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天使は歌を望む  作者: 冬野月子


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21/25

21 歌姫

フランカが礼拝堂へ入って行くとどよめきが響いた。


自分へと送られる多くの視線を意識しないように、フランカは目を伏せたまま祭壇の前に立ち、顔を上げた。

何度も見上げている女神像はいつもと変わらず柔らかな眼差しを礼拝堂に向けている。


フランカが歌うのは三曲。

最初は儀式の時には必ず歌われる、女神の加護に感謝し祭りを祝う歌。

二曲めはハルムが落ちて来るきっかけとなった、天使を讃える歌。


透き通るようなフランカの歌声が礼拝堂に響き渡る。

初めはざわついていた堂内も、歌が始まるとすぐに静まり返った。



最後の曲は女神へと捧げる歌。

古い言葉で紡がれる旋律は繊細かつ複雑で、歌いこなせる者は少ないという。

けれどフランカはまるで息をするかのように自然に言葉を操り、歌を紡いでいく。

詳しい者が聞けばその発音も完璧である事か分かるだろう。


柔らかく、優しく。

天にまで届きそうなほどに響き渡る、聞く者全てをうっとりとさせるような美しい声はこの場の空気を浄化していくようだった。




外はすっかり日が暮れて、窓の向こうに大きな月が昇っているのが見えた。

そのすぐ側にはひときわ明るく輝く星が一つ。

二つの光が夜空を優しく照らしていた。


ふいに祭壇の背後にあるステンドグラスが輝いた。

昼間のように差し込んできた明るい光はいくつもの色に染まり、フランカが身を包んだ白い服を花のように鮮やかに照らし出す。


雪のように細かな光がこぼれ落ちてくるとフランカの身体に降り注いだ。

光を浴びながら歌い続けるフランカはまるでステンドグラスに描かれた天使のようで、その幻想的な光景に聴衆たちは息を飲んだ。


いつしかオルガンの音も消え、ただ美しい歌声だけが響いていた。





『トゥーナ』


フランカの耳に懐かしい声が響いた。



『我が愛し子よ。そなたの歌、久しぶりに聴きました』


軽く閉じていた目を開くと、フランカの周りに小さな光の玉が飛んでいた。


『やはりそなたの歌が一番心地好い』

光の玉は大きくなるとゆっくりとフランカを包み込んでいった。






歌が終わっても礼拝堂の中は静まり返っていたが、フランカが部屋から出ていくと歓声が沸き起こった。


「フランカ!」

興奮したような空気を背に控室に戻ってきたフランカにスヴェンが駆け寄った。

「大丈夫か、光が…」

フランカの腕を掴み、その顔を覗き込んでスヴェンは息を飲んだ。


「スヴェン?どうしたの?」

「目が…金色に」

「え」

スヴェンを見上げる瞳はいつもの深い青色ではなく、蜂蜜のような金色に光っていた。


「———あの光のせいか?」

スヴェンはフランカを抱き寄せた。

「あの光は一体…」



「あれは女神だ」

ハルムは二人の前に立った。


「フランカの事をトゥーナって…愛し子って呼んでた」

「…聞こえたの…?」

「愛し子は女神に仕える天使の中でも特別だ。女神の力と金色の瞳を持っている」

紫色の瞳がフランカを真っ直ぐに見つめた。

「フランカは…あの時の、樹の下で歌っていた天使なの?」




「……そうね…多分、それは私だわ」


「天使?」

呟いたスヴェンを一度見上げて、フランカは視線をハルムへと戻した。

「私は———罪を犯して一度消滅したの」

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