その3
半ばあきらめかけた彼女に、朝食を更にカバンにつめていたビルが助言する。
「イルに布団をかけて、シュールのははいじゃって下さい」
ちなみに今の状況は、イルが布団をはいでいて、シュールは布団に包まっている状態だ。アレだけ苦労しても起きなかったのに、今さらなにを、と彼女は思う。が、ほかに手はない。彼女はそれを実行する。二人とも、動きはしたが、やっぱり起きるにいたらない。
ロジーナが次の手を考えようとした瞬間、二人が勢いよく飛び起きた。
「暑い!」
「寒い!」
もちろん暑いと言って飛び起きたのはイルで、寒いと言って飛び起きたのはシュールだ。イルは上裸姿で、シュールはコートまでいかずとも、フリースを着て寝ていたのに、だ。
補足で言えば、今の外気温は二十度。ゆえに室内も暑くもなく寒くもない。いたって理想的な適温である。
寝起き二人は、疎んでロジーナを見た。目が見えなくとも、彼女は痛い視線を感じる。
「ほら二人とも、さっさと行きますよ」
特にロジーナを助けることも泣く、ビルは三人を置いてさっさと宿を出て行った。
シュールは着ていたフリースをコートに替える。イルは甚平を着ると、布団の上でうつらうつらと二度寝に入りかけていた。その様子を、自分の準備のできたロジーナが心配そうに見ていた。彼はイルに向かって手近にあった枕を投げる。見事にイルの顔面に当たった。
「てめっ、なにしやがる!」
「新人に気を遣わせてどうする?」
シュールに言われて、彼は初めて自分を心配そうに見つめるロジーナに気付いた。いや、今彼女の目下の心配事は、目の前で喧嘩が始まるか否かなのだが。シュールの言い分を理解してしまったイルは、いらだちをどこにもぶつけられず、投げられた枕を勢いよく投げ返した。枕はぎりぎり、シュールの顔の横をかする。
「へたくそ」
「わざとだ、わざと!仮面が壊れねぇように、配慮してやったんだっつの」
「言い訳か、見苦しい」
「てめぇ、本気でやりたいか・・・?」
消えかかった火に、シュールが酸素を送り込んだ。薪は充分に足りてしまっている。
「上等だ、このやろう!」
「急でんのよ!早くしてちょうだい!」
燃えさかる火に、大量の水が浴びせられた。驚いた顔で、火中にいた二人がロジーナを見る。当然のことながら、水をかけたのは彼女だ。
「ビルさんも行っちゃうし、フォディズムだかジョセフィズムだかわかんないけど、そういうところで任務失敗なんか、だめなんじゃないの?」
ジョセフィズムは新人配属の折に掲げられた、適材適所運動の通称である。この運動が行われるまでは、どんな実力者でも外院の下層部にしか入れなかったという。が、ここではまったく関係のない話だ。
彼女はキャリーケースの取っ手を伸ばして、扉に向かって歩き始めた。もう急かすのは諦めたのだ。二人だけで部屋に残されるのはごめんだと、二人もあわてて身支度を済ませ、彼女に続いてすぐに部屋を飛び出した。




