第1章
――第1章――
「旅立ち」
ふわぁーあ、と大きなあくびをして、俺はベッドで横になりながらボンヤリと天井を見上げていた。
いつもと変わらない、朝だ。
いや正確にはもう昼だったかな? まあ、いいやと思いながら俺はまた――布団に潜り込み眠ることにした。
ずいぶんの時間を寝たはずなのに、まだ眠気はやってきた。が、来たのは眠気だけではなく……。
「こら! いつまで寝てるの! もうお昼よ!」
布団の外から、大きな声が聞こえる。
顔を見なくてもわかる、18年間聞いた声だ。今更聞き間違えるはずもない。
俺のお袋だ……まあ、こんな風に怒鳴られるのはいつものことなんだがな。
「ほらほら、お前は冒険者でもないんだから、せめてうちの手伝いくらいはしておくれよ。お昼ご飯は出来てるから早めにたべちゃいなさいね」
そう促すとお袋は部屋から出ていき、また静かな空間に戻った。
「――起きるか」
誰に言うでもなく、俺はベッドから立ち上がり大きく伸びをした。
窓からは太陽が輝き、今日も大地を照らしている。
平和だ……この瞬間にもどこかで「冒険者」と呼ばれる人達が戦っているなどとても思えないくらいに平和だった。
俺の住んでいる村にも冒険者は何人かいるが、そのほとんどが第一線を退いた人たち、例えば……。
「ああ、おはよう。今日も相変わらず遅かったな、はっはっはっ」
と、陽気に声をかけてくれた俺の親父もかつては冒険者だったと聞く。
「……おはよ」
寝起きのせいか、低い声で言葉が出てくる。けして父とは不仲ではなかった、むしろ冒険者にもならず、他の仕事もしてない俺を養ってくれてるだけで優しさには溢れている自慢の両親だ。
まあ、村の中では噂話の筆頭になっているらしいが……。
小さな村だ、噂が出回るのは早く、そしてそれが村唯一の無職となれば余計に話題の種にはなる。
「うちの息子は兵士になったんですよ」
ただの門番の番兵だと言うことを知っている。
「私のうちの子は学者になったんです」
一番簡単な回復薬を作る仕事しかやらせてもらってないことを知っている。
「私の子はとうとう勇者になったざますよ!」
村一番の見栄っ張りおばさんの話だ、そもそも勇者は冒険者の中でも最上位にあたる職なので、あのグズだったアルフレッドがなれたとは到底思えない。
それは周りの人も話半分に聞いていることを知っている。
って、古い友人を俺がグズって言えた立場じゃないか……と心の中で軽く苦笑いをしてみた。
「――さて、父さんはまた仕事に行ってくるかな。お前も、手伝いくらいはして母さんをたすけてあげるんだぞ? じゃあいってくるよ」
先ほど似たようなセリフを聞いた気がしたが、寝起きの空腹の方が俺の中では勝ったらしい。
テーブルに用意されたパンとハムとミルクを見つけ、俺はそれをむさぼるように食いだした。
今日は何をしようかな……。久しぶりに釣りにでも行くかな。
と、頭の中ではもう手伝いの事は消えていた。
よし、近くの池に行こう。あそこならモンスターも出ないし、のんびり過ごせるだろう。
俺はさっさと食事を済ませ、物置から釣竿を持ち出し早速出かける準備をした。
「あら、また釣り? 早めに帰ってくるのよ」
出かける前にお袋に見つかってしまったが、先ほどの言葉など無かったかのように無事に送り出される、これもいつもの事だった。
俺は気にせず、釣りをするため近所の森へ出かけ池を目指した。
――そして。
――俺は今日みたいな日がずっと続くんだと思っていた。
――この時村に迫る大量の黒い影の存在を俺はまだ知らなかった。




