1、出逢い
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
【逃げ場なんて無いと思っていた。でも、キミに出逢ってしまったから、キミを逃げ場に選んでしまった。それが正解なのか分からないまま】
「ヒメちゃん。お弁当、忘れてるわよ」
「あっ、ありがとう。叔母さん」
私は、叔母さんからお弁当を預かる。
叔母さんの表情が少し暗くなったのが分かった。
また、その顔をするのね。
悲しそうな顔で私を見る。
いい加減、忘れてよ。
私だって忘れたのに、、、。
「いってきます」
私は、叔母さんの顔を見ずに家を出た。
もう、見たくない。
私を通してあの人を思い出さないで。
でも本当は、あの人を忘れたんじゃないの。
もう、思い出せないの。
昔の記憶だから。
忘れたくなんかなかったのに。
お母さんの顔を、、、。
私の名前は姫華。
高校一年生。
両親は私が小学一年生の時に交通事故で亡くなった。
それから私は、お母さんの妹と二人で住んでいる。
私を育てると決めた当時の叔母さんは大学生だった。
そんな叔母さんは若くて芯の強い美しい人。
そして、とても優しい。
でも、その優しさが私には苦痛になる時がある。
私の顔を見て、お母さんを思い出すのも腹が立つ。
私の機嫌をとろうとして、いつも私を優先しようと遠慮をするのも腹が立つ。
でも、一番は自分に腹が立つ。
何も言わないし、何もしない私が一番嫌い。
本当は、叔母さんじゃなくてお母さんと呼びたい。
本当のお母さんよりも長く一緒に過ごしているのに、どうしてもお母さんと呼べない。
「おいっ!」
誰かが叫んだ後、私は腕を引っ張られ後ろに倒れ込む。
でも、その後ろには人がいて、私はその人の硬い胸板に後頭部をぶつけた。
「いったぁー。何するのよ。危ないじゃない!」
私は直ぐに振り向き、腕を引っ張ったであろう人に向かって言った。
「はぁ? それはこっちの台詞だ!」
私の真後ろにいた人は、眉間にシワを寄せて不機嫌そうにしている。
切れ長の目で目つきの悪い男の子。
髪の毛の色は金髪でサラサラ。
よく見れば制服だと分かるほどの着崩し方。
ヤンキー君かな?
ん?
顔はイケメンで大人っぽいけど中学生の制服だ。
えっ、中学生なの?
「あんた、死ぬつもりなのか?」
彼は何の感情もない顔で私に言った。
今、あんたって言った?
年上に向かって言う言葉なの?
「あんたじゃないわよ。名前は姫華よ。お姉さんって呼んでもいいわよ」
「はあ? お前、頭でも打っておかしくなったのか?」
「お前? 本当に失礼な中学生ね。高校一年生の年上に向かって、お前はダメよ」
「命を粗末に扱う奴は、お前でいいんだよ」
「命を粗末に扱う? 私が?」
彼は何を言っているのだろう。
両親を交通事故で亡くして、命が何よりも大事だと分かっている私に?
「キミはどうなの? せっかく親御さんが大切に育ててくれたのにヤンキーなんかになっちゃって、命を、キミ自身を粗末に扱っているのは誰よ?」
「お前だ。後ろを見てみろよ」
彼は即答して、視線で後ろを見ろと促す。
そして私は振り向き気付く。
私、赤信号の横断歩道を渡ろうとしていた。
全然、気付いていなかった。
叔母さんのことで頭がいっぱいだった。
「ごめんなさい」
私は直ぐに彼に頭を下げて謝った。
「ごめんは何に対して?」
「えっと、私が悪いのにキミに色々と言ったこと、、、かな?」
「あっそ。それで死ぬつもりはないんだろう?」
「はい。考え事をしていて前を見ていなくて飛び出しちゃいました」
「それならごめんじゃないだろう?」
「えっ?」
彼の言葉の意味が分からない。
ごめんの他に何があるの?
「高校生なのに分からないのかよ」
彼は呆れた様子で私の腕を、また引っ張り私を引き寄せた。
整った彼の顔が近付き、私はドキッとしてしまった。
「ありがとうだろう?」
「えっ」
「ほらっ、言えよ」
「あっ、ありがとう」
彼に言わされた気がするが、感謝はしているから心を込めて言った。
彼は私の頭を撫でながら頷いてくれた。
「ちょっと待って!」
私は彼から離れドキドキしている心臓を落ち着かせる。
イケメンには敵わないわよ。
それに中学生なのに身長も高いし、体つきもしっかりしてる。
力じゃ敵わないのは分かるから距離をとらなきゃ。
「何、その距離の置き方は? もしかして警戒してる?」
「当たり前でしょう」
「中学一年のガキに?」
彼は私を見下すかのようにニヤリと笑いながら言った。
「中学生でも男の子だから、、、力は勝て、、、ないわよ」
私は、どんどんと声が小さくなっていく。
だって、年上という威厳がなくなったから。
彼に威張れる勇気さえなくなってしまったから。
彼の、中学生ではあり得ない色気と、全てを見透かされそうな切れ長の目と、人をバカにするように右の口角を上げて笑う姿。
そんな彼の自信満々の態度が私を小さくするし、自信を喪失させる。
この場から離れたいとさえ思う。
「お姉さん。俺が怖くなった?」
あれ?
無表情なのに今、少し表情が暗くなった。
叔母さんのように隠しきれない想いが彼の表情からも読み取れた。
「何を隠してるの?」
「えっ」
「キミは完璧に隠しているようだけど私には分かるよ。キミみたいに感情を隠している人と私は、ずっと一緒にいるんだもん。表情の違和感は直ぐに見つけられるわ」
「俺は、、、」
「カナヲ様!」
何処からか声が聞こえて助けてくれた彼の顔が一瞬で固まった。
表情が読み取れない無表情。
何の隙もない。
何の隙も見せない。
「カナヲ様、ここにいらしたのですか。今日は学校へ行く日ではありませんよね?」
どこからか黒いスーツを着た若いイケメン男性が助けてくれた彼に話しかけている。
今日は学校がお休みなの?
平日なのに?
「そうだったか? 悪い。今から帰るよ」
「近くに車を用意しております。それから、あの場所へ向かいます」
「そうか。分かった」
助けてくれた彼とイケメン男性は淡々と会話をしている。
二人とも感情というものをどこかに置いてきているのか、何も読み取れない。
「あの? カナヲ様」
「何?」
「この可愛らしい女性の方は、お知り合いでしょうか?」
いきなり私に満面の笑みを向けてイケメン男性が言う。
中学生の彼よりも色気のレベルが違う。
目のやり場に困るほど魅力的。
「知らない人」
助けてくれた彼は私を見ることなく言った。
そして車があるという場所へ向かっている。
その助けてくれた彼を追いかけるようにイケメン男性も私から離れていく。
「ありがとう」
私は大きな声で助けてくれた彼に向かって叫んだ。
助けてくれた彼は振り向いてくれた。
「カナヲ君。ありがとう」
もう一度、次はカナヲ君の名前を付け加えて言った。
カナヲ君の無表情が一瞬だけ崩れた。
見つけた。
カナヲ君の本物の表情を。
カナヲ君の照れた表情を。
カナヲ君は何も言わず私の前から消えた。
それでもいい。
私のお礼は、ちゃんと伝わったから。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
2、再会
【久し振りに逢ったキミは、どこか寂しそうで救いたいと思った。でも救われたのは自分だった】




