その6
「へ?」とロジーナがふり返るが早いか、モグラが飛び出してきた。巨大なモグラに怯んでしまう。モグラが飛び出してきた瓦礫が、彼女に向かってふってくる。
「『止辰』」
瓦礫の山がピタリと止まる。あぜんとする彼女を助けたのは、今まで若者二人が戦っている姿を飄々と見ていたビルだった。彼の左手からは、見たこともない紋が浮かび上がっている。
「大丈夫ですか?」
「は・・・はい・・・。これは・・・?」
「時の紋です。初めてですか?」
ロジーナは素直にうなずく。聴いた記憶はあるが、ごく少数が使うため、大雑把な説明しかされていなかった気がする。意外なところから、彼の実力を思い知る。
びしょ濡れになったモグラに、イルが向かって走り出す。左手に右手をかざし、そこから大きな斧を引き抜いた。武の魔法、刃の紋である。それを持ったイルが、勢いよくモグラに切りかかる。
「ロジーナ!お前、何の魔法使えんだ?こいつなんかやれる魔法あるか?」
そういわれて彼女は、改めて気付いた。自分は仕事をしにきたのだと。
彼女は体勢を変えると、左の肩に手を置いた。触れたところが光だし、紋が浮かび上がる。
「殴具の紋か」
それもまた武器を生成する、武の魔法の一種だ。また王道の紋の一つでもあり、彼女が白戎使であることを示していた。白戎使とは、何らかの媒体を用いて魔法を使う魔道士の種類だ。
彼女が紋から生成したのは、金槌だった。それも、とんでもなく大きな鉄槌。
「うわぁ、ずいぶんと立派なハンマーですね」
様々な魔法を見てきたビルでさえ、そう感嘆するほどの代物だ。
ロジーナはそのハンマーを持って駆け出す。そして水を吸ってぬかるんだモグラの胴体に、思いっきりハンマーをたたきつけた。
土でできていたモグラの体は、水を吸わせるか、異物を混入する以外壊す術はない。とはいえ、水で壊せるわけでもなく、泥と化したモグラの体に、何らかの衝撃が必要となる。しかし本来、モグラを壊す衝撃は、並の力では足りない。結果、高いところから突き落としたり、イルのように斧のようなものでたたき切るのが王道の退治だ。
が、ロジーナはハンマーの一撃で、モグラ一尾を倒してしまった。モグラはただの泥となり、ぼろぼろと崩れ落ちる。
ハンマーを持ったまま、その光景を呆然とロジーナは見ていた。初めて倒したことで、すこし気が抜けているのだ。そこに、イルが駆け寄ってくる。
「やるじゃねぇか!どんなコツがあったんだ?」
「え?コツも何も・・・」
ロジーナがイルに答えようと口を開くと同時に、残りの三人が村のほうを向いた。話をふっておいて失礼な人だと思ったが、彼女はすぐ理由が解った。村のほうから、妙な音が聞こえてきたのである。
シュールが嫌そうな表情で口を開く。
「おい、モグラは何尾確認されていた?」
「そうですね、少なくとも、三尾はいたかと」
今苦戦して倒したのは、一尾のみ。このあたりにモグラが残っている気配は無い。
そうなると、この騒ぎの原因の予想がつく。
「あいつらっ、村に行きやがったのか!」




