その7
イルが身を翻して走り出す。シュールとビルも続いて向きを変えた。そんな中、ロジーナが三人に静止をかける。
「時間がない、急げ」
「この子の方が早いわ」
ロジーナは深呼吸した。それからスカートぎりぎりの太ももに手を当てた。スカートの裾が少し上がる。
「繋がれ、『皇女門・圭婁』!」
掛け声とともに、赤色の紋が浮かび上がる。同じ模様の紋が書かれた扉が、彼女の左側に現れた。門が開くのと同時に、馬が飛び出してくる。輝かしいほど美しいたてがみを持つそれは、何かを曳いて登場した。
「馬車?」
「セクシーな魔法ですねぇ」
「白虎の紋か」
白虎の紋は、典型的な召喚術の一つである。ちなみに召喚魔法はその名の通り、別世界と空間同士をつなぎ合わせ、生物を呼び寄せる。召喚系の紋は、そういう能力がある。
現れた天霊に、各々好きに感想を漏らす。天霊とは、召喚によって呼ばれる人外生物のことだ。ロジーナは出てきた馬を撫でながら、その馬を操っていた男を紹介した。
「そう、奎婁の『アルバート』よ」
男は馬使い用の椅子から降りると、すっと丁寧にお辞儀した。目深にかぶった帽子と、長い前髪のせいで、その表情は伺えない。アルバートは滑らかな動きで、馬車のドアを開けた。
馬車の外装は、まるで小さな小屋のような形だ。シンデレラが乗っていたようなものとは異なるが、ところどころに宝石が施された女性らしいデザインだ。淡い水色の馬と、純白の馬車はすっきりとした清潔感も見えた。中もきれいな白色で、結構快適そうだ。
馬車の扉を開けて待機するアルバートに背を向けて、三人に呼びかけた。
「足はかなり速いわ。村にもすぐ着くと思う」
ちなみに彼女が行きに彼を呼ばなかった理由は、無駄な魔力消費を控えたいという、初任務に対する恐怖心からだ。
たとえどんなに急いで走っても、馬車の速さには敵わない。馬車内で体力回復も望めるだろう。そのため提案に賛同し、ビルとシュールが馬車に乗り込む。しかしイルはひょいと馬車の上に乗っかった。びっくりしたロジーナは、思わずアルバートに尋ねる。
「あれって大丈夫なの?」
彼女同様呆然と見ていたアルバートだが、しばらくしてコクリと首肯した。平気だということだ。二人の心配をよそに、イルは悠々と屋根の上に寝そべっている。アルバートの操る馬車は、もともと天井に乗れるデザインにはなっていた。乗ろうとすれば、という前提は外せないけれども。




