↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/9

最終話 慈悲深き王妃ジュリア

数年後。

私は、王妃となっていた。

アレクシスは国王として即位し、私はその隣で王国を支える立場になった。 


王妃の仕事は、想像以上に多かった。

外交の補佐。

慈善事業の管理。

孤児院や医療施設への支援。

貴族社会の調整。


そして、国民から寄せられるさまざまな相談への対応。

けれど、私はもう、前世のようにすべてを一人で抱え込むことはしなかった。


信頼できる側近を育て、各部署に適切な権限を与え、定期的に現場の意見を聞く。

問題が起きたときは、誰か一人を責めるのではなく、原因を調べて仕組みを改善する。

そうした取り組みは、王宮の仕事にも少しずつ変化をもたらしていた。


また、私は王妃として、特に教育と福祉に力を入れた。

貧しい家庭の子供たちが学べるよう、奨学金制度を整える。

孤児院の子供たちが成人したあとも生活に困らないよう、職業訓練を支援する。


身分や財産の有無によって、治療を受けられない人が出ないよう、地方の医療施設を整備する。

一度の寄付で終わらせるのではなく、何年も続けられる仕組みを作る。


それが、私の目指す慈善活動だった。

もちろん、すべてが簡単に進んだわけではない。

貴族たちから反対されることもあった。


「平民にそこまで支援する必要があるのでしょうか」


「王妃陛下は、少々理想を追いすぎておられるのでは?」


そんな声が上がるたび、私は冷静に説明した。


「教育を受けた人々が増えれば、国全体の力も高まります。健康な国民が増えれば、働ける人も増え、地域も豊かになるでしょう。これは慈善であると同時に、王国の未来への投資なのです」


感情だけで押し通すのではなく、数字や実例を示し、協力者を増やしていく。

前世で培った経験が、ここでも役立っていた。

そして、少しずつ成果が現れ始めた。

読み書きのできる子供が増えた。

孤児院を巣立った若者たちが、職人や商人として自立するようになった。

地方の医療施設が充実し、救われる命も増えた。

人々は、王妃ジュリアの名を口にするようになった。


「慈悲深き王妃様」


「民のことを第一に考えてくださる方」


「私たちの声を聞いてくださる王妃様」


いつしか、ジュリアは国民から深く愛される存在となっていた。

*

ある日の夕暮れ。

公務を終えた私は、王宮の庭園でアレクシスとお茶を飲んでいた。


「ジュリア、今日もお疲れさま」


彼が紅茶を注いでくれる。 


「ありがとうございます。アレクシスも、お疲れさまでした」


穏やかな風が吹き、庭園の花々が揺れた。

私はカップを手に取り、ほっと息をついた。 


「……幸せですね」


ぽつりと呟くと、アレクシスがこちらを見た。 


「どうしたんだ、急に?」


「いえ。こうして、大切な人とゆっくりお茶を飲めることが、嬉しいなと思って」


アレクシスは、優しく笑った。


「君はいつも、人々の幸せを考えているな」


「それが、私の仕事ですから」


「だが、君自身の幸せも忘れないでほしい」


彼は私の手を取った。


「君が笑っていてくれることが、私にとって何よりの喜びなのだから」


胸が温かくなった。

前世の私は、仕事を終えて帰宅しても、明日の仕事のことを考えていた。

休んでいても、どこか罪悪感があった。

自分が頑張らなければ、誰かに迷惑をかけてしまう。

そんな思いに縛られていた。


けれど、今は違う。

仕事は大切だ。

誰かのために尽くすことも、素晴らしいことだと思う。

でも、それだけが人生ではない。

自分を大切にすること。

大切な人と笑い合うこと。

疲れたときには休むこと。

助けが必要なときには、誰かに頼ること。

それらも同じくらい、大切なのだ。


「……アレクシス」


「何だい?」


「私、あなたと結婚できて、本当によかったです」


彼は一瞬驚いたあと、私の手を優しく握り返した。


「私もだよ、ジュリア」


そして、額にそっと口づけを落とした。

私は頬を赤くしながら笑った。

そのとき、庭園の向こうから、リリアーナの明るい声が聞こえてきた。


「ジュリア様ー! お茶をご一緒してもいいですか?」


「もちろんよ、リリアーナ!」


私は手を振った。

かつて処刑される運命だった悪役令嬢。

その人生は、もうどこにもない。

今の私は、愛する夫がいて、心から信頼できる友人がいて、温かな家族がいて、守りたい国民がいる。

そして何より、自分自身の人生を大切にできるようになった。


過労死した三十九歳のOLが、異世界で手に入れた二度目の人生。

それは、ただ生き延びるための人生ではなかった。

愛する人たちと共に笑い、誰かを救い、自分も幸せになる人生だった。


ーー王宮の鐘が、夕暮れの空に響く。

私は紅茶を一口飲み、心からの笑顔を浮かべた。


「さて、明日も頑張りましょう。でも――今日は、もうお仕事終了です!」


「ははっ、そうだな。今日はもう、誰にも邪魔させないよ」


アレクシスは笑い、私の肩を抱き寄せた。

こうして、悪役令嬢ジュリアは、国中から愛される王妃となった。


そして彼女は、これからもずっと、自分と大切な人たちの幸せを守りながら生きていく。

処刑エンドを回避した悪役令嬢の物語は、誰もが笑顔になれる、最高のハッピーエンドを迎えたのである。


ーfinー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。