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「俺は勇者になんて就活しねえ!」  作者: 千早――ちはや――
――序章――
3/9

第2章

――第2章――

「異変」


「釣れねえなあ……」

釣り糸を垂らしてかれこれ30分ほどしか経ってないはずなのに、俺は自然とそんな事をぼやいていた。

いつもなら動くはずの竿がピクリとも動かないまま、時間だけが過ぎていったのだ。

まあ、いい。時間はいくらでもあるんだ。

焦ることはない、のんびに行こうぜ、何を急ぐんだ。

そう自分に言い聞かせ、また垂れた糸に視線を戻す。

相変わらず糸はピクリとも動かない、のどかな鳥の声と木々のざわめきだけがこの俺を包んでいた。

こうしていると、自分は何のために生きているかたまにわからなくなる。

世界を救う冒険者にもならず、何か村の手伝いをするわけでもない、ただの無職人……。

あー、思い出すとやっぱ少しだけ胸が痛むのも事実だった。

かといって、自分には冒険者になるスキルもなければ才能もない。それは自分が一番よくわかっている事だ。

無駄な事はしたくない……だからこそこうして、若者が真昼間から何もせず釣り糸を垂らしているだけなのだ。

まあ、これが無駄な事と言われてしまえばそれまでだが。


ははっ、と乾いた笑いを漏らすと、糸がピクリと動いた。

「おっ」

来たか、と俺は反応する。が、急に糸の引きが強くなった。

おいおい、大物か! とワクワクしながら釣竿を握ると……ブツリ、といきなり糸が切れてしまった。

「あらら……」

あまりにあっという間の出来事だったので、自分はまた力なく小さく笑った。

ははっ、これでいいじゃないか、何もしない平和な毎日。

俺は切れた糸がなんだかおかしくてしばらく笑っていた。


「……帰るか」

と一通り笑った後俺はそう呟く。

バケツと釣竿を持って俺は帰路につく。

そろそろ夕飯の時間だ、今日のご飯はなんだろうか、久しぶりにシチューがいいな。

なんて考えながら歩いていると、不意に――。


ドンッ!

村の方から

大きな

爆発音が聞こえて来た



俺は一瞬、混乱した。今何か起こったのか?

村の方向を見てみると……多少遠いこの位置でもわかる。

煙だ……黒煙がもくもくとあがっていた。

そしてまた――ドンッ! と大きな音が響く。

それはまるで自分の心音を表しているように激しく、数を増していった。

ドンッ

ドンッ

ドンッ


そして黒煙と共に赤い光も見えだした。

俺は……僅かな時間の硬直の後、手荷物を捨て村に走っていた。

嫌な予感がした。もしかしてもう取り返しのつかない事なんじゃないかと、頭で自然と考えてしまう。

――だって――

――そうだろう?――


「うっ……」

――こんな景色を見せられたら――

――誰だって――


「あ、ああ、……」

――絶望するに――

――決まってる――


うわぁあああああああ!

自然と俺は叫んでいた、目の前にはもう動かないと思われる、心が消えてしまった魂の入れ物みたいな身体、身体、身体……。

瓦礫と共に、「それ達」は無造作に転がっていた。


そうだ、親父とお袋は!

倒れた身体に目もくれず、俺は一目散に家の方向に走りだした。

足が自然と速く動く、動く、動くが……。

それは……あまりに……もう遅過ぎた。


親父の右胸とお袋の右胸に、剣が刺さっていた。

それはまるで、お揃いのファッションをするかのように、綺麗に刺さっていた。

「父さん!」

俺は自然と親父の事を父さんと呼んでいた。

「う……あ……」

まだ息があるらしく、その目と唇はこちらに必死に何かを訴えるようであった。

「に……げ……」

今度は隣から女性の声が聞こえる。

「母さん!」

こちらも同じように、何かを訴える眼差しでこちらを見ている。

剣が刺さっているのは右胸だ……わざわざ心臓を狙わずに刺したのだろうか。

さらに二人は同じような格好でそこに置かれていた。

俺は混乱しながらもそんな事を考えていた……すると……ふいに……。


ヒュッ!

ザンッ!


と……俺の横をかすめて何かが背中から飛んで来た。

その正体はすぐにわかった、母の頭に刺さっていたダガーナイフだった。

虚ろな目をしながらもこちらを見ている母さん、そして頭から噴き出す血飛沫……。

「こ……れ……を……」

父のわずかな声で眼が覚める、父はいつのまにか右手にロングソードを握っていた。

「これ、父さんの剣……!」

父が冒険者だった頃、使っていたという剣だった。

これは父さんの誇りだ、と言って剣の訓練の時もこの剣だけは絶対に触らせてもらえなかった思い出がある。

しかし、父は今それを俺に託そうとしている。

「とうさ――」

俺が言いかけた瞬間、風がまたヒュッと走りそして目の前で……父の頭をダガーナイフがそれを射抜いた。


父の右手がだらんと垂れる。

俺はいつの間にか託された剣を握っていた。

そして……背中から声が聞こえる。

「ふふふふふ、ははははははっ、綺麗にきまったねぇ」

俺は反射的に振り返る。

そこには村を燃やす赤い炎の中でやけに目立つ白髪の……魔導衣装を纏った男を見つけた。

「まだおもちゃがいたんだねぇ、どうやって楽しもうか」

ニヤニヤと、笑みを浮かべながらその男はゆっくり近づいて来る、と思うといきなり足を止めた。

「おっと……危ない危ない、これ以上近付いたら汚い血が付いちゃうよ……全く、どうしてこんな綺麗な死に方をさせてあげたのに汚い血しか流さないんだろうねぇ……」

独り言のように呟く、その男に対して俺は――。

剣を振りかざし飛びかかっていた!

こいつだ!

こいつが全てやったんだ!

俺の村、家族、平和な日常……全て!

壊したのはこいつだ!


俺は父さんに習った剣術でその男に斬りかかろうとしたが、接触する前に身体ごと弾かれてしまった。

「うわっ!」

「……汚らわしいんだよ、クソガキが」

先ほどまでの柔らかい口調からいきなり荒い口調になる白髪の魔導師……。

「……死ぬか? 無様に」

死ぬ?


俺が?


死ぬのか?


白髪の男がすっと右手を上げている。

「醜く、爆ぜて死ぬといいよ……ふふっ」

邪悪な笑いを浮かべながら、白髪の男の手が光る。

過去に一度だけ、近所に住んでいた魔導師のじいさんに見せてもらったことがある、光に似ていた。

それは攻撃魔法の証、燃えたぎる赤い炎が右手に集う。


いやだ!


死ぬ!


生きたい!


生きて、俺は……俺は何をする?


何ができる……?


それは、諦めにも近かったのかもしれない。

そこまで考えて俺は、目の前の光景に絶望してる。

恥ずかしい事に、足がもう動かないんだ……震えて、震えて動けない。

ははっ、と乾いた笑いを一つ漏らすと俺はそこにへたり込んだ。

父さん、母さん……今行く、待っててくれ。


俺が生を諦めた……その瞬間……。


「終わらせないっ!!」

暖かい光が俺を包み――そして――俺の前には二人の人間がいた。

彼と彼女の背中は光り輝いて――そして俺は――俺は――。



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