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回収箱  作者: しー
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第五十五話 ずっと一緒

ここまで『回収箱』を読んでくださり、本当にありがとうございます。

いよいよ、最終話です。

一話ずつ書き進めてきた物語も、今日で最後になります。

最後まで読んでくださった皆さまに、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは、最終話をどうぞ。

俺は、何を喰らってきたんだ。

その問いが浮かんだ瞬間、全身から力が抜けた。

「知らなかったんじゃない」

「忘れていただけだ」


背後から肩を叩かれた。

「——翔ちゃん」

聞き慣れた声。

振り返る。

そこには、妻がいた。

十七年間、何度も見てきた笑顔。

「やっと、分かったのね」

妻が微笑む。

その笑顔を見た瞬間、背筋を冷たいものが走った。

「——お前は、誰なんだ」

妻は答えなかった。

ただ、俺の後ろへ視線を向ける。

そこに、回収箱があった。


気づけば、俺は箱の前に立っていた。

まただ。

いつからここに来たのか分からない。

「違う——」

一歩、後ろへ下がろうとする。

けれど、足が動かなかった。

首だけが、ゆっくりと箱へ向く。

箱の中から、冷たい空気が流れてくる。

鼻から息を吸う。

懐かしい匂いがした。


「翔ちゃん」

妻の声が背後から聞こえる。

「もう帰りましょう?」

「——やめろ」

「ずっと待ってたのよ」

「やめろ——」

「これからも、ずっと一緒よ」


妻が回収箱の蓋に手をかける。

ギィ——。

重たい音を立てて、蓋が開いた。

箱の中は暗かった。

けれど、不思議と怖くない。

むしろ——懐かしい。

身体の奥から、そんな感覚が込み上げてきた。

「俺は——ここに来たことがある」

箱の中を覗き込む。

小さな手。

泣き声。

冷たい金属。

蓋が閉じる音。

——思い出した。

失っていた記憶が、一気に押し寄せてくる。


その瞬間、足が前へ出た。

「——そうだったのか」

俺は、箱の中へ足を入れた。

止めようと思った。

なのに、止まらなかった。

いや——。

本当に、止めようと思ったのか。

自分でも分からない。


箱の縁に手をかける。

指が自然に力を込めた。

身体を小さく折り畳むことに、何の抵抗もなかった。

まるで、狭い場所へ身体を収める方法を知っているように。

その姿勢になった瞬間、背中に妙な感覚が走った。

人間の身体なら、もっと窮屈なはずなのに。

「——おかしい」

そう呟いた。

けれど、何がおかしいのか分からなかった。

肩をすぼめる。

腕を抱える。

気づけば、身体はさらに小さくなっていた。

その動きが、あまりにも自然だった。

まるで、ずっと昔からそうしてきたように。

もう、逃げようとは思わなかった。

この場所を知っている。

何度も、ここへ戻ってきた。

忘れるたびに。

喰らうたびに。

「——今度は、忘れない」

何をしてきたのか。

誰を喰らったのか。

熊谷の姿が、脳裏をよぎる。

あの男がいなくなったあと、俺が口にした熊の頭。

魚住の姿は、どこにもない。

代わりに浮かんだのは、四匹分の魚の骨だった。

——あれは、俺が喰らったものだったのか。

全部、思い出してしまった。

それでも俺は、箱の中にいた。

まるで——ずっと昔から、ここが自分の居場所だったように。


妻が、ゆっくりと蓋へ手を伸ばす。

「待ってくれ——」

俺も手を伸ばした。

けれど。

本当に止めたかったのか。

それとも——妻に触れたかったのか。

もう、自分でも分からなかった。

蓋の隙間から差し込んでいた光が、少しずつ細くなる。

暗い。

何も見えない。

もっと早く気づいていれば。

もっと早く、妻を疑っていれば。

そんな考えが浮かぶ。

けれど——もう遅い。

最後に見えたのは、妻の顔だった。

箱の向こうから、俺を見つめている。

あの頃と変わらない笑顔で、妻が呟いた。

「翔ちゃん。愛してるよ」

「これからも、ずっと一緒よ」

その笑顔を、俺は十七年間見てきた。

——そう、思っていた。


箱が閉じた。

最終話まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

『回収箱』を書き始めてから、長い時間をかけてこの物語を最後まで届けることができました。

一話ずつ投稿するたびに読んでくださる方がいることが嬉しくて、それが最後まで書き続ける力になりました。

ここまで翔平の物語に付き合ってくださったこと。

そして、最後まで『回収箱』を読んでくださったこと。

心から感謝しています。

この物語が、読み終わったあとに少しでも皆さまの心に残ってくれたら嬉しいです。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

『回収箱』を読んでくださった皆さまに、心から感謝を込めて。

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