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What Remain  作者: 雲居瑞香
過去編
60/66

episode:0-13









 中も雰囲気があった。メアリではないが、これしかない、という感じだ。中は正しくおどろおどろしい。血痕くらいで怯えるリリアンではないが、長くここにいるのは嫌なので早くアレックを見つけようと思った。


「そこの娘!」

「は、はいっ」


 声をかけられて素でおどろくリリアンである。誰も見てないくてよかった、と無駄に自尊心の高い彼女である。振り返ると、そこには白衣を着た三十歳前後の男性がいた。この研究所の研究員のようである。


「な、何でしょう」


 そのまま気の弱い少女のふりを続けながら、リリアンは尋ねた。

「見ない顔だが、新入りか? これを第三実習室に運んでくれ」

「第三……?」

「……本当に新入りなのか。三階の、一番奥の実習室だ」

「わかり、ました」

 リリアンはとりあえず箱を受け取る。どうやら、裏口から入ってきたので新しい下働きかと思われたらしい。

 とりあえず、怪しまれないように言われたとおりにする。荷物を運んでいれば、研究所の人間だと思われるだろう。

 教えてもらった場所、三階の一番奥の部屋へ。一番奥がどこを示すのかはよくわからなかったが、正面から見て一番奥の部屋に向かった。大きく間違ってはいないだろう。たぶん。


 そこは実習室、というだけあり、様々な機械が置かれていた。何をしているのか想像したくもないが、リリアンは何となく察して目を細めた。

「……さて」

 中に入ったはいいが、アレックがどこにいるかわからない。リリアンは戦闘力が高いわけではないので、強化魔導師に襲われればひとたまりもない。

 廊下を歩く彼女は、強化魔導師ばかりに気をとられていた。そのため、討伐師パラディンである自分の本分を忘れていた。


「っ!」


 背中から衝撃が襲い、リリアンは床にたたきつけられた。すぐさま飛び起き、メアリに渡された拳銃を引き抜いて襲撃者の方に銃口を向けた。リリアンは顔をしかめる。


「ヴァルプルギス……!」


 カーライル侯爵領を動いたことがなかったリリアンは、討伐師であるが戦闘経験はほとんどない。

 人を食らう化け物、ヴァルプルギスの討伐は原始的だ。剣や槍、弓矢の方がエクエスの力とも呼ばれる浄化能力が伝達しにくいからである。魔法で制作した者ならともかく、通常の銃を持つリリアンにほぼ勝ち目はない。いや、素手や魔法で絶対に倒せない、というわけではないがリリアンには無理だ。

 ヴァルプルギスは人型が多く、人よりも丈夫だ。とにかく、リリアンは後ろに下がった。すぐ壁にぶつかり、リリアンはしゃがんでヴァルプルギスの脇をすり抜けた。

 拳銃は持っているが、撃ちたくない。別に博愛主義とかそう言う意味ではなく、発砲音がうるさいからである。誰かに気付かれたくない。


「リリアン!」


 リリアンの右肩の上を剣が通過していった。そのまま、ヴァルプルギスを剣が貫く。バランスを崩したリリアンを、誰かの腕が力強く支えた。

「大丈夫か?」

「……ああ……君を探しに来たんだ」

 リリアンは自分の頭上に見える顔を見上げ、言った。リリアンを支えていたのはアレックだった。アレックは「そうか」と答えるとリリアンを抱えたまま後ろに下がった。先ほどの一撃で、ヴァルプルギスが倒せるわけがない。

「リリアン、援護を頼む」

「了解」

 いろいろと聞きたいことはあるが、それは後回しだ。まずは目の前のヴァルプルギスを倒す。

 リリアンが魔法を練り上げ、発動する。そのまま待機させ、アレックの動きに合わせて放った。リリアンの攻撃魔法ではヴァルプルギスを倒せないので、リリアンは完全に援護になる。

 アレックがヴァルプルギスの首を落とした。基本的に、人間と急所が同じなので、これで動いて来たら怖い。

「どうする? 片づけるか?」

「そのままにしておけ。時間がもったいない」

「了解」

 リリアンが放置を言い渡し、二人はそろって場所を移動した。リリアンは物置になっている部屋を発見し、とりあえず中に入った。


「で、一応確認するが、お前、正気か?」

「自分では正気のつもりだ」


 アレックは真顔で言った。というか、リリアンも真顔なので、結構面白いことになっている。ツッコミが誰もいないが。

 まあ、後ろから襲われたら、強烈な精神干渉魔法をお見舞いしてやろうと思い、リリアンはそれ以上掘り下げないことにした。きりがないし、リリアン一人では戦闘力が心もとないのは事実だ。

「……助けにきた……と言いたかったんだが、助けてくれてありがとう」

「いや、たまたまだ」

「その険、どこから持ってきたんだ? そもそもどうやって逃げ出してきた」

 リリアンが物置にあるものを物色しながら尋ねた。エプロンを外すのをアレックが横目で見ていた。

「実験室のようなところに閉じ込められていたんだが、力ずくで逃げてきた。剣は適当に拝借してきた」

「……まあいい。たくましいな」

「褒められたと思っておく」

 敵同士として出会ったころ、まったくしゃべってくれなかったのだが、別に無口なわけではないアレックである。リリアンは古い時代の魔導師が羽織るようなマントを見つけて肩から羽織った。うん。魔導師っぽい。


「お前がどうやってきたのかも気になるが……とりあえず、これからどうする」

「そうだね……」


 互いがどうやってここまでたどり着いたのか謎であるが、すぐに行動すべきだとリリアンも判断した。アレックが逃げ出してきたのなら、間もなく騒ぎになるはずだ。

「……私は、王都でブルックス公爵夫人のメアリと接触した。彼女が城門を開けると言っていた。それで、私は宮殿を制圧しろと送り込まれたんだが……」

 リリアンも逃げ出してきたので、そろそろ騒ぎになっているだろう。だとしたら、彼女らが取るべき行動は。

「とにかく、私たちは宮殿を制圧したい。制圧するには、マイケル・トラジェットと対面する必要があるが……」

 ここでも顔を知らない、という不利な状況。写真でもあればよかったのに。まあ、写真があっても、リリアンのような精神干渉魔法を使う魔導師が相手だとあまり意味がないのだが。


「……ブルックス公爵」

「ブルックス公爵? 俺の記憶が確かなら、宮殿の地下に監禁されているのではなかったか?」


 アレックがそうしてリリアンと対話をするように意見を言ってくれるので、リリアンにも気づきがある。未熟な彼女は、そうやって口を挟んでくれる方が考えをまとめやすかった。


「そう。ブルックス公爵に会いに行きたい。宮殿を制圧するのなら、公爵の協力が必要だ。私たちだけではできない」


 ブルックス公爵は宮廷官僚だ。もちろん、宮殿内のことには詳しいだろうし、おそらく、リリアンたちにも協力してくれる。と思いたい。とにかく、今のままでは宮殿制圧は不可能なので、誰かの協力が必要なのだ。リリアンたちが持っている手札の中で使用可能なのはブルックス公爵のみである。

「俺は宮殿のつくりはよくわからないんだが……」

「……大体のつくりは頭の中に入っているが……」

「……」

 何となく不安な二人組である。しかし、ここにはリリアンとアレックしかいないので、やるしかない。

「それに、まずは……」

「ここからどうやって出るか、だな……」

 廊下では、人々が急ぐ足音が聞こえていた。リリアンが顔をしかめる。

「面倒だな……一芝居うとうか」

「お前に芝居なんかできるのか?」

 とりあえず、リリアンはアレックの足を蹴った。まあ、確かに得意だとは言えないが、できなくはないだろう。たぶん。


 やっぱり不安が残るコンビであった。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


このときはアレックを探し出せなかったリリアンが、本編最終章では探し出せる、という成長。


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