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王の花嫁  作者: 川本千根
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父王アナン2

ハナがリリの娘だとトウゴに聞かされたのは花嫁選びの3日後だった


リリは17のとき森の奥の染め物職人のもとに嫁いで行った

単純作業を好むリリには糸を染める為の貝や植物の根を潰す仕事は楽しく感じられただろう


私はその後のリリの消息を知らなかったが、トウゴはリリが二人目の子供を産んだ後亡くなったのを知っていたらしい

そしてその娘の異様さも


リリは自分の産んだ赤ん坊の醜さにショックを覚えるような娘ではない

リリには人の身分も見た目も関係ない

ただ自分に与えられたものを受け取り、自分のすべきことを黙々とこなす娘なのだ


多分私の妻のように産後の肥立ちが悪かったんだと思う


ショックで死んだというのは周囲の人間の勝手な憶測に違いない

それをハナに伝えることができたらハナはどんなにか気が楽になるであろう


ハナと同じように不思議を感じた時頭を右に傾ける癖があったと伝えることができたらハナの心はどんなに温まるだろう


私は死を前にして自分が生まれながらの罪人であることにやっと気づいた


王の一族は朱国を手放した先祖の罪を負っている

人並みの幸せを得る資格はないのかも知れない


そして私のもう一つの罪はカエンに対してだ


私の不出来さゆえ大人たちの期待が幼いうちからカエンに重くのしかかってしまった


カエンはそれに応えようとして、必要以上に自分に厳しい人間になった


お前は王としての能力に恵まれた男だ

鳥湖の人間はお前がいることで安心して暮らしていけるだろう


だがお前は誰を頼ることができるのか…



別れの日が…近づいている


私はリリの

枝を折る音と同じくらい


ナルの

「私のかわいい…」

が懐かしい





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