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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
最終章【長谷川真昼最期の日、本能寺炎上編】

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最終話 長谷川真昼、未来を託す

「スリーツーからボール球を打つとはな。振らなくても貴様の勝ちだったが、なぜ振った?」


 泰朝が鉄仮面を取り、老体の素顔を見せてくるけど、晴れやかな澄んだ瞳をしていた。


「なに言いやがる。それが狙いだったんだろ? まったく、野球ってのは人の心理を揺さぶる戦いよ。ストライクゾーンに来たボールに、振らなければ三振の恐怖が脳裏を過ぎりやがる」


 信長様もまた、ヒロミツが緩和したとはいえ、頭部にカネヤンがぶつかった影響で顔の左側を血まみれにしながら、朗らかに笑った。


「こっちの狙いは、端から読まれていたということか」


 自嘲気味に泰朝が言うけど、スリーツーから魔球ドロップを狙い打ちしてホームランにする信長様がおかしいよ。

 私だったら自称180キロのストレートを要求したし、待っていたかも。

 ……はっ! いかんいかん、この四方八方燃える本能寺の中で勝負の総括をしてる場合じゃないって。


「信長様! 泰朝も! 今すぐ脱出を!」


 正則君や清正君、忠勝君がフルスイングして炎を退けているけど、光秀さんや家康さんがいる場所を守ってるだけで精一杯。

 あそこまでダッシュして合流する!


 そんな私の気合は、無情こそが時の流れそのもののように、天井の崩落で逃げ場が消えた。


 私の身体は信長様に後ろから引っ張られ、下敷きになる運命だけは免れた。

 それでも、状況は絶望的だ。

 後ろから私を抱きしめる信長様の呼吸が荒くなり、表情も激痛を堪えてるのが手に取るようにわかる。


 ……この人は昔っからそうだ。

 桶狭間でも美濃攻略でも天王寺砦でも、総大将のくせに最前線に立ちやがる。

 普通、人は偉くなったら命がけの仕事に恐れを抱くもんでしょ。

 それなのに信長様は、すべてを失う覚悟で敵を本能寺に引きつけ、元々戦国の世にない英霊ボール大戦に終止符を打ったのだ。


「真昼……二度は言わん。全球集め終わらず過去に戻れたんだろ? なら、願え。108球すべて回収した褒美に未来へ戻せ、と」


「……うん」


 温もりが居心地いい。

 本当はずっとこのまま抱きしめられていたい。

 耳元で信長様の囁きを聞き続けたい。

 これからも一緒に暮らしていきたい。


 そんなことを思っていると、バチバチバチと音がして、私たちの頭上に太い火柱となった梁が落ちてくる。


「グオッ……」


 避けられなかった私と信長様を救ったのは、泰朝だった。

 彼は火柱を正面から受け止めて軌道をずらし、自らが火柱の下敷きになったのだ。


「……泰朝」


「これが敗者の代償よ。……俺に気にせず……未来に向かえばいいさ」


 泰朝の瞳から、光が消えた。

 

 これは私の想像。 

 泰朝がこの作戦に乗った理由は、私と信長様への復讐なんかじゃなくて、英霊ボール大戦の勝者になって過去に戻ろうとしたんじゃないだろうか?

 今川による織田家への侵攻を無くし、義元の死の運命を回避するために。


「真昼!」


 炎の外から、ねねちゃんの悲痛な声が聞こえてくる。

 ……倒壊寸前だけど、センイチ、ヒロミツ、イシイが懸命に防いでくれてる。

 もう少し、持たせて。


「ごめん、ねねちゃん。前周回から私を支え、秀吉だった私の奥さんにまでなってくれて。……ねねちゃんのご飯、めっちゃ美味かったよ」


「……バカ。前にも言ったでしょ。私が好きでやったの。帰蝶様の侍女も、秀吉様の奥さんもね」


 顔が歪む。

 私のせいで人生を滅茶苦茶にしたのに、恨み言一つ言わないねねちゃんと、彼女の羽柴家から秀吉がいなくなってしまう事実に。


「真昼様……いえ、秀吉様。羽柴家とねね様はお任せを。……ですよね? 秀長様」


「ウキッ⁉」


 三成ちゃんの言葉に、秀長は儂も未来に帰るんだけど⁉ と慌ててる。

 奴め、元凶の分際で責任取らないで帰るつもりだったんかい。


「一つだけ聞いていい? なんで猿だったの? 野球の神」


「ウキー、ウキー、ウキキキキキ!」


 私の質問に秀長が咽び泣く。

 奴が言うには、歴史を改変しようとした罰で上位の存在に猿にされたらしい。

 上位の神だか悪霊だか知らんけど、罰を与えるより先になかったことにできなかったのかよ。

 ま、おかげで私は信長様と会えたわけだけど。


「フッ。羽柴には官兵衛もおる。心配はしとらん。が……そうだな。十兵衛!」


「……はっ!」


 信長様の張り上げた声が、最期の生命力を使い果たす響きだったのを私だけじゃなく、光秀さんたちも気づいたようだ。

 家康さんの咽び泣く声が感動のBGM流れそうな雰囲気を台無しにしてるけど。


「本能寺を焼いた敵どもは、今後も十兵衛の名を騙り畿内を支配しようとするだろう。……藤孝や順慶、五郎左や勝三郎に協力を求めるはずだ」


 信長様が語る最悪のシナリオ。

 明智軍は壊滅し、光秀さん本人が生きていても敵側は闇に屠り、藤孝さんたちも光秀さんの無罪を信じても勝ち筋はないと見捨てる恐れがある。

 光秀さんは十分に理解しているようで唇を噛み締めているみたい。


「十兵衛! 明智光秀の名を捨てよ!」


「……なっ。それは……あまりにも酷な……」


「これほどの出来事よ。もう津々浦々に明智光秀謀叛が流れ、天下は再び乱れる。羽柴家の庇護で生き延び、天下を収束させよ!」


「し、しかし……」

 

「これは俺の最期の命令よ。天王寺砦で、貴様が俺に誓ったことを忘れたとは言わせんぞ」


 本願寺勢に包囲され、死を待つのみだった光秀さんを救ったのは、信長様の果敢な突撃による救援。

 生き延びた光秀さんが信長様に誓った言葉がこうだ。


 ——此度の御恩。生涯かけてお返しいたします!


 ……うん、信長様って他人の言葉を忘れないで記憶し続け、ここぞという場面で使うよね。

 もう光秀さんに反論の余地消えたよ。


「ウキ、ウキキ、ウッキー!」


「は? 秀長、いきなり何を言い出しやがる」


 私が突拍子もない秀長の提案に困惑してると、ねねちゃんが「なるほど」と頷いちゃった。


「良策かもしれないわね。秀長が羽柴秀吉になり、光秀様が秀長になる。どうせ秀長……新秀吉は飾りにしても羽柴家は私で回る。そこに旧光秀様が新秀長になれば……」


「ウキッ⁉」


「フフフ。離縁はしないから安心して。側室も置かしてあげる」


 やべえよ、火の粉が邪魔してるのに秀長が……おっと、猿の秀吉が震えてるのがわかるよ。

 ねねちゃん、さすが私の嫁だぜえ。


「光秀さん。一応、ほら、帰蝶だった私の従兄だし。光秀さんなら安心して羽柴を任せられるから」


 私からもひと言告げると、光秀さんは覚悟を決めたようだ。


「……分かり申した。このあとすぐ、藤孝殿の説得に向かい、いずれ……この本能寺を襲った黒幕に復讐を誓います。そのために偽り、騙し、真実を秘匿して黒幕の油断を誘いましょう」


 光秀……ややこしいなあもう。新秀長は、まるで運命かのように足元に転がっていた泰朝の鉄仮面をはめていった。


「羽柴と徳川、仲良くせよとは言わん! 納得するまで戦え! おごとく!」


「……父上。安心して。真昼は必ず私が召喚してみせるか、私も未来に行く方法探す」


 おごとくちゃん? それが父娘の最期の会話でいいの⁉

 てか、召喚ってどうやってだよ。


「の、信長様……儂……儂」


 鼻水ズルズルさせてグズる家康さんに、信長様は苦笑する。


「逆境を何度も生き延びたんだ。誇りに思え。が、慢心するなよ! 死んだら地獄から迎えに来てやる!」


「は、はい! お待ちしておりまする!」


 信長様の言葉で、家康さんの声に勇気が灯ってくるのを感じたけど、信長様離れできるのかなあ? 徳川を背負ってるんだからちゃんとしてよね。


『小娘……もう持たん!』

『ちっ……カネヤンたちも眠り、勝者は3球か』

『僕が含まれてるなんてね。十兵衛君! 誇りに思って! 英霊ボール大戦の勝者、持ち主部門は信長様とお嬢ちゃんでもある秀吉さんと、十兵衛君なんだから!』


 センイチ、ヒロミツ、イシイの叫びに、私はもう一度だけ炎の向こう側に集まった影を見つめていく。

 ねねちゃん率いる羽柴若手&猿軍団に重矩君、徳川上洛メンバーにおごとくちゃん夫婦に小夜さん、才蔵に弥助。


「サンキュー弥助。才蔵も。今後大変だけど生き延びてね」


「多分、今頃高野山の廟に光秀様と秀吉さんの廟が建ってるだろうさ。いや、もう建ってたのかもな」

「俺は丹波様を探し、上野に戻る。……北条が背後にいるなら、一益様が一番危険な状態になるだろう」


 もう、私に彼らの未来を眺めることも干渉することもできない。

 心の中で頑張れ、とだけ言って、信長様に振り返って唇を重ねた。


「……私、我儘なんだ。だから、付き合ってもらうよ」


「……フッ。うつけが。……いいだろう。とことん付き合おう!」


「センイチ! ヒロミツ! イシイ! その他含めて108球の英霊ボールどもよ! 私を元の時代へ戻せ! 信長様と一緒に!」


 108球の英霊ボールが空中に散らばり、12色の光が煌めき、やがてそれは黄金色に輝いて私たちを飲み込んでいった。


 ——【長谷川真昼最期の日、本能寺炎上編】完


 エピローグに続く

 

エピローグは朝7時頃に!

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