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回想録【大魔導士 サーレク】 



 《絶対防衛魔法》――



 これを語る前に、

 その悲しい誕生の歴史を知ってもらわなければならない。

 この魔法に託した“彼の想い”が、少しでも伝わってくれると

 幸いである。



 この魔法が生まれたのは、少なくとも百年以上も前。

 それはレグナス歴が始まる前の、遥か(いにしえ)より伝わる物語だ。

 なにぶん当時の製紙技術は低く、

 解読可能な状態で残っている記録自体が少ない。そして彼自身もまた、

 知られていない部分があまりにも多かった。



「大魔導士サーレク」



 今日の教育を受けた者なら誰もが知っている偉大な〈魔導士〉である。

 彼がなぜ偉大であるか。

 それはまったく新しい〈魔法言語〉を創り出した点にある。


 始めに〈魔法言語〉とは何かを説明すると、

 それは精霊と会話するための“言葉”だ。精霊と会話をして、

 

 『火』・『水』・『風』・『土』といった、


 自然界に存在する〈気〉の力を転換すると、魔法となる。

 そして、この会話が上手くいくほど、

 発動される魔法はより強力なものとなるのだ。



 サーレクは、それまで精霊と人との間で、一対一で対話していた

 〈魔法言語〉を更にもうひとつの精霊を交え、二対一で対話出来る

 〈魔法言語〉を新たに創り出した。



 これは、

 対話する二つの精霊が理解可能な、

 そして人間もまた理解可能な、この三者が“同時に理解出来る”

 共通の言語でなくてはダメだった。



 これが砂漠に埋もれた一本の針を探すような、実に大変な作業だったと

 数少ない文献では記している。




 ――執念の末、そして彼は遂に発見する。



 

 『火』の精霊・サラマンダーと、

 『土』の精霊・ノームと、

 そして人間との間で、三者が同時に会話可能な〈魔法言語〉を――




 彼が生まれた時代は『天上戦役』と後に知られる激動の最中(さなか)にあった。

 彼の国は当時、激しい戦火に見舞われていた。

 銃弾と砲弾が、絶えず街に降り注いだ。〈魔法使い〉として

 従軍していた彼は、国土が次々に焼かれていく悲しみに打ちひしがれる。



 彼は研究に没頭する。一刻も早く、新しい魔法を

 戦場へ届けなくてはならなかった。

 


 そして、《絶対防衛魔法》が世に誕生する。

 それまでの魔導の常識から外れた、それは正真正銘の

 「新たなる魔法」だった――




 とんぼ返りで戦場に舞い戻ったサーレクが発動する

 《絶対防衛魔法》は“絶大”だった。


 銃弾・砲弾・爆弾――

 敵のあらゆる武器が彼の魔法を前にすると、まるで意味を成さなかった。


 遠方からの攻撃は著しく減殺され、それを唱えた彼と、

 彼の周囲を完璧に守護するに至った。




 連戦連勝が続き、遂には劣勢だったサーレクらの軍勢が

 相手国の領土を侵すまでとなった。すると次第にサーレクは、

 そんな自国の暴走を危惧するようになる。


 彼はやがて決意し、それまで軍の至上機密だった《絶対防衛魔法》を

 方々へ広め歩く長い旅に出た。




 ――争いはまた拮抗状態となった。




 〈絶対防衛魔法〉が世に浸透したお陰で、

 それまでの銃・大砲・爆弾といった武器は無効化され、

 その代わりに有効性が確認された、“剣”・“斧”・“槍”などの、

 大戦以前の“遺物”が復活することとなった。




 サーレクが〈絶対防衛魔法〉に込めた想いは皮肉にも

 別の形の戦争を生んでしまったのだ。




 サーレクはその後、機密を漏えいさせた罪で、故郷の地にて処刑される。

 これが文献に記された全てである。

 彼の死後、『風』と『水』の精霊と交信可能な〈魔法言語〉を、

 シュタイン=ラドクリフを中心とする研究チームが発見する。

 だが、彼らの名を知る者は極めて少ない。



 『風』の精霊と『水』の精霊とをかけ合わせ、

 彼らが生みだした『氷』の力は〈絶対防衛魔法〉が残した偉大な功績に

 比べると、あまりに過小だった。






 大魔導士サーレクが〈絶対防衛魔法〉を人々へ広め、

 そして自国に戻るまでの数年間――その足取りは今も尚掴めていない。










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