episode:0-3
ウィルはリリアンとアーサーを叔父ハミッシュの書斎に連れて行った。さっき追い出しただろ、とは言わない。話がまとまったから呼ばれたのだろうと思う。
「まず、リリアン、お前の意思を問う。これを聞けばもう、引き返せなくなる。今なら、気づいていても知らないふりをできる。聞けば、お前は俺たちと同じ道を歩むことになる。その覚悟はあるか?」
ウィルが尋ねた。リリアンはアーサーを見る。おそらくウィルは、リリアンの答えをわかってそのようなことを言っているのだ。
「……わかっている。話してくれ」
「リリアン……いいのか?」
「私が殿下を見つけた時点で、ある程度は覚悟していました」
尋ねるアーサーに、リリアンは冷静に言った。リリアンは、ウィルが王女アーサーに仕える護衛だと知っていた。彼女が女王になればナイツ・オブ・ラウンドとなるであろうこともわかっていた。
リリアンは森であった時に、すでにアーサーが王女であると気付いていた。その時点から、リリアンは自分が巻き込まれるであろうことに気付いていた。
「リリアン。危険なのだぞ」
忠告するようにアーサーが言ったが、彼女の正体を聞いてしまった時点で、もう遅いような気もする。
「覚悟は、できているつもり」
誰かがやらなければならない。それなら、自分もウィルについていくべきかもしれないと思った。少なくとも、リリアンは体格の似ているアーサーの影武者にはなれる。
「……正直、お前がいてくれると助かる。お前は魔導師だし、何より体格が殿下と似ているからな……」
「ウィル、お前、妹を影武者に使おうというのか」
アーサーが少し非難がましく言った。だが、それ以上はアーサーも否定しなかった。それが必要だと彼女もわかっているからだ。それに、年の近いリリアンにも来てほしいという気持ちがあるのだろう。
「場合によっては、そうですね。妹は精神干渉魔法の使い手なのでおとりとしても役に立つでしょうね。見た目もこれなので、連れてくれるでしょうし」
ウィルがリリアンの頭をぽんぽんとたたいた。リリアンは黙っていればただの美少女である。この外見に釣られて手を出して叩きのめされたものは結構多い。ついでにリリアンが精神干渉魔導師であるのは事実だ。
「それに、妹は頭がいいですからね。殿下がブルターニュを治める時に力になれると思いますよ」
リリアンは官僚になるつもりはないが、とりあえず、口は挟まない方が良いだろうと思って黙っていた。
ウィルはこれくらいで妹を巻き込むような人物ではない。いわゆるシスコンに部類される彼は、リリアンは構い倒し、守ろうとする。どう考えても危険だと思われる内戦に連れ込むようなことは、しない。
だが、リリアンにはウィルの考えることがわかるような気がした。先ほど、アーサーは自分で「同世代の友達はいない」と言っていた。おそらく、ウィルがリリアンに求めているのは、どちらかというとこちらだろう。
「……彼女の力は見ているし、足手まといにはならないとは思う。本人の同意が得られるのであれば、俺は反対はしないが……」
クライドがうかがうようにアーサーを見た。リリアンもアーサーを見る。彼女はむくれたような顔をしていた。
「……でも、正直、リリアンが来てくれるというのなら心強い」
会って間もないのにすでにリリアン呼びである。まあ、一番名を呼ぶウィルがそう呼んでいるし、リリアンも『リリアン・カーライル』で通しているので仕方がないのかもしれないけど。
「よし、では決まりですね。叔父上、リリアンの身柄は俺が預かります」
「……気を付けて。無事でいるように」
ハミッシュは止めても無駄だろうと悟ったうえでそう言った。ため息をつく。ウィルはあえてそれを無視し、リリアンに尋ねた。
「リリアン、お前、ここにいても大体の話は聞いているだろう? どう考える、今の状況で」
ざっくりとした問いかけだ。だからリリアンも、ざっくりと答える。
「政情は不安定。だが、現在国王を名乗っているマイケル・トラジェット氏はアーサー王女殿下を捕らえきれなかった時点で負けが確定している」
「なるほど。俺も同じ意見だ」
だったら聞くな、と言いたいが、ウィルも自分の意見を肯定してもらって安心したかったのだろうか。
先王チャールズを殺したマイケル・トラジェットはアーサーの従兄にあたる。と言っても、父方ではなく、母方の従兄であった。アーサーの母、つまり先の王妃は王族であったから、アーサーは両親から王族の血を引いていることになる。いつになっても、人々は『血筋』というものが好きなのだ。リリアンも『貴族の血筋』で生きているのだから、文句は言えないのだけど。
どう考えても、人気や正当性を主張するうえでアーサーの方が上なのだ。マイケルの何が悪いわけではない。ただ、王やその子供たちを殺し、言うことを聞かない官僚たちを次々と『処分』していったマイケルよりも、心優しい王女様の方が君主として魅力的である、というだけだ。
リリアンは、これからの国王に政治力は必要なくなってくるだろうと思っている。現段階でマイケルのような君主が現れれば反感を買うだけだと思っていた。
カーライル侯爵領までやってきたのは、追撃を振り切るためか。マイケルも、アーサーを始末しないことには先に進めないとわかっているのだろう。彼女が狙われていると考えてよい。ならば、早々にここも発つだろう。
「市民の反応としては?」
「この辺りは、あまり話題には上らないようだ。今どき王族のあれこれなんて、変化があっても市民にはほとんど影響がないからな」
たぶん、税金が上がるとか、それくらい。偉い人が何とかしてくれる、くらいに思っているだろう。みんな、自分には関係ないと思っているのだ。それだけ、今の政府が影響力がないということでもあるが。
「ウィル……お前の妹、辛辣だな……」
クライドが言った。その発言がすでに、彼女の言葉を認めているわけだが、まあ、確かに普通は口に出さない。ウィルがその整った顔に笑みを浮かべる。
「可愛いだろ?」
「確かに妹君は可愛いが、今の発言のどこに可愛い要素があったんだ?」
ウィルは確信的にボケるタイプだが、クライドは天然だな、とリリアンは何とはなしに思った。アーサーも苦笑を浮かべている。
「だけど、確かにリリアンの言うとおりだ。これを内戦と呼ぶ人もいるらしいが、実体は内乱に近いのかもしれない……。ただ一部で争っている、いわばお家騒動のようなものだ」
「そうですね。広義で見れば、間違っていないと思います」
リリアンがアーサーの言葉を肯定した。たぶん、ウィルやクライドにはこういうことを言えないのだろう。リリアンにはこういうところを求められているのだと思うことにする。
「ではリリアン。明日には出立する。準備しておけ」
「わかった」
ウィルに言われ、リリアンはうなずいた。やはり、見つからないようにすぐに移動するらしい。おそらく、このカーライル侯爵家には調査が入るだろうが、ハミッシュは家族にはアーサーが来ていることを言っていないだろう。アーサーと会ったアリシアは、あとで言い含めなければならない。
「リリアン。よろしく頼む」
アーサーが手を差し出した。握手を求めているのだろうと察したリリアンは、少し迷ってから手を差し出した。アーサーが遠慮なくその手を握った。ニコリと微笑んだアーサーに、リリアンは答える。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
リリアン参入。




