その13
「なに・・・これ・・・?」
異常な範囲に張り巡らされた水の結界に、ロジーナは言葉を失った。その結界の中で、羽をしまった二人の有翼族の少年達と、巨大なモグラが戦っている。二人の付けていた仮面と目隠しが、水を隔てた彼女の足元に落ちていた。そこから、有翼人種二名が変装を解いたことを知る。
「加勢しないと・・・!」
先ほどは一尾だから良かったものの、今の相手は二尾だ。二人だけで相手をするには荷が思い。結界に突っ込もうとするロジーナを、しかしビルが止めた。結界の条件にすぐに気付いたのだ。諭すように、落ち着いて注意する。
「危ないですよ。この結界の制約がわからない以上、難しい話です」
ビルの指示を聞いて、彼女は足を止めた。そこで結界魔法にある「条件」を思い出す。間違って触れていたら、弾かれていただろう。不安さを表に出して、目の前で戦う同僚に向ける。屋根の上に立って、肩で息をしている姿がロジーナの位置から見えた。彼女は自分の無力さに、悔しさを覚える。
二人の到着に気付かない先着二人は、意外と苦戦していた。思うように行かず、焦っているのも苦戦する原因だ。また、チームワークのなさも原因といえる。
「足・・・ひっぱってんじゃねぇぞ・・・この・・・役立たず」
「貴様の・・・力不足が招いた・・・結果では・・・ないのか?」
お互い息を切らしてまで罵り合う様は、結構阿呆である。疲弊を見せる二人に対し、モグラは尚も町を破壊し続けていた。思ったよりダメージを与えられていないのだ。
シュールは手袋をした拳で勢いよく自分の右胸をたたいた。彼の目の前に、先ほどとは違う紋が浮かぶ。彼が第二に使う魔法、葉の紋だ。
「『枝柯箭幹』!」
掛け声に呼応し、紋から大量の枝がモグラに向かって飛ぶ。枝といってももちろん、槍のように先は尖っていた。矢のような形状になっているのだ。
木が刺さり、土の体を異物に汚染されたモグラは、ひどい声を上げて暴れだす。純粋な土でできているモグラは、その体に異物が入ると拒絶し、体力を消耗するという。病原菌と白血球が戦う反動で、疲弊するような感覚に近い。モグラはどうにかして枝を抜こうと、体を土にこすり付けるが、枝はなかなか抜けない。そのうち逃げるように、モグラは土の中に勢いよくもぐり始めた。それを見たイルが、屋根の上から穴だらけの地面へと降り立った。
「させるか!『波紋流』」
降り立った衝撃を利用して、紋を発動させる。途端結界内の大地がぐにゃりと歪んだ。穴に頭を突っ込んだ体制で、モグラは体をうねうねさせる。イルは左手の甲に右手を乗せ、発動した紋から斧を取り出す。橋のように弧を描いたモグラを、叩き切るつもりだ。異物進入に体力を消耗したモグラなら、彼の斧でも容易に叩き切ることができるだろう。




