(1) Where have all the good men gone. And where are all the gods?
「すいません、このパーティーから抜けさせて下さい」
町に有る冒険者ギルド内の僕達のパーティーに割り当てられた部屋に戻ると、僕は、相棒である聖女様に、そう申し出た。
「何でですか?」
「いや、判ってるでしょ?」
「……判りません」
こ……こ……このアマ……何、すっとぼけてんだ?
「だって、その……もし、僕が死んだら……その魂は……その……えっと……っ」
「ああ、それでしたら……」
ドン……。
「がう♪」
聖女様のパトロン 兼 力の源である「天使」が姿を現す。
いや、正確には、堕天使か元天使だけど……。
「我が神が、ちゃんと面倒を見ますから、御安心下さい」
いや、神じゃねえだろ、こいつ、どう考えても。良くて邪神だ。
ボクも、冒険者になって初めて知った事で……この世界の一般庶民は知らない事だけど……。
この世界には、もう神様は残っていない。善い神様も、悪い神様も……1人残らず、数十年前の、ある日、突然、消えてしまったらしい。
でも、その事に気付いたのは……ほんの一部の人間だけだった。
だって、神様が消えてからも、世界は何事も無かったかのように……続いたんだから。
いや、何十年もかけて、アンデッドが増えていったみたいな事は有ったけど(どうやら「死後の世界」ってヤツも、死を司る神様と一緒に店仕舞いしたらしい)、それでも「変な事」「取り返しの付かない事」は、何十年もかけて徐々に進行していった。
けど、何で、誰も神様達が消えていった事に気付かなかったのか?
残っていたのだ。
この世界には、神様が居なくなった後も……神聖魔法を使える聖女に僧侶に、善い神様達に仕えていた天使や精霊に、悪い神様に仕えていた魔物に……そんな連中が、しっかり居座り続けていた。
一体全体、何が起きたのか?
神様達に仕えていた天使や魔物や精霊は、神様達からの力の供給が途絶えた……そして、真っ先に真っ当な天使や精霊が消滅した。
残った天使や精霊は……人間の魂を食らう魔物と化した。
魔物達は、以前より更にタチが悪くなった。
元・天使や元・精霊を含めた魔物達は、効率良く人の魂を食う為に、僧侶や聖女に新しい「力」を与え、その代りに「人間の魂を集める」手助けをやるように仕向けた。
そして……結婚式なんかの儀式で僧侶や聖女に祝福を受けた者、僧侶や聖女に治癒魔法をかけてもらった者、更には、僧侶や聖女に寄進や御布施をした信心深い人達……全部、その魂には、魔物達によって「予約済み」のスタンプが押される事になる。
しかも、エロ専門の吟遊詩人の詩に出て来る「淫紋」みたいに、その「予約済みスタンプ」が体に浮き出る訳じゃなくて、魔法的な方法でしか、その「予約済みスタンプ」を検知出来ないからタチが悪い。それも、「予約済みスタンプ」を押された当の本人さえ、死んだら魔物に魂を食われる運命である事に気付けない。
そして、死んだら、その「予約」をした魔物に魂を食われる。はい、それで終りだ。天国も転生も無い。人間の魂を食った魔物は、とりあえず、その日は生き延びられる。それ以降の事は……まぁ、人間の魂を食う魔物どもさえ、その日その日を生きるのに必死で、世界征服とか、この世界の未来とかに構ってる余裕は無いらしい。
もし、運良く魔物に魂を食われずに済めば……とりあえず、アンデッドか亡霊になって、その後も存在し続ける事だけは出来る。
でも、僧侶や聖女から、何かの祝福を受けたり、治癒魔法をかけられたりしたら……はい、終りだ。
他の魔物を力の源とする治癒魔法は効果を阻害される。
場合によっては、ある日、突然、変な死に方をする確率が跳ね上がる(魔物だって、早く魂を喰いたいだろうから仕方ない)。
たった1回、ほんのかすり傷を治療してもらっただけで……結婚式で「新郎新婦に神の御加護あらん事を」と言われただけで……あとは、はい、お先真っ暗だ。
僕は、人生終っただけじゃない。来世も終った。
僕に残された道は……なるべく死の危険性を避け続ける事だ。死んだら魂が消滅するのが決った以上、少しでも長く生き延びるしか無い。
台本が有る「やらせ」とは言え、いつ、どんな事故が起きるか知れたモノじゃない「冒険者」なんて仕事を続けるのは、愚の骨頂だ。
「じゃあ、冒険者ギルドに出す退職届けに退職理由を書く必要が有るので……」
「あ……あの……罪悪感です」
「罪悪感?」
「いや、流石に奴隷とは言え人を殺し続けるのは……」
「何、言ってんですか? 貴方が殺してきたのは……オークにゴブリンにオーガに……」
「待って下さい。あいつら全部、冒険者ギルドが購入した人間の奴隷を魔法の美容整形で改造したモノでしょッ‼」
……その時……。
「ぐえっ?」
僕の体が宙に浮く。
喉と……胴体が……目に見えない触手で締め付けられる……。
目には見えないのに……嫌な臭いと、濡れ濡れの感触だけは、しっかり感じる……。
た……たすけ……。
「いいですか? それ、辞めた後でも口にしたら、どんな目に遭うか判ってますよね?」
声は出ない。
けど、僕は何度も首を縦に振る。
その度に、涎や鼻水や涙が飛び散る。
ドンっ‼
僕の体は、床に落ちる。
「わかりました。じゃあ、ギルドに出す退職届には『一身上の都合』にしておきますね」
「そうして下さい」
「じゃあ、辞めるにあたって、次の問題が有ります」
「何ですか?」
「退職金払って下さい」
……?
…………?
………………………………?
「はいっ?」
「ですから、退職金払って下さい」
「あ……あの……何を言って……?」
「え? 冒険者になる時に説明受けましたよね? ここの冒険者ギルドでは、辞める方が、パーティーのリーダーと冒険者ギルドに退職金を支払う規定なんですよ」




