大事なもの
ご覧いただきありがとうございます。
夕方、母様が美容室から帰ってきました。
手洗いうがいを済ませて居間に入ってきた母様は、心なしか元気がないように見えます。天気がくだり坂になってきたせいでしょうか。
私「寒かったです?」
母「……恥ずかしかったの……」
顔を赤くする母様。
なるほど。羞恥心により、テンションが上がらなかったと。
こういう時は、お茶を入れながら、事の次第を話してくれるのを待ちます。
私「お茶をどうぞ」
母「ありがとう」
湯のみを両手で包んで、ひと口、ふた口。
お茶の温かさに少しおちついたらしく、ぽつりと呟きました。
母「……あのね……」
母様が語ってくれたその内容とは──
美容室にてシャンプー後、「今日、どうかされました?」という美容師さんの問いかけに始まり、カットをしながら会話したそうです。
師「何か動きがぎこちないですよね」
母「ちょっと腰を……」
師「働きすぎじゃないですか?」
母「このところ忙しくて」
師「なるほど。来られるの、久しぶりですもんね」
母「すみません」
師「いいんですよ。風邪でもひかれたかなぁと思っただけなんで」
母「少し前にひいてしまいまして。今は花粉症が辛いです」
師「あぁ、わかります。私も毎年すごくて。空気清浄機のおかげで、なんとか乗り越えてますけど」
母「お大事になさってくださいね」
師「ありがとうございます。腰も大事にしてくださいね」
母「ありがとうございます。それが、以前痛めたのが、なかなか良くならなくて」
師「腰はやっちゃうと、後、大変ですよねぇ」
母「そうなんです。へっぴ──」
言いかけてハッとし、不自然に口をつぐむ母様。
師「〝ぎっくり〟腰は辛いですよね」
空気を読んだ美容師さん。
その後は、あまりに恥ずかしくて会話を覚えていないとのこと。気まずかったんですよね。わかります。
しかし、よりにもよって、「へっぴり」をチョイスしなくてもいいのでは……。
まず、へっぴり腰の母様を見たことがないので、言い間違いにしても他にあっただろうに……と思ってしまいました。
腰は……いや、腰だけでなく、体を大事にしてもらいたいものです。
いつまでも、可愛い天然な母様でいてもらえれば幸いですので。
最後までおつきあいくださり、ありがとうございました。




