帰らずの森
外に飛び出た俺達を出迎えたのは大量の兵士、まぁこれは想定済みだ。すでにレンが瓶を地面に投げつけ、今度こそ包囲網を抜けきり、街と思しき場所を一気に抜けて近くの森へと逃げ込んだ。もう思念通話は切っていいだろう。
「いやハチャメチャ疲れたんだが」
「お疲れ…」
「全員、怪我はないか」
「ないよ」
「兵士殴った所擦り剝けたわ」
「あ、トモさん見せてください」
怪我した部分を見せると、ミコが手をかざした。ほわっと光って秒で傷が無くなった。すげーな完全にゲームかファンタジーじゃんと笑えばそうでしょーとミコがにっこりした。突然怖い事を言い出したりするけれどちょこちょこ子供みたいな笑い方をする子だなと思った。
「んで、これからどうする?」
「とりあえず、この国から出ようかと思う。どうせ指名手配はされるだろうし、その方がいいと思う。行動を一緒にするかとか、細かい事は落ち着いてからにしないか?」
「んあ~俺一緒に行動するもんだと思ってたわ」
「目的が一緒で敵じゃないってだけで他人ですしね」
「まぁ後から考えようよ、一緒にパーティ組んだ方が良いかもってなるかその時まで解らんし。レン、国から出るって言うからには」
「道解るよ、行こうか」
あっち、と歩き出すレンについて行く。別行動って頭があるのはとても良かった。別に今すぐ別れたい訳ではないけど、団体行動は苦手だし。でも、地図を出さないのはホント学者だけに頭いいなと思ったよ。
「追手が来たらこの戦力じゃ無理だもんね」
「いや一応それは危惧してたけど、どっちかと言えばトモの飯を離す訳にいかなくて」
「は?」
「あぁは言ったけど美味い飯の為なら何が何でもお前を口説き落とす所存」
「ちなみにですが」
「総意です」
「逃げ場は」
「自分が作るとはいえ新しい食材とか食いたいだろ?メリットから話そうか?」
「キレそう」
「大丈夫か?ミコ呼ぶ?」
「今はやめて女に弱いんだわ」
「正気?」
「はぁ~???優しいだろぉ俺ぇ」
「魔法部隊に女いたけど死ぬ時笑ってたからド外道だと思ってたよ」
「敵だし。てか口説き落としたいのか貶したいのかどっちだ」
「褒めてるよ」
腹立つわ、と顔に出すと後方から「短気はハゲですよ」と僧侶様から有難くもないお言葉をいただいた。喧しいわ。
さて、レンの見立てでは森から抜けるのに四人の足で三日はかかるだろうとの事。慣れない場所だしちゃんとした装備も無い中、慎重に進むのは賛成である。ただ、危惧すべきは追手が来ないかどうかである。夜になり、獣避けに火でも焚けば煙で見つかるだろうし。
「一々追い返すのも面倒だしなぁ」
「あ、なら大丈夫だと思うよ」
「お、学者殿なんかあるんか」
「この森、”帰らずの森”って言われてて国の人誰一人立ち入らないんだって。なんか凄い獰猛なモンスターがいるらしいよ」
思わずトモとケン、ミコは顔を見合わせてしまった。コイツマジ?マジ。そんな危ない情報をもたらした割にめちゃくちゃ平気そうな顔をするレンにちょっと引いた。するとそれに気付いたレンが苦笑する。
「あのね、急いで入ってから気付いたんだから仕方ないだろ。でも獰猛の後にね、良い事書いてあってさ」
「なんですか」
「[トールベアーといえば、どんな高級食材にも劣らぬ美味な肉を持つ。動物というのは大きいと美味くないがどうもこのモンスターは大きければ大きい程旨味が増すらしい、あれに勝てる者はまずいないので確かめようがないが。小さなトールベアーを食した事があるが、なんとも言えぬ、まさに天にも昇る心地であった。帰らずの森の主は家一軒程あるという、死ぬ前に一度食してみたいものだ]」
ケンとミコはなんだそりゃ、と笑った。二人共現実主義な所があり、天にも昇るなんて言われてもその人の主観であろうと思っていた。どちらかというと家一軒もある、ベアーというからには熊なんぞ目の前に出たらビビり散らかし尻餅をつくだろう。
だがレンは割とガチな目をしていた。お前そんな食いしん坊なの?とケンに問われて即答で美味い飯は心を潤すんだよと答えた。ケンもミコも溜息を吐いてそれでも危ないんじゃないかと言ってから先程からなにも言葉を発さないトモを見た。するとトモはとんでもない勢いでレンの手を掴んだ。
「お肉だいしゅき…」
「あんな美味い飯作れるんだからトモなら解ってくれると思った」
「野郎共!!野営地を決めて作戦会議だ!!」
「マジかよ」
「まぁどんなお肉でもトモさんなら美味しくしてくれますか……」
「あれ?俺の意見は??」