クランクアップの後に
王宮のテラス、夕暮れ時。
新大陸のスパイスが香る風に吹かれながら、ミノンはアルフが淹れてくれた「現代風のほうじ茶」を啜っていた。
「……おい、ミノン。何ぼーっとしてるんだ。次の『新作ラーメン・フェス』の香盤表、左京が持ってきたぞ。チェックしねえと、またアイツに勝手なスケジュールを組まれるぞ」
呆れたように笑いながら、アルフが私の隣に座る。
その、少しゴツゴツした、でも温かい手が私の肩を抱き寄せた。その時だった。
脳裏に、ノイズのような「テロップ」が走った。
『隠しルート:冷酷公爵アルフレッド・ディトナウス。真実の愛(完パケ)達成』
「……えっ?」
心臓が跳ねた。そうだ。思い出した。
ここは、私が前世で死ぬほどプレイしていた、低予算・深夜アニメ枠の乙女ゲーム『ロイヤル・キッチン・スター〜恋の隠し味は現場の汗〜』の世界だ。
アルフレッド。彼はこのゲームの「ラスボス」で、傲慢な性格から国を滅ぼし、最後は断罪されるはずの悪役だった。
左京。彼は運営側の「集金システム」の化身のような、冷徹な事務官。
エドワード王子。彼は本来、ヒロインを奪い合うメイン攻略対象。
「どうした? ……ミノン、顔色が悪いぞ。……まさか、また『カロリー不足』か?」
アルフが心配そうに私の顔を覗き込む。
その瞳は、ゲームの立ち絵のような冷たさは微塵もなく、ただ真っ直ぐに私への愛を映していた。
私は、彼の手をぎゅっと握り返した。
ゲームのシナリオなんて、もうどうでもいい。
彼が「元AD」として、不器用に、でも必死にこの世界の「現場」を良くしようと走り回った日々は、偽物なんかじゃない。
私たちが一緒に食べた「伸びたラーメン」も、涙を流した「バレンタインのチョコ」も、すべてが私の本物だ。
ミノンが語りかける。
「……アルフさん」
「……あ?」
「……大好きです。ゲームの台本になんて、絶対に書けないくらい」
アルフレッドは一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後、耳まで真っ赤にして顔を背けた。
「……っ。……んなこと、カメラが回ってねえ時に言うんじゃねえよ。……いや、カメラがあっても……。……ああ、もう! 撤収だ!! 今日はもう仕事終わりだ!!」
背後で、左京が
「やれやれ、残業代が削られますね」
と、嬉しそうに呟く。
王子が
「なんだ、私にカレーを奢ってくれるのか!」
と空気を読まずに乱入してくる。
私は、赤くなったアルフの腕に、そっと頭を預けた。
この世界の「制作」は、まだまだ終わらない。
私とアルフの物語は、ここで一旦「完パケ」だけれど――。
私たちの毎日は、いつだって「今から、本番!」なのだから。




