その8
アルバートにせかされて、ロジーナも馬車に乗り込んだ。しっかり腰を下ろしたことを確認すると、アルバートは扉を閉める。さっさと馬使いの席へと戻って手綱を握った。馬車は四面に窓がついており、そのためアルバートの状況を見ることができるのだ。
馬はいなないたかと思うと、馬車が走り出す。ぱっかぱっかと軽快な音に似合わない顔で、ロジーナは天井に目を向けた。
「イルさん、大丈夫かなぁ?」
その上には先述通りイルがいる。馬車の上に乗るという行為を心配する、彼女はずっと正常な人間だ。どんなに乗れるデザインだったとしても、移動時に載るのは見当違いなのである。そのデザインは、掃除のときに上から磨けるようにするためというのが原点だとこの世界では言われていた。それを理解しながら、ビルがイルの気持ちも配慮する。
「彼は風が好きなんですよ、暑がりなんで」
「でも、アルバートは・・・」
彼女は納得の意を示さない。が、その理由も心配の原因も、全てすぐに判明した。
リズムよく歩いていた馬が、どんどん速度を上げ始める。町を懸念して窓の外を見ていたシュールが、いち早くその変化に気付いた。見えている右目が、丸く見開かれる。
「おい、この馬車・・・」
珍しく驚くシュールに、ビルもすぐさま窓を見た。馬車は電車なんかよりもずっと速く、風景なんて見えない速度で走っていたのである。遠めに見える町だけがかろうじて見える程度だ。
つい勘違いを起こしてしまうが、奎婁はアルバートを指す言葉ではない。魔法百科の説明には、馬、馬使い、馬車の三つがセットになった、珍しいタイプの天霊とある。つまり、あの馬の足の速さも、その馬を操る馬使いも、馬車の異様な頑丈さも、魔力の塊であり、天霊と思えばなんら不思議はない。
すぐに村付近に着いた。不意に、アルバートが帽子を直す。それを見たロジーナが、あわてたようすで声を上げた。
「みんな、棒につかまって!」




