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What Remain  作者: 雲居瑞香
過去編
57/66

episode:0-10










 北の方はハイランドが陥落したことで、実質的にマイケル・トラジェットの支配下になると考えてよいだろう。カーライル侯爵領も中央北寄りで、領地の軍もまるまる生きているはずだが、うかつに動かせない。ハイランド側から攻め込まれた時の防衛がいるからだ。そう言う意味で、カーライル領主館は砦として優秀なはず。

 援軍を求めることはできないが、特に心配しなくても北から攻め込まれることはないはず、というのがリリアンとウィルの見解だった。

 アーサーの味方は少ない。敵は少しでも少ない方がよかった。


「アーサー殿下の軍として兵力五千……まあまあですかねぇ」


 ウィルが言った。リリアンは実際の戦を経験したことがないのでわからないが、近代的な戦争の兵力としては少ないのではないだろうか。しかも、全員が全員戦闘員なわけではない。

 だが、これは戦争ではない。ただの御家騒動。もっと簡単に言ってしまえば、大規模ないとこ同士の喧嘩だ。リリアンも言った通り、結果ははじめからわかっている。後は、どうやってアルビオン宮殿を取り戻すか、だ。


「まず、ロンディニウムに入るには城門を開ける必要があるからな……」


 そう言ったアーサーの髪は、肩までになっている。不ぞろいだったアッシュブロンドは、リリアンの手によって整えられた。初めてだったのでうまくできるかわからなかったが、とりあえず見られるようになっている。アーサーは髪を切ってもアーサーのままで、美しい王女殿下だ。

 ちなみに、リリアンが髪を切ると少年のようになる。まあ、兄のウィルに似ている、と言われることから推して知るべし、と言ったところだが。兄もリリアンくらいの年のころ、中性的な顔立ちの貴公子だったらしい。貴公子って何。いや、意味は分かるのだが。

 その貴公子は今、ロンディニウム攻略戦に関して熱弁を振るっている。


「いやだから、ロンディニウム城壁を突破するのは事実上不可能で、中から開ける必要があるんだって!」


 まあ、当然である。後に内戦と言われるが、現時点では小競り合いと言った方が正しいレベルの争いで、正当な王位継承者であるアーサー側が戦争を起こすいわれはない。

「ならば、中から開けるということか? さすがに検問を突破するのは難しいぞ」

 クライドが意見をする。確かに、ロンディニウムに入るための道はすべて検問が敷かれている。しかし、簡単に通ることができる方法もある。


「捕虜になればいいのでは?」


 リリアンがしれっと言った。すると、ウィルが「おま、あえて言わなかったのに!」と叫ぶ。どうやら、彼も気づいていたようだ。当然か。リリアンが気づくくらいだし。

「……効果的ではあるが」

 サムが顔をしかめる。一度出てしまった意見なので、ウィルがため息をついて言った。


「捕虜として捕まるのなら、リリアンだ。能力的にも条件的にも……運が良ければ、殿下と間違われる可能性がある」


 アーサーとウィルの顔を知らない相手につかまることが条件だが。体格は、まあ、リリアンとアーサーは似ているかもしれない。リリアンの方がやや背が高く華奢であるが、顔立ちはアーサーの方が女顔。顔立ちを見れば、確実にばれる。

 加えて、リリアンは兄のウィルに似すぎていた。ウィルを知っている人物であれば、リリアンの顔からウィルを想像する。それくらい、この兄妹は似ている。

 それでも、リリアンの強力な精神干渉魔法を考えれば、捕まるのは彼女しか考えられない。彼女の力があれば、多少のマインドコントロールが可能だからだ。

「……兄としては絶対に行かせたくないが、殿下の騎士としては、お前に行ってもらうほかないと思う」

「なら、俺も一緒に行く」

 と手をあげたのはアレックだった。戦闘力としてはとても心強いが。

「お前ら……最近仲いいな……」

 ウィルがじろっとアレックを睨んで言った。すでに全員に認識されているが、ウィルは結構なシスコンである。シスコンであるが、冷徹な判断力でリリアンを敵地に送り込むことも辞さない、実に矛盾した人物である。

 しかし、リリアンとしても不思議である。明らかに、リリアンはアレックに避けられていたと思うに。まあ、殺されかけたリリアンが平然と彼と話をしていることもおかしいのかもしれないが。


「まあ、戦力としては心強いが、アレックを連れて行けば、私はともかく、アレックはその場で殺される可能性が高いのではないか?」


 リリアンが首をかしげて尋ねた。リリアンはマイケル・トラジェットを直接は知らないので、彼がどんな判断をするかわからない。

 もしリリアンが彼であるのならば、アーサーとつながりがあると思われるリリアンとアレックを捕らえて、直接会う。今、アーサーがどういう状況にあるかを知るためだ。

 リリアンならそうする、というだけで、彼がそうするかはわからない。ちなみに、本当にやってくればリリアンの精神干渉魔法の餌食になる。魔法を封じられても、ある程度の効果があるのが精神干渉魔法だ。

 ウィルはリリアンとアレックの顔を見比べ、ため息をついた。

「仕方がないな」

「ウィル!」

 アーサーが非難するようにウィルの名を呼んだが、ここまで口を挟まなかったということは、アーサーも代替案を用意できなかったのだ。ウィルとリリアンのカーライル兄妹は基本的に論理的に考える。そのため、ロジカルに即さない場合、反論も却下される。頭が固い、とも言う。

 だからこそ、アーサーやクライドたちの意見にはっとさせられることも多いが、今回はそれもなかった。


 つまり、リリアンが内側から城門を開ければいい。不可能ではない。


「……おそらく、リリアン。お前は間違いなくアルビオン宮殿に連れて行かれる。年齢と背格好からして、お前は殿下の影だろうと判断されるだろうからだ。宮殿までたどり着ければ、ブルックス公爵が手を貸してくれるだろう。メアリと言う女性を頼れ。公爵の嫁だ」

「わかった」

 リリアンがこくりとうなずいた。アーサーの表情を見るに、彼女が王都に「置いてきた」のは、このブルックス公爵夫妻のことなのだろう。

 ウィルがリリアンをぎゅっと抱きしめた。

「……頼む。気をつけろよ」

「善処する」

 リリアンはそう言ってウィルの背中をたたいた。

 リリアンはウィルに手伝ってもらい、アーサーに似せた髪型と服を着る。リリアンは中性的な面差しで特に癖のない美人顔なので、化粧でどれだけでも似せることができるが、やはり、アーサーに似合う色がリリアンには似合わない。


 ひらりと翻るスカートをつまり、リリアンは顔をしかめる。さすがのリリアンも、自分に似合わないと思われる服を着て出歩くのは気恥ずかしい。

「どうした」

 同行者であるアレックが尋ねた。リリアンは背丈が同じくらいの彼が少し心配そうにこちらを見ていることに気が付いた。

「……いや、似合わないなと思って」

 リリアンははっきりした色の服の方が似合うのだ。淡い色だと、何となくぼんやりしてしまう。いや、彼女が思うほどに似合わないわけではないのだが。


「自分で思うよりは似合っていると思うぞ」


 アレックはさらりとそんなことを言った。リリアンも人のことを言えないが、真顔でそんなことを言うので、リリアンは少し照れる。

「……どうもありがとう」

「いや」

 やっと絞り出した礼に、アレックは素っ気なく答えた。リリアンは肩をすくめる。何となくほっこりした気持ちになりながら歩いていると、リリアンは背後から腕をつかまれた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ちょっと……製作が更新に追い付いてません……。


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