20 祭り
「———、どうして?」
「どうしてあんな事をしたの?」
仲間たちが口々に言いながら集まってくる。
「勝手に女神の力を使ってはいけないのに」
「地上に降りる事だっていけないのよ」
「あなただって知っているでしょう」
仲間たちの声も、表情も。
責めるのではなく、心配しているのだ。
これからフランカがどうなるか———皆知っているから。
フランカとてそれは良く分かっている。
けれど、後悔はしていない。
あの惨状を見過ごせないほどにフランカの心は人間に囚われているのだから。
「———」
名前を呼ぶ声と衣擦れの音が響いて、仲間たちは慌てて振り返った。
長い銀色の髪を結い上げた女神が立っていた。
「フランカきれい!」
「お姫さまみたい」
少女たちが目を輝かせてフランカを取り囲んだ。
フランカは白いワンピースに白いローブを纏っていた。
いつも一つにまとめている髪はハーフアップにして、編み込んだ所にスヴェンから贈られた髪飾りをつけ、首には女神を象徴する月のネックレスを下げている。
薄く化粧を施したフランカはいつもより大人びて、思わず見惚れてしまうほど美しかった。
女の子たちの歓声を聞きつけてベックたちが部屋を覗き込んできた。
「ほら!きれいでしょう」
「本当だ」
「ハルムも見てよ」
最後に部屋に入ってきたハルムはフランカの姿に目を見開いた。
「…似てる」
「え?」
「僕が生まれた時…歌をうたってくれたひとに」
フランカは思わず息を飲んだ。
「そのひと、天使?」
「フランカは天使に似てるの?」
「うん」
ハルムはフランカの目の前に立った。
「あのひとみたいに、綺麗だ」
伸びてきた手がフランカの手を握りしめた。
「…ありがとう」
「本当に…」
ハルムはそのまま握った手を自分へと引き寄せた。
「———フランカの歌、楽しみにしてる」
「ハルム」
抱きしめられるまま、フランカはハルムの胸へ身体を寄せた。
「歌いながら女神にお願いするわ。あなたが天に帰れるように」
「いらないよ、そんなの。僕の願いはフランカとずっと一緒にいる事だ。願うなら、それを願って」
「ハルム…」
「僕は帰らない」
ぎゅっと抱きしめると、ハルムはフランカの身体を離した。
祭りの儀式は夕方から教会で行われる。
今回の歌姫は評判が高いフランカが務めるという事で、他の町からも人が集まってきていた。
礼拝室では神父による説教が始まっていた。
部屋から溢れそうなほど人が集まっているのを控室からそっと覗き見して、フランカは息を吐いた。
「緊張しているのか」
ぽんと肩に手を置かれて、振り返るとスヴェンが立っていた。
「…あんなに大勢の前で歌うなんて」
「背中を向けてるんだから気にしなければいいだろ」
「でも…」
「フランカなら大丈夫だから」
「何してるの」
スヴェンがフランカの肩へと手を回し抱きしめようとすると冷たい声が響いた。
「ハルム」
「フランカに触らないでよ」
スヴェンからフランカを引き離すと、ハルムは二人の間に割り込んだ。
「緊張するって言うから解そうとしたんだよ」
自分を睨みつけるハルムにそう返すと、スヴェンはフランカへ視線を送った。
「しかし、それで歌うのか」
「え?」
「そんなに綺麗になって。これ以上フランカに惚れる奴が増えると困る」
着飾り、化粧まで施したフランカの艶姿に目を細めるとフランカは顔を赤くし、それを見たハルムは不機嫌そうに眉をひそめた。
「フランカ。出番よ」
神父の妻が顔を覗かせた。
「はい。…スヴェン、ハルムを見ていてくれる?」
「え?」
「教会に来た人たちにハルムが天使だと気付かれないように」
「ああ」
「翼は出さないよ」
「でも姿を見られるのも良くないわ」
美しいハルムの姿は、それだけで目立ってしまう。
「ここでスヴェンと待っていて」
「こいつと?」
「お願い」
ハルムの頬に手を触れて顔を覗き込んでそう言うと、ハルムはしぶしぶ頷いた。




