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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第八十七話 改めて信頼という言葉の意味を考えました。


 翌日、イシュカに二階で酒臭い男達を叩き起こすのを任せ、私は朝御飯の準備に取り掛かる。

 酒漬けになった男達の胃袋に優しい海鮮粥なんてどうだろう?

 後は具沢山の野菜の味噌汁とシンプルに焼き魚。

 折角だから屋敷に帰る前に新鮮な魚介類を朝市で仕入れ、戻ったらロイにシーフードドリアでも作ってもらおう。ロイの作ってくれるホワイトソースのかかったバターとチーズをたっぷり使った料理が私は大好きなのだ。


 お前その内ブクブク太ってくるぞって?

 わかってますよ、そのくらい。

 それでもロイの御飯が食べたいんだもの。あの焼けたチーズの香りがたまらない、思い出すだけでヨダレが垂れてきそうだ。

 いいんですっ!

 食べた分だけ動くからっ!

 それに私はまだまだ成長期、背が伸びるかもしれないでしょう?

 名指せっ、高身長っ! と、いうことで。

 いやいやそんな高カロリー食、腹が出るか横に成長するだけだろうって?

 それを言われるとイタイところではあるのだけれど。

 そうだっ! この世界には魔力というものがある。それが身体を巡っているというならば、なんとかそれを利用して脂肪燃焼できないものか、いや、取り込んだ栄養を上に伸ばすエネルギーになんとか変換できないものかと馬鹿な妄想を膨らませつつもせっせと食事を作る。

 そして朝食を済ませると、そんな私の思考と行動を読んでいたのかの如く、王都支部の従業員が今朝水揚げされたばかりの海の幸を山ほど届けてくれた。その魚、海老、蟹、帆立などがズラリと並ぶ光景ににんまりとだらしなく顔を緩めた私の前で、慣れた手つきでイシュカやライオネル達が梱包し始めた。


 ・・・流石は私の側近にしてハルウェルト商会従業員。

 誠にありがたいことですよ。

 しかしながらコレは騎士職であるみんなを私が如何にそれ以外でコキ使っているのかの証明だ。

 私は『ごめんね』と謝罪しながらそれを手伝うとランスが微笑う。

「謝罪の必要などありませんよ。それを言うなら領主であるハルト様を台所に立たせて俺らのメシを作らせている時点でむしろ謝罪すべきは俺らでしょう?」

 だって料理は私の数ある趣味の一つだもの。

 すっかり腕はロイに抜かれたけど。

 好きでやっているのだ。

 美味しいって言ってもらえるのが嬉しくて。

「ですよね。昨日も今朝も御馳走様でした。

 メシ、すごく美味かったです。ありがとうございました」

 シーファの言葉を合図にみんなが一斉に『ありがとうございましたっ』と言ってくれた。

 その一言が何よりも嬉しくて、つい張り切って作ってしまうあたりが私の単純なところだ。やっぱり美味しい、美味しいって言って最後の一つの唐揚げとかを奪い合うところなんか見てると『また今度作ってあげよう』って思うのだ。

 一人で食べる御飯は美味しくない。

 お上品にマナーを気にして食べるより、みんなでワイワイガヤガヤ騒ぎながら食卓を囲むのが私は一番美味しいって思うのだ。私の方がありがとうって言いたいぐらいに。『また御馳走様して下さいね』って言われると調子に乗って。

 そんな私にイシュカが優しい顔で微笑んで口を開く。

「貴方は周りに気を使いすぎです。もっと我が儘でいいのですよ。私達は貴方の部下なんですから」

 でも限度を超えたら嫌でしょう?

 そう言いかけた私にシーファとランスが言う。

「そうですよ。お役に立てるのが俺らは嬉しいんです。そうでなくても俺達はハルト様が大好きなんですから遠慮される方が嫌ですよ」

「イシュカやレインとは意味が違いますけどね」

 ハハハハハッと笑いが湧き起こる。

 流石にそこまでは自惚れていないよ。

 私の御面相は中の上、良くて上の下程度だってわかってる。みんなに恋してもらうほどの外観は持っていない。ロイやイシュカ、レイン達のは『惚れた欲目』という非常にありがたいものだ。

 でも大好きだって言ってもらえるのは本当に嬉しい。

「ありがとう。私、もっと頑張るから」

「いいえ。頑張らなくてもいいですよ?」

 勢い込んでそう言った私にそこにいたみんなが声を揃えてそう返してきた。


 あれっ?

 ここは『そうですね、頑張って下さい』が妥当ではなかろうか。

 出鼻を挫かれてライオネルが言った。

「前にも言ったと思うんですけど、貴方は何事にも頑張りすぎです。少し手を抜くくらいが丁度いいんじゃないかと」

「そうそう、じゃないと俺らがサボってるみたいに思えてくるし」

 同意してギイスが微笑う。

「だよなあ。アレくらいドッシリ、のんびり構えていてくれてもいいんじゃないですか?」

 そう言ってシーファが指差したのはすぐ側の木の枝の上で大欠伸しているガイだ。

 眠そうにうつらうつらとしているその様子を見てイシュカの顳顬に青筋がビキッと浮かび上がる。

 次の光景が目に浮かんで私はイシュカを宥める。

「まあまあイシュカ、落ち着いて。

 ガイの仕事は夜が多いし、最近フルで動いていてくれたから」

「それとこれとは話が別です。

 ハルト様が働いている横で寝ているなど言語道断っ」

 そう言うや否やイシュカは長い脚を振り上げ、ドンッと思い切りその木を蹴り飛ばした。

 イシュカの強烈な蹴りを食らって木は悲鳴を上げるが如く大きく幹を揺らし、茂った葉がガサガサッと音を立て、ガイがバランスを崩して慌てて体勢を整えようとするが間に合わず落下、シュタッと地面に飛び降りて膝を付く。


「うわっ、と。危ねえなあ、イシュカ。気をつけろって」

 コレで無様な姿で落ちないのがガイのスゴイところだ。

 咄嗟の反射神経っていうか、こういうとこは相変わらず猫科の肉食獣みたいだけど。

 パンパンと土埃を払いながら立ち上がったガイをイシュカが睨む。

「ワザとですから気をつける必要はありません。貴方は何をやってるんですかっ」

「何って、見りゃあわかるだろ。昼寝だよ、昼寝。っと、まだ朝早いから昼寝とは言わんか。こういう場合なんていやあいいんだ?」

 なんだろう? それは私も知りたい。

 朝に寝てるから朝寝かな?

 まあいいか。その辺は一括りに休憩ということで。

 そしていつもの如く、イシュカとガイの掛け合いが始まる。


「貴方のは単なるサボリ、怠けているだけです」

「そうカッカすんなよ。そのうちハゲるか血管ブチ切れるぞ?」

「だとすれば、それは貴方のせいですね。慰謝料請求しますよ?」

「冗談はよせ、笑えねえって」

「冗談じゃありませんから笑わなくて結構です。

 仕事で帰ってきたのが朝方だというならまだしも、明け方まで呑んでいて怠けているのは許せません」

「だったらお前も手を抜けばいいだろ?」

「ですから私が働いてるのに貴方が怠けているのが許せないのではなく、ハルト様が働いているのに貴方がその横でサボっているのが駄目なんですっ」


 ・・・別に私的には構わないんだけど。

 笑って見てることから鑑みるに他のみんなもたいして気にしていないと思う。

 ガイの仕事はイシュカ達と違う。

 でもイシュカが言うのもわからないでもないのだ。要するにイシュカが言いたいのは上に立つ者の示しというか、見本とか手本になれって言いたいんだと思うんだろうけど、そもそもガイは立場なんてものを微塵も気にしていないからこそのこの態度。それを口に出せばガイは『じゃあ俺は一番下っ端で』って言いそうだ。それはそれで上の立場の者が動いてて下っ端が呑気に寝てるなどどういうことだとでもイシュカなら言いそうだけど。

 私達はまた始まったとばかりに二人の言い争いをBGM代わりにせっせと荷造り作業に戻る。

 イシュカは真面目過ぎるのだ。

 そりゃあ何も知らない人が見れば誤解を招くかもしれない。ここは私の屋敷じゃないからこそのお小言だろう。でもここは外は外でも緑の騎士団敷地内、団員のみんなはガイがどんな仕事をしているか知っている思うのだ。


「ふ〜ん、成程なあ。わかったよ」

 とりあえずイシュカの言い分は理解したらしいガイがぽりぽりと頭の後ろをかきながら宣った。

 珍しい。ガイがそんなことを言うなんて。

 大体面倒臭そうに大欠伸しながら席を外すか、『んじゃあ仕事に出掛けてくる』とでも言って出ていくとかなんだけど。どういう心境の変化だろうと作業していた手を止めることなく考え込んだ瞬間、海産物を仕分けして屈み込んでいた私の背後から二本の腕がニュッと目の前に現し、何事かと顔を上げようとした瞬間、そのまま持ち上げられ、軽快なジャンプで私を脇に抱えたままガイは枝の上に逆戻り。その見事な硬い腹筋の上に私を座らせ、その胸板に引き寄せた。

 私の頭の中は一気に真っ白だ。

 カチンコチンに固まった私の前でガイが楽しそうに微笑う。


「んじゃまあコレなら構わねえよな?」


 ・・・・・。

 コレなら? 

 コレってどういう状況ですかっ!

「ズルイよっ、ガイッ、僕もハルト抱っこしたいっ」

「こういうのは早い者勝ちだ。悪いな、レイン」

 ガイの胸で遮られた視界の隅に拳を振り上げて抗議するレインの腕が見えた。

「仕度が出来たら起こしてくれ。俺は御主人様とここで寝てるから。

 ってことで、じゃあヨロシク」

 つまりイシュカのお小言を聞いて、自分が寝そべっている時に私が働いているのが駄目ならば、私が動いてなければ良いのだろうと、こう解釈したわけか。

 そりゃあまたドエライ方向に解釈を捻じ曲げたものだ。

 しかしながらこの体制はなかなかに恥ずかしい。

 屋敷の中でならまだしも、って、いや部屋の中ならいいってわけじゃないのだが公衆面前でってのは人目を気にせずイチャつくカップルみたいではないか。

 そう思い至ったところでボンッと私の顔から火が吹いた。


 何を考えているんだっ、私はっ!

 ガイに失礼でしょうがっ!

 いやまあ『惚れてる』とは言われたけど、言われたけど、言われたけどっ!

 つい最近までガイはこんなベタ甘なことしなかったでしょうっ!

 そりゃあ気が向いた時は甘えさせてくれてたけど。

 ガッチリと腰と頭を押さえられえて動けない。

 抱き締められてるっていうより拘束されてるって感じがしないでもない。

 半分混乱状態の私の耳に下からイシュカの溜め息が聞こえてきた。

「ガイと一緒にというのは些か面白くはありませんが、確かにハルト様はもう少し休んでおられたほうがいいかもしれませんね。まだお疲れのようですし。

 仕方ありません。

 ですがガイ、ハルト様を落としたら蹴り殺しますからね」

「落とさねえよ、落とすわけねえだろ」

 イシュカが溜め息混じりに背を向けると、そう言ってガイは抱えた私の頭を引き寄せて髪に唇を寄せた。


 ぎゃああああああっ!

 

 掛かる吐息に私はジタジタともがくことも出来ずに硬直する。

 ガイは私を抱き抱えたまま楽しそうに笑い出す。

「あはははっ、最高に気分イイねえ。アイツらコッチ見て睨んでやがる」

 アイツら?

 この位置だとほぼ真下に近い位置のイシュカ達の視界に入るのは難しいんじゃなかろうか。そういえばさっき、髪にキスされた時、結構な数のどよめきが聞こえたような?

 そう思って首を捻り、ガイの視線を辿るとそこには騎士団寮の窓に鈴なりの団員達の顔が並んでいた。

 みっ、見られてる。

 それも思いっきり凝視されてる。

 身体中に突き刺さるような無数の視線に益々私は真っ赤になる。

 そういえばガイって団員達の前だと殊更私を構い倒すんだった。

 嫉妬と羨望の視線が気持ちイイって。

 どういう理屈と根拠からその発想と思考に至るのかは謎だけど、この場面と状況でガイが必要以上にベタベタとしてくる理由は理解した。理解したところですううっと顔から上っていた血の気が引き、正気に戻る。

「ガイ、面白がってるでしょう?」

 私がそう尋ねるとガイはアッサリ認める。

「まあな。でもそれだけじゃないぜ?」

「じゃあなんで?」

 団員のみんなを揶揄ってるだけでしょう?

「そりゃあ俺がこうしていたいからさ」

 ・・・えっ?

 一瞬にして思考が停止する。

 それってどういう意味でしょう?

「いいからのんびりしてろよ。ここんとこ動き詰めだっただろ?

 俺らと違ってまだまだ体力ねえんだから。

 大丈夫だ。絶対ェ落とさねえから安心して眠ってろって」

 要するにガイなりに心配してくれてたってこと、なのかな?

 確かに体格のせいもあってみんなよりもへばるのが早いのは間違いない。強化魔法を掛けたところで並の上。ウチの騎士達はもとが並どころか上の上、適うわけもない。限界超えて強化すれば身体が悲鳴を上げるし、オマケに本来の身体能力以上に筋肉を酷使すればもれなく翌日の筋肉痛がついてくるわけで。


 現実は物語のようには甘くないってことだよね。

 私はそういう意味ではまだまだ鍛え方が足りないってことだ。

 代わりに身軽さを武器にしたスピードならそこそこ自信はある。でも筋肉がつけば重量が増す、表面積が増えれば風の抵抗力も増えるってわけだ。

 どっちが良いかと言われれば、どちらにも利と不利がある。

 魔術重視の私の戦闘スタイルからすれば身軽なスピード重視型の方が向いているだろう。少なくとも剣の腕が二流そこそこのうちは重量が増えるのはあまりよろしくないんじゃないかと。固い筋肉というものは付き過ぎれば重くて沈むのだ。

 だとすればみっともなくない程度に細身でいる方が私は良いのかもしれない。目指すは砲丸投げの選手のような団長みたいな体型ではなく、マラソン選手みたいな持久力重視の体格、体質、筋肉を目指すべき?

 今度フリード様に相談してみよう。学院で子供の指導をしてたくらいだ。何かいいアドバイスを頂けるかもしれない。

 そういえばロイとイシュカが以前私が団長のようなムキムキマッチョになっても可愛いって言ってくれるかって聞いた時、微妙な顔をされたっけ。それを思うとこのままの方が良いのだろうか?

 ごちゃごちゃといろいろなことに考えを巡らせているとガイがそれを誤解したのか深く抱え直して耳元で囁いてくる。


「余計なことを考えるのは帰ってからにしろ。今は休めよ。

 今回の俺らの役目はもうほぼ終わってんだ。今は事後処理で腹黒陛下とその息子も天手古舞だろうからな。暫くは平和に過ごせるだろうぜ、多分」

 いやまあそっちも気にはなるんですけどね。

 でもそれは私が心配したところでどうにもならないし、私は私のことで手一杯。ついでがあるなら手出しもするけど基本は他人事。ハッキリ言ってしまえば後はお任せ、どうでもいい。ウチに関わってこなければって注釈はつくけれど。

 しかし一番気になったのは一番最後の単語。

「その多分って何?」

 今のところ揉めそうな案件は特にないはずなのだけど。

「そりゃあ俺の御主人様の予定は常に未定で、面倒が舞い込んでくるのが日常だからに決まってんだろ」

 ぐっと私は息を詰まらせる。

 それは確かに否定できません。

 でも私は好きでトラブルメーカーなわけじゃありません。

 クシャリと顔を歪めた私に小さくガイが微笑う。

「そんな顔すんなって。俺らはそれを楽しんでんだから」

「ガイだけじゃないの?」

 それは至極限定的だと思うけど?

「んなわけねえだろ。本当に嫌だと思ってるヤツならとっくに御主人様から逃げてるさ。御主人様の周りで起きる事件は大事、物騒なモンも多いからな。ハルウェルト商会は『去るものは追わず』が基本、本人の意志が尊重されてる。それでも辞めるヤツがいねえってのはそういうことさ」

 ガイの言いたいことはわからないでもない。

 どんなに危険な目に遭ったって私の仲間は辞めたいなんて言わない。

「だけどそれに甘えるのは違うでしょう?」

「甘えるってんじゃなくて、それは信頼して任せるって言うんだ。

 少なくとも専属になりたい、居座りたいってんなら苦難困難にもビクともしねえくらい肝が座った、それすら愉しめるくらいのヤツじゃねえと続かねえって。

 それが嫌だってんならウチは園内警備や支部の衛兵、他にも充分食っていける給金出るところがあるんだからよ」

 三食寮付き、ついでに平民の間では珍しい大浴場付き。

 従業員を留めるのに必要なのは言葉だけでなく雇用条件と仕事環境は重要だ。マルビスやゲイルと相談してそこには気を配ってる。

 ガイの言う通り、そこそこの暮らしで満足できるのであれば無理する必要もない。それでも多くのウチの騎士達は専属と呼ばれる上位五十名を目指して頑張ってくれている。


「だから安心してちったあ気を抜けって。俺らを信じてんだろ?」

 勿論だよ。

 信じていなきゃ任せられない。

 私はガイの胸の上で頷く。


「だったら一人で気張んじゃねえって。

 御主人様はすぐに無茶しようとするからな。危なっかしくて仕方がねえよ。俺らを心配してくれるのはありがたいが、俺らだって柔じゃねえ。それなりに強いつもりだぜ?

 ちったあ信頼してもう少し俺らに任せてくれよ。俺らは御主人様の後ろでしか戦えないってほざくほど弱くはないぞ。先頭に立って俺達を護って闘おうとする背中は最高にイカしてるけど、たまには俺達にも見せ場作って、カッコつけさせてくれたって良いんじゃねえ?」


 ・・・・・。

 ガイの言葉に思考が一瞬停止する。

 みんなが強いことは私も知っている。

 だから後ろを振り向くことなく安心して任せられた。

 私が出張るのは上に立つ者の責任だって思っていたからだ。

 そこが危険であるならば尚更私が出るべきだって。

 

 みんなの見せ場を取っているつもりはない。

 だけどガイの言っていることもわかる。

 『私がやらなきゃ駄目だ』って思い込んで。

 でもそれは見方を変えれば『私じゃなきゃ出来ないんだから』って傲慢にも取れなくない。それに思い当たって私は身体を強張らせた。

 するとガイはそんな私を宥めるように軽く背中を叩く。


「全員わかってるって。御主人様に悪気がないことも、俺達を護ろうとしてくれてるんだってことも。だから大丈夫だ、気にすんな。

 俺が言いたいのは俺らをもっと頼れよってことだ。

 護りたいって思ってるのは御主人様だけじゃねえ、俺達も一緒なんだからな」


 そう言ってガイは優しく私を抱き締めた、

 涙が溢れそうになった。


 そうだ。ここは前世じゃない。

 私に仕事を、責任を押し付けて、手柄と成果だけを横取りする。

 そんな上司も同僚、後輩、家族はいない。

 『私が』やらなきゃならないことばかりじゃない。

 

 この恵まれた環境に在ることに、

 私は感謝して、

 涙が溢れ落ちたのだ。


 

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