夏原葉月と夏原智樹
ざっくり言えば、そこはごく普通の男子高校生の部屋だった。
六畳一間。
机。机の上には参考書だけ。テレビにDVDプレイヤー。ベッド。
本棚に詰まった風変わりな本だけは、智樹ならではのものかもしれない。
全体的によく整理されている。
「何かわかりそうですか?」
「どうかな。書き置きはなかったんだよね?」
「紙きれ一つありませんでした」
「うーん」
和弥はぐるりと部屋を見回した。
何か変わったものはあるか?
何もない。
壁にある拳銃の弾痕、みたいなわかりやすいものを探しているわけではないが、あまりに何も変わったものがない。
本棚のあたりを調べながら、ふと和弥はあることに気づいた。
「あるはずのものがないな」
「あるはずのもの?」
「DVDプレイヤーのリモコンがない」
「え……本当ですね。気づかなかった」
「テレビのリモコンは机の上にある。なのに、DVDプレイヤーのリモコンはない。つまり、だ」
和弥はかがみこんで直接、機械に触った。
DVDプレイヤーのリモコンを、誰かが持ち去った。
なら、それと関係して、何か隠すべきものがあるのだ。
DVDを再生してみる。
何も映像が流れなかった。
和弥と葉月は顔を見合わせた。
どういうことだ?
和弥はDVDを取り出した。
「何も書かれていませんね」
「そうだね」
無地の白いディスクは、タイトルも何も書かれていなかった。
これは、手がかりにならないかもしれない。
そのとき、プレイヤーの、ディスクを置く場所に一枚の紙切れがあることに気づいた。
ディスクの下に隠れていたのだ。
「書き置き、かな?」
紙のサイズは指先ほど。
質からすると新聞紙。
ボールペンで殴り書き。「0703」と書かれている。
「0703? なんのことでしょう?」
「四桁の数字だ」
「それはわかります」
「頭に0がついているんだから、わざと四桁にする必要があったんだ。何かの暗証番号かな」
「何の暗証番号です?」
「それはわからない。けど、この紙、預かってもいいかな?」
「智樹くんを探すのに使ってくれるのなら」
「もちろん」
和弥は紙切れをポケットにしまった。
「たぶん、これ以上はなにも見つからなさそうだ。一つ質問させてもらっていい?」
「変な質問でなければ、いいですよ」
「葉月は東雲さんと仲が悪い?」
「はっきり聞くんですね」
葉月は少し呆れたように言い、ため息をついた。
「たしかに、私はあの人のことが嫌いです」
「理由は?」
「わかりませんか?」
「想像はいろいろできるけど、本当のところはわからないよ」
「どうしても、言わないとダメですか?」
「話したくないなら話さなくてもいい」
葉月は目を伏せ、それから顔を上げてはっきりと言った。
「東雲先輩のせいで、智樹くんと和弥兄さんは、喧嘩したんですよね?」
「そんなことはないよ」
「でも、東雲先輩は二人を天秤にかけた」
「そして、智樹を選んだ。それは事実かもしれないけど、それだけの話だ」
「あの人は自分勝手です。智樹くんのことも、和弥兄さんのことも考えていない」
「そうでもないと思うけどね」
「なのに、二人とも、なんであの人ばっかりに構うんですか? 遊びに行くときだって、私のことは一度も誘ってくれなかった!」
葉月は激しい口調で言ってから、後悔したように顔を赤らめた。
「いま言ったことは全部、忘れてください。そのかわり、和弥兄さんが智樹くんを嫌うようになった本当の理由を聞かせてくれませんか?」
「聞いたら、失望するよ」
「智樹くんにですか? それとも和弥兄さんに失望する?」
「両方に。それでも聞きたい?」
「はい」
「智樹は学校でタバコを吸っていた。バレそうになって俺に罪をなすりつけた。これが理由だよ」
和弥は葉月の反応を待った。
葉月はしばらくの沈黙の後、とんとんと足を踏み鳴らした。
「嘘……ですよね?」
「本当だよ。信じたくないなら、それでもいいけど」
和弥は智樹の部屋から出た。
もう、ここに用はなさそうだ。
制服の袖をつかまれた。
葉月が指先で和弥の服を引っ張っていた。
口を開いた葉月の言葉は、思った以上にか細いものだった。
「ごめんなさい」
「何が?」
「智樹くんのせいだったんですね。二人が仲違いしたのは」
「智樹には智樹の言い分があると思うよ。少なくとも、葉月が謝ることじゃない」
「でも、私は智樹くんの妹ですから」
「葉月は俺のことも『兄さん』って呼ぶじゃないか」
「でも、和弥兄さんは本当の兄さんじゃないです」
「智樹とだって血はつながっていないんだろう?」
和弥はさらっと言った。




