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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
最終章【長谷川真昼最期の日、本能寺炎上編】

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第267話 長谷川真昼、誘惑に負ける

 業炎の本能寺を背に、万を数える偽明智軍と戦い続ける光秀と蘭丸らだったが限界の時を迎えようとしていた。

 力丸、坊丸ら信長の近習・小姓もことごとく討ち死にし、残るは光秀と蘭丸のみ。


「光秀様……ここはそれがしに任せ、脱出を……!」


 立っているのもやっとの蘭丸に、もう金属バットを握る力も残っていない。

 それでも、迫りくる敵兵を光秀と背中合わせになり撃退し続ける。


「まだ信長様が戻っておらぬ! 必ずやカネヤンどもを倒し、脱出してくるのだ! 私が待っていなくてどうする⁉」


「敵は光秀様に罪を被せるおつもりです! このままですと、未来永劫、信長様が光秀様に討たれたこととなるんです!」


 襲いかかる槍を、刀を、矢を弾きながら説得を続ける蘭丸に、光秀はゆっくりと首を横に振った。


「利三らが来ぬ以上、我が明智軍は壊滅したのであろう。部下を死なせ、信長様を救えなかったのなら私に生きる価値はない! 謀叛人の汚名ぐらいくれてやる! ……ただし、多くを道連れにして、な」


 光秀の金属バットが目の前の敵を肉塊に変えるも、すぐに次の敵が四方八方から攻撃してくる。

 光秀も蘭丸も呼吸は荒く、燃える本能寺の火の粉で顔は煤だらけ。

 そこに額の汗が、光秀の目に入ってしまった。


 飛来してくる矢が眉間に迫るも、光秀は反応できない。


「光秀様!」


 蘭丸の叫んだ声で己の命運が尽きたことを悟る。

 避ける態勢も、弾き飛ばす姿勢も不可能。


(……無念。天下一統目前で信長様を護れなんだとは……!)


 ——思考が停止したのは数秒にも満たない。


 鬨の声が本能寺の門付近から聞こえ、光秀に襲いかかる敵が徐々に減っていった。


「敵は楽な謀叛で勝ち馬に乗ろうとしている雑魚兵ばかり! 正則と清正の突破力と、重矩様の美濃兵で敵を分断せよ!」


(この声……秀吉殿の側近、三成殿か。重矩殿もいる)


「徳川の意地を見せるのじゃ! 追い払え! 羽柴勢と連携して信長様たちを救出するのじゃ!」


(家康殿⁉ 徳川は少人数なのに救援に来てくれたのか!)


「ウッキー!」

「長浜猿軍団! 遠慮は一切合切いらないわ! 偽明智軍を殲滅するのよ!」


(ねね殿まで。……そうか、これで我が役目も楽になれる)


「ドンデン殿らは英霊ボールを連れて本能寺内部へ!」


 浮遊する英霊ボールを見つけ、光秀は生命を燃やす大声で叫んだ。


『おーん、了解よ。……ムッ? あれは?』

『oh! びっくりネ。クドウとアキヤマ、ヒルマンとヤスノリが飛んでくるけど気絶してるネ!』


 4球をキャッチし、ドンデンとボビーは本能寺へと突入していった。


「ちっ! この俺が貴様らと協力するとはな。佐助、五徳姫よ」

「それがしは悪い気がせぬ! 今後もそうしたいものよ!」

「どっちも無駄話してないで敵を屠りなさい。小夜も進め」

「フモー♥」


 忍びどももハッスルし、縦横無尽に戦場を掻き乱していく。

 才蔵が小夜を見て顔を赤らめたのは、口元のよだれ玉のせいか、はたまた熟女好きに目覚めたのか。


「羽柴の若僧に負けるわけにはいかぬ!」

「はっ! 忠勝殿に意識されるなんて嬉しいぜ! なあ、清正」

「応ともよ! いずれ手合わせでぶっ倒してやるわ。なあ、正則」


 羽柴と徳川の武勇自慢が存分に金属バットを振るっていく。


「ベテランもまだまだレギュラーぞ!」

「羽柴の者どもに負けるな!」


 酒井忠次と石川数正も2人コンビで迫りくる敵を迎撃している。


「家康様はこっちだ! こいつを殺せば大手柄だぞ!」


 本多正信の叫びに釣られ、家康と側にいる旭に敵が殺到するも、竹中重矩の美濃兵部隊の火縄が轟音を轟かせる。


「……間に合った。とは言えない状況。返す返すも兄上が生きていれば……いや、このような愚痴、兄上は怒るでしょう」


「そうね。……信忠様の死体は確認できなかったけど、ここに到着してないなら……」


 重矩とねねはそれでも前を向き、美濃兵と猿軍団の指揮を続ける。


「……ハア、ハア。蘭丸殿、助かったぞ。敵が押されている」


 もう、光秀を攻撃する者はいない。

 本能寺の門の外へ偽明智軍が殺到する。


「……蘭丸殿?」


 返事がない、本能寺を護りきったもう一人の殊勲者へ振り向いた光秀だったが、蘭丸は胸の位置に矢が刺さり、事切れていた。

 ……あの時、視界を奪われていて矢が飛来していたのに己が死ななかった理由を知り、光秀は落涙した。


「すまぬ……蘭丸殿。私が死ぬべきだったのに」


 後悔しても時は戻らぬ。

 光秀は立ち上がり、駆けつけてくれた家康らに向かって一礼する。


「ウッキー!」


 光秀の肩にポンと手を置いたのは秀長だ。


「ああ。私は本能寺内部へ向かう。もうこの炎の勢い、いつ崩壊してもおかしくない。皆々様はここで待機していてくだされ」


「そんな……光秀殿、水臭い。最期まで奇跡を起こしまするぞ!」

「私は行くわ。傍観者なんて死んでも嫌よ」


 家康とねねが即答すると他の全員が頷き、一斉に本能寺の内部へ走る。

 迷うことなく、二度と生きて帰れぬかもしれないのに。


 本能寺境内の木々の上で身を潜め、仲間たちの死を歯を食いしばって見つめていた、信長の近習の最期の生き残りの弥助も後を追う。


「見つけたぞ。時を繰り返す元凶。やっぱりあいつがそうだったか」


 信長からは時が巻き戻る原因を調べ、二度と巻き戻らないようにする命を受けており、弥助も賛同している。


(けど……この惨状、俺なら巻き戻るのを願うわ。……ああ、分かってるさ信長様。英霊ボール大戦も何もかも、この今で終わらせる)


 弥助の身体も、炎の中へと消えていった。

 この時、高野山の廟の一つ、羽柴秀◯の◯の部分のモザイクが外れ、羽柴秀吉と正確に刻まれた。


 ***


 信長様は左耳の上から出血し、倒れたままピクリとも動かない。


 嫌だよ。嫌だよ嫌だよ嫌だよ。

 こんな結末、絶対に認めるもんか!


 ——願え。完全なる未来を掴むために!


 信長様の側に駆け寄った私の脳裏に直接響く、再びの誘惑の声。


 ——織田信忠も、もうこの世におらぬ。息子のように可愛がっていたんだろ?


 プツン。

 私の中で何かが弾け飛んだ。


「英霊ボールどもよ! 私の願いを聞け! 今すぐ私を……」


 私の狂気に満ちた声は、そこで止まる。


「……ほえっ⁉」


 なんと信長様が私の唇を、自分の唇で塞ぎやがったのだ!


「の、信長しゃま⁉」


 ちょっ! なんちゅうタイミングで目を開けて私のファーストキスを奪いやがるんだよ。

 えっと、一応前周回の記憶もあるからそれ以上の記憶もあるんだけど、今周回は初めてなんだからね!


「ったく。声が裏返るほど動揺するか。笑わしてくれる」


 私を優しく見つめたあと信長様は立ち上がり、血まみれの顔をマウンドでお辞儀をしてくる泰朝とカネヤンに向けた。


「ちょっ⁉ 信長様、動いちゃ危ないって! センイチ! デッドボールでしょ! 勝負は信長様の勝ちでしょ!」


『ううむ。信長にカネヤンが直撃する寸前、ヒロミツが防いだからな。カウント、スリーボールで再開じゃな』


『ああ、危なかったが、オレもかなりキツい状況だ。信長、行けるか?』


「ああ、当然よ」


 信長様が立ち上がり、センイチとヒロミツが状況を確認している中、私はさっきの残像を思い出す。

 ……たしかにヒロミツが間に入って衝撃をかなり吸収してくれてるみたい。

 おかげで信長様は助かった。

 ……助かったんだけど、勝負は未決着のまま。


「ありがとう、ヒロミツ。でも全部防いでくれたら嬉しかったぞ」


『フッ。相変わらず真昼は要求が厳しい』


 ヨレヨレとヒロミツが信長様の肩に乗り、センイチが声を張り上げていく。


『カウントスリーボールからプレイ!』

  

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