その10
ふいに、ビルの手元にあるぐるぐる眼鏡が視界に入った。そこで彼女は思い出す。もう一つあった、気になることが。
「あの、なぜ皆さん変装を・・・?」
「命が危ないから」
そう即座に答えたのは、先ほどまでシュールとにらみ合っていたイルだった。あまりにブラックなことをはっきりと答えたものだから、ロジーナは言葉を失った。が、それは極論だったようで、ビルが訂正を入れる。
「穏やかじゃないですね」
そういって続いた彼の説明はこうだ。
蒼藍は今回のような仕事柄から、恨まれることが多いそうだ。そのため正体がばれてはいけないのだという。「正体」といっても、基本的には顔がわれてはいけないということだ。だから、変装する必要が出てくる。新人に対し変装しているのも。蒼藍が誰だという情報を流させないためだそうだ。
「じゃあ、あたしも変装しなきゃいけなかったのでは?」
いまさらながら、ロジーナは思った。しかし、シュールがその疑問を一蹴する。
「新人蒼藍は入れ代わりが激しいからな。その情報はほとんどあてになるまい」
今までは毎年毎年新人は入れ替わっていたと聞いた。確かにそれでは、蒼藍の情報という断定はできないだろう。それに、一目見た人の顔を一瞬で覚えられる人もそういない。ただし油断は禁物。そのため仮配属のときのみ変装の件を話さないのだそうだ。彼らが早くから変装していたのも、彼らの情報を新人によって流されることを防ぐためだそうだ。仮配属を受けた多くが移院してしまうような状況では、まあ、やむをえないことだろう。
蒼春院に戻る馬車の中で、ロジーナはふと考える。
―――帰ったら、さっそく変装道具を買わないと。




