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王の花嫁  作者: 川本千根
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19/50

父王アナン1

私の花嫁選びは森の国白国で行われた


神事で選ばれた私の花嫁は二つ年上の地方で巫女を務める娘だった

花嫁選びの矢は本来真上に射なければならない

私は反抗してわざと遠くに射た


私は18でカエンの母親と結婚した

ナルはとてもおおらかで明るく信心深い娘だった


私が花嫁選びを嫌がったのは好きな娘を花嫁にしたかったからではない

私に見切りをつけて早く世継ぎを生ませようとする大人たちの思惑がたまらなく嫌だったのだ


それにもう一度だけ

もう一度だけ、自分の魂のかしずく相手に出会ってみたかった


父上と母上の間に、子は私一人しかいなかったし、いとこにも男子はいなかったので、私は王になることを逃げられなかった

私はもともと人の心に敏感だったから大人たちが私の王になる者としての資質の無さを嘆いているのがよくわかった


私がまわりから褒められるのは容姿だけだった

多分ひねた意地の悪い子供だったと思う


リリにも意地悪ばかりをしていた


リリは王宮に勤める仕立屋の娘だ

同い年で14まで同じ学び舎に通っていた


変わった娘だった

鳥湖の娘の多くは髪をゆるく横で1つにしばり、しばった先を前に垂らしているが、リリは1つにゆるく三つ編みにして、そのまま後ろに垂らしていた


人より少し理解が遅くて、首を傾げるのが癖だった

だけどそういうことかと、遅れて理解した時、ひとり、うんうんとうなずく姿が可愛くて好きだった


私はよく足を引っ掛けて転ばせたり、リリの持ち物を隠したりしていた

リリは私のことが嫌いだったに違いない


13のとき、友人数人と森にグミの実をを採りに行ったことがある

友達はもっと森の奥に行くといったが、私はこっそり王宮を抜け出してきたので遅くなると怒られると思い、一人先に帰った


いつもなら親友のトウゴと行動を共にするのだが、そのときトウゴは遅い水疱瘡にかかり何日も寝込んでいた


一人で歩くことに飽きた私は泉のほとりで石を投げて遊んでいるリリを見た


リリは一つのことを繰り返す遊びが好きだ

木の小枝をただひたすら折ったり、紙を小さく折ってそれをまた広げることをずっと繰り返したり


この時も一人黙々と小さな泉の真ん中に向って石を投げていた


ちょうどいい、一緒に帰ろうと声をかけようとしたとき、リリが私に気づいて逃げようとした


その様子を見た私はムッとして追いかけてリリの髪を引っ張ってしまった

そしたらリリは転んで膝をひどくすりむいた


膝の出血がひどかったのと、初めてリリが泣いたのを見て私はうろたえた

ごめんごめんと謝り続け、袋の中のグミを泉に捨て、袋を泉の水に浸してそれでリリの傷口を拭いた


痛い、歩けないと泣くリリに

「リリ、許してくれるなら私はお前をおんぶして王宮に帰る」


「許してくれないならお前を置いて一人で帰る」

と言ったらリリは


「許す…」

と渋々言った


それから私はリリをおんぶして森を歩いた

足元が悪くて何回かバランスを崩して転びそうになった

その度にリリは私の首に巻きつけた腕に力を入れた


森を出て町に入ったら大人たちが寄ってきて、私たちは別々に連れられて家に帰った


その後ひどく大人に怒られた

私は意地悪な性格を

リリは私におんぶされ帰ってきたことを


次の日リリは学び舎を休んだが次の日には出てきた

私はどんな態度を取られるか、ドキドキしていたけど、リリは普通だった前と全然変わらない


特に私を嫌ったわけでもなく

私に親しみを覚えたわけでもなく


それからはもうリリには意地悪をしなかった


代わりに私は彼女に貢物をした


よく乾いたいい音の出る木の小枝を見つけたときなどは、こっそりそれをリリのカバンに入れた


リリがそれをポキポキ折る音を聞くのが私の楽しみだった







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