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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
最終章【長谷川真昼最期の日、本能寺炎上編】

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第266話 長谷川真昼、生死不明中

 京に向かいたかった明智軍に、水色桔梗紋の旗はもう一本も残されていなかった。

 死屍累々に転がる、明智兵と牢人兵を見下ろしながら浮遊する英霊ボールは『ヒルマン』と『ヤスノリ』。


『降伏して、我らの本拠である臼杵城に行くもヨシ、牢人どもと京に攻めて下剋上するもヨシ。だったのに頑固だったネ』


『信長を救援する最大の兵力が消滅したのだ。我らの勝ちは確定したな』


 ただし、丹波亀山城や周辺諸国を攻略する兵も喪失してしまった。

 本能寺を襲撃している朝比奈泰朝率いる部隊だけで、信長亡き後の混乱を終息できるか難しくなったのもまた事実。


『風魔小太郎と加藤段蔵も未だ姿見せないし、痛み分けネ。まあ、ミーらはこのまま宗麟のところに戻るのもありネ。……でもヒロミツを降すチャンスも今しかないヨ』


『だな。センイチさんを倒す好機も今を置いて他にない。北条や島津の英霊ボール連中に先に倒されるのも癪だ』


 2球は頷き合い、本能寺に向かおうとした——のだが、後方より鬼気迫る殺意を感じ振り向いてしまった。

 それがヒルマンとヤスノリの間違い。

 一瞬見えたのは血塗れの斎藤利三と明智秀満の姿。

 次に感じたのは手の中に捉えられ、動こうにも動けぬ己の球体。


『は、離せ!』

『勝負は決したネ! ミーらは球体、ユーらは人間。無駄な抵抗したって無駄ヨ!』


 ジタバタ抵抗するも、ストレートを投げるかのように2本の指が縫い目に食い込まれて抜け出すのは困難。


「……球体と人の違いは見た目だけよ。我らの忠義を……舐めるな!」


 秀満の叫びに、2球に食い込む指の力が高まる。

 

「気力を尽くす覚悟を持たず、次の戦場を考えたのが己らの敗因」


 利三の、最期の生命力を燃やす力が球体を締め付けていく。


『『ぐおおおおおおおおお!』』


 それでもヒルマンはバフ『テキサス』を。

 ヤスノリはバフ『フルスイング』を。

 忠義? ああ、大事だ。ファイターズが大好きだ。大友家が大好きだ。

 けれども我ら英霊ボール、所詮は個人事業主。トレードもあれば引き抜きもある。

 生涯を捧げる覚悟があっても、理不尽に放出されることもあるのだ。

 羨ましい! 生命力を燃やしてまで主を裏切らぬ貴様らの立場が!

 ならば我らも全力を出すのみ!

 本能寺に向かうのも辞めだ。貴様ら明智軍の最期に全力で応えよう!


 ファイターズブルーとファイターズオレンジの輝きが未明の四条街道を照らしていった。


「「うおおおおおおおおお!」」


 やがて輝きは、人も英霊ボールの姿も消し去ったかのように白球色に爆発し、轟音が鳴り止むと秀満と利三はうつ伏せで倒れ、息絶えた。

 2つの白球も転がり、やがて意識を失ったまま本能寺へと吸い寄せられていった。


 ***


 二条御所近辺で偽明智軍に包囲されている信忠たちも、最期の時を迎えようとしていた。

 金属バットを振り回して100倍の敵との戦いを押していた信忠勢が1人、また1人と散っていく。

 偽明智軍は、公家邸の塀の上から弓矢を引き絞っては雨より激しく信忠たちに降り注いでいったのだ。


「おのれ公家ども! 敵に屋敷を貸すとは! ちいっ! 一騎討ち勝負もせぬ雑魚どもが! カハッ! ……長可、てめえに見せたかったぜ。この俺の大量打点をよ」


 団忠正が吠えながら弓矢をフルスイングで弾き飛ばすも、間髪入れず飛んでくる弓矢すべてに対応は無理であった。

 刻一刻と進むたびに、身体がハリネズミとなっていく。


「屋敷を占拠された可能性もあるのだ! 怒りは見える敵だけで十分! グッ……帰蝶……姉様」


 斎藤利治も、もはや気力だけでバットを振り回す状況。

 敵方の英霊ボール『クドウ』のバフ『正確無比』が続く弓矢によって、一本また一本と身体に矢が突き刺さってしまう。


「ハア、ハア、ハア……ウグッ! 五右衛門、京を……頼む」


 体力尽き、立ち止まった村井貞勝の背中にも無数の矢が突き刺さっていった。


「もはやこれまでか。父上、真昼様、救援に行けず申し訳ない。……八重緑、三法師……強く生きろよ」


 信忠の命を燃やす咆哮に、一瞬、敵が怯んだ。

 その隙を見逃す信忠ではない。跳躍し、英霊ボール『アキヤマ』に向けて金属バットのフルスイングを放つ。


 スカッ。


 アキヤマのバフ『バク宙』が発動し、信忠の一閃は空を斬った。


『終わりだ。常勝ホークスに勝てるチームなど、この世の未来にも過去にもない』


 信忠の落下していく先で、偽明智軍が槍を構える。


『さらばだ。貴様が作る世も、さぞかし僕ら好みだったろう』


 アキヤマとクドウは、他に生きて、この状況を覆せる脅威がいないかを冷静沈着に周囲を確認した。

 大鷹は、例え相手が死体になろうが油断しない。

 奇跡の芽は徹底的に潰す。

 それが常勝を義務付けられた監督の常識。


 ——だからこそ、2球は信忠に敗れた。


 アキヤマとクドウが布で包まれる。


『なっ……マントか。フルスイングは、このマントを上空に飛ばすためだったか』

『冷静に対応すれば問題ない。我らの視界を奪ったところで……』


 ガコッ! ゴツッ!


 信忠の投げた金属バットが空を舞い、マントに包まっていた2球は激しい痛みで気絶し、本能寺の方角へと飛ばされていった。


「……我が役目は果たした」


 小さく呟き、信忠の身体は槍を構える敵兵が待ち構える地面に落下する。


「大手柄じゃ! 奴の首を必ず取れ!」


 信忠は最期に火薬の入った瓶を懐から取り出し、微笑した。


「我が遺体! 誰の手柄にもさせぬ! 全員、俺の地獄への旅路に付き合ってもらおう!」


 数秒後、爆発音が京の都に響き渡った。


 ***


「そんな……!」


 霧隠才蔵の手助けもあり、京に辿り着いたねね率いる長浜猿軍団は、謀叛軍優勢の状況に絶句するも歩みは止めない。


「ちっ! ここまで大規模な謀叛だと?」


 才蔵も愕然とした。

 百地丹波様は? 猿飛佐助は? 信長の周りに手練がいてこの状況では、信長様も信忠様も、あの長谷川真昼も生存は絶望的だろう。

 一旦上野まで至急戻り、滝川一益様を支えるべきか。

 思案が定まらない。

 それほどまでに動転する事態だった。


 二条御所付近まで進軍すると、信忠の側仕えの者たちの遺体が次々と目に飛び込んできた。

 進軍を阻む、水色桔梗紋を掲げる兵たちも。


「「「「ウキャキャノキャー!」」」」


「クソッ! やるしかない。忍法・霧隠の術進化版をとくと見よ!」


 猿軍団が応戦し、才蔵も敵の視界だけを奪う霧を発生させる。


 状況を確認するねねは、村井貞勝の遺体を抱いて泣き崩れる五右衛門を見つけた。


「……羽柴ねねか。ハハハ、真昼の姉ちゃんに頼まれ、秀吉様に伝言していたんで、村井のおっちゃんを守るの、間に合わんかったわ」


「……ごめん」


「……しゃあない。これがおっちゃんの選んだ道や。どんだけ京を安寧にしても、権力争い一つでぶっ壊れるなんてな。……ワイは闇に戻るで。二度とワイの目の黒い間に京を燃やすもんか」


 ねねは何も言わず、消える五右衛門を見送った。


「……本能寺の外側も地獄だった、か。それでも私は進むしかない。本能寺の中へ、秀吉様——帰蝶様のために」


 ねねは火縄銃を手にし、轟音を轟かせていった。


 ***


 安土城にいる市たちに、京の異変の第一報を知らせたのは蒲生氏郷であった。


「申し上げます! 京の空が炎に包まれ、次から次へと耳にするのは明智光秀様謀叛!」 


「……なんですって? 真昼とお兄様……それと信忠の安否は?」


「不明! ですが包囲された京を脱出は困難! ここは一旦、我々も日野城まで退去を!」


 氏郷率いる蒲生兵に護られながら、市と子供たちは移動を開始する。


「お母様……あの真昼が死ぬなんて、とても信じられません」

「信長叔父様もです。殺したら十倍返しされる気しかしません」

「信忠お兄ちゃんが死んじゃったら、誰が天下を獲るのです?」


 茶々、初、江が不安そうに母の市に訊ねる中、市は今後のことを考えていた。


(氏郷は才覚は抜きん出ているけど、大軍も所持していなければ野心もないわ。信雄や信孝に器量はない。おごとくはこのまま家康の背後で暗躍するはず。秀吉になってる帰蝶姉様に協力する? いや、それでは私が従になる可能性が高い。……なら、権六を使うか)


 市はクスクスと笑う。

 そんな母を娘たちは不思議そうに見つめた。


「今後、何が起きようが、あなたたちも織田の血が流れてるわ。……誰が天下を獲る? 自分が獲る道を目指すのよ」


 母の言葉に、三姉妹の不安と不思議な気分は消えていき、やがて見上げた顔は意思に満ちていた。


「さすがお母様! この茶々、必ず天下を獲るわ!」

「初も負けない! 真昼のように強くなる!」

「江だってやってやる! おなごと舐めた男は全員切腹させる!」


 娘たちの返事に、市は満足げに頷いた。


(野球の神とやらが真昼を召喚したのよ。私だってやってやる。……待ってて真昼! 呼べなかったら私が行くわ!)


 護衛している姫たちの邪気を浴びながら氏郷は、信長様……真昼様……信忠様……お願いだから無事で、と、強く願っていった。

 

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