67.センサーチャイム
どうしたのかと思って、ふと見ると、男は電柱にへたり込んでいた。
ついさっき犬の小便した所で、ズボンが濡れてしまっている。
男の目の行き先を見て、歌が止まった理由が分かった。
俺は、店に引き返して、澄子に110番するように言った。
○月〇日。
俺が澄子の店の閉店を手伝い、暖簾を中に仕舞い込んでいる内、酔っ払いの歌が聞こえた。
ははあ。隣の那珂国風料理屋で、ビールでも引っかけたかと思っていたら、歌声が途絶えた。
どうしたのかと思って、ふと見ると、男は電柱にへたり込んでいた。
ついさっき犬の小便した所で、ズボンが濡れてしまっている。
男の目の行き先を見て、歌が止まった理由が分かった。
俺は、店に引き返して、澄子に110番するように言った。
俺のスマホでも110番出来るが、場所の説明は、固定電話の方が分かりやすい。
どの道、聴取されるのだ。
俺は、酔っ払いに可能な限り聞いておいた。
男は、「焼きそばどころ」から出て、電柱で小便しようとしたら、胸騒ぎがして、振り返ると、死体があった。
付近には、犬一匹おらん。ここは袋小路になっていて、「焼きそばどころ」の前は貸しガレージだ。ホシ(懐かしい響き)は、引き返して表通りに出たことになる。
遺留品があるとすれば、その途中だ。
「焼きそばどころ」って変な名前だが、前に那珂国人に絡まれ営業妨害されたことがあるので、改名したのだ。袋小路にある店だから、所謂『いちげんさん』は少ない。殆どがなじみ客だ。皆、諸手を挙げて改名に賛成した。
中身は、今まで通り、中国風料理店だ。
間もなく、駐在がやって来た。男がしどろもどろの状態なので、先ほど聞いた話を、身分を明かした上で駐在に『通訳』してやった。
「このフェンス、鉄条網ですね。」「前に、犯人が逃げたから、貸主が付け替えさせたんですわ。」
「じゃあ、やっぱり引き返して表通りに出たんでしょうね?」
間もなく、パトカーと救急車が来た。死体でも救急隊員が運ぶことになっている。。恐らく刺し傷で解剖ということになる、と見ていい。
俺は、瞬時に『ナイフガン』のナイフでないことを見て安心した。
『ナイフガン』とは、那珂国マフィアが開発した、ナイフが飛び出す銃だ。
特殊な形の銃だから、量産は出来ない。だが、ナイフは別だ。
最近は、ネット経由で買えるようになった。無論、正規のルートではない。
「アルフィーズ』と名乗る輩が、オツムがアレな若者をけしかけて罪を犯させる。
残酷と言えば残酷だ。学校で刑期のことなんか教えないからな。
待てよ。
ふと思いついた俺は、ホームセンターに走った。
翌日。明け方。
店の玄関先でストーブ焚いて仮眠してたら、寝入っていた。
その俺を起こしてくれたのは、澄子でも倉持でもない。
俺は、店の引き戸を開け、ガレージの近くのフェンスの向こうから、センサーチャイムの光が見えた。
フェンスの所にいたのは、昨日の酔っ払い。持っているのは、血で汚れた雨合羽の上着。
男の向こうに、センサーチャイムの子機を持った警察官や刑事が見えた。
刑事は言った。「調べの後、事務所に連絡します。ご苦労様でした。」
昨日、夕方、雨がぱらついた。隣のオヤジに尋ねると、男はそんなに長居していなかった。
座っていない席の方に、畳んだ雨合羽があった。
これだから、「第一発見者が怪しい」と言われるのだ。
俺は、センサーチャイムをホームセンターで購入し、俺と警察官のチームで子機を持ち、雨合羽に親機をくるませた。
奴が「回収」しに来るのを待っていたのだ。
店に戻ると、ネグリジェ姿の澄子がドリンク剤を差し出し、店の引き戸を閉め、施錠した。
待ち伏せしていたのは、俺達だけでは無かった。
俺は、澄子に「逮捕連行」された。
―完―
このエピソードは、既に他のサイトで公開した作品ですが、よろしければ、お読み下さい。




