1決意
「はあ。疲れたなあ」
無道皆無は朝日はとっくに昇り、日差しが窓に入り込まないほど高く太陽が昇った頃に目を覚ました。アラームは掛けていなかった。特別予定があったわけではないからだ。目を擦りながら一回に降りると誰もいなかった。両親は仕事で兄は東京の大学に通っているから。
「はあ。休学のニートには独りは心地が良いなあ」
皆無は伸ばしっぱなしの髭を触りながらグッと伸びをした。前髪も伸び伸びで視界は若干塞がっていた。
「はあ。適当に食べるか」
皆無はパンをトーストに入れると軽くベーコンエッグを焼いた。その間にもコーヒー豆を取り出し豆を挽いてコーヒーを入れた。
「いただきます」
自分の声だけが部屋に響く。心地が良い。皆無は適当にテレビを点けながらニュースを見た。選挙結果のニュースばかりだった。今回の選挙は与党が惨敗した。その原因はなんと言っても
『今回、裏金議員はほとんど落選しましたが、どう見ますか、王川さん?』
これだ。与党に裏金議員がたくさんいたからだ。野党は裏金の額などを用いて徹底的に与党を叩いた。それをメディアはこぞって報道をした。
「気持ち悪い」
皆無は今回の選挙、メディアも含めて全てが気持ち悪かった。政策を全然述べずに与党を批判するだけで票が入った野党。その野党に何も考えずにただ、なんとなく票を入れた奴らに、与党の膿だけをたくさん発見して報告して、野党の膿は一切報道をしない偏見報道に。
「余りにも悪意が見えすぎている」
自分の地位を上げるためなら、お金のためなら、自分を磨かずに人を蹴落とすやり方がとても気持ち悪かった。気分が悪くなって来た。だから、チャンネルを変えた。
『帝都大学が学費を上げることはどう、思われますか?』
『これは、学生たちにとって非常に死活問題ですよね。・・・』
「気持ち悪い」
日本で一番賢い大学、帝都大学。学生の親の年収を見ると年収九百万以上の家庭が半数を超えていた。七百万以上の家庭も二割は超えていた。
「反吐が出る」
皆無はテレビを消してスマホを取り出した。Yというアプリを開いた。トレンドには総理のせい、祝ねじれ成立、マスゴミ、などなど色々とトレンドに入っていた。
「被害者がいない問題なのになあ。そんなに、政治家を手に入れていたのが気に食わなないのか。裏金は、国民から取っていないのになあ」
裏金は記載していなかったことが問題で額は問題ではない。皆、本質が見えていないのだ。野党やマスコミの論点じらしに見事に踊らされている。
「つくづく、気持ち悪い」
すると、トレンドに急に人気芸人の二度目の不倫、否、精暴行による書類送検がトレンドに入って来た。
「人気があるってのは何やっても許される。だから、こんな社会悪が生まれるんだ」
この人気芸人は一度目の不倫の後、仕事を二三個失ったぐらいでほとんど、ノーダメージだった。有名人の奥さんを持っていた俳優や、芸人が一度不倫すると仕事が何年もゼロになっていた。
「つくづく、人気というのは気持ち悪い」
皆無はもう一度テレビを点けた。すると、速報でニュースを報じていた。二十歳ぐらいの中卒のインフルエンサーがコメンテーターとして偉そうに座っていた。偉そうに何やら喋っていた。
「そういや、さっき、政治のことも偉そうにコメントしてたな。メディアが言って欲しそうなことを言って。気持ち悪い」
皆無はもう一度テレビを消した。
「ダメだなあ。また、感情を無にしないと、また、壊れる。・・・いや、壊れても良かったんだ」
皆無は食べ終わった皿やコップなどを洗うと、今一度自分の部屋に向かった。既に、パンパンの肩に一本掛けのバッグを手に取った。そして、一回に降りると歯を磨いて顔を洗った。頬を思い切り叩いて気合を入れた。
パンッ!
「はあ、意外と落ち着いてるな」
皆無は顔をタオルで拭うと水筒に水を入れて動きやすい長袖長ズボンの服に着替えた。そして、帽子を深く被りマスクをすると鞄を肩に掛けて靴を履いて家を出た。
「っ⁉」
思わず両目を閉じた。
「結構眩しいな」
皆無はゆっくりと歩を進めた。山に入った。一般的に多くの人が登る登山ルートとは別の登山ルートを登った。独りになりたかったから。空を見ると灰色の雲が広がっていて視界が暗く染まって来ていた。
「良かった。ちゃんと雨が降りそうだ」
皆無は安堵のため息を吐くと先ほどまで重かった足が軽く上がるようになった。そうして、晴れの日にも人が余り来ない展望台に到着した。丁度、大雨が降り始めた。
「これで、おそらく、人が来ることはないかな」
展望台から見る景色は悪かった。車やビル、街灯などの明かりだけが霧の中辛うじて見えたぐらいだ。
「確か、能で義経の霊が出るとか言われてたっけなあ。この山は。頼むから何者も邪魔してくれるなよ」
皆無が鞄から取り出したのは大量の市販薬の風邪薬だった。
「やっぱり、今、独りだけで誰にも邪魔されずに死ぬにはこれしかないよな」
オーバードーズ。若者の間でストレスから逃れるために流行っているらしい。その数は年々増えてきているみたいだ。皆無は薬を一錠一錠出して手に取った。そして、水筒のコップにその薬を入れるとまた薬を一錠一錠取り出した。そうして、水筒のコップいっぱいになるまで入れると水を少し入れて交互に薬と水を飲んで行こうとした。手が震えた。
「やっぱり、ビビるよな」
皆無は何度も深呼吸をして感情を無にしようと努力してようやく、少し落ち着いた辺りでコップに手を伸ばした。
「行くか」
覚悟が決まった。
皆無は大量の薬を口に入れようとした瞬間、時が止まった。意識だけが覚醒していた。
タキサイキア現象か?脳の処理速度が急速に速くなってるんだろう。
皆無はこの不思議な感覚をそう判断して待った。だが、待ち続けても待ち続けても一向にコップが近づかない。
チッ。まあでも、これが、永遠に続いたらその内、能がバグって死ぬか。
皆無は一度苛立ちはしたが冷静に判断して待ち続けた。だが、いくら待てど、全然進まない。
これは、タキサイキア現象ではない⁉人外の力が働いたのか?
「当たりだ。死ぬぐらいなら世界を破壊して創造して見ないか?」
目の前に一人の目付きの悪い三白眼の男が薄くぼやけて現れた。
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