その3
改めて招かれた蒼春院の内装は、まるで城の中のようだった。典型的な洋館の内装なのだろうが、いくつも部屋と中央にある階段のためか、城と言ったほうがずっと妥当なのだ。荘厳な雰囲気は、内側にも健在のようである。
ロビーの横にある空間を、彼女は応接スペースと踏んだ。そこには白い石の四角いテーブルを囲むように、三人がけと一人がけのソファーがそれぞれ対に置かれている。ロジーナはそのうちの一つに案内された。ソファーが変人すぎる住人たちに合わない、かわいらしいデザインだったことに、人知れず安心する。
眼鏡が案内してすぐに姿を消してしまったため、ソファーに座ったまま彼を待つ。
蒼春院は異常に静かだった。普通の院よりずっと少ないとはいえ、十五人もいるのだから、もう少し賑やかさがあるはずである。単に広いからというだけではないだろう。室内を見回してみても、人影一つない。十四人がすべて仕事に出ているというのだろうか?人数が少ないゆえに起こりそうな事態に、ロジーナは不安になってそわそわする。
魔道士院には資産家からの個人的依頼に始まり、国からの依頼まで届く。依頼達成の成功報酬が魔道士の生活費となるため、仕事が尽きることはないように、いろいろと工夫もなされていた。通常依頼は一人でも受けることはできるが、四院クラスともなれば数人で向かうことも珍しいことではないとも聞く。ロジーナがくるということで、眼鏡が残っていてくれたのだろうか?もしそうならば、彼の正体に推測がつく。
いろいろと考える彼女の元に、眼鏡が戻ってきた。手にトレーを持っており、そのまま向かいのソファーに座る。どうやら紅茶を淹れに行ってくれていたようだ。なぜそのときに帽子をはずさなかったのか疑問だが、総合的に奇怪な姿なので、どうにも尋ねる気が失せる。
紅茶を勧められた彼女は、一口飲んでから話を切り出す。
「あの、ティム・トムズさんですか?」
「いえ、違いますよ?」
院長だから残っているというロジーナの推理は見事に外れていた。しかしそうなると、彼が何者なのかということより、一介の魔道士一人を残して大切な院長がどこに行ったのかが気になる。ピンポイントで聞くのもためらわれるので、遠まわしに尋ねた。
「あの、他の方々は・・・?」
「ああ、そういえばそれを説明しないといけないのでしたね。尋ねてきた人が長くいなかったので、すっかり忘れていました」
毎年派遣されているという噂の信憑性がかけた。不安になるロジーナをよそに、彼はどこからともなくペンを取り出した。それはどこにでも売っている油性のネームペンだ。それで何をするのかと思うと、間に置かれている白いテーブルの上に直接書き付け始めた。そんなことして消えるのだろうかと、ロジーナは思わずいらない心配をする。そんな彼女をよそに、眼鏡はすらすらと描き続けた。