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囮の覚悟

 一足先に自室へと戻ったマコは、自身の計画を着々と進めていた。アベルの力に対抗するため、彼は独学で習得した知識を元にあるものの開発に没頭するが……?

 部屋へと戻ったマコは、自身の机に置かれていたパソコンを起動させ、その間に机に備え付けられている引き出しから数冊のノートを取り出した。

(どこまで進めてたっけな……)

 付箋で厚みの増したノートを開き、指を滑らせ最後の痕跡を辿る。

「コードの記述が終わったくらいか……」

 進捗を確かめたマコは起動したパソコンを触り始め、一つのファイルをクリックした。ファイルには「ガーディ」と付けられている。

「ルナの話じゃ、ここからモジュール化っていうのをやって、動作確認をしないといけないんだったよな……」

 マコは再び手元のノートを見た。貼られている付箋には「一回では絶対成功しないので、先を長く見据えておくこと」と発明家である友人からのアドバイスが書かれている。

「なるべく早く完成させたいんだけどな」とマコは独り言を溢してから、キーボードを打ち込み始めた。


 ……作業を始めて数時間。入相の鐘が鳴ったのに気づいたマコは、一旦パソコンの画面とのにらめっこを止め、畳の上に寝転がった。

「あ〜……肩痛ぇ……!」

 寝転がった状態のまま腕を頭上へと運べば、凝り固まった肩が音を立てた。肩だけではなく、目も疲労で視界が霞んでいる。

 マコは手探りでノートを手繰り寄せ、そのまま目を休ませるように自身の顔へと被せた。

「……」

 目を閉じれば、脳裏にかつて治療を補助したアニマヒューマノイド――……フレディの顔が浮かぶ。マコは彼や、彼の弟妹たちを思い浮かべながら、あることを考えていた。

(ガーディが完成したとしても、テストをしないといけない……でもそれをフレディたちに頼むのはちょっと気が引けるな……アベルがまたあの子たちを狙う可能性だってあり得るわけだし……)

 うとうとと瞼が重くなってくる。マコはそれに抗うことなく瞼を閉じた。

(何か良いテスト方法はないもんか……)

 思考を巡らせていたマコだったが……極度の集中により限界が来たのか、そのままうたた寝を始めてしまった。


「……コ、マコ……」

 誰かの呼び声でマコは目を覚ました。彼は顔に被せていたノートを退かし、声の主を確認しようと身体を起こした。

「姉さん……?」

「もしかして寝てた? なら起こしちゃ悪かったかしら……」

「いや……」とマコは欠伸をしながら答える。ついで「何の用?」と尋ねれば、マミは呆れた様子で言った。

「夕飯出来たから呼んできてって、御母様に頼まれたのよ」

「もうそんな時間……ありがとう、起こしに来てくれて」

「いいわよ別に。それより……」

 マミは机上のパソコンを指さして尋ねた。

「あんた何してたの?」

「何って……」

 マコは髪を軽く掻きつつ「()()()()()()だよ」と返した。

「ソフト……? あんた機械系統疎くなかったっけ」

「……フレディたちの騒動の後、色々勉強始めたんだよ」

 マコは続けざまに言う。

「烏天狗のアオバさんから貰った報告書にさ、アベルがあらゆる機械にバグを起こす力を持ってるって書いてあっただろ。それで俺は一回、痛い目に遭ったからな……どうにか対策できないかって考えて、ソフトを作ることにしたんだ」

 マコの話を聞きながら、マミはノートのページを捲った。大量の専門用語やそれに関するメモが、ノートの隅々にまで書き連ねられている。

「……これだけの量をあの騒動の後に集めたってわけ?」

「あぁ。神々廻で機械系統に強いヒトの所を片っ端から訪ねまくったよ」

「へぇ……」

 マミは更に尋ねた。

「完成したら、フレディくんたちや例のジャズってアニメヒューマノイドにも導入するつもりなの?」

 その問いに、マコは「いや……」と首を横に振った。

「正直……フレディたちを、これ以上アベルに近づけたくないと思ってる。でも……いきなりジャズに導入もしたくない」

 マコはどうしたものかと唸った。それと同時に、彼の腹の虫が情けない音を立てる。

「……その辺は休憩がてら、夕飯を食べた後に考えてみたら?」

「……そうする……」

 マコは頷いてから一旦ノートを片づけ、パソコンの電源も落とした。


 ……それから夕飯と風呂を済ませたマコは、再びパソコンの画面とにらめっこをしていた。部屋にはただ、キーボードを打ち込む音や、マウスのクリック音だけが響いている。

「……」

 はた……と突然音が止み、部屋全体が静寂に包まれ、マコは大きく息を吐き出した。

「終わった……!」

 マコは小さくガッツポーズを取り、壁にかけられた時計を確認する。時刻はやがて、日付けを跨ごうとしていた。

(あとはテスト方法を見つけるだけ……)

 そうマコが意気込んでいると、襖の向こうから声がした。

「――マコ、まだ起きてる? ちょっと相談したいことがあるんだけど……」

 声の主はマミだった。マコは立ち上がって襖を開け、彼女を部屋に入れる。

「ごめんなさいね、作業中に」

「いや、とりあえず完成はしたから大丈夫。問題なのは夕飯前にも言ってたテストだけ」

「そのことなんだけど……」とマミは懐から自身の端末を畳の上に置いた。

「私でいいなら協力させてくれないかしら」

 マコは瞬きを繰り返した。

「そ、れは……ありがたいけど……ホントにいいの?」

「えぇ。そのソフト、グリッチバスター? っていう機能の他に、予定の管理とか色々備わってるんでしょ?」

「私も……色々準備をしないといけないから、そういうサポートがあると助かるの」

 マミはマコの目を見て、「ダメかな?」と尋ねた。

「全然ダメじゃないよ。むしろ助かる……ありがとう、姉さん」

 マコはマミの端末を手に取り、「早速ソフトを入れてみていい?」と許可を取った。

「もちろん」

 マコは端末をパソコンのコードに接続すると、キーボードを打ち込み始めた。

「使用中、何か動きに問題があったら遠慮なく言って。その都度修正するから」

 インストールが完了したのか、マコは端末の接続を解除し、マミへそれを返した。

「ありがと」

 マミの端末には「ガーディ」と表記されたアイコンがあり、ヘビが錠前を守るように包みこんでいた。

「……ねぇ、マコ」

「ん?」

「囮の件……本当に良いの? 今ならまだ、断ってもいいのよ?」

 そう告げるマミの瞳には、憂色が混ざっていた。それに気づいたマコは、笑って答えた。

「姉さんが動きやすくなるのと、ジャズたちを守れるなら囮冥利に尽きるよ」

「そうだ」とマコは何か閃いたのか、マミにあることを確認し始めた。

「姉さん、ジャズの勤務先のオーナーと知り合いなんだよな。それなら、俺のことを臨時カウンセラーとして紹介してくれないか?」

「……それも頼もうか考えてたところよ。向こうの許可が下りたら、すぐ行かなきゃいけないかもだけど……大丈夫そう?」

 マミからの問いに、マコは「平気」とだけ返した。

「ガーディの調整とかなら、パソコンさえあればどうにかなるし、俺以外のヒトが開けられないよう設定もしてるから問題ないと思う」

「なら良いわ。その代わり……潜入した後は、何時でもいいから連絡を入れてちょうだい」

「……あんたから連絡が来なくなったら、すぐファンタイムプレックスに殴り込むから」

「殴り込みは冗談だろ」そう苦笑混じりにマコが尋ねるも、マミは目を据えて「本気よ」と答えた。

 マミの言葉が冗談じゃないと気づいたマコは慌てて言った。

「分かった、分かったから!」

 するとマミは目つきを和らげ、「約束だからね」とマコの頭を撫でた。

「話したかったことはそれだけだから、私は部屋に戻るわね。お休み、しっかり休むのよ」

「……」

 マコは撫でられた箇所にそっと手を添え、微笑を浮かべた。

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