今までこの国は平和だったのに」

その時刃斗の頭の中にあることが浮かんだ。戦争、平和、無血降伏、この三つが頭の中でひっかかった。自分も平和な国に生まれて平和ボケしていて気付なかったこと。シスに言われて気付かされたこと、現実は残酷だということ。 

(なんでこの戦力差で無血降伏をあんなに進めるんだ? 朝と今、確かに戦争をしないでその国を支配下に置けるならその方がいいけど……逆にこのフレイを慕っている兵士も生きたまま支配下に置くって事になる。もしこのまま降伏してフレイが殺されたりなんかしたら、フレイは望まないかも知れないけど確実に兵士達は復讐しようとするだろう。そんな兵士を抱え込みたい程の理由、あの戦力で最初にこの国を選んだ理由、戦争は確か五国間で起きている……)

「そうか!」

 あることに気付き刃斗が声を張り上げた。

「ど、どうしたの? 刃斗?」

「やっぱり降伏は駄目だよ、フレイ」

「仕方ないのよ、この国を、兵士達を護るにはもうこれしかないの……私が死ぬしか」

「……たぶん、降伏してもフレイは死なないよ」

「え?」

「その代り、シルフィード王国の道具にされる」

「どう言うこと?」

 そこで周りにいる兵士達を見た後、一気に刃斗は理由を言った。

「民と兵士の信頼が厚いフレイを生かして置いて人質に取り、この国の兵士達に他国を攻めさせるためだよ。だから、シルフィード王国は最初にこのイフリート王国に戦争を仕掛けたんだ」

 刃斗が言い終るとフレイの顔がドンドン青ざめていく。

「そ、そんな、ことを?」

 絞り出すようにフレイが言った直後。

「やっと、気付きましたか」

 シスが現れてそんなことを言うと刃斗が。

「シス様は気付いていたんですね?」

 少し責めるような口調で言った。

「ええ、あの国が宣戦布告をして来たと聞かされた時からね」

 空を見上げ飛空戦団を見つめて言う。

「どうして? どうして教えてくれなかったの?」

「あの時教えていたらこうはならなかったでしょうね」

 周りを見ながら言うシスに習って刃斗達も周りを見て見ると、兵士達一人一人の顔つきがまるで違っていた。さっきまではフレイの自分達を助けたい思いに気後れしていたが、今はただひたすらこの女王様を護ればいいんだと言う思いで胸が一杯になっていた。

 そして、一人の兵士が叫んだ。

「俺は今ここで女王様を護って死にます!」

 その兵士の一言が周りにいた兵士全員に伝染するように伝わりそれが大きな叫び声に変わった。

『俺達の(私達の)女王様を護るぞ――――――――っ!』

「……みんな……本当に……ありがとう……」

 泣きながら自分の兵士達をフレイは誇りに思いながら見つめた。

 

 一方その頃、飛空戦団、母艦の甲板上。

提督のバルクと横に兵士がいた。兵士がバルクに話かける。

「バルク様、フレイ女王は降伏してくるでしょうか?」

 バルクと呼ばれる提督の背格好は、身長はそれほどないが顔に顎鬚まで生やしいかにも軍人と言うような風貌だった。睨みつけるだけで下っ端の兵士はビビり上がるだろう。

 そのバルクが顎髭に手をやってさすりながら、兵士の質問に答えた。

「ふむ、我らの企みがばれていなければ降伏するだろうな。あの国の女王はそういう者だ」

「ばれていると思いますか?」

 その質問には少しの時間考えてからバルクは返答した。

「……確実にばれているだろうな。なにせ、あの国には世界一の頭脳と言われているシス殿がいるからな」

「それじゃあ」

「戦争になるだろうな」

 その言葉に兵士が神妙な顔つきになってバルクに聞いた。

「……我々は勝てますか? あの国は魔神を召喚したと言う噂がありますが?」

「確かにその噂はあるな、だが、我が百隻の飛空戦艦にかかれば二千年前に居た魔神だろうが打ち勝って見せるわ! かっははははははははっ!」

 バルクの高笑いが夜空に響き渡った。その直後、フレイ達から降伏はしないとの返答を聞き高笑いから一転戦士の顔になって兵士達に命令した。

「全砲門開け! 狙いは城の中庭だ! 集中砲火を浴びせろ!」

 その号令が聞こえると兵士達は慌ただしく動き始めた。

「大丈夫ですか? 女王も一緒に死んでしまいますが?」

「ふん! 別にいいわ! 本々女王を人質に取ってこの国の兵士で他国を攻めようなんて作戦などワシは好かなかったのだからな! なに、この飛空戦団さえあれば何処の国にも負けなどせぬわ!」

 提督のバルクはこの飛空戦団に絶対の自信を持っていた。それもそのはず現時点でこの飛空戦団に勝てる国は無く事実上の世界最強の戦力であった。

 その世界最強の戦団の砲門が城の中庭に向けられていた。

しばらくして砲撃の準備が出来あがり、兵士が提督に言う。

「バルク提督。砲撃の準備が整いました!」

 後はバルク提督の号令と共に全百隻の飛空戦艦の一斉砲撃が始まるのを待つだけであった。一隻の戦艦に砲台が十台付いている、つまりこの飛空戦団の一斉砲撃は千発の」砲弾を城の中庭に打ち込められると言うことになる。そうなればどんな魔法を使おうが命は無かった。刃斗達はまさに風前の灯であった。そして、提督の号令が発せられた。

「目標! 城の中庭! 全て消し飛ばしてしまえ! ……うてぇ―――――っ!」

 ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


 提督の号令がかかる少し前。

 城の中庭で降伏はしないと伝えた刃斗達はこれからどうしたら良いか話し合っていた。

「士気は高まりましたが……やはり士気だけではどうにもなりませんね」

 諦めたように言うシスにフレイが言った。

「そんな! シス! 何か考えが有るんじゃないの?」

 そのフレイの言葉に顔を曇らせシスは言った。

「考えたわ、ずっと考えているわ、この瞬間もどうしたら貴女を護れるか、でも幾ら考えても私に出来ることは今のこの状況を作り出すことだけだった……女王である貴女を思う兵士の士気を高め……そして、そのままの思いで戦って死ぬことだけしか……他国に利用されるよりそっちの方が良いと思ったのよ……」

「そんな……ことって……」

 崩れ落ちるフレイに兵士達が声を張り上げた。

「女王様! 悲しまないでください! 俺達は本望です!」

「そうです! タダでは死にません! 奴らに一矢報いてやります!」

「女王様にお遣い出来て幸せでした。私達もお供いたします」

 一般兵から衛兵や魔法少女隊に至るまで皆が思いを一つにしていた。

 その思いを感じフレイはどうしても死なせたくなかった……この者達を。

「……誰か……助けて……お願い……」

 崩れ落ちたまま懇願しているフレイを見て刃斗は何もできない自分を呪っていた。

(僕は……この国を救う為に呼ばれたのに……僕自身もこの国を救いたいのに……どうして僕には……力が無いんだ!)

 刃斗が自分を心の中で責めていた時、シスが両手に古い書物を持ち怒りに震えていた。

「この、古文書の後半部分さえあれば……!」

 その時刃斗は初めて古文書を見た、見て自分の記憶の中にソレが有ったのを思い出した。

「あ、あああああああっ‼」

「ど、どうしたの急に?」

 シスの持つ古文書を指差して刃斗は言った。

「そ、それ! あります!」

「え?」

 シスが戸惑いの声を上げるのも気にせず刃斗は自分のリュックの元に走って行き乱暴に中を漁り目的の物を見つけてシスの元に駆け寄りシスにソレを見せて言った。

「こ、これ、で、ですよね?」

刃斗が差し出してきた物を見てシスは今まで生きて来た中でも最高の驚きを感じていた。

ソレはまぎれもなく今までシスが長年求めていた、古文書の後半部分だったからだ。

「こ、これを、ど、ど、どうやって、て、て、手に入れたのですか?」

 フレイですら見たこともないような動揺を見せながら聞いた。

「その……十六歳の誕生日プレゼントに……」

 十六歳の誕生日に執事から手渡されただけなので詳しくは言えなかった。

「シス! それ、古文書なんでしょ? だったら早く解読して! 時間がもう無いわよ!」 

そこに事態に気付いたフレイがシスを急かした。

「そ、そうね! ちょっと待って、すぐに解読するわ!」

 差し出して来た古文書を受け取りすぐさま解読を始めた。あとは時間との勝負であった。

 もう降伏勧告は跳ね除けている、いつ砲撃が始まってもおかしくはない、皆祈るような気持ちでシスを見ていた。

「解ったわ!」

「はやっ、早くない?」

「だって、魔神化させる方法の所だけ読めば良いだけだもの」

「そう、それで? どうすれば良いの?」

「エッチをすれば良いのよ」

『……』

「……何をすれば良いって?」

 フレイが聞き間違いよねって顔で聞いた。

「だからエッチよ。今まで魔神が出て来なかったわけだわ、古文書によると魔神因子を持つ者に好意を持っている王族の高い魔力を、エッチをして分け与えるべしって書いてあるわ」

 つまり王族の者が恋をした相手に魔神因子が無ければいけないのだと言う、十万人に一人しか居ない者を王族の者が偶然好きになる確率なんて天文学的だった。だから今まで魔神が出現しなかったのだろう。

「刃斗……」

「フレイ……」

そして、此処に夜空の下、見つめ合い大勢の兵士が見守る中ただならぬことをしそうな二人が居た。

(今、此処で、刃斗と、ダメ! できない! ……でもやらないと皆死んでしまう。……やってやるわ! 女は度胸よ!)

(エッチってあっちのエッチだよね? 此処で? 今から? フレイと……? やらないと皆死んじゃうんだよね。……ヤル、僕はやってヤル! 男は度胸だ!)

 同じようなことを思い、さあ、いざって時に。

「スト――ップ! ストップ、ストップですわ! こんなことおかしいと思いませんの?」

「そうですぅ! おかしすぎますですぅ! 最初に刃斗おにいさまとはエリシアがするんですぅ! ……あ……う……ですぅ」

過激な発言だったことに気付いたのかエリシアは顔を真赤に染めて俯き黙りこんでしまった。エリシアが使い物にならなくなったことを悟りソフィアは孤軍奮闘した。

「ダイタイ、エッチと言うものは神聖な儀式みたいなものなんですわ! 結婚もしていない男女がしていいモノではありませんの! わかりましたですの?」

 さすがお嬢様と言うような結婚観とエッチ論を持ち出して二人を説得しようとした。

「今はそんなこと省くわ! ……後で責任を取らせればいいんだし」

 さりげなく不穏なことを言い出すフレイだった。

「……責任?」

 刃斗が聞き返して来たのを見てフレイが悲しい顔で言った。

「嫌なの……?」

「い、嫌じゃないよ! 全然!」

 本当に嫌じゃなかった。今まで誰にも相手にされてこなかった刃斗がこんな風に責任を取ってなんて言われる日が来るとは全く思っていなかった。だから本気で取るつもりで言った。

「じゃ、早く済ませましょ!」

 フレイはもう刃斗のことが好きになっていたので、責任さえ取って貰えるなら結婚観もエッチ論もどうでもよかった。そして、フレイは自分の服に手を掛け脱ぎだそうとした。

「駄目ですわ! ダメですわ! ゼッタイダメデスワ――――――ッ!」

 壊れながら二人の間に入ってソフィアが邪魔をする、それを見たシスが言う。

「ソフィア、邪魔をしてはいけませんよ! この国がどうなっても良いの?」

「シス様はもうすでにあきるほどしている行為なんでしょうけど、わたくし達は初めてなんですの! それを……」

「あら、私もしたことが無いわよ?」

 ソフィアの話の途中でシスがいきなりカミングアウトした。

「……うそでしょ? だってあんなに男と付き合っていたじゃない?」

 シスのいきなりのカミングアウトにフレイが信じられないとばかりに言った。

「何を言っているのです? 接吻は結婚式の時にするのが初めてでなくてはならないのよ?」

 ここに来てシスのとんでもない結婚観が浮上した。

(……そうか、結婚まで何もさせてもらえなかったら……シスが振られるわけがわかったわ。性格の所為だけじゃなかったのね)

「……シス様? わ、わたくしは、エ、エッチのことを聞いたんですのよ?」

 さっきは興奮していたから気にしなかったが、ソフィアは刃斗の前でエッチと言うのが恥ずかしくて顔が赤くなっていた。

「ですから、接吻はまだですといったではありませんか?」

 きょとんとした顔で言う。

「……シス様にとってキスとエッチは同義語なんですの?」

「当たり前じゃありませんか」

 当然よっといった顔で言う。

「もしかして、キス以上のことをご存じではありませんの?」

「接吻以上? あるのですか?」

 そして、これはハテナ顔で言った。

(……うぶだわ……二七にもなるのに……)

(初ですわね……何だか負けた気がするのは何で、でしょう?)

(ウブですぅ。かっわいいですぅ)

(シス様……いつまでもそのままの初心なシス様でいて下さい!)

「な、なんです?」

 皆の自分を見る目が一瞬にして変わったことにシスは動揺していた。

(私、変なことを言ったかしら?)

 そして、ソフィアが重大な事実に気付いた。

「も、もしかして、古文書に書いてあることってキスのことではありませんの?」

「? ええ、そうよ? さっきから私が言っているじゃない?」

 シスの顔は何を言っているのかしらって顔だった。 

『……』

 これに全員が絶句した後、時間がもうあまり無いことにはっと気付いたソフィアとエリアシアが二人を急かした。

「もう時間がございませんわ! 口惜しいですけど、早くしておしまいなさい!」

「そ、そうですぅ。急ぎますですぅ。……あと、刃斗おにいさま? 浮気は一度までですぅ……よ?」

「え、ええ」

「う、うん」

 急かされたフレイが刃斗の目の前に立って目を見ながら雰囲気を出して顔を近づけ。

「……刃斗、お願い……この国を……救って……」

 キスをした。

 フレイはキスをしながら自分の思いと共に魔力を刃斗に送った。その瞬間刃斗の体が激しい炎に包まれ宙に浮いた。宙に浮いていた激しい炎の丸い塊がいきなり爆発した。

 爆発したあと空中に魔神と化した刃斗がいた。情けないの一言に尽きていた風貌が凛々しくなり雰囲気が全くの別人になっていて、体は炎の鎧の様なものに包まれていた。

そして、一番変化が有ったのは背中で、天使の翼の形をした炎が背中から突き出ていた。

 神々しく炎の翼で宙に浮く刃斗を、その場にいた全員が見惚れていた。

 そのあと徐々に地上に降り立ち瞑っていた目を開けながら息を吐く。

「フ―――――――」

「じ、刃斗? 本当に刃斗なの?」

 あまりの変わり様にフレイが問いかけるように聞く。

「……フレ……」

 刃斗が返答し様としたその時、遥か上空で轟音が鳴り響いた。千発の大砲が発射された音であった。その場にいた者が空を見上げると夜空に千個の火花が散っていた。

「全魔法隊! あれを撃ち落としなさい!」

 シスが慌てて対処しようとするが。

「……必要無い」

 と、刃斗が冷静な声で制した後。

『煉獄の炎剣(インフェルノ)

 静かな口調で言うと炎の大剣を右手に召喚した。その大剣は柄が無く刀身も炎であり、巨大で長さ大きさが、大の大人一人分位あった。それを、魔神化した刃斗は軽々と持っていた。

それから、その大剣を腰の辺りに持って来て剣道の居合切りの様な格好になって魔力を込め始めた。刃斗は魔神化した時に魔神としての戦い方が全て頭の中に入っていた。

「……この国は、俺が護る!」

それは刃斗が求めて止まなかった力を持つ者の力のある声であった。そして、居合いの形から溜めた魔力を開放しながら落ちて来る千発の大砲に向かって大剣を一閃させた。

『核熱地球斬り(フレア・アース・ブレイク)』

 次の瞬間、一閃させた大剣から夜空を覆い尽くすほどの炎が飛び出し、刃斗の放った炎の一閃で真横に炎の壁が出来上がった。その炎の壁に砲弾が次々と吸い込まれ、一瞬の静けさの後、千発の大砲の弾が一斉に爆発した。

 ド―――――――ン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!

 

 その光景を飛空船艦の甲板で見ていた提督のバルトが驚きの声を叫ぶ。

「何だこれは⁉ どうなってる? どうしてあんな上空で爆発しているんだ!」

「わ、わかりません!」

 兵士が即座に答えると。

「え、ええい! 次弾の装填を急がせろ! それと船艦の間を開けて放てと言え! 今度こそあの中庭にいる者どもを粉微塵にしてやれ!」

 バルトはこの時、千発の砲弾が互いにぶつかって誘爆したものと思いこんでそう指示した。

「ハッ」

 軍隊独特な返事をしてバルトの指示を各艦の艦長に兵士が伝えに行く。この時、バルトを始め飛空戦団の誰もが地上の様子がわからなかった。自分達の放った千発の弾の陰に隠れていたからだ。もし、地上の様子がわかっていれば違う指示をバルトは出していたはずだ。

 

 地上では魔神化した刃斗の一撃を茫然としながら全員が見上げていた。こんなに桁はずれな魔法は誰も見たことがなかった。シスですら息をとめて見つめていた。そのシスに刃斗が炎の大剣を消してから急かせるように話しかけた。

「シス! あの飛空戦艦に乗ってる奴を殺さずに落とすにはどうしたら良い? 答えろ!」

「……え?」

 いきなりアノ刃斗に呼び捨てにされたうえ、命令されシスは戸惑いに戸惑い、周りにいる女王様から一般兵に至るまで全員なんかは目が点になっていた。

「早くしろ! この愚図!」

 この豹変した刃斗の追い打ちでその場にいた皆はこう思った。

(この後、魔神と氷の女王との一騎打ちが始まる)と。

 そして、シスの体全体がわなわなと震えだしたのを見て 来た! と皆が思った次の瞬間、目を見張るような出来事が展開された。

「……はい、お答えいたします。あの飛行戦艦は帆に風の魔法を掛けて操舵しています。ですからその帆を燃やしてしまえば戦艦は舵が取れなくなって落ちてしまいます。魔神様」

 氷の女王と化したシスが居るものと誰もが思った。しかし、そこには頬を染め恍惚な顔で従順に刃斗に答えるシスがいた。この時シスは初めて刃斗の『魔神様』をその言葉通りに呼んだ。  

これには全員が百隻の飛空戦艦が来た時以上に錯乱した。

(おい? どうなってんだ?)(知らん! あれ、本当にシス様か?)(俺は……きっともう死んだんだ……)(私達、皆、夢を、見ているんだわ)(ええ、きっとそうね!)(私……冷酷なシス様がお好きだしたのに……)(おお、ゴッド……何故我らをお見捨てに……)

(……シス……タイプが命令してくれる男ってそういう意味だったの?)

(あれが魔神の時の刃斗様ですのね……普段も良いですけど、あの凛々しさと神々しさはまるで、お伽話出てくる英雄の様ですわ)

(刃斗おにいさま、エリシアにも命令して欲しいですぅ)

 フレイ達、魔法少女隊、衛兵、兵士が思い思いに思ったり錯乱する中、シスの的確な答えに刃斗が礼を言っていた。

「そうか、解った……さすがシスだな」

 そう言うと刃斗はシスの頭を撫でた。生まれてから今まで異性にそんなことをされたことのなかった、シスの顔が真っ赤に腫れあがった。それを見た、恋のライバルで乙女達は新たなライバルが誕生したことを悟った。意外な強敵の出現に乙女達は危機感を感じていた。何せシスは、巨乳で年上なうえウブでエスなエム体質だった。

(……一人で何属性持つ気よ!)

(……エリシアは、ペッタンコで年下な妹でロリっ子ですぅ。……負けてないですぅ!)

(……わたくし、ツンデレ属性を付けた方がよろしいのかしら……)

 属性が後付けできることにも驚きだが、戦場下でオタクなことを思い合っている乙女達が一番の驚きである。

(私、どうしたのかしら? この人になじられて褒められると胸がどくどく打って凄く痛いわ……今までこんなことなかったのに……もしかしてこれが、本当の恋……?)

 フレイ達が戦時下でこんなにも緊張感のないことを考えられたのは、魔神化した刃斗の影響が強かった。刃斗の絶対的な力を見てフレイ達は安心しきっていた。

「それじゃあ……終わらせて来る……」

 まるで簡単な頼まれモノを終わらせるかのような言い方で言ってから、刃斗は横に広げていた炎の翼を縦にし、翼の先端から炎をロケット噴射の様に吐きだし始めた。

 そして、膝を曲げ地面に足でグッと力を込めた次の瞬間刃斗の体は猛スピードで飛空戦艦に向かって飛んでいた。飛んで行った刃斗を見送りながらフレイ達は――。

(刃斗……魔神になっても刃斗は刃斗ね。自分や私達を殺そうとした敵国の人間でも殺したくないなんて……そんな優しい処に私は――)

 フレイはそこまで思いシス、エリシア、ソフィアを見回して思い直した。

(――私達は、貴方を好きになったのね。刃斗、お願い、この国を護って……)

 他の皆もフレイと同じ思いで刃斗を見送っていた。


 そんな、フレイ達の思いと願いを受けながら刃斗は超スピードで空を飛んでいた。

「バルト提督! 何かがこちらに飛んできます! は、早い!」

 兵士が刃斗を見つけ叫ぶ。

「馬鹿な! 此処まで……」

 バルトが言葉を言い終る前にその横をヒュッと刃斗が追い越し、飛空戦団の真上にバッと炎の翼を横に広げ反転して急停止した。その姿を見た戦艦の乗組員達は驚き、そして、次の瞬間にはソレは恐怖へと変わった。

 刃斗は飛空戦団の上空で急停止した後、両手を天に突き出し呪文を詠唱していた。魔法を使う為だ。その魔法は刃斗がこの世界に来て死を覚悟した魔法だった。

 呪文の詠唱が終わり魔法名を叫ぶ。

核熱地球玉(フレア・アース・ボール)

 フレイと同じ火の玉ではあるが大きさが全く違っていた。刃斗の両手の上の火の玉は直径五十メートルにまでなっていた。それはフレイの十倍であった。この世界では王族の魔力が一番強い、炎の魔法だけに関して言えばフレイの魔法はこの世界最強である。

 そのフレイの魔法でも魔法兵(魔法の使える兵)を恐れさせることが十分出来る。となれば刃斗のこの魔法が、飛空戦団の全ての兵士の戦意を根こそぎ奪うのは必然なことだった。

「う、うわぁ――――――――ッ! あ、あんな魔法、見たことがないっ!」

「ま、魔神だ……。あ、あんなのに勝てるわけ無いじゃないか……」

「や、やっぱり、イフリート王国は魔神を召喚していたんだ!」

「む、無理だ――――――ッ! は、早く、に、逃げよう!」

 戦艦の看板上はもはや戦意を失った、兵士達が右往左往しているだけであった。その光景を見ていた提督が呻く。

「情けない! なんて情けないんだ! 兵士に伝えろ! さっさと魔法で応戦しろと! しなければ全員極刑だとも伝えろ!」

 提督の怒号を聞き兵士が即座に百隻の戦艦に居る魔法兵に命令した。命令を受けた魔法兵達が怖々と手を刃斗の方に向け一斉に風の魔法を発射した。大気を切り裂き対象を真っ二つにする風の魔法であった。そして、一つの戦艦に数十人の魔法兵が乗っている。それが百隻となれば数千人の魔法兵がいた。その数千人の魔法が刃斗に迫った。

 数千の風の刃が迫るのを感じても刃斗は全く動揺しなかった。

先に出していた『核熱地球玉』を右手で頭上のまま維持し左手に『煉獄の炎剣』を出した。そのまま横殴りの様に大剣を振った。

『炎熱大気切り(フレイム・アトモスフィア・ブレイク)』

 先ほどより弱い炎が飛び出し刃斗と数千の風の魔法との間を埋めた。

 今度は戦艦が近くにあることもあって刃斗は敵の兵士を殺さないように弱い魔法を使った。

 それでも数千の魔法と炎熱大気切りは互いに打ち消し合った。

 どごぅ!

 と、大きな音がしたあと膨大な煙が立ち上った。この煙を見て兵士達は自分達の魔法が当たったものと勘違いをした。そして、煙が晴れて刃斗の姿を目にした瞬間、兵士達はもう戦える状態では無かった。それを見て刃斗はもう戦う必要は無いと感じ。

「……降伏しろ……そして、二度とこの国には手を出すな、……それで許してやる」

 魔法で声を大きくし飛空戦団に居る兵士全員に聞こえるように言った。刃斗のその上からの言葉を聞き提督が怒り狂った。

「ふ、ふざけるな! 何様のつもりだ! ……おい、大砲を地上に向かって撃て、今なら奴は居ない、地上に居る女王を殺せばこの戦争は終わりだ」

 確かに終わるだろう、刃斗にとってこの世界はフレイ達が居るから意味があった。それが無くなれば刃斗に生きる意味は無くなり、そうなればこの世界も意味はなくなる。

 フレイ達を殺すことが世界の終わりだと言うことをバルトは気がつかなかった。

 刃斗にとって世界なんかよりも大事な人の方が大切なんだと言うことを。

「……やっぱり、降伏は無理か……仕方ない……これで終わりだ」

 提督の言葉は刃斗には聞こえていた、魔神になって全ての感覚が数十倍に跳ね上がったからだ。

 そして、上げていた右手を戦団の方に突き出した。五十メートルの火の玉が戦団の方へ向かっていく。まるで太陽が落ちて来るような光景に敵の兵士は生きた心地がしていなかった。火の玉が刃斗と戦団の中腹に差し掛かろうと言う時刃斗が叫んだ。

「爆!」

 その瞬間、核熱地球玉は爆発して一つ一つ小さい無数の火の玉となった。それが百隻の戦団の帆だけを次々と突き破って行く。刃斗が全ての火の玉を制御し人には当たらないようにしていたからだ。

「た、退避! 退避しろ―――――――ッ!」

 帆が燃えて次々と飛空戦艦が地上にゆっくりと落下して行った。その中で唯一無事だった艦が有った。それは提督の乗る母艦で、刃斗はわざとこの母艦だけは狙わないでいた。

 自分で決着を付ける為である。

 無傷の母艦と提督の取った行動は落下していく戦団に紛れてフレイ達の居る城の中庭に向かっていた。もうこの戦争には勝てない、だが女王だけでも殺しておかないと、と提督は思っていた。イフリート王国にはフレイの他に王族が居ない、フレイが死ねば王が居ない国になる、このアラーズでは王はその地の精霊と契約を結んでいる、その王が居なくなれば契約が切れ国は荒廃していく。それを提督は狙っていた。

 百隻の戦艦に囲まれながら徐々に城に近付いて行った。あと少しでフレイの顔さえ見えると言う処で刃斗が船首に炎の翼を羽ばたかせながら宙に浮いていた。

「……何所に行くんだ?」

 炎の鎧を纏いながらも声は極寒の様に冷たかった。

「お、お前は何者だ!」

 提督は自分でも、もうわかり切っていることを聞いた。

「……俺はこの国とこの国に住む大事な者を護る者だ。……最終警告だ、今すぐに国に帰れ、でないと消し炭にする……」

 刃斗の本気の口調に提督以外の者が言葉を失った。

「ふ、ふざけるな! 百隻の戦団を壊滅されて、このままおめおめと国に帰れるか!」

「……誰も死んでいなくてもか?」

「なに?」

「……俺がやったのは戦艦の帆を燃やしただけだ。人は殺していない」

「本当か?」

 戦団が次々と燃えて落ちる光景は提督の目には自分の部下が次々に死んでいく光景に写っていた。

「……魔神を相手にし、戦艦は破壊されたが部下は誰も死なせなかった。……国に帰れば英雄だと思うが?」

 刃斗にそう言われバルトは考えて見た。確かにこの魔神が言う通り、魔神と戦って誰も死なせず帰国させることが出来れば自分は英雄になれるだろうと、だがそれは提督としてのプライドが許さなかった。

「それはそうかも知れないが……ここでお前を倒せば、俺は本当の英雄だ! 全部隊! 奴を殺せ!」

 バルトは母艦に居る全部隊に命令をした。だがその命令を聞く者は誰一人いなかった。

「どうした! 奴を殺れ!」

「……バルト提督……我々には無理であります……」

 それを言った兵士をバルトは携えていた剣を抜き放ち刺し殺そうとした。それを見た刃斗は瞬時に動きバルトの前に飛んで回り込み、あと少しで兵士の心臓に届こうとした、刃を持っていたインフェルノで焼き切った。自分の剣が焼き切られたのを見て愕然とするバルトに刃斗は言った。

「……粛清なら自分の国に帰ってからしてくれ。この国に居る限り誰も死なせたりしない。たとえ敵国の人間でもな。……それがこの国の女王の考えだ」

 自分を助けてくれた兵士は考えていた。なんて自分達とはこうも違うんだ、と自分達は己の欲望の為に他国を攻めた。そんな自分達の命のことですら考えてくれるこの国を攻めたことをこの兵士は恥じていた。それは刃斗の行為を見ていた他の兵士にも伝染していた。

こうなってはもう戦争は出来なかった。その場の空気を刃斗は感じバルトに再度言った。

「……一人で戦争を続けるか?」

 これにバルトは何も言えず膝を折り崩れた。

 こうして、シルフィード王国がイフリート王国に攻めて来た戦争は魔神と化した刃斗の活躍で終戦した。



     エピローグ

 戦争が過ぎた数日後。

 刃斗は王宮の玉座の前に来ていた。玉座にはフレイが据わっていて横にはシスが付き添う様に立っていて周りには貴族達がいた。その中にソフィアの姿もあった。

フレイの表情は希望に輝いていた。それはどうしてかと言うと風の国、シルフィード王国がイフリート王国に降伏し、あるモノを二つ献上して来たからだった。

 そのあるモノとは一つは飛空戦艦だった。フレイは兼ねてからこの飛空戦艦に乗って空を飛んでみたかった、その夢が今叶った。そして、残るもう一つとはフレイが求めて止まなかったお金であった。毎月五千万マルキンがシルフィード王国から送られてくるのだ。

 フレイはこれで前の様な贅沢が出来ると思った。しかし、五千万の内四千九00万をシスに接収された。残ったのは僅か一00万であった。

 それでも月一〇〇万と言えば近衛兵の一月分の給料だった。これだけあれば王族としては少ないが庶民にすれば十分に贅沢が出来るほどのお金であった。そして、庶民以下の今のフレイにとってはこのお金はこれからの希望だった。新品な下着がある日々への。

「刃斗、今回の貴方の活躍はこの国の誰もが知ることです。その貴方にたいして褒美を授けることになりました。何なりと申しなさい」

 刃斗はもうこの国では英雄で守り神になっていた。その刃斗にこの国の王になって貰いたくて今回の様な貴族達を呼んでの堅苦しい褒美の授与だった。

 貴族達の前で新しい王の誕生を見て貰う為であった。

「……何でも良いの?」

 少し考えてから刃斗は言った。

「ええ、良いのよ」

(そう、何でもいいの、この国の王になることだって今の刃斗なら簡単よ。と、なれば男の子の夢は英雄か王様だもの、もう片方はなってるから後は王様しかないでしょ? そうよね? 刃斗♪)

 フレイが自分に都合のいいことを考えている横でシスが同じようなことを考えていた。

(魔神様が国王に……今まで私に虐められていたのを国王になって虐め返してくるつもりなのですね……ああ、私、困るわ……♪)

 二人ともが自分の世界に飛び立ったが次の刃斗の一言で地上に叩き落とされた。

「じゃあ、エリシアを近衛兵にしてくれる?」

『……』

 この要望に二人は黙りこみ今の刃斗の言葉が解らないような顔をした。

「……もう一度言ってくれる?」

「? うん、エリシアを近衛兵にして欲しいんだ、けど、だめ?」

 どうして刃斗がこんな願いを言ったかと言うと昨日エリシアに泣きつかれたからだった。

 エリシアは魔法少女隊に復帰したが少女隊の給料以上に母親が借金をしていたことが発覚した。月に五十万マルキンの支払いをしなければならなくなっていた。少女隊の給料がそれと同額なのでとても暮らしていけなかった。そこで、刃斗に相談し今のこの状況が出来上がったのであった。

「今の貴方なら何でもいいのよ? それなのにこれ? 本当に良いの?」

「うん!」

 迷いも無く言い切る刃斗に諦めたようにフレイが承諾した。

「わかったわ。エリシアを呼んで」

 衛兵にそう言った後、しばらくしてエリシアが玉座の間に来て何で自分が呼ばれたのかわからず不思議そうにたっていた。

「エリシア・ヒール・ドリアード。今日から貴女はこの国の近衛兵です。国の為力を尽くして下さい」

 エリシアは最初、言われたことがわからなかったが、刃斗が頷いたのを見て悟った。

 自分の為に刃斗が女王に頼んでくれたんだとわかり緊張した声で返事をした後。

「は、はい! せ、精一杯がんばりますですぅ! ……刃斗おにいさま、大好きですぅ♪」

 刃斗に飛びつき抱きついた。それを見たソフィアが慌てて前に躍り出て宣言した。

「女王様! わたくしも近衛兵になりますですわ!」

「え? で、でも」

「良いですわね?」

 毎月賄賂を贈って貰っている為フレイは断れなかった。

「わ、わかったわよ……ソフィア・ゴールド・ボルト。貴女も近衛兵です!」

 そう言うフレイの言葉はもはやヤケクソだった。


 翌日、国の英雄であり守り神が奇麗な廊下の雑巾がけを切れた目つきのフレイとシスにやらされていた。それを近衛兵であるエリシアとソフィアがハラハラしながら見守っていた。刃斗がどうしてこんなことをさせられているかと言うと、ただの奴辺りであった。

 フレイはエリシアとソフィアを近衛兵にしたのは自分の裁量だとシスに言われ自分の金で二人の給料を支払うようにシスに命じられたからだった。魔法少女隊に居た二人を近衛兵にするには月百万の出費が必要だった。こうしてフレイの月百万の収入は無くなり元のびん乳姫に戻った。(……今の私に冗談は通じないわよ……?)……ごめんなさい……

そして、その責任は刃斗にあるということになった。

「ほらほら、そこも汚れているじゃない! 雑巾で奇麗に出来ないなら舌で舐め取りなさい!」

「ひ! ひぃひぃひぃひぃひぃ―――――――――――っ!」

「……本当によく鳴く魔神様だこと……」

 シスの奴辺りの理由は簡単で刃斗が国王になって自分を虐めてくれなかったからだった。


「刃斗おにいさま……エリシアは、エリシアは……今のフレイ様が怖いですぅ。何も出来なくてごめんなさいですぅ。こんなエリシアを許して欲しいですぅ」

 両手を組み祈るように言った。

「刃斗様……いくらお慕いもうし上げていても……越えられない壁は有るのでございますわ。でも、わたくし信じております。刃斗様ならお一人でも超えられると!」

 右手を握り自分の都合のいいように言った。

「こ、こんな終わり方は、嫌だ――――――――――――――――ッ!」

 平和になったイフリート王国に刃斗の絶叫が何時までも響き渡った。


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