途中
レース前日、豚小屋で刃斗とシヴァが話し合っていた。
「今のお前なら誰にも負けない! がんばれ! 僕が付いてる!」
「ぶひっ! ぶひっ! ぶううひっ!」
このひと月で刃斗とシヴァの間に切っても切れない友情が芽生えていた。
「明日は勝ってあの『お局様』を見返そう!」
「ぶひぃぃぃぃっ!」
二人? が燃えて居ると。
「……今聞きなれない単語が聞こえましたね~どう言う意味です?」
お局様が現れた。
「……ええと、お、お局様と言うのは、ぼ、僕の世界の言葉で仕事の出来る女の人を誉める時に使う言葉です」
さりげなく嘘を吐いた。
そして、シスが不審な目で。
「それでは見返すとはどういうことですか? 誉めた後に見返すとはおかしくないですか?」
たらーと一筋汗が流れ落ちた。
「み、見返すとは、ぼ、僕の世界で見直させる時にも使うんです、な?」
と、シヴァに同意を求めた。刃斗は錯乱していた。が、相棒は。
「ぶひぶひ」
と、首? を縦に振った。見事な絆だった。
そんな二人? を見てシスは眼を細め。
「……まあ、いいでしょう。明日は頑張ってくださいね……自分の為にも」
最後に不吉な言葉を残してシスは去って行った。刃斗はシヴァと抱き合い生還の喜びを分かち合った。そして思った……明日は絶対負けられない、と。
翌日、後五分でレースが始まると言うのに刃斗の顔はうかなかった。横に居るシスが鬼気迫っていたからだ。すでに一〇レース連続で豚券(馬券見たいなもの)を外していた。
ことごとく外れる豚券にシスの白い顔が真っ赤に燃えあがっていて。
「……どう言うことです? なぜ当たらないのです? どうしたら当たるのです?」
と、ぶつぶつ言う様になっていた……末期だった。
そのシスの横で刃斗はただ震えるしかなかった。
(これで、シヴァが負けたら……エリシア、先立つ僕を許してくれ……)
『パッカカパ~ン、パカパカ、パッパカパ~ン』
ファンファーレが鳴らされいよいよシヴァの出番だ。
十頭立てのレースでシヴァは一番大外の十番ゲートだった。これが競馬ゲームなら不利な位置だがシヴァにはそんなものは関係無く見えた。実際どの豚よりも締まっていて速そうだった。刃斗は確信を持っていた……勝てる! と。その横でシスが。
「ふふふふふ、全財産掛けたわ……これで負けを取り戻すのよ……ふ、ふふふふふふふ」
……一線を越えていた……
そして、「パーン」と音が鳴りゲートが開き、豚達が一斉にスタートして――
――シヴァがこけた。
――それを見てシスが崩れ落ちた――
シヴァの豚券を買っていた観客も「ああ、終わった……」と呟く中――
「まだだ! お前ならそこからでも勝てる!」
刃斗が力一杯叫んだ。その瞬間シヴァの目に炎が灯り。
「ぶっひぃ――――――――っ」
と、叫び走りだした。
速かった! 前を走る豚をどんどん抜き去りとうとう残り一頭まで追いつめた。
最後の直線ゴールまで残り数メートルの所でシヴァが前を走っていた豚を捉えた。
そして、そのまま二匹並んで――ゴールインした。勝負は判定に持ち込まれ。
「どっち? ねえ、どっち――――――っ?」
シスが刃斗の服を掴み揺さぶりながら聞いて来た。
「……た、たぶん……」
『わぁああああああああああ』と歓声が上がり。
刃斗が答える前に結果が発表され刃斗はそのままシスのおっきいおっぱいの中に沈んだ。
レースが終わり刃斗はシヴァに抱きついていた。
「よかったな~食べられなくて~」
「ぶひ?」
シヴァが首? を傾げると。
「何のことです? 食べられるとは」
「え? 負けた豚は食べられちゃうんじゃ?」
今度は刃斗が首を傾げた。
「確かにそう言う豚主もいますね。けど、私は食べたりなんかしませんよ。それにシヴァは十連敗していますし……今日貴方のお陰で勝てましたけど」
(十回も負けているシヴァを食べずに飼い続けるなんてあのシスさんが……意外と優しいのかな?)
「シスさんにも優しさが有ったんですね」
刃斗は思っていたことを口にしていた。シスの目が細まり。
「どう言う意味です? まるで私に優しい処が今まで無かったかのように聞こえましたが?」
「い、いえ、今までにも有りましたけど、さ、再確認したんです」
無かったものを確認できるとは思えないが……。
(こ、こら!)
「……そうですか……まあ良いでしょう。それでは、これを受け取ってください」
シスが袋に入った何かを刃斗に渡して来た。刃斗が受け取り中身を聞くと信じられないような答えが返ってきた。
「シヴァが一位になった賞金です。あなたが貰うべきものです」
(あのシスさんが僕にお金を……いくら勝ったんだろう?)
刃斗がそう思うのも無理はなく実際あのレースでシスはかなり儲けていた。
その賞金を刃斗は遠慮することなく貰うことにした。
「そうですかそれでは貰います……それじゃあこの賞金で僕の借金を返しますね」
借金を返せるくらいありそうだと思いシスにそう言うと。
「何を言っているのです? 受け取れるわけがないじゃありませんか」
(え? 受け取れない? シスさんが受け取らないなんて、もしかして借金を無くしてくれたのかな? きっとそうだ! 凄く儲かったみたいだし無くしてくれたんだ!)
「足りてないんですもの」
「へ?」
「足りてないと言いました。あなたがひと月前に借りたお金はもう二倍以上になります。そのお金で返せるのは半分と言った処ですね。それでも良いのでしたら受け取りますけど?」
淡々と言うシスを細目で見ながら刃斗は聞いてはならないことを聞いてしまった。
「シス様は情を何処に置き忘れたんですか?」
刃斗の言葉にシスの目がドンドン虚ろになって行き。
「……十人目の男に振られた時の草原かしら……」
もの凄く重い答えが返ってきた。
そのままシスは虚ろな目をして空を見上げながらぶつぶつ言い始めた。
(やばい! 禁句だったか! ……逃げよう)
「そ、それでは、このお金貰って行きますね!」
それだけ言って刃斗はその場を逃げた。後に残されたのはシヴァを抱きしめながら。
「ワタシ、ニハ、アナタガ、イレバ、オ、ト、コ、ナンテ、イラナイワ……腐腐腐」
壊れていくシスだけだった――。
そして、刃斗は牢屋の前で誰も居ない牢屋をけなげに見張り続ける少女の元に来ていた。
「あ、刃斗さまぁ。また、来てくれたですぅ。嬉しいですぅ」
エリシアは刃斗に駆け寄り抱きついて頬をスリスリさせながら言った。
そんなエリシアの頭を撫でしばらくその状況を堪能してからいったん体を離して。
「お疲れ様。エリシア。それでーはい、これ」
養豚レースの賞金だと言って賞金袋をあげた。
「いいんですか? 刃斗さま?」
「いいんだよ、僕はエリシアを家族だと思ってる。その家族の為に出来ることは何でもするよ」(たとえ借金まみれになろうとも!)
その言葉にエリシアは目を潤ませ。
「う、嬉しい、ですぅ」
刃斗にまた抱きついた。そして抱きつきながら危険な言葉を言った。
「エリシア何かお返しがしたいですぅ。何でも言って下さいですぅ、エリシア何でもしますですぅ」
エリシアの誘惑に刃斗は一瞬頭がくらっとなった。こんなシチュエーションのゲームをいつもやっていたからだ……パソコンゲームで……。
(い、良いのかな? 良いんだよね? そ、それじゃあ、た、たのんじゃおっかな? 全国の妹がいない男の、ゆ、夢を……はぁ、はぁ、はぁ)
……この世界に保護条例が無いのが悔やまれる……
「そ、それじゃあ……お、おにいさまって呼んでくれる?」
「それだけで良いですぅ?」
「う、うん」
「分かりましたですぅ」
そう言うとエリシアは胸の前で両手を組み上目遣いで刃斗を見て必殺の一撃を放った。
「……刃斗おにいさま、大好きっ!」
次の瞬間刃斗は腰から崩れ落ちて気を失った……その顔はこの世の春を謳歌していた。
その夜、刃斗が寝ようと寝床(犬小屋、シスのおっぱい以来此処になっていた)に向かおうとした時、フレイが刃斗をベッドに突き飛ばしてから刃斗のお腹の上に乗って来た。
そして、色っぽい仕草で刃斗の頬を手で撫でながら言って来た。
「ねぇん、シスに聞いたんだけどぉ、賞金貰ったんでしょぉ?」
女の子にこんなことされたことの無い刃斗は心臓をドキドキさせながら答えた。
「う、うん、もらったけど」
フレイは頬を撫でていた手を刃斗の胸にやり人差し指で円を描くように廻しながら撫でて囁くように言った。
「じんとぉ、お、ね、が、い、頂戴、その、しょ、う、き、ん」
……一国の女王の行動とは思えなかった……
(……せっぱつまってるのよ……)
心の声に哀愁を漂わせながら刃斗の返事を待つ。フレイはどうしても賞金が欲しかったあるモノを買う為にそのためならペットからでも奪うつもりでいた。素直に渡さなければ力づくでも……奪ってやる! と心に決めていた。
だが次の瞬間。
「ごめん。もう、エリシアにあげたんだ」
希望が絶望に変わった……。そして、フレイは悪魔に魂を売った。
「そ、そう、エリシアに、ね……それじゃあ仕方がないわね」
「怒って無いの?」
「当たり前じゃない」
笑顔でそう言った後に。
「あ、そう言えばシスに聞いたんだけど、お局様って仕事の出来る女の人に使う言葉何だって?」
刃斗はなぜこのタイミングでそんなことを聞いて来るのか全く考えずにお局様のもう一つの意味をフレイに教えた。
「ふふ、そう言う意味もあるけど本当は年を取っていつまでも結婚出来ない女の人を揶揄するためにも使うんだ」
『ピッキーン』刃斗がそれを言った瞬間部屋が凍りついた。文字通り本当に凍っていた。
周りがいきなり凍りついたのを見て刃斗は考えたくない事を考えた。
(も、もしかして、い、居るのかな?)
そして、どこからともなく凍りついた声が聞こえて来た。
「そうですか……私は結婚出来ないのですか……しないのではなく……出来ないと思われていたとは……ふ、ふふふふふふふふふふふ……」
ものすごく怖かった。たぶん今のシスは魔王以上だ。刃斗は覚悟を決めた。
(エリシア……元気で……今度生まれてもまた……会おう……ね)
その横でフレイは自分の体の周辺に炎を張り巡らせながら。
(まさかこんなことになるなんて、シスに、刃斗にお局様のことを聞くだけでお金をあげるなんて言われた時に気付くべきだったわ。あのシスがお金を人にあげてまで聞きたいことの重みに、だけど刃斗も悪いわ、賞金を私にくれないから、くれていたら聞かなかったのに……それにしても……どうやって寝ようかしら……)
刃斗の命ことなんか心配もせず自分の寝床の心配をしていた。
次の日から刃斗の扱いは囚人以下になった……レベルダウン?
翌日、刃斗は朝から無駄に長い廊下の雑巾がけをやらされて居た。
鶏も鳴き出さない時間から叩き起こされて(もちろん、氷の女王と化したシスに)雑巾を持たされ魔法で汚れ一つない廊下をただひたすらに雑巾を駆けさせられていた。
やり口が古姑であった……『古? 今古を付けましたか?』……い、いえ、若い姑です。
「ひぃ、ひぃ、ひぃぃっ」
息も切れ切れに雑巾を掛ける刃斗に。
「この魔神様(豚)はよく鳴く魔神様(豚)ですね~」
手に鞭を持ちながらそんなことを言うシスの姿はまさに女王様であった。
「……シス。さすがに可哀想じゃない?」
フレイが不憫に思い口を出した。それを見て刃斗の心に僅かな淡い希望が灯った。
「なんです~? 私の躾に何か文句でも有るのですか?」
「い、いえ、な、何もないわ……こ、怖い……」
……淡すぎた……
このままではいつまでもやらされる、やっぱり希望は自分でつかみ取らないと。
そう決心してシスに提言した。
「シス様~そろそろ、朝食――」
「魔神(豚)の癖に食事を摂るのですか?」
言い終らないうちに一蹴された……。
(……豚も食わないと死んでしまいます……)
とうとう自分を豚と認めてしまっていた。それから、シスの気が治まるまでひたすら雑巾がけをやらされ終わったかと思えば窓ふきを仰せつかりそれが終われば庭に生えている草をむしり取らされた。そんなことを夕方までやらされた。
そして今、刃斗は自ら進んで大浴場の掃除をしていた。フレイ達には秘密で。
これもゲーム脳で考え出した事だった。怒らせたヒロインは内緒のプレゼントが効果的なのを思い出し実行した。風呂掃除をプレゼントにしようとしたのだ。
そこには刃斗がお金を持って居ないのも要因の一つだった。
――確かに効果的かもしれない……『内緒』の風呂掃除でなければ……。
「よし! こんなもんかな」
刃斗が額の汗を右手で拭いながらそう呟いた時「ガラー」と脱衣場のドアが開き誰かが入って来た。脱衣場と大浴場にはもう一つドアが有るので刃斗は見つからなかった。
そして、声の主を耳にして急いで湯の中にある巨大な岩の後ろに隠れた。
「ああ疲れた~早くお風呂に入りたいわ~」
「貴女は座っていただけじゃない」
「何を言うの? 座るだけでも疲れるのよ?」
「……否定しないのね……いさぎの良いこと」
(やっぱりフレイとシス様か……見つかったら今度こそ……)
フレイ達が服を脱ぐ前に脱衣所に行き事情を説明すればいいことにこの時の刃斗は気付かなかった。「ガラー」とドアが開き大浴場に二人が入って来た。
二人はタオルも何も着けず全裸だった。その瞬間刃斗は一生懸命……心のシャッターを切っていた。刃斗独自のオタ芸技の一つ『心のエロカメラ』が発動していた。これは心の中に写真のように対象を写し取りいつでも見ることができると言う男の中の男のみ使える技であった。
二人はまずシャワーで汗を流した後お互いの体を洗い始めた。
シスがフレイの背中を洗っている時フレイがシスに質問した。
「ねえ、シスー、実は刃斗のこと気に入ってるでしょ?」
「な、何を言うのです? そ、そんなことが有るはずがないでしょう?」
「……その反応だけでも答えになってるわよ? 私シスが慌てる処なんて初めて見たもの」
驚くことにシスの顔が赤くなっていた。
「……確かに気に入って居ると言えばそうなるかもしれないわね。あの子全然めげないんですもの。今日もそう、結局最後まで私の言うことに逆らわずにやりきったわ。でも、勘違いしないでよ? 私が気に入っているのは弟としてよ? こき使える弟としてなのよ」
刃斗は感動していた。まさかシスに気に入ってもらえているとは毛ほども思っていなかったからだ。この時刃斗の中でシスに対する感情が少し変わった。
そして、二人は体を洗い終え湯船に入って来た。刃斗はさらに逃げ場が無くなり二人が上がるまで我慢するしか無かった。
湯船の中でフレイがシスの胸に触りながら。
「やっぱり大きいわよねー。……ねえ……魔法で半分頂戴?」
フレイの目が真剣だったのを見てシスは話をそらした。
「そう言えば、貴女も随分あの魔神様のこと気に入っているじゃない?」
「え? え? な、何? いきなり」
「いつだったか一緒の布団に入って居たわよね~?」
「あ、あれは、下着を洗って貰ったお礼で……」
フレイの顔が真っ赤になっていく、それを見てシスは。
「ふ~ん。お礼ね~まあそう言うことにしてあげましょうか」
「なに? その上からの言い草は! ……この~」
シスの態度にフレイがキレ、胸の揉み合い第二回戦が始まった。それがまた二十分続きそれを一部始終見ていた刃斗はとうとう耐え切れなくなり鼻血と共に湯船に沈んだ。
十分後、目を覚ました刃斗が目にしたモノは……冷静に自分をどう始末するか相談している美少女と美女の姿だった。フレイは川に沈めた方が良いと言いシスはそれでは完璧じゃないわね、燃やしてしまいましょう。などと言っていた。このままでは本当に始末されると思った刃斗は起きたのを気付かれないうちに匍匐前進で逃げようとした。
「この魔神様(豚)は何処に行こうと言うのかしら?」
「そうね~もしかして逃げようとしてたのかもね。このエロ魔神(エロ豚)は!」
後頭部でそんな言葉が聞こえ刃斗は逃げるのを諦めて土下座をして言い訳をした。
「ご、ごめんなさいー。覗く為にあそこに居たんじゃないんです。喜んで欲しくて黙ってお風呂を掃除して居ただけなんです。だから命だけはっ!」
頭を床に擦りつけながら真剣に謝る刃斗に二人の心はほだされ許した。
「もう、いいわよ、許してあげる」
「そうね、わざとじゃないみたいですし」
「あ、ありがとうございますー」
刃斗は心から安堵し深々と頭を下げてから上げた後、言ってはならないことを言った。
「そうだよね。僕、気に入られてるんだもんね。殺されたりするわけ無いよね」
『……』
その後、刃斗が死にそうな目にあったことは言うまでも無いことだった……。
デリカシーの無い口は……災いの元である。
その日、刃斗は城下町を、リュックを背負いデジカメを持って一人で歩いていた。
この世界の城下町を撮って見たかったからだ……本音はパンチラだが。
(ち、ちがう、よ?)
この日の朝フレイに許しをもらって初めて一人で城下町へ来ていた。
以前にフレイに連れられてきたことは有ったがその時は馬車の中で外を見ただけだった。
だから城下町を歩くのはこれが初めてだった。
刃斗の腰を見ると一本の剣が有った。さすがに刃斗一人じゃ危険だろうと思いフレイは誰か付けると言ってくれたが刃斗は一人で行きたくてそれを断った。それならとこの剣を刃斗に渡してくれた物だった。この剣は王家の宝剣でこの剣さえ持って居ればこのイフリート王国では誰も手出しは出来ないと言われた。そのことは嬉しいが、歩いて居ると周りにいる人が剣を見ていちいち頭を下げるのが少し気になった……。
そして店が立ち並ぶ大通りを歩いて居ると刃斗の後ろの方で。
「きゃあ」
と、言う声が聞こえた瞬間、瞬時にこの声がどんな声かを悟り振り向いていては間に合わないと、デジカメだけを後ろに向け光速でシャッターを切った。
これがオタ芸技の『光速隠し撮り』であった。撮れたものは勿論……パンチラだった。
言い訳は? (……無いです)
撮った後刃斗が後ろを振り向くと叫んだ女の子が男の二人組に。
「お待ちなさいっ!」と叫んでいた処だった。
そう叫んだ後、女の子は自分の前に居る二人組に。
「あなた達、今、わたくしのスカートを捲りましたわね! そして、わたくしが驚いて落したバッグの中からお財布を盗りましたわね! おだしなさい! そのお財布にはわたくしの大切なモノが入っているのですわ!」
女の子は自分のバッグを確かめ財布が盗られたことに気付き二人の男を呼びとめた様だった。
(あの女の子は確か~カブトムシ? いや違うなえ~と、ウル〇ラの母? いやいや違う、違う、確か~そうだ! ソフィア・ゴールド・ボルトさんだ!)
そんな失礼なことを刃斗が思っていると、二人の男が互いの顔を見合わせた。そして。
「おいおいおいおい、証拠は有るんだろうな? 無かったら大変だぜ~!」
「そうだ! そうだ! 確かこの国の法律では他人を貶めることは重罪だったよな~?」
「くっ」
ソフィアが顔をしかめ悔しそうに呟いた。この二人が言う様に証拠が無かったからだ。確かにバックの中から財布は無くなっていた。だが、目の前の二人の男が盗ったと言う確証が無かった。この二人が怪しくて声を荒げたが、もしこの二人が持っていなければ自分は牢屋に入れられてしまう。
そんなことはお嬢様のプライドが許さなかった。
(牢屋になんか入る位なら死んだ方がましですわ!)
そのプライドの所為で強く言えなくなったソフィアを見て二人の男が強気に出て。
「無いみたいだな、これからは気をつけろよー? お譲ちゃん?」
「そうだぞ? 勘違いお譲ちゃん!」
そんな言葉をソフィアに吐いて立ち去ろうとした。
ソフィアは唇を噛み両手を強く握り悔しそうに男達を睨むしか無かった。
そんなソフィアを見て刃斗は……先ほどのデジカメで撮ったパンチラ画像を見ていた。
そして、ある画像を見つけると叫でいた。
「待てっ! 盗人」と。
刃斗の言葉に二人の男とソフィアが振り向き周りで人ごとのように見ていた市民も刃斗の方を見た。ソフィアが刃斗を見て誰か気付いたような顔をした。
「今の、俺達に言ったのか? 坊主」
片方の男が目つきを細め言って来た。
「そうだ! お前たちに言ったんだ!」
刃斗の口調が強気になっていた。どうも女の子が虐められるとなる様だ。
ソフィアが驚いた顔で刃斗を見ていた。
(この者は確か城でわたくしを侮辱した男ですわ。なのに、どうして?)
「へ~そう言うからには証拠は有るんだろうな?」
そんな物ないだろう? て、顔で言って来る男の顔の前に刃斗はデジカメの画面を突きつけた。それを見た瞬間男の顔が歪んだ。デジカメにはもう片方の男がソフィアのバッグの中から財布を抜き取っている姿が鮮明に写っていたからだ。
そして、次の瞬間、二人の男は全速力で逃げだした。
刃斗は慌てずにソフィアに言った。
「あの二人、魔法で捕まえられる?」
刃斗はソフィアの名前と共に思い出していた。
ソフィアがエリート魔法少女隊に居ることを。
「ええ、任せて下さいまし」
ソフィアは刃斗の言葉に生き生きと答えてから呪文の詠唱に入った。
そして片手を前に突き出し。
(わたくしを侮辱した罪を……償いなさい!)
『雷光撃』と叫んだ。
『ビカッ』と光った後、一筋の雷光が前を走る二人組の男の間を貫いた。まともに当たれば人間の体なんて軽く貫く魔法を、間を通す事で感電させるだけに留めた。
雷光が消えた後、地面には感電した盗人が転がっていた。
「まずはお礼を言わせてもらいますわね。とても助かりました。ありがとう御座いますですわ」
手に盗人から取り返した財布を持ちながら、そう言って深々と頭を下げるお嬢様に気品の様なものを感じ刃斗は見惚れた。今までに居なかったタイプだった。
(……この子の方が女王らしいんじゃ?)
たぶんその通りのことを思った後、刃斗はソフィアに最初に会った時のことを思い出し。
「僕の方は謝らないと。カブトムシ女なんて言って、ごめんっ!」
「……いいですわ。今日のことで帳消しにいたしますわ」
頭をさげ謝る刃斗に好感を覚えソフィアは許すことにした。
「それにしてもあの二人に何を見せたんですの?」
「コレだよ」
刃斗は持っていたデジカメを渡した。ソフィアは盗人の犯行が鮮明に写っているデジカメの画面を見て感嘆の声をあげた。
「これは、凄い魔法ですわね!」
ソフィアは魔法と勘違いしたようだ。無理もなかった映像をそのまま写し撮る技術何てこの世界には無く魔法でもかなり高度な魔法になる。
それをいとも簡単にやった刃斗を尊敬の眼差しで見て来た。
その視線は気持ち良かったがさすがに騙しているようで、真実を教えた。
「ごめん、これ魔法じゃないんだ。こうやって誰でも撮ることが出来るんだ」
そう言ってデジカメを操作して一枚ソフィアを撮った。撮れた画像を見せると。
「凄いですわ~これ! ――こうやるんですの?」
ソフィアは刃斗がしたのと同じように一枚撮った後、デジカメで自分が撮った画像を見ようとして不幸な事故(刃斗にとって)が起こった。デジカメを操作するソフィアの指が表示の画像を盗人が財布を盗む前の画像にしてしまっていた。
つまり、パンチラ画像である。
「……」
「……」
二人で画面を見ながら固まる事二分ソフィアが動いた。呪文を詠唱してから。
『雷光剣』と叫んだ。
その瞬間ソフィアの右手から雷が迸った。その雷は徐々に剣の形になっていった。
そして出来上がった雷光剣を刃斗の首筋に突き付け冷めた口調と笑顔で。
「今すぐに消していただけますかしら?」
殺意まで含まれているその笑顔に脅えながら刃斗は別のことを考えていた。
(か、かっこいい、なんてかっこいいんだ。……この剣は……)
自分への殺意もなんのそのソフィアの出している雷光剣に心を奪われていた。仕方が無かったオタクにとってこの剣はあまりにも魅力的だった。
刃斗はいつしか自分でも出して見たいと思う様になっていた。
「聞いていますの?」
「あ、ああ、ごめん、――これで良い?」
パンチラの画像を消してデジカメを見せた……もちろん他の所に保存して。
「……よろしいですわ!」
そう言うと雷光剣を消してくれた。
その後、刃斗は思い切って聞いて見た。
「ねえ、その魔法ってどうやったら使えるの?」
「……これを使いたいんですの?」
「うん!」
頷く刃斗を見て少し考えた後。
「教えて差し上げてもよろしいのですけど換わりに……わ、わたくしにそれを頂けませんかしら?」
ソフィアはデジカメを指差して言いながら顔を赤らめた。
それは大金持ちである自分にはとても恥ずかしい行為だったからだ。
それでも刃斗の持つデジカメが欲しかった。
「これを? ん~これはあげられないけど別ので良かったら」
「よ、よろしいんですの? 嬉しいですわ~♪」
よほど嬉しいのか両手を前に組満面の笑顔になっていた。
刃斗はしばらくその笑顔に見惚れていた。
その後、自己紹介をしていなかったことに刃斗が気付き自分の名前をソフィアに教えた。
「魔無神刃斗様……これからは刃斗様とお呼びしてもよろしいですの?」
「う、うん」
同じ様付でもエリシアとは違った風に聞こえ返事がどもった。
(これで二人に様付された)シスは? (……あれは違うと思う)
そして、町に出るのが初めてだと言う刃斗にソフィアが城下を案内してくれた。
露店を見たり、魔法で作ったアイスを食べたりと、刃斗はまるでデートをしているみたいに楽しかった。
そんな風に楽しんだ後、二人は魔法屋に来ていた。
イフリート王国の魔法屋は炎に関する魔法アイテムが多かった。そうソフィアから説明された時、自分が望んでいる雷の魔法が無いかも知れないと刃斗は不安になったがそんな刃斗を見てソフィアが新たに付け加えてくれた。
魔法は魔法屋で覚えるものでは無いと言うこと、魔法は魔力のある人間が自分の中で魔法をイメージして生み出すそして、生み出した時に呪文が自然と頭に入り込むと言うこと、だから決まった魔法名は無く自分で好きなように命名出来る。ただ、属性が違う魔法はイメージしても生み出せないこととイメージは人それぞれだと言うことを教えられた。
例えばソフィアは雷光剣という剣を使うが他の人は斧であったり杖であったりするらしい。
それでどうして魔法屋に居るのかと言うと刃斗の属性を調べるためであった。本来なら生まれた国が属性になるのだが、刃斗がこの世界の生まれでは無いことをソフィアに告げるとそれなら調べなくてはと此処に連れてこられたのだった。
店の中で品物を見ているソフィアに刃斗は聞いた。
「あまり、驚かなかったね。僕がこの世界の住人じゃないって言った時」
「……わたくしもこの国の住人じゃありませんの。名前が違うでしょ? この世界の住民は皆生まれた国の名前が付いているのですのよ。……だから貴方のことは他人事とは思えないですの……これが答えですわ」
「そっか……」
(そう言えばエリシアとシスさんも違う名前だったな……皆訳ありなのかな)
「これですわ」
そう言って刃斗に一枚の紙を渡した。刃斗はそれを受け取りどうするのか聞いた。
「これに魔力を込めるのですわ。そして起きた反応によって属性が決まりますわ。その属性によってはさっき私が見せた魔法は使えないのですわ。ごめんなさい」
刃斗に教えるなんて言ったのに属性によっては使え無いかも知れないことにソフィアは謝った。刃斗はエリシアから聞いた反属性を思い出し。
「それは仕方ないよ。属性が違えば。ソフィアが謝る必要なんて無いよ。それにしても属性って生まれた国の属性になるんだったよね? 何でこんな属性を判断するようなのが有るの?」
疑問に思って聞くと。
「それは、この世界には魔神因子と言う因子を持って生まれる人が居るんですの。その魔神因子を持つ者は属性が無いんですの。それでこの属性判断札が必要なのですわ」
「……そうなんだ」
(なんでフレイ達はこれを僕にしなかったんだろう? というかこの世界に呼ばれて僕がしたことって……)
そのまま闇に飲まれそうだったので考えることを刃斗は止めた。
そして、その起きる反応とは、火なら燃え、水なら紙が濡れ、風なら切れ、木なら木の枝に変わり、雷なら電気が出ると言うことだった。刃斗が魔力の込め方を聞くと。
「紙を見て、えいっ! と強く思うだけですわ」
「……」
(……えいっ! か……何てアバウトな……でも、やってみるか……)
刃斗は紙を見ながら『えいっ!』と強く思った。
その瞬間刃斗を中心に右側が光に包まれ左側が闇に包まれた。
光と闇が混在すると言う奇妙な現象が数分続いた後、静かに消えた。
「な、何ですの? 今のは?」
ソフィアが驚きの声を上げて刃斗に聞いて来たが、刃斗が分かるはずもなくポカーンとして居ると店の店主が声をかけて来た。見るからに魔法使いの老人で鬚が胸元まで有るのが印象的な老人だった。
「……『原始属性』ですな、魔神因子を持つ者の中でごく稀に出る属性ですじゃ。」
「知らなかったですわ。魔神因子を持つ者の中に『原始属性』とかいうものが有るなんて」
店主が鬚を摩りながら続きを話す。
「知らなくても無理は無いですのう。学校では教えていない属性ですからの。知って居るのはわしみたいな一部の考古魔法学者だけですからの。原始属性とはこの世界が成り立つ時に有った属性と言われておっての。何でも全ての属性の魔法が使え魔力は無限に有るとか無いとか」
「どっちなんですの? 有るんですの? 無いんですの?」
ソフィアが両手をパタパタと振って聞く。
「それが分からんのですじゃ。何せわしも見るのは初めてですからの。魔神因子を持つ者でその属性が出た者はわしの知る限りではたぶん初めてじゃ。……何にせよ気を付けた方がいいのぉ、わが国もそうじゃが、他の四大国も魔神を欲しがっている。このことが広がればお主、他国に攫われるぞい? 見れば我が国の女王様に近い者の様だしの」
刃斗の腰に有る剣を見て店主が言った。
これ以上の情報は聞けないと判断しお礼を言って店を出ることにした。
「はい、気を付けます。ありがとうございました」
「ありがとうございましたですの」
最後に気を付けるのじゃぞ、と店主に言われ店を出た。
(……確か光と闇は一緒には反応しなかったように記憶してたんだがのう……)
大通りをソフィアと歩いていると。
「……貴方、魔神因子を持って居たんですのね?」
「ごめん。さっき言わなくて。それが有るから僕は召喚されたんだ。魔神になってこの国を護るために……」
(……でも実際は……囚人になったり、ペットになったり、果ては……豚、か……)
さっき考えたことを思い出していきなり沈んだ刃斗を見てソフィアが。
「何を沈んでいるのです? 凄いことですのよ? 魔神因子を持っていると言うことは魔神になれるかも知れないですし、あのお爺さんが言っていたように全ての属性魔法が使えるのなら、あなたは最強の魔法使いになれるかも知れないのですわよ?」
そんなことを言われ刃斗は実際になった処を想像して見た……モテモテだった。
「……どうしてここで鼻の下が伸びるんですの?」
ジト― とした目で見られ。
「い、いや、何でもないよ。……でもそれならもう居るんじゃない? 男で最強の魔法使いが」
刃斗の問いにソフィアが少し考えてから。
「……そう言えばおかしいですわね。今、最強と言われている魔法使いは皆、女の人ですわ。どう言うことでしょう? ……シス大臣に聞けば何か分かるかも知れませんけど……」
「そうか! シス様ならきっと分かる! 今日聞いて見るよ!」
あの冷静冷徹冷酷知的美人を思い出し(僕は思ってない!)……これで問題は解決したと思いソフィアに約束の品を渡そうと刃斗はリュックの中のあるモノを探し始めた。
「……別にわたくしが不勉強だからと言う訳では有りませんのに……あの人の頭が良すぎるのですわ……」
ブツブツと何かを言うソフィアに気付かずリュックの中を漁っていた。
ソフィアは自分よりシスを頼られたことが悔しかったみたいだ。それはたぶん嫉妬心だった。逢ってまだ数時間も経たない刃斗にこんな感情を抱く自分が信じられなかった。
(わたくし、どうしたのかしら? こんな気持ちになるなんて……でも、悪くないものですわね)
「はい、ソフィア」
物思いにふけるソフィアに刃斗がリュックからある物を渡した。手渡された物を見てこれは何かしらって顔をしているソフィアに刃斗は自分の持っているデジカメを指差しこれの代わりだよと言った。その瞬間ソフィアが笑顔になり喜んだ。
刃斗が渡した物は携帯電話だった。
電波の無いこの世界では全く使えない携帯電話もカメラとしては使えた。
「本当に貰ってもよろしいんですの?」
不安そうに聞くソフィアに笑顔で。
「いいんだよ、ソフィアに貰って欲しいんだ。今日は僕にどんなことが出来るのか教えて貰ったし。それに……とっても楽しかったから」
刃斗の言葉に頬を染めて。
「そ、そうですの……またいつでもお誘い下さってよろしいんですのよ?」
「いいの? うん、絶対に誘うね!」
「……はい……お待ちしていますの……」
この時には顔が真っ赤になっていた。
その後ソフィアに携帯のカメラ操作を教えてから刃斗は城に帰った。
その夜、シスの前に正座して。
「シス様。お聞きしたいことが有るのですが」
今までの日々で刃斗はシスの前では従順な子羊の様に振舞うことが当たり前になっていて、もうそれは条件反射の域にまで達していた。
今日魔法屋で聞いたことをベッドに座って本を読んで居るシスに聞こうと思って声を掛けた。横にはフレイが寝そべって両足をパタパタさせながら携帯ゲームをしていた。
刃斗から下着の代わりに取り上げた物だった。そこに女王の貫録は微塵も無く現代の女子高生を彷彿とさせた。
「何ですか? 貴方の借金でしたら五百万マルキンになっていますけど?」
「……」
「……」
(……え~と、五百万マルキンがどの位の金額かわからないけど単位が百万ってくらいだし……どうしよう)
(……刃斗が借りたのって確かひと月半位前だったはずよね……相変わらずあくどいことしているわね~シスは。刃斗、大丈夫かしら? 取り立てるとなったら私からでも取り立てるからな~この守銭奴は)
小さい頃フレイはシスと城下町に出かけたことがあった。その時露天にあった玩具が欲しくてシスにお金を借りてしまった。
後日そのお金の利子が何倍にもなったあとシスが取り立てに来た。
子供からもむしり取るその姿はまさに帝王だったと言う……。
刃斗とフレイが黙ったのを感じて。
「あら? そのことでは無いんですか?」
「い、いえ、そのことではありません。実は今日、ソフィアと魔法屋に行った時のことなんですが……」
ソフィアの名を出した瞬間、場が一変した。
「……ソフィア? 呼び捨て……?」
ゲームを止め起き上がってから釣りあげた目をしてフレイが刃斗を見つめて言った。
「……あの、ソフィア・ゴールド・ボルトさんのことですか?」
静かな口調の中にシスは寒気がする冷気を込めながら言った。
どうしてこんな雰囲気になったのか全く分からず刃斗は、そうです と言った後今日あったことを包み隠さずに話してしまっていた……疑似デートのことまで。
話を聞き終えた二人がとった言動は刃斗の予想外の言動だった。刃斗はシスから魔神因子のことと原始属性のことが聞けるものと思っていた。だが二人のとった言動は次の様なものだった。
「シス― 拷問部屋ってまだ使えたっけ?」
(拷問部屋?)
「ええ。大丈夫よ、あそこは借金を踏み倒そうとする輩にたまに私が使用していますから」(使用?)
「そう、じゃ、今から行きましょうか……」
(行く?)
「そうですね……腕が鳴りますねー」
(鳴る?)
そして刃斗は両脇を抱えられて拷問部屋へ分けも分からず連行された。
―――数分後刃斗の絶叫が城内に響き渡った。(……なして?)
魔神因子のことは刃斗を拷問に掛けながらシスが教えてくれた。「ギャ――ッ」
なんでも魔神因子を持つ者は魔力が極端に低いらしい。「オホ――ッ」
なので、属性判断札を試しても魔力が低いため判断が出来ないとのこと。「ホフホフ」
だから刃斗にも試さなかったのだということ。「そ、そこは勘弁して下さい」
なぜ、魔力が低いのかと言うと、魔神になるのに他人の魔力を自分の中に入れて魔神化するから自分の魔力が高いと暴発すると言うこと。「それは、倫理的に―――――――っ!」
……あと、原始属性についてはシスにも詳しくは分からないとのこと……楽しそうだ。
(楽しくな――――――――――――――――――いっ!)
激しい拷問? から一夜明け、刃斗は自分の命と貞操の無事を喜んでいた。
いつもの犬小屋からはい出て立ち上り背伸びをして大きく息を吸う、それからまだ起きていないフレイの姿を確認して(シスはもう仕事に出掛けている)今日もお昼からか、とフレイのいつものルーズさに苦笑を浮かべてから部屋の前に居る衛兵に声を掛ける。
「おはよう」
「おはようございます。刃斗様」
「いいのに様付なんて」
「それはいけません。貴方様は女王様のペットなのですから……それに……かっこいいですし……」
頬を染めてそんなことを言う衛兵に戸惑いながらも悪い気持ちがしなかった。
もうこの世界に来てから三か月以上経とうとしていた。
刃斗も今では自分から普通に『女の子』に話かけることが出来るようになっていた。
それが良いことかは分からないが……。
「ねえ、どうして刃斗が、かっこいいのと様付をする、しない、と言うことが重なるのかしら?」
いつの間にか二人の後ろにフレイが目を吊り上げて立っていた。
些細な疑問をただ解き明かしたいようにも聞こえるが明らかに二人を、主に衛兵を責めていた。刃斗は思った、ここで選択しを誤ったら自分の首も飛ぶが『この子』の首も飛ぶ。
(選び取らないと正解を! 今こそ発揮するんだ! 僕の力を! 恋愛シュミレーションゲームで培ったこのオタクの力おぉおおおおおおおおおおっ!)
「もしかして……嫉妬してる?」
「……」
「刃斗様……それは……無いです……」
衛兵の女の子が呆れながら拷問部屋に連行されていく刃斗を見送った。
非現実と現実を見誤った刃斗の負けであった……バカである。
(……おかしい、あの選択肢の後『ば、バカじゃないの? そ、そんなことある訳無いでしょ?……な、ないんだからねっ!』と頬を染めながらツンデレる、フレイが居るはずだったのに!)
………………真正だった。
何とかフレイの拷問を生き延びた刃斗は昼の御飯(餌)が終わり城内を散策していた。
もう城内の何所に何が有るかなどは把握している刃斗だったが一つだけ用途が分からない部屋が有った。それを今日は確かめようと今向かっていた。
(今日こそはあの部屋を攻略してやる)
そう心に決め部屋の前まで来たが途端に足が竦んだ。
臆病風に吹かれたわけでもないのに何故か足が動かなかった。
(やっぱりこの部屋には何か有る! 僕のオタクパワーがそう言っている!)
先ほど裏切られたパワーを信じていた……やっぱり……。
(僕はバカじゃない! ……あれはちょっとデレが足りなかったんだ……きっとそうなんだ……僕は! 僕を信じる!)
意味不明の心の動きを見せた後、意を決して部屋のドアを開けた。
中に入ると大きな鏡台が正面に有り周りを見ると何に使うのか分からない道具が散乱している……どう見てもただの物置部屋だった。
「あれ? おかしいな、何か感じたんだけどなー」
「何を感じたんだい?」
首を捻って言う刃斗に何処からともなく声が聞こえて来た。
「うわぁっ! だ、だれだ?」
驚きながら周りを見渡すが誰も居なかった。刃斗はぞっとなり。
(ま、魔法があるんだ、ゆ、幽霊が居ても、ふ、不思議じゃない……)
「南無阿弥陀仏……」
目を瞑り唱えだした……異世界の幽霊に仏教が効くとも思えないが……。
「失礼だね~幽霊なんかじゃないよ。あたしゃ、鏡の精霊だよ」
「鏡?」
そう言われて目を開けて鏡を見ると……醜悪なババァが写っていた。
「……年齢を下げて貰えますか?」
刃斗はゲーム脳で分かっていた。精霊は見た目を自由に変えられるはずだ!
と、ならババァより若い子の方が良い、(同感である)そう思って瞬時にお願いしていた。
「いきなり失礼な子だねぇ……はいよ! これで良いかい?」
ババァが……今は、若く綺麗でお美しいビューティフルな美少女が刃斗の願いを叶えて、鏡の中に居た。(どれも同じ意味じゃ……?)
そして、目の前の美少女に目を奪われた刃斗が。
「……良い……可愛い……」
と、刃斗が言った瞬間褒められることに慣れて居ないのか鏡の中の精霊が頬を染めながら「う、嬉しいことを言ってくれるのう」と言い……元の姿に戻った……頬を染めたまま。
「う、うげぇええええええっ」
う、うぐぇえええええええ
「……どっちも失礼だねぇ……」
なんとか持ち直した(少し生死の境をさ迷っていた)刃斗は鏡を見ていた。
姿は勿論可愛い方でお願いした。
どうしてこんな所に放置されて居るのかを聞いた。
「わしは二千年間眠っておったんじゃ。じゃが、お主が入って来たとたん目が覚めた。お主魔神因子を持っておるな?」
「はい、でも、どうして分かったんですか?」
「わしは魔神によって作られたのじゃ。だからわしを目覚めさせることが出来るのは魔神因子を持つ者しかおらん。さあ。命令してくりゃれ?」
いきなり可愛くおねだりされた。これを元の姿でやられていたら刃斗は即死だっただろう。――そして、刃斗はこんな言葉を思いついた。
『オタク殺すにゃ刃物はいらんババァの姿でねだりゃいい』
「……なんか凄い失礼なことを考えとりゃせんか?」
精霊が不審そうな目つきで見て居るのに気づき気を取り直して聞いて見た。
「命令ってあなたはどんなことが出来るんですか?」
「わしか? わしに出来ることは……」
そのまま黙りこんで考え込み始めた。
「もしかして忘れたんじゃ?」
二千年間も眠っていれば忘れていても仕方ないと思った。
「い、いや、そ、そうじゃ、思い出したぞい! わしはそなたが望むことを映しだせるはずじゃ」
「はずじゃ?」
「い、いや、映し出せるのじゃ。さあ、なんでも言ってみりゃれ?」
刃斗にそんなことを言えば答えなんて一つに決まっていた。
「じゃあ。衛兵の更衣室」
即答であった……裏切らない男である。
「分かったのじゃ。更衣室じゃな?」
鏡の精霊がそう言うと鏡中で何やら念じていた。
しばらく待つと鏡の中がグルグル回りだし徐々に映像化されていく。
「ごくっ!」
つばを飲み込む。今、未知の桃源郷が晒され様としていた。そして、画像が鮮明になった瞬間、刃斗は見た……男の裸の群れを……失神した。こっちも裏切らない鏡であった。
数分後目が覚めた刃斗は無言で周りにある道具を一つ手に取り鏡の前に行き振りかぶった。
「許してくりゃれ?」
鏡の中で膝を折り目の横に涙を貯め両手を胸の前に組そんなことを言って来る鏡の精霊を見て刃斗は割ろうと思っていた道具を放り捨ていつの間にかデジカメを手に持ち一心不乱に精霊の姿を映し撮っていた。
「良い、良いよ、次は両手を頭の後ろに組んで」
「こ、こうかや?」
いつの間にかオタクの撮影会に早変わりしていた。次々とポーズの注文する刃斗は実に生き生きとしていたが傍目にはアブナカッタ……。
そして、そんな刃斗を見つめる目が二つほど有った。物置部屋のドアを少し開けフレイとシスが中を覗き込んで居た。ドアの隙間からなので鏡が刃斗に隠れて見えなく、見えるのは一心不乱に撮影をする刃斗だけだった。
「ねえ。あいつ。虐めすぎたかしら?」
「そうねえ、そうかも知れないわねえ。でも、本々の様な気もしないこともないわねえ」
そんなことを話している二人に気付かずに撮影を続ける刃斗の口から出してはいけない言葉が飛び出た。
「良いよー可愛いよー。やっぱり若くないとねぇ。年とったのは駄目だよ、うん!」
刃斗は鏡の精霊のババァ形態の時のことを言ったのだがそれを知らない者が聞けば自分のことを言われたのだと思っても仕方がなかった。そして、此処に自分のことを言われたと勘違いした侍女兼大臣が居た。「バンッ!」と、ドアを思いっきり開け放ちツカツカと刃斗に近寄って行き首根っこを掴むと拷問部屋に引きずって行った。
フレイが見た刃斗の顔は視界から消えるまでずっとハテナ顔だった。
残されたフレイは刃斗が撮っていた鏡を見て。
(ふーん、こう言う子が良いのね)
変な対抗心を燃やしていた。
その後、鏡の精霊から事情を聞いたフレイはこの精霊が魔神に関しての情報を知っていると思い自分の部屋に鏡を運ばせた。そして、情報を聞き出そうとしたら鏡の精霊に交換条件として鏡の掃除を隅々までさせられた。
掃除を終えいざ情報をと言う段階で刃斗がシスの拷問から帰って来て一言。
「その精霊、記憶が無くなってるみたいだよ」
次の瞬間、寝室の温度が急上昇したのは言うまでもない。
「起きなさい! 刃斗! 起きるのよ!」
そんな声が聞こえ、刃斗が眼を覚ますとフレイが覆い被さってこっちを見ていた。
「わぁっ! な、何してるの?」
刃斗が驚きの声を上げるのも気にせず「出掛けるわよ!」と言って犬小屋から出て行ってしまった。何のことか分からず首を捻りながらも素直に従い刃斗も自分の寝床を出た。
ベッドを見るとシスの姿はもう無く仕事に行った様だ。つまりシスが起きて仕事に言った後を見計らって刃斗を起こした様だ。
嫌な予感がしつつも何処に行くのかをフレイに聞いた。
「それで何所に行くの?」
「ここよ!」
早口でそう言って刃斗に一枚の張り紙を渡した。刃斗が受け取り書いてある事を確認する。
「えーと……ごめん。読めないんだけど……」
来て三か月経とうと言うのに未だ字が読めていなかった。(うるさいな)
「あ、そうだったわね。バカだもんね。それにはこうやって書いてあるのよ。村の周りにモンスターが出現して困っています。助けて下さい。ってね」
(……そうかモンスターの退治以来の張り紙か……それにしても、バカだもんねって……)
「それは分かったけどどうしてフレイが行くの?」
刃斗が疑問に思うのも無理はなかった。普通こう言うのは酒場とかに張られていてそれを専門にしている人たちが請け負う仕事だからだ。それを一国の女王がしようと言うのだから疑問は当然だった。ただ、それはゲームか他のファンタジー世界の話だった。
この世界のこの国の女王は――
「ん? お小遣いが欲しいからに決まってるじゃない。それでパンティを買うのよ!」
――村を助けようとか正義の為だとかでは無くただ、パンティの為だけにモンスターを退治しに行く女王だった……嘆かわしかった。(うるさい! 下着が欲しいのよ!)
「……そう……そうか、分かった、協力するよ」
「当たり前でしょ。刃斗は私のペット何だから」
「……そう……そうだね……それで、何人で行くの?」
「私たちだけよ?」
フレイはそう言った後、モンスター退治の準備を始めた。
刃斗は言葉の意味を考えてみた。
(僕たちだけ? それは僕とフレイだけって意味だよね?)
冷静に戦力を分析してみる……確実に一人は役立た無い、刃斗もソフィアに魔法がどんなモノか聞いた日から色々イメージして試してみたがやっぱり出来なかった。
シスの言う様に魔力が足りないんだろう、と刃斗はいつしか魔法を諦めていた。
(いや! 待てよ? フレイが二人だけって言ったんだ。僕が役立たずなのはフレイも承知してる事だし、きっと自信が有るんだ。僕を殺そうとした、あの魔法よりもっと凄い魔法が使えるに違いない)思いに少し恨みが混じっていた。
そして、せっせと準備をしているフレイに聞いて見た。
「フレイは僕に使った魔法以外でどんな魔法が使えるの?」
「え? あの二つだけよ?」
終わった――と刃斗は思った。確かにフレイの魔法は凄かった。でも、最初に使った小さな火の玉は人間の刃斗でも避けられた。次に使った大きな火の玉はスピードが無さすぎた。部屋の中ならいざ知らず何も無い外だったら簡単に避けられる。そこまで刃斗は考え出した結論は二人じゃ無理だ。仲間を増やそうと言うことだった。幸い今の刃斗には心辺りが二人ほど居た。エリシアとソフィアである。
「フレイ。仲間をあと二人増やそう」
未だ準備をしているフレイの背中に声をかけるが、刃斗の言葉に振り向きもせず。
「嫌よ! 分け前が減るもの」
(……これでも女王様なんだよね……)
フレイの言葉に少し考えた後。
「……大丈夫。その二人は分け前なんか要らないから」
「そう、それなら良いわよ。此処に連れて来て」
フレイが了承してくれたので二人を誘いに行った。
刃斗は自信があった、エリシアは自分が頼めば来てくれると思っていたしソフィアは絶対に誘ってくださいなんて言っていたからだ。
そして、二人を連れてフレイの前に行くと。
「……そう、その二人な訳ね……良い度胸してるじゃない……」
フレイはもの凄い目で睨みながら言った。
「刃斗おにいさま。ゲームしないですぅ?」
エリシアは刃斗の事をお兄ちゃんと呼ぶようになっていた。
「刃斗様? デートに行くんじゃありませんの?」
ソフィアは当然の質問をした。
「は、はは、ははは、はははは……」
刃斗は自分で選んで連れて来たが乾いた笑いを出しながら。
(……ホントにこのパーティーで行くの……?)
城の裏門の前にフレイがこっそり用意した馬車が有った。
秘密裏に用意した馬車だったので王様が使うような馬車ではなく庶民の農家が使うような屋根が付いて無く荷台に数人座れる座席が有るだけだった。
そこに向かって城からこそこそと歩く集団が居た。
一人は赤い髪の頭に帽子、腰に拳銃、服の胸の所に桜のバッチを付け、スカートはミニと、何所から見ても婦警さんだ。次の一人は棒の先に紙を張り付けた物を手に持ち上は白い服を下に赤い袴を着ている金髪の巫女さんで。最後の一人は全身真っ白で首に聴診器を掛け手に注射器を持って居るちびっこナースさんだった。
そして、その三人を至福の表情で見て居る男の格好は頭にアニメキャラのバンダナ、服はアニメキャラがプリントされたジャンパー、首からデジカメを下げ大きなリュックを背負っていた。
……何所から見ても唯のオタクである。
もはや戦いに行くのか秋葉に行くのか全く分からなかった。
もう言わなくても分かると思うがこの珍妙な三人は刃斗達である。なぜこんな恰好をしているのかと言うとフレイがドレス以外持っていなかったのがそもそもの原因だった。
このモンスター退治はシスと民に内緒で城を抜け出して行くことなので隠密な格好をしなければならなかった。だが貧乏なフレイに残されたのはドレスしか無くそれで町を出ればたちまち民衆に見つかる。それで、何かないモノかと頭を悩ませていたら刃斗が自分に良い考えが有ると言って……この様な珍妙なパーティが出来上がったと言う訳だ。
ちなみにこの服は刃斗がこの世界に送られてきた時に一緒に送られてきた物だ。
「ねえ、今さらだけど……間違ってない?」
「そうですわね~この恰好余計に目立つような気がしますわ?」
「え~とても可愛いですよう~」
「……」 パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ
その三人の会話を全く無視してデジカメで撮り続けるオタクがそこに居た。
『……』
三人は呆れた後ほっておくことにした。
刃斗の撮影が終わり、フレイが馬車の入口のドアに手を掛け「さあ行くわよ」と声を上げた所に。
「何所に行くのです?」
冷徹な声が後ろから聞こえた。皆で一斉に振り向くとシスが腕を組んで立っていた。
「し、シス? どうして此処に?」
驚いた顔をして聞く。
「貴女が私を出しぬけると思って? その貼り紙を持って帰って来た時から分かっていましたよ」
「……それで? 邪魔するつもり?」
「いいえ。私も行きますよ。楽しそうですしね」
シスがそう言った瞬間刃斗が動いた。早足でシスの目の前に行き目つきを鋭くさせた。
(刃斗? も、もしかして、追い返してくれるの? あのシスを? 私の為に? ………
刃斗、今まで誤解していたわ。貴方は勇気の有る勇者だったのね……)
両手を胸の前で組、羨望の眼差しでフレイが刃斗を見つめていた。
「……なんです……?」
シスが眼を細め刃斗を牽制した。
だが、勇者はそんなことなんかに怯まず、いつの間にか持っていたコスプレ服をシスの前に突き出して。
「これに着替えて来てください! そうじゃなきゃパーティには入れませんっ!」
と、力強く言い切った……勇者である。
「え、ええ、分かったわ」
勇者の迫力に負けたシスは、城に戻り着替えて来ます、と言って城に戻った。
「……」
そして、勇者を今にも殺害しそうな目で見つめる婦警が横に居た。おもむろに腰に有る拳銃を抜き放ちいきなり刃斗にぶっぱなした。「パン、パン、パン、パン、パン、パン」
リボルバー式拳銃の全弾数、六発を全弾打ちつくし拳銃の先をふっと一息吹いた後、人指し指でくるくる廻しホルスターに納めた。
撃たれた胸を押さえて倒れる時、フレイを見てさながら西部劇のガンマンの様だ、と刃斗は思った。
それを見たエリシアが倒れている刃斗に駆け寄り介抱した。
ちびっこナースの介抱も虚しくナースの膝の上に頭を乗せながら刃斗は息を殺し絶えていた。
(エリシアのお膝は気持ち良いなぁ)
気持ち良さに……羨ましい……。
「はぅっっっ! お兄ちゃんが死んじゃいましたですぅ」
そんなバカ(憎しみを込めて)を死んだと勘違いしている純真なちびっこナースが叫ぶ。
「あ、あなた! そ、それ、換わりませんこと?」
その横でソフィアがエリシアのしている膝枕を指差し換わってくれと頼んでいた。
「……死んでないし、それにそんなバカを膝に乗せたら膝が腐るわよ?」
フンッと首を振りながら言うフレイの辛辣な言葉に二人の少女と一人の大バカ(憎しみを増大させ)は額から一筋の汗を垂らしていた。
そして、コスプレ服に着替えて来たシスが戻って来て疑問の声を発した。
「こ、これ、本当に私が着て良いモノですか?」
シスの声にエリシアの膝の上からがばっと起き上がった刃斗が、シスのコスプレ姿見るなり。
「はぅっっっ! い、良い、さ、最高、ですっ!」パシャ パシャ パシャ
無我夢中でデジカメを操りだした。自分たちの時より熱心な刃斗の姿に蚊帳の外に置かれた三人の少女は面白くなかった。そして、三人ともこう思っていた。
『私の方が似合うのに……』と
それは当たっていた。本来ならシスの今着ている服は十代の女の子しか着ない服だったからだ。
そう、シスの着て居る服は『セーラー服』だった。
胸が制服に収まらず盛り上がっていて、必然とお臍も丸出しであるうえスカートが今時の女子高生にならってかミニであり靴下が黒のハイソックスであった。
……確かシスは二六歳だったはず……罪な男である……。
しばらくして刃斗の撮影会が終わり、全員で馬車に乗りモンスターで困っている村へ出発した。こうして、コスプレパーティが結成された……前途多難である。
城門を出てすぐの所でモンスターが道を塞いでいた。
形は四角だったがプョプョしているので刃斗は序盤だしスライムだろうとゲーム脳で考えた。それならば自分でも勝てるだろうと「僕が軽く蹴散らしてくるね」と言ってスライムの前に立った。そんな、刃斗の姿を女性陣達は期待の眼差しで見ていた。
『やっと、男らしい処が見れるかも』と、思いながら。
失礼だった。刃斗にも男らしい処が過去に……無かった……。
そんな期待をされている刃斗の手にはいつぞやの王家の宝剣が握られていた。シスが着替えに戻った時持って来てくれた物だった。それを両手で持ちスライムの正面で構える。
(……良い……本当に、勇者みたいだ……)
刃斗は感動に内震えていた……格好はオタクだったが……。
そして、両手を振り上げ気合いを込めてスライムへと打ち下ろす。
「やぁああああああっ!」「ポヨンッ」と剣を弾かれた。
『……』
その場に気まずい沈黙が流れた。
最初に声が出たのはエリシアだった。
「……弾かれちゃったですぅ? ……スライムさん強いですぅ」
「……弾かれましたわね。……きっと剣がなまくらでしたのですわ」
「……そうね……結構古い剣だしね」
「ただ単に力が足りなかったのでは?」
『……』
三人は必死に刃斗をフォローしようとしたがシスにバッサリと切り捨てられた。
刃斗にはフォローが必要だった。なぜならこのアラーズに住んで居る者でスライムに勝てない者は居なかったからだ。そのスライム相手に。
「この! この! えい! やあ! とう! ……なかなかやるな!」
死闘を繰り広げていた……女性達の目が寂しげに刃斗を見守っていた。
そして、数分後。
「……ごめん、助けてくれる?」
スライムに負け地面に倒された刃斗がスライムに体を踏まれながら助けを求めていた。
その助けに即座に答えた者が居た。
その者が両手を前に突き出し「炎熱玉」と、唱えると小さな火の玉が両手から飛び出た。
その火の玉のスピードは速かったが、あと少しでスライムに当たる瞬間スライムがひょいっと避けた。
その後火柱が立ち上った。その中に助けを求めていた者を巻き込んで……。
「あちちちちちちちっちちちちちちちちちちっ! あっつーいっ!」
「あれ? 外した?」
恍けたフレイの声が炎の中で刃斗は聞こえた気がした。
刃斗は火傷の治療を受けていた。今度はソフィアに膝枕をして貰い横でエリシアが呪文を詠唱していた。「聖母樹の癒し(ドリアードヒール)」と魔法名を唱えると刃斗の周りが光りだしどんどん火傷が無くなって行った。その間刃斗は思っていた。
(……バカな! 僕はスライムにも勝てないのか?)
一瞬自暴自棄になりそうだったが次の瞬間。
(いや! あれは、メ〇ルスライムだったんだ! そうか! それなら今のレベル一の僕が適うはずないよなーうんうん♪)
……何処にもメタルな部分は確認出来なかったが……(僕には見えたんだ!)
刃斗が必死に心のA〇フィールドを張ろうとしたが。
「退治しましたよ。ただのスライム」
シスが冷めた口調で残酷に突き破った。
「……」
(そうか! この世界のスライムはシス様クラスじゃないと倒せないんだ!)
とうとう自分の心を補完した。
「まったく、五歳の子供でも勝てるスライムに負けるなんて……この魔神様は!(この豚野郎は!)どこまで魔神様(豚野郎)なのかしらっ!」
真実と侮蔑な言葉が飛んで来て刃斗の心を打ち砕いた。だが、それを聞いて反論してくれる女の子達が居た。
「刃斗おにいさまは豚野郎じゃあないですぅ。エリシアの大事なお兄ちゃんですぅ!」
「そうですわ! 刃斗様はやる時にはやるお人ですわ。豚野郎なんかじゃございません!」
「そうよ、シス、言いすぎよ? 確かにスライムなんかに負けたチキン野郎かも知れないでも、豚野郎は無いわよ!」
(おかしい、どんどん心がえぐられていく……これなら責められた方が……)
「何を言っているの? スライムはこの世界で最弱な存在よ? そのスライムに負けたって事はこの男はもう男じゃないのよ? それなのに私はまだ豚野郎で済ませて居るのよ? 一応男扱いしてるじゃない。本来ならウジ虫以下のこの魔神様をよ? 私はまだ優しい方だわ!」
(……やっぱり優しさが欲しい……シス様以外の……)
こうして刃斗の心に深い傷が残った。
エリシアの治療が終わり、ソフィアの膝の上に頭を乗せながら刃斗はどうしてもフレイに言っておきたいことが有った。何故かこっちを、主にソフィアの膝を睨んで居るフレイに向かって胡乱な眼になって言った。
「……まさか、まだ、僕を殺そうとしていたなんて……」
「な! そ、そんな訳無いでしょ? た、助けようとしたんじゃない!」
「……ホントに……?」
「ほ、ホントよ! それに、気になってる男の子を殺すはずないじゃない」
「なに? 聞こえないよ?」
刃斗には聞こえなかったが他の女の子には聞こえた見たいだ。
「……女王様でも刃斗おにいさまは渡しません!」
エリシアが可愛い目を可愛く吊り上げならフレイに言った。
「……宣戦布告と受け取りましたわ……お受けいたします」
ソフィアが凛として言いきった。
「そう……まさかこんな魔神様を……」
相変わらず文法がおかしい言葉を言いながらシスは『あなた、大丈夫?』って目をした。
(皆、何を言っているんだろう?)
「ち、ちがうわよ! もう! そんなことより今はこいつの力の無さの方が問題でしょ?」
「ごまかしましたですぅ」
「ごまかしましたわね」
「確かにごまかしたけどフレイの言うことも一理あるわね。調べましょうかこのへたれな魔神様を、エリシアお願いできるかしら?」
(なにをごまかしたんだろう?)
「はいですぅ。お任せ下さいですぅ。いきますよう……」
シスがなぜエリシアに頼んだかと言うとドリアード系の魔法には相手のパラメーターを調べる魔法が有った。だからエリシアにシスは頼んだのだが……シスは失念していた、魔法が個人のイメージで生まれることに……。
『聖母樹の好奇心』
エリシアが魔法を唱えると上空に魔法陣が浮かびあがり徐々に『刃斗達』個人個人のパラメーターが次々に映し出された。
刃斗のパラメーター。
『力マイナス二、魔力8、男らしさマイナス二百五十五、オタク度二百五十五』
「……ち、力が……マイナス?」
刃斗がパラメーターを見てそんなバカなって顔をしていたが他の皆はそんなものねって顔をしていた。スライムに勝てないのだ、当たり前だった。
「ねえ、男らしさはその通りだけど魔力が八しか無いわよ? いくらなんでも小さすぎない? 五才児だってもう少し有るわよ?」
(そこは少なすぎないと言って欲しい……)
別にアソコの話をしている訳では無いと言うのに気にしていた……短小である。
(ごめん、矮小にして?)……分かった。……矮小であった。
(うん、僕は矮小だ……)
そうして刃斗が暗く沈んで居る横で。
「オタク度ってなんですぅ?」
「さあ? 何でしょうか?」
「二百五十五も有るのです。きっと凄い力に違いありません! さすが私が呼び出した魔神様ですね!」
――とてもゲームが好きでアイドルを追っかける者に付けられるモノとは言いだせなかった。
そして、この世界には数字の八を横にした時の意味を知る者は居なかった。
刃斗は知っていたが力がマイナスなのを見てその下から先は見て居なかった。
続けてフレイのパラメーターが映し出されていくとそれを見たフレイが。
「ちょ、ちょっと私のはいいのよ!」
しかし、時すでに遅くフレイのパラメーターは映し出されていた。
『力五〇、魔力二百三十、貧乏度二百五十五、びん乳度二百五十五』
『……』
「わ、わあ、す、すごいですぅ! 二百を超えて居るのが、み、三つも有るですぅ」
全員が黙りこむ中エリシアは必死にフォローした。涙ぐましかった。
だが、そのエリシアの気遣いを無にする者が居た。それは、矮小な男だった。
「プッ、も、もしかして、びん乳って貧乏と貧乳を掛けて? く、く、く、な、なかなか絶妙じゃない? ねえ? フレ……」
刃斗が笑いながらフレイを見て絶句した、何故か両手を頭上に突き出していたからだ。
その両手の上を見るまでもなく刃斗は今の自分の立場が分かり土下座をして謝った。
「ごめんなさい!」
フレイは土下座をする刃斗の頭をグリグリといつまでも踏み続けた。
次に、ソフィアのパラメーターが映しだされた。
「わ、わたくしは別に隠すことなんてございませんですわ」
この時にはみんな気付いていた。この魔法が秘密暴露魔法だと言うことに。
『力二〇、魔力百五十、お金持ち度二百五十五、偽乳度二百五十五』
最後のパラメーターが表示された瞬間全員がソフィアの胸を見た。
「ち、違いますわよ? わ、わたくしは寄せて上げているだけで偽乳などではありませんわ!」
胸を両手で覆いながら言い訳をする。(言い訳ではございません!)
「ホントに~? ……エリシア手伝いなさい!」
「は、はいですぅ」
「な、何をしますですの? ……あ、そ、そこは、だ、だめ、だめですの……」
フレイとエリシアの二人がかりでソフィアを押さえつけて偽乳かどうかを調べる。
必死にソフィアの巫女服を脱がそうとしているフレイ達をよそに刃斗とシスはエリシアの魔法の恐ろしさに思考を取られていた。
(この魔法は危険すぎる。特にこの後のシス様のは絶対見てはいけない気がする)
心の中で激しい警鐘が鳴っていた。
(……こんな、秘密を暴くようなラーニング魔法は見たことが無いわ。エリシア……恐ろしい子……)
シスは初めて他人に恐怖していた。
いつの時代も冷静な人間を脅かすのは無邪気さなのはどこの世界でも同じだった。
そして、最後にシスのパラメーターが映し出された。
それを見ていたのは刃斗とシスの二人だけだった。フレイ達はまだ偽乳鑑定をしていた。
『力八〇、魔力二百、守銭奴二百五十五――』
ここまでは二人とも予想の範囲内だった。そして、最後のパラメーターが出た。
『――年齢二十七歳』
(ダメだ! 突っ込んだら僕は確実に死ぬ。なんてものを暴くんだ! そこは一番触れちゃいけない処だろ? シス様に年のことは!)
そんな刃斗の思いを無にする者が居た。その者はソフィアの胸の真贋をしていたがふと上空を見てシスのパラメーター(秘密)を知ってしまった。
「あれ? シス、いつ二十七歳になったの?」
『……』
そのルーズな女王の一言で場はし~んとなりシスが寂しげな瞳と顔で。
「……ええ、つい先日……ね」と絞りカスな声で言う。
そのシスの表情に年を取った女性の悲哀を感じ取った四人は。
「そ、そう、ご、ごめんね、忘れてて。何かプレゼントとするね」
「エ、エリシアも、プ、プレゼントしますですぅ」
「そ、そうね、わたくしもプレゼントいたしますわ。なんでもおっしゃってくださいな」
「ぼ、僕も、もちろん、プレゼントします! な、何が良いですか?」
全員で話題を逸らそうとした。だが、隠していた年齢を暴露されたシスに通じなかった。
「……男……かしら……」
『……』
言葉が……重かった。
そして、そのプレゼントは無理だった……。
その後も旅は続いたがシスはダークサイドに落ちたままだった。
「……お金は……私を……裏切らない……負負負」
セーラー服姿で女性としての負け台詞を口にする様になっていた。
みるに見かねた刃斗がシスに言葉を掛けようとした時モンスターが現れた。
今度のモンスターはオークとゴブリンが五体ずつの計十体だった。
涎を垂らしながらフレイ達を見て来て。
「へ、へ、へ、う、うまそうだなぁ」
「俺が先だ! 奥に居る胸の大きい女は俺のもんだ! ……他の胸の無いのはくれてやる」
一匹のオークがそんなことを言っていた。どうやらこのオークがボスの様だ。
それにしてもモンスターの癖に偽乳を見破るとは……(偽乳ではございませんわ!)
刃斗は崇拝しているおっぱいを、こんなモンスターになんかやれん! と息巻いて剣を取って立ち上がり退治しに行こうとした。
「……スライムに勝てない男が何をしに行くわけ? いいからあんたは座ってなさい!」
フレイの言葉に打ちのめされ刃斗はしょぼしょぼとベンチ要員となった。
「みんな、行くわよ!」
「はいですぅ」
「おまかせ下さいませ」
婦警、ナース、巫女の三人が声を張り上げ元気よく戦いに赴いて行った。
その姿をシスが見て。
「……負負……若いっていいわね……」
……鬱に入っていた、浮上が出来るか怪しかった。
戦闘が始まった。
フレイが手始めに炎熱玉をオークの一匹に放った、が軽々と避けられた。まあ、スライムに負ける刃斗が避けられるのだからオークが避けられるのも当たり前と言えば当たり前だった。フレイが何で? て顔をしていたことの方が何で? であった。
そのことからフレイが戦力外だと判断した、ソフィアとエリシアは頷き合いアイコンタクトで(私達が頑張らないと)と語っていた。
刃斗は心配していた。ソフィアの強さはあの、盗人の時に分かっていたがエリシアは平たく言えば……ドジっ子だ。どんなドジをするか分からない、とハラハラドキドキしながら見ていた。そして、二人が魔法を唱えた。
『雷光剣』とソフィアが剣を出すと、
『聖母樹の光弓』とエリシアが木の弓を出した。
(へ~エリシアは弓使いだったのか……でも、矢が無いぞ? まさかドジったんじゃ?)
と、心配したが次の瞬間それは無駄な心配だと分かった。
エリシアが弓の弦を引くと光の矢が出て来た。その光の矢を二連続で放つ。
ドス! ドス! と二匹のゴブリンの胸に当たり倒した。
(凄い! かっこいい! ヤバイ! オタ芸で応援してしまいそう)
三人の戦うヒロインの後ろでオタ芸を披露する主人公……その光景を想像して見た。
……シュール過ぎた……
エリシアの頑張りに負けじと、ソフィアが右手に雷光剣を持ったまま左手を前に突き出し雷光撃の魔法をゴブリン三匹に放った。盗人の時とは違い今度は当てにいった。
その威力はゴブリン三匹が一瞬で消し炭になったことでうかがい知れた。
(は~二人ともすごいわね~)と、感心して居たのは戦力外にされた、フレイだった。
フレイは今、二人の邪魔にならないように蚊帳の外で見物人になっていた。
刃斗はこの二人なら大丈夫だ、と思って鬱になっているシスの方を何とかしようと声をかけた。これから先の戦闘を考え、この中で一番強いシスを立ち直らせる事が戦えない自分に出来ることだと思ったからだった。
「シス様、僕の世界の女性は四〇歳になっても結婚をしていない人が沢山いますよ」
四〇と言う数字に反応したシスは。
「……その人たちはどうやって自分を保っているのかしら……?」
胡乱な眼でそう刃斗に聞いて来た。
(……かなり重症だな~。ん~確か四〇で結婚しない人の心の支えは……あれだな!)
「それはペットです。シス様もペットを飼えば良いんですよ。ペットを抱きしめたり撫でたりすればきっと心が落ち着いてきます」
刃斗は忘れていた、この世界での自分の立場を。
「そう、ペットね……」
と、胡乱な眼で刃斗を見て言った後、いきなり刃斗の頭を自分の胸に抱きよせた。
「わっ!?」と驚きの声を上げたが抵抗はしなかった。
(ああ、やっぱり良い~)トロケテいたからだ……憎しみで刃斗が殺せたら……。(名指し?)
それからシスは刃斗の頭を撫で始めた。胸とシスの手を顔と髪に感じ刃斗はその気持ち良さに別世界に言っていた。それはオークを蹴散らしてきた三人のコスプレ魔法使いが戻ってくるまで続いた。
戻って来た三人がその光景を見て刃斗に天罰を下したのは言うまでもない……。
因果応報である。(……なして?)
「まったく! 人が必死に戦っている最中に何をしているのよ!」
(……ソフィアさん、女王様は戦ってなかったですよね?)
(……そうですわね、見て居ただけでしたわね)
二人はアイコンタクトでの会話を完璧に身に付けていた。
そんな二人を見て刃斗は気になっていた事を聞いた。
「ソフィアとエリシア随分仲良くなったんだね?」
「ちょっと! まだ私の話は終わって無い!」
フレイが鼻息を荒くしていた。
そして、刃斗の言葉にはっと気づいたエリシアがソフィアに言った。
「ソフィアさん……あの時はごめんなさいですぅ。刃斗おにいさまに聞きましたですぅ。化粧品の樹液はかけるモノじゃなくて、加工するモノだったんですね。本当にごめんなさいですぅ」
心底反省している顔をして頭を下げるエリシアを見てソフィアは。
「……良いのですわ。知らなかったのですし。……それに貴女はもう罰を受けていますわ。まさかあのことで貴女が牢屋番にされるとは思わなかったですもの」
刃斗は急に静かになったフレイを見て見ると気まずい顔をしていた。
無理もない、エリシアの左遷の本当の理由はフレイのパンティなのだから。
そして、この機会を好機と判断した男が居た。
「ねえ、僕の世界にこんな話が有るんだ。むかし、むかし、ある所にとっても貧乏なお姫様が居て、どのくらい貧乏かと言うと下着も満足に買えなかったくらいなんだ。ある日数少ないそのお姫さまの下着を破いてしまった召使が居たんだけど。そのお姫様はどうしたと思う?」
「下着くらいで何かする筈がありませんですわ」
「エリシアもそう思いますぅ」
「その召使を牢屋番にしたんじゃありません?」
(さすがシス様、僕が何をしたいのか分かってくれている)
一人正解を答えるシスにエリシアとソフィアは反論した。
「そんな! ひどいですぅ! 下着くらいで……召使さんが可哀想ですぅ」
自分のことだとは気付かず涙ぐみ始めた。
「それは、上に立つ者のすることではありませんわ!」
ソフィアが拳を握り力説する。
「どう思う? フレイ?」
僕が何を言いたいか分かるよね? て目で刃斗がフレイを見ると、降参したフレイが。
「……分かったわよ……城に戻ったらね」
それだけで通じ合い刃斗はエリシアが魔法少女隊に戻れる約束をフレイに取り付けた。
(まあ良いわ。このモンスター退治が終われば私にお金が入るものそれが有れば下着が買えるわ。エリシアの罪くらい、いくらでも許してあげるわ)
フレイのそんな思いを乗せて馬車は進むのであった。
一行を乗せた馬車は温泉宿に着いていた。モンスター退治の依頼をして来た村へは王都から丸二日ほどかかる。そこで初日はこの温泉宿に泊まることになっていた。
温泉宿とくればもうこの先の展開は語らずとも分かりそうなものであるがここはやはり語っておくべきであろう。
ある一人の男の生きざまを……。
宿の部屋で女性陣は各々準備していた。勿論温泉に入る準備だ。
そして、この中に刃斗の姿が無かった。いや、この宿の中にと言い替えるべきか刃斗は以前のお風呂の一件で馬車の荷台に縛られていたのである。この理不尽な扱いにはエリシアとソフィアが反対してくれたが残念なことに女王と大臣には勝てなかった。刃斗に悲しげな視線を送り渋々温泉宿に入って行った。だが、刃斗は逆に好都合だと思っていた。
外の荷台に自分を縛り付けているから大丈夫だと思わせられるからだ。
ここから男の戦いが始まる。まず、刃斗は手を縛っている縄を男の意地で取り外した。
それから縄を切られないようにと馬の鐙に差さっている王家の剣を取り宿の裏手に有る森に足を運ばせた。刃斗の目的は男なら言わなくても分かるモノであるのであえて言わないこととする。フレイ達の声が聞こえるくらい近付くと刃斗の心臓はバクバク言い始めた。
あと、一息で桃源郷だ! と言う処で、いきなりスライムが目の前に現れて立ちふさがった。スライムは刃斗を睨みつけていた。
そのスライムを見据え刃斗は気付いた。(こいつを倒さなければ桃源郷には行けない!
なら、倒すまでだ!) そこに男らしさマイナス二百五十五と出された男はいなかった。
「フッ。朝の僕と今の僕を一緒にするなよ?」
剣を鞘から抜き放ち両手で構えてから刃斗は精一杯の強気なセリフをスライムに吐いた。
そして、スライム一匹を相手に覗きをかけた天下分け目の戦いがここに始まった。
戦いは一進一退の攻防が続いた。刃斗の攻撃は相変わらずポヨンと弾かれていたが朝には避けられなかったスライムの攻撃を今は避けていた。煩悩が刃斗に力を与えていた。
刃斗は時間の経過とともに焦りが生まれていた。
「くそ! 強い! どうしてこんなに強いんだ!」
答えはもう出ていると思うが……。
その後、数十分にも及んだ死闘が終わりを迎え、結果は……スライムの勝ちだった。
「僕は……なんて……弱い……んだ……」
血涙を流しながら自分の弱さを責め、倒れ伏している刃斗がそこにいた。
どうやら答えを見つけた様だ。
ただ、見つけた答えが暴漢から好きな女の子を守れなくて出る時の言葉に似ていたが、現実はスライムに覗きの邪魔をされ打ちのめされた負け犬の遠吠えであった。
そんな死闘が行われていた一方、女湯では。
(ちょっと! なに普通に女湯に行こうとしてるのかな?)
いや、それが仕事だから……。
(くっ! ……たった今から君は僕の永遠のライバルだ! ……う、うえ―ん……)
スライムに踏まれながら泣きだす刃斗からライバルキャラに認定されたが気にせずに女湯へ向かう。
「刃斗様大丈夫ですかしら?」
温泉の湯を桶で掬い自分の体にかけながらソフィアは言った。
「そうですぅ。刃斗おにいさまが心配ですぅ」
湯を囲って居る岩に腰掛けエリシアが小さな胸の前で両手を組み刃斗を心配していた。
「刃斗なら大丈夫よ。そんなことより、ソフィアはいつ刃斗を好きになったのよ」
温泉に肩まで浸かりながらフレイが言うと。
「な、な、なにを、おっしゃいますの? わ、わたくしは、べ、別に刃斗様のことなんて」
答えるソフィアの顔が真っ赤になっていた。
「ほらっその刃斗様って言うのがおかしいのよ。貴女、刃斗にカブトムシ女なんて言われて怒ってたくせにどうして様付をしているの? そのうえ膝枕までしていたわよね?」
そう聞くフレイの目つきが名探偵のそれになっていた。
「そう言えばしていたですぅ。エリシアの刃斗おにいさまなのに……」
ぷぅと頬を膨らまして言う。
「ふ、深い意味などありませんわ! 殿方を様付するのは当たり前のことですわ! それにシス様も刃斗様のことを様付で呼んでいるでは有りませんか」
話を振られたシスはと言えば……両腕を岩に乗せ大きすぎる胸を湯船にプカプカ浮かべて夜空を見上げながら呆けていた。その姿は例えるなら人生に疲れたОLの様だった。
『……』
(……私はこうならないようにしないとその為ならペットとでも……)
(結婚をしない女性がお年をめしますとこうなるのですね……こうなる前に刃斗様と……)
(エリシアには刃斗おにいさまが居るから大丈夫ですぅ♪)
各々にそんな思いを巡らせていたら、夜空を見上げていたシスの頭が徐々にフレイ達の方に向いて。
「……よもや私より早く結婚しようなんて考えていませんか? そんなことをしたら……
ふ、負不婦譜腐浮歩付怖夫訃……」
目をもはや常人には到底できないような目に変え呪詛を吐いた。
シスの呪詛をまともに受けた三人は思った。
『この人を何とかしないと私達が結婚出来ない』と。
「そ、そう言えばシスの好みのタイプってどんな男なの?」
フレイはその情報を元に男を探そうとした。これに他の二人も興味津津に聞き耳を立てた。我に帰ったシスが言った。
「タイプ? そうね~。……私に命令できるような男かしらね~」
「……」
(……そんな男、世界中探したっていないわよ……)
自分達の結婚は絶望的かも知れないと三人が思う夜であった。
翌日、村に向かう馬車の上でエリシアが昨日のことで責められていた。
エリシアだけがあの秘密暴露魔法の餌食になっていなかったからだある。
それに気づいた恨み深いシスがエリシアに詰め寄っていた。
「さあ、貴女の秘密も見せて貰おうかしら?」
シスの氷の様な目を向けられてビクビクしながら刃斗の背中にしがみついていたエリシアは刃斗に助けを求めたがスライムに勝てない刃斗がシスに勝てるわけがなかった。
「ごめん……僕は……弱い……」
昨日、覗けなかったことを悔いている弱い男がそこに居た。そんな刃斗を見て。
(エリシアの為にこんなに深刻になってくれてるですぅ。嬉しいですぅ)
とんでもない勘違いをしてからエリシアは諦めて魔法を唱えた、すると昨日のように空に魔法陣が浮かびエリシアのパラメーターが映し出されていく。
「力2、魔力百五十、ロリっ子度二百五十五、刃斗への愛二百五十五」
「へ? 僕への愛?」
「イヤァ―――――――ッ! み、見ないでくださいですぅ――――っ」
目を両手で覆いイヤイヤと左右に頭を振る。
「……こんなものですか?」
シスが肩を落として言う。
「これなら皆知ってることじゃない。ずるいわよ」
「そうですわね。まあ、強制的な告白かも知れませんけど、わたくし達が受けた仕打ちに比べれば……」
昨日温泉でとうとう偽乳を見られてしまったソフィアが憎々しげに言った。
「え、エリシア……」
「じ、刃斗おにいさま……」
三人が不公平だ! と話し合っている横で刃斗とエリシアが良い雰囲気で見つめ合っていた。そんな自分達をじと目になっている三人が見ていることも気付かず自分たちの世界に入り言葉を紡ぎだした。
「エリシア、嬉しいよ。こんな僕を好きになってくれて」
「う、ううう、もっとろまんちっくなのが良かったですぅ」
「そんなことないここがどんな場所だろうとエリシアが居てくれればそこはろまんちっくだよ」
「……刃斗おにいさま……」
周りに鬼の様な形相で見ている三人が居る場所なことも気にせず刃斗がのたまった。
そして、お仕置きタイムが始まった。一人は怒りで刃斗を丸焼きにし、一人は嫉妬で刃斗を感電させ、一人は妬みで刃斗を凍らせた。
凍る刃斗にエリシアは泣きすがり。
「え~ん、未亡人になっちゃったですぅぅぅぅぅぅっ」
『結婚してない!』
三人が心を揃えて突っ込んだ。
村へ向かう道中の半ばが過ぎた頃モンスターの集団で現れた。馬車の前に立ち塞がった。
数はおよそ二〇体位だろうか今度はトカゲの頭をしたリザードマンだった。それが二〇体位いるとさすがに気味が悪くエリシアが怖がっていた。その中の一匹が前に出て来た。
どうやらこいつがボスの様だった。
リザードマンのボスは刃斗達を見回した後こう言った。
「命が欲しかったら金を出せ! 無きゃ金目の物でもいいぜ?」
金、と言う単語を聞いて一人の女性のハートに火が付いた。
「今、私に言ったのですか? 爬虫類の分際でお金を欲しいなどとは、天が許してもこの私が許しません! 覚悟なさい!」
昨日と同じセーラー服を着ながらリザードマンに向かってシスは指を突き出した。
「おうおうおう、なんだあ? この年に似あわねー服を着てる女はよー」
「そうだなーこの年でこれは無いよなー」
「そうだ、そうだ、年がヤベ―な、年が、がっははははははははははっ!」
リーダーに釣られて二〇数体のリザードマンの笑い声が辺りに鳴り響いた。
その笑い声を聞きながらシスはワナワナと震えていたがとうとう怒りが頂点に達し呪文を唱え始めた。
「……終わったわね……」
「はい、終わりましたですぅ」
「なんてお馬鹿な爬虫類達なのでしょう」
「シス様に年のことを言うなん……」
刃斗が語り終わらない内にシスが魔法を唱えた。
『絶対零度の結婚指輪』
シスがそれを唱えた瞬間後ろで大笑いしていたリザードマン達の周りに氷の巨大なリングが現れた。そのリングに包まれたリザードマン達は笑い終えることなく凍りついた。
あとに残されたのは前に出て助かったリーダーだけであった。
「……ねえ、結婚指輪って言ったわよ」
「……そうですわね、魔法は強いイメージで生まれますものね」
「……女の情念ですぅ」
(……コメントはやめておこう)
「な、な、なんじゃこりゃ――――――――っ!」
どうなってんだ! と叫ぶリーダーにシスが追い打ちをかける。
「貴方には色々と思い知らせてあげませんとね」
そう口上すると呪文の詠唱を始める、どうやら武器を出すようだった。
シスの武器はフレイも見たことが無くどんな武器か興味が尽きなかった。それは他の二人も同じだったみたいで、馬車から身を乗り出していた。
その中でただ一人、刃斗だけが冷静にみていた。
(大抵のゲームで女王様キャラが使う武器はアレしかないしな~)
そして、シスが魔法を唱えた。
『絶対零度の求婚鞭』
『……』
パーティー全員の口を凍らせてからシスは氷の鞭をしならせて地面を叩いた後、モンスター達のリーダーを睨みつけた。
「……あれで叩くと結婚が出来るのかしら?」
「……どう見てもモンスターにしか使えませんわよ?」
「ええ? も、もんすたーと結婚するですぅ?」
「いくらシスでもそこまでは追い詰められてないと思うんだけど……」
(……今度もコメントは控えておこう)
刃斗はオタクの直感でわかっていた。あのシス様には地獄耳が標準装備されているということを。
「さあ、お死になさい!」
セーラー服姿で両手を前に出して氷の鞭をビンッと引っ張ったあと、後方にしならせてからリザードマンに叩きつける。音速に近い鞭の一撃を受けたリザードマンのリーダーは結婚する暇もなく凍りつき天に召された。
「……死んだわよ」
「死にましたわね」
「どうしてですぅ?」
三人が頭を悩ませていたら、いつの間にかシスが眼の前にいた。
「……あなた達……さっきから面白いことを話あっていましたね。私がモンスターと結婚するとかどうとか……私の相手はもう、モンスターしか居ないと言いたいみたいですね~ふふふ、負負負、腐腐腐……」
リザードマン二〇数体より壊れたシスを相手にする方が怖い! と思いながら一行は何とか夕方には無事に目的の村まで来れた。
約一名シスの奴辺りさらされた刃斗を除いて。
(僕は何も言ってないのに~)




