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わたしはチャムケア! -光の少女戦士伝説的なやつ希望-  作者: 虎竜王NV
第二章:のこちゃんの怪人生、黎明編
22/22

07 のこちゃん、必殺剣を放つ


光の速度は、真空(しんくう)ならば秒速(びょうそく)29万9792.458キロメートルと言われている。


太陽が(しず)んで(くら)くなれば、懐中電灯(かいちゅうでんとう)携帯(けいたい)・スマホなどで光を(とも)すと、かなり(はな)れた場所からでもすぐにそれと分かる。


要は、距離(きょり)をものともせず、(はっ)せられた光が一瞬(いっしゅん)(とど)いているのだ。


比喩(ひゆ)では、よく"1秒で地球を7周半(しゅうはん)する"などと表現される、お馴染(なじ)みの豆知識(まめちしき)である。


ならば、重機(じゅうき)金属製(きんぞくせい)(くい)()()して岩を粉砕(ふんさい)する様な強力(きょうりょく)破壊(はかい)衝撃(しょうげき)を、収束(しゅうそく)された光に情報(じょうほう)として乗せてやれば、十分(じゅうぶん)な攻撃の手段(しゅだん)となるだろう。


瞬時(しゅんじ)に、(ねら)ったところへ光が到達(とうたつ)したなら、()()衝撃(しょうげき)顕在化(けんざいか)させてダメージを発生(はっせい)させる。


処刑騎士団(しょけいきしだん)のアビスガルダが(はな)つ光による射撃(しゃげき)方術(ほうじゅつ)は、(じつ)単純(たんじゅん)理屈(りくつ)だった。


そして、単純(たんじゅん)であるがために、使(つか)勝手(がって)も良い。


シンプルな戦闘能力としても、近距離(きんきょり)は当然の事、かなりの遠距離(えんきょり)からも威力(いりょく)(そこ)なわず攻撃できるとあって、(もう)(ぶん)がない。


その特性(とくせい)(あわ)せ、光を通してしまうものであれば、強化されているガラスや方術(ほうじゅつ)障壁(しょうへき)など、(すべ)てすり()けて標的(ひょうてき)衝撃(しょうげき)(とど)かせてしまうため、(とき)には暗殺(あんさつ)などにも(もち)いられた。


直撃(ちょくげき)させれば、頑丈(がんじょう)なティハラザンバーでも、先ほどまで地に(ころ)がされていたのは記憶に新しい。


(かず)()つにまかせたゴリ押しで、窮地(きゅうち)から(だっ)した事も一度や二度の話ではない。


そんな()(かさ)ねによる、方術(ほうじゅつ)への確固(かっこ)たる信頼(しんらい)があった。


(げん)にアビスガルダは、今日(こんにち)まで、これで一線(いっせん)にて活躍(かつやく)してこられたのだ。


それなのに、である。


少し()退()いただけの超々(ちょうちょう)至近距離(しきんきょり)から"(はっ)せられた光を見て(すべ)()ける"など、経験則的(けいけんそくてき)にも、対人戦(たいじんせん)であり()る話ではない。


しかも、(おのれ)(ばい)以上(いじょう)あるティハラザンバーの巨体(きょたい)がやったとなれば、常識(じょうしき)(うたが)えや臨機応変(りんきおうへん)対応(たいおう)とか言われても、ものには限度(げんど)があるだろう。


「何だそりゃあ?!」


などと、驚愕(きょうがく)して思わずツッコミを(さけ)んでしまうのは、無理のない話であった。


のこちゃんからしてみれば、なりふり(かま)わない全力(ぜんりょく)での回避行動(かいひこうどう)だったにしても、実際のところ"()らめきの流れ"で(あらかじ)め攻撃の軌道(きどう)がバレているので、まぁ多少インチキではあるのだが。


とは言え、(おお)ティハラの助力(じょりょく)()て、格段(かくだん)飛躍(ひやく)したティハラザンバー驚異(きょうい)の身体能力があってこそ、なし()奇跡的(きせきてき)な結果には(ちが)いない。


しかも、天空の女神(リナリーシア)神器(じんぎ)である双剣(そうけん)によって、アビスガルダには、(さら)なる理不尽(りふじん)()きつけられつつあった。



()って(さば)くですか?」


『ふむ、()るとは言っても、正確(せいかく)()を合わせる必要もないのだがな…のこ』


のこちゃんは、光線(こうせん)の攻撃だから刀身(とうしん)に受けてピカッと反射(はんしゃ)させるのかな?くらいのボンヤリした認識(にんしき)のまま、トレーナーの言う事を()()ける。


その辺りの信頼関係(しんらいかんけい)は、ティハラザンバーをやって行く上での命綱(いのちづな)認識(にんしき)もあるため、もはや()るぎがない。


「やってみます!」


何より目前(もくぜん)の敵、シマユリの命を軽く使い()て様としたアビスガルダは(ゆる)せない。


こんな他に(たよ)る者のいない僻地(へきち)にあって、同じ人間が、しかもたった(ひと)りでいた無力(むりょく)な子供をである。


かつての自分とシマユリを(かさ)ねているのも大きいにせよ、のこちゃんの本来(ほんらい)が人間であればこそ、自分が攻撃された以上に見過(みすご)ごせない事態(じたい)なのだ。


この先も、シマユリを(ねら)うかも知れず、シマユリに(かぎ)らずとも()た様な事を()(かえ)す可能性があるとなれば、尚更(なおさら)だろう。


のこちゃんには、問題解決に(さい)して相手をギタンギタンにしてやるぜ的な、ジャイアニズムめいた暴力行使(ぼうりょくこうし)積極性(せっきょくせい)は無い。


それでも、最低限(さいていげん)アビスガルダから戦闘能力を(うば)うくらいの結果を(もと)めて、(みず)ら戦う決意(けつい)(うなが)すには十分(じゅうぶん)な理由であった。


そして、戦うと決めた以上は、少しでもティハラザンバーの能力を引き出す必要もある。


いくら(おお)ティハラに救済(きゅうさい)されたとは言え、アビスガルダの方術(ほうじゅつ)によって(こうむ)った大打撃(だいだげき)は、決して(あなど)れるものではない。


のこちゃんにとってトレーナーのアドバイスは、活路(かつろ)へと(いざな)ってくれる、まさしく金言(きんげん)なのだ。


ティハラザンバーは、双剣(そうけん)を持つ手に(ちから)()めた。



ふと気がつけば、ティハラザンバーの活性化(かっせいか)(ともな)い、()いでいた風がまた湖畔(こはん)()き始めている。


アビスガルダの足下(あしもと)で草がそよぎ、何処(いずこ)かから()け落ちたであろう()()が、眼前(がんぜん)をよぎってゆく。


「ちっ、悪い冗談(じょうだん)だなっ」


動揺(どうよう)したのも一瞬(いっしゅん)の事であった。


意識(いしき)()()えたアビスガルダからは、(ふたた)びティハラザンバーへ向けた"()らめきの流れ"が、一気(いっき)()()せる。


初撃(しょげき)()けられたなら、間髪入(かんはつい)れず、それ以上に方術(ほうじゅつ)殺到(さっとう)させてやれば良い。


単純(たんじゅん)な攻撃だからこそ、多用(たよう)応用(おうよう)もし(やす)く、それゆえに厄介(やっかい)とも言える。


(またた)()数多(あまた)におよんで()ち上がった方術(ほうじゅつ)発光(はっこう)が、術者(じゅつしゃ)である漆黒(しっこく)のアビスガルダの姿を(かす)ませる。


その光量(こうりょう)によって、(みずうみ)水面(みなも)が、反射(はんしゃ)のきらめきに()ちる。


地面をも飲み()(まぶ)しさに、ティハラザンバーの視界(しかい)(おお)われてゆく。


これでは、アビスガルダの動きどころか、"()らめきの流れ"すら把握(はあく)しきれないだろう。


相手の目視(もくし)すらも考慮(こうりょ)して、即座(そくざ)構築(こうちく)された攻撃の処方箋(レシピ)である。


場慣(ばな)れの意味では、アビスガルダに一日(いちじつ)どころか、数日(すうじつ)(ちょう)があると言えた。


「わっ、多すぎてダメですよね、コレ!?」


ティハラザンバーの目が、まばゆさで(ほそ)められたのもつかの間、みるみる()えて行く光に(おどろ)いて、逆に丸く見開(みひら)かれる。


『なに、こちらへ集中してくれるのなら、むしろ好都合(こうつごう)だ…のこ』


まとめて双剣(そうけん)(はら)ってしまえと、トレーナーは、さも容易(たやす)そうに言ってのけた。


「ええ…」


確かに、そのひとつひとつは(ほそ)光線(こうせん)なので、双剣(そうけん)でピカピカと対応可能(たいおうかのう)な気もする。


しかし、ここまで光で(あふ)れてしまうと、二振(ふたふ)りの剣でどうにかできるイメージが()かなかった。


やればできるみたいな感じを出されても、のこちゃんにとっては、無理難題(むりなんだい)に他ならない。


もちろん、トレーナーを信頼(しんらい)しているし、その言葉も(うたが)わないにしても、それとこれとは話が別である。


ただ、逡巡(しゅんじゅん)している(ひま)も無かった。


「ああ、もう!」


ティハラザンバーは、眼前(がんぜん)(みち)る光の奔流(ほんりゅう)へ向け、(あわ)てて両手(りょうて)双剣(そうけん)()()す様にかざす。


前へ(なら)いで、(れつ)(なら)ぶ時、先頭(せんとう)以外の人がする形である。


下手(へた)をすれば、まっ正面(しょうめん)から方術(ほうじゅつ)(あらし)()()まれてしまう。


そうなってしまえば、前回以上のめった()ちにされた(すえ)、ティハラザンバーと言えどもただでは()まないだろう。


だが、そうはならなかった。


双剣(そうけん)をかざした途端(とたん)に、文字通(もじどお)り、その場の空気が変わったのだ。


のこちゃんからしてみると、(みょう)()んだ空気が、眼前(がんぜん)にひろがる感じがした。


それと同時に、方術(ほうじゅつ)による光の一切(いっさい)()()される。


そもそも、方術(ほうじゅつ)は光ってなどいなかったと言わんばかりに、アビスガルダが攻撃(こうげき)仕掛(しかけ)ける前の状態(じょうたい)(もど)っていた。


周辺(しゅうへん)景色(けしき)は、拍子抜(ひょうしぬ)けするほど、(おだ)やかでクリアである。


(みずうみ)水面(みなも)が風になでられて、ざっと音を立てる。


トレーナーが、フッと、吐息(といき)の様な声をもらした。


「あれ?」


つられて、のこちゃんも、()()けた声をこぼす。


「なっ………………」


そして、今度こそアビスガルダは、驚天動地(きょうてんどうち)心境(しんきょう)だったに(ちが)いない。


確かな手応(てごた)えと(とも)発動(はつどう)していた方術(ほうじゅつ)が、訳も分からず丸ごと消滅(しょうめつ)したのだ。


結果として、攻撃が成立(せいりつ)しなかった。


それは、(さき)ほどと同様(どうよう)だろう。


しかし、()けられた時とは、状況(じょうきょう)の意味が変わる。


そして、それが分からないアビスガルダではない。


「…てめぇ、"何か"しやがったな」


恐ろしく敵意のこもった(つぶや)きに合わせて、アビスガルダの周辺(しゅうへん)に、またしても方術(ほうじゅつ)による発光(はっこう)が開始された。


(じゅつ)発動(はつどう)は、確かであった。


歴戦(れきせん)裏打(うらうち)ちされた肌感覚(はだかんかく)が、そう()げている。


アビスガルダは、それを検証(けんしょう)するかの様に、光の数を()やしてゆく。


方術(ほうじゅつ)研鑽(けんさん)は、昨日今日(きのうきょう)の話でもない。


当然、場数(ばかず)()んでいれば、方術(ほうじゅつ)阻害(そがい)してくる様な敵と戦う事もある。


それでも、生き残ってきたならば、これからもやる事は変わらないのだろう。


継戦(けいせん)意志(いし)は、その行動に(しめ)されていた。



『そら、続けてまた来るぞ…のこ』


「………!」


トレーナーの注意喚起(ちゅういかんき)で、のこちゃんは、(われ)(かえ)った。


訳が分からず呆気(あっけ)にとられたのは、アビスガルダだけではない。


のこちゃんとて、ティハラザンバーに(おどろ)かされる意味では、()た様な()位置(いち)なのだ。


とは言え、双剣(そうけん)でこの場を(しの)げるらしいと分かっただけでも、光明(こうみょう)見出(みいだ)せる。


(あわ)てて、ティハラザンバーは、次の攻撃へ(そな)えて(かま)えなおすのだが………


「あっ」


ぼーっとしていて、気がついた時には、状況(じょうきょう)が変わっているなどよくある話である。


すでに、アビスガルダは、地を()って空高(そらたか)跳躍(ちょうやく)していた。


漆黒(しっこく)金属装甲(きんぞくそうこう)で全身を(おお)った人の姿が、(おも)たそうな見た目に(はん)して、(かろ)やかに(ちゅう)()う。


のこちゃんの感覚(かんかく)では、5~6階建(かいだ)てのビルの高さくらいまで、一息(ひといき)到達(とうたつ)している様に見える。


その運動性(うんどうせい)に、アビスガルダ本人の言う"存在ごと強化している"の意味が、具体的(ぐたいてき)に表現されていた。


「ああ…」


同時にそれは、日曜日の朝を彷彿(ほうふつ)とさせる、超人的(ちょうじんてき)絵面(えづら)でもあった。


「………………(メタリック・ヒーローズと言うより、昭和フルヘルムナイトの改造人間(かいぞうにんげん)の方が近いかも知れないなぁ)」


なので、自分の状況(じょうきょう)(たな)()げて、のこちゃんが、そんな事をちょっと思ってしまっても仕方がない。


『その"牙のむき方"は、何やらニヤけているのであろうが、戦いに集中(しゅうちゅう)するのだ…のこ』


しかし、トレーナーからは、苦言(くげん)(てい)されてしまった。


トレーナーも、あるていどは、のこちゃんの事を理解(りかい)し始めているらしい。


一方、アビスガルダの算段(さんだん)は、恐らく、正面(しょうめん)から()(づら)かったとしても、別のアプローチを模索(もさく)すれば良いという事なのだろう。


(まった)(つう)じないって訳でもねぇんだろ?!」


不意打(ふいう)ちとは言え、一度は直撃(ちょくげき)した事実に、勝機(しょうき)(もと)めている様子が(うかが)える。


そして、その跳躍(ちょうやく)している軌跡(きせき)沿()って、身体にまとわりついていた方術(ほうじゅつ)の光を次々(つぎつぎ)(はな)ってゆく。


それは、半包囲(はんほうい)からティハラザンバーその一点(いってん)へと()かう様な、集中砲火(しゅうちゅうほうか)()ていた。


(じゅつ)射出(しゃしゅつ)着弾(ちゃくだん)にはタイムラグが無いため、衝撃(しょうげき)瞬時(しゅんじ)地表(ちひょう)顕在化(けんざいか)()たす。


いきなり、ティハラザンバーの(まわ)りでは、破砕(はさい)された土けむりが(むれ)をなして()()った。


「ひぃやぁああぁぁぁぁっ」


(あわ)てるのこちゃんを()()りに、間断(かんだん)のない衝撃(しょうげき)が重い振動(しんどう)乱立(らんりつ)させて、渦巻(うずま)く様に連鎖(れんさ)し続ける。


地上への機銃掃射(きじゅうそうしゃ)比喩(ひゆ)するのも生ぬるい。


その威力(いりょく)密度(みつど)()てしなさは、この世に再現(さいげん)された無間地獄(むげんじごく)(ごと)きである。


『それ、よく目を()らして、(さき)ほどの様に(はら)ってしまうのだ…のこ』


それでも、"()らめきの流れ"が見えるので、まだマシなのだろう。


気持ちを騒然(そうぜん)とさせたままでも、ティハラザンバーの高精度(こうせいど)眼力(がんりょく)駆使(くし)して見極(みきわ)め、豪腕(ごうわん)双剣(そうけん)()るう。


双剣(そうけん)それぞれをなるべく正確に(あやつ)り、()()なく(おそ)ってくる"()らめきの流れ"を、一つ一つ(さえぎ)らせてゆく。


突破(とっぱ)されたら、また(いた)い目を見るのだ。


トレーナーに言われるまでもなく、のこちゃんは、方術(ほうじゅつ)(あらし)にせっせと対処(たいしょ)した。



この双剣(そうけん)は、ティハラザンバーの体格(たいかく)(あつら)えた様な、長大(ちょうだい)(いか)つい(つく)りをした二振(ふたふ)りの(かたな)である。


それを頭上高(ずじょうたか)軽々(かるがる)(かか)げ、それぞれ独立(どくりつ)した動きをさせながら(はげ)しく刀身(とうしん)(ひらめか)せているその姿は、あたかも剣舞(けんぶ)の様だった。


(はた)から、ティハラザンバーは、アビスガルダに(おど)らされている様に見えたかも知れない。


しかし、その甲斐(かい)あって、何とか直撃(ちょくげき)すると(おぼ)しき方術(ほうじゅつ)軌道(きどう)は、()れなく()()せていた。


「このっ、このっ、このっ…」


とは言え、究極(きゅうきょく)ハードモードのモグラ(たた)きゲーム状態(じょうたい)では、(いき)をつく(ひま)もない。


終わりの見えない防御(ぼうぎょ)で、精神的(せいしんてき)負荷(ふか)は、着実(ちゃくじつ)()してゆく。


ティハラザンバーは良いけど、中ののこちゃんは何て言うかな?


YAZAWA的な意味では、"必死(ひっし)"以外の何者でもなかった。


(われ)ながらよくやっていると、変な笑いがこみ上げてくる、のこちゃんである。


『ふむ、やはり上手(うま)いではないか…のこ』


そんな大変なところへ、教え子の成長を見届(みとど)ける(てい)観戦(かんせん)モードのトレーナーが気楽なコメントを()せるので、のこちゃんの信頼(しんらい)が少し()らいだのはここだけの秘密だ。


(いず)れにしても、このまま一箇所(ひとかしょ)(とど)まっていては、(ねら)われ放題(ほうだい)危機感(ききかん)(つの)る。


延々(えんえん)と攻撃をし続けられてしまえば、強靱(きょうじん)でお馴染(なじ)みのティハラザンバーは()(かく)、のこちゃんが(くじ)けかねないのは本当の話だろう。


それに、攻撃を()()し続けるだけでは、逆転(ぎゃくてん)決定力(けっていりょく)にも()ける。


のこちゃんは、双剣(そうけん)(いそが)しく()(まわ)しながらも、何とか状況(じょうきょう)を変えるべく、右へ左へとステップを()んで方術(ほうじゅつ)掃射(そうしゃ)をばらつかせる様に(こころ)みたのだが。


「上を取るってのは、こういう事なんだよ!」


あざけり気味に、アビスガルダはその都度(つど)(なん)なく射線(しゃせん)修正(しゅうせい)をしてしまう。


確かに、建物(たてもの)などの()(かく)せる遮蔽物(しゃへいぶつ)が無い場合、上空(じょうくう)から見れば、地上の標的(ひょうてき)が多少動き回った所で見失(みうしな)う事はないのかも知れない。


その辺りは、上背(うわぜい)のある埴輪(はにわ)の巨人と直面した時、感じた不利(ふり)さに()ている。


ティハラザンバーが対応(たいおう)手間取(てまど)(すき)に、着地したアビスガルダは、また跳躍(ちょうやく)して次の攻撃を仕掛(しか)ける悪循環(あくじゅんかん)を作ってしまっていた。


ただし、飛行(ひこう)している訳ではない。


アビスガルダの手数(てかず)に押されているのは事実にせよ、裏を返せば、こちらに飛翔(ひしょう)能力があったなら簡単(かんたん)立場(たちば)が変わるだろう。


その辺りに、引っかかるものを(おぼ)えた、のこちゃんである。


「このっ、このっ(空を()ぶか………)」


もちろん、ティハラザンバーには、そんな能力こそ無いものの、アビスガルダに負けない跳躍力(ちょうやくりょく)(そな)わっている。


それならばと、のこちゃんは、トレーナーへ思いつきを話してみた。


『ほう、やってみよ…のこ』


トレーナーも、提案(ていあん)してきたのこちゃんへ、興味深(きょうみぶか)げに実行(じっこう)(うなが)す。


即座(そくざ)に、ティハラザンバーは、かがみ()む様な姿勢(しせい)を取って見せた。



「うん?」


空中にありながら、アビスガルダは、ティハラザンバーの様子に微妙(びみょう)な変化を見受(みう)けて、(いぶか)しんだ。


当然、攻撃の手は、その(あいだ)(ゆる)めていない。


しかし、何をしようとしたところで、このまま押し切ってやると、アビスガルダが気合(きあ)いを()(なお)した時である。


刹那(せつな)、ティハラザンバーは、脚部(きゃくぶ)()められた(ちから)()(はな)ち、(いきお)いよく中空(ちゅうくう)()び上がった。


その()()みのエネルギーで、(みずうみ)がざわめき、湖畔(こはん)の地面が陥没(かんぼつ)する。


「このおっ!」


前方(ぜんぽう)へと()()された双剣(そうけん)が、(はば)む光の方術(ほうじゅつ)をことごとく()()しながら、滞空(たいくう)しているアビスガルダへぐんぐんと(せま)る。


「てめぇっっ」


そうはさせじと方術(ほうじゅつ)の数が()えるものの、目に見えて(かんば)しくない事態(じたい)推移(すいい)に、アビスガルダは舌打(したう)ちをした。


『そら、あやつも狼狽(うろた)えているぞ…のこ』


のこちゃんの提案(ていあん)が思い切りの良いもので、豪快聖女(ごうかいせいじょ)(この)みだったらしく、トレーナーの口調(くちょう)もどこか(たの)しげである。


一方のアビスガルダは、形勢逆転(けいせいぎゃくてん)されかねない選択(せんたく)(せま)られる立場になり、かなり面白くなさそうであった


ティハラザンバーの急接近(きゅうせっきん)に、決断(けつだん)する時間も無いに(ひと)しい。


得意(とくい)方術(ほうじゅつ)効果(こうか)が期待できないのであれば、アビスガルダは、身体能力を強化され、装甲(そうこう)(まと)って頑丈(がんじょう)になった人間にすぎない。


「本当に、悪い冗談(じょうだん)()ぎるってんだよ!」


咄嗟(とっさ)自分自身(じぶんじしん)方術(ほうじゅつ)発現(はつげん)させると、その衝撃(しょうげき)でアビスガルダは(はじ)かれ、それまでの跳躍(ちょうやく)軌道(きどう)から逸脱(いつだつ)する。


タッチの差で、本来(ほんらい)アビスガルダがいたであろう空間を、疾風(はやて)(ごと)くティハラザンバーは(とお)()ぎた。


「あぁ、ダメかっ」


『ふっ、味なマネをされたな…のこ』


(ちゅう)を落下しつつ、アビスガルダは、無数(むすう)の光の方術(ほうじゅつ)でティハラザンバーの()()()ちする。


「はっ、下から(ねら)ってやるだけだってな!」


あわや、不意打(ふいう)ちにて()()わされた、(さき)()(まい)かと思われたその時………


「やあっ!」


滑空(かっくう)しながら双剣(そうけん)()ると、ティハラザンバーが急旋回(きゅうせんかい)して、アビスガルダの攻撃を(かわ)した。


いや、急旋回(きゅうせんかい)と言うよりも高速方向転換(こうそくほうこうてんかん)の様な、ただ滑空(かっくう)するだけではなし()ない動きであった。


埴輪(はにわ)の巨人を()()ばした、暴風(ぼうふう)を利用しての空中機動(くうちゅうきどう)である。


間違(まちが)いなく、あの時は、偶然(ぐうぜん)発現(はつげん)だった。


しかし、今は、双剣(そうけん)にできる事として分かっているのだ。


やれそうであるならば、やらない手はない。


まさに、"(とら)(つばさ)"という言葉の比喩(ひゆ)を、のこちゃんが積極的(せっきょくてき)に実現させて見せた瞬間(しゅんかん)だろう。


両手により左右へ広げられた双剣(そうけん)が、陽光(ようこう)反射(はんしゃ)して(かがや)く。


ティハラザンバーは、(ふたた)双剣(そうけん)()って直角(ちょっかく)上昇(じょうしょう)すると、クルリと体勢(たいせい)()()え、落下中のアビスガルダに()(なお)た。


のこちゃんの予想以上にイメージ通りの動きができるらしく、空中にあっても、器用(きよう)な身のこなしにも見える。


『これを才覚(さいかく)と言うのか?

戦いの中で、よくこんな事を思いつくものだな…のこ』


などとトレーナーが本気で感心するものの、オールラウンド戦闘弱者(せんとうじゃくしゃ)と言っても過言(かごん)ではないのこちゃんに限っては、そんな気転(きてん)()くはずもない。


確かに、この(こころ)みへと(いた)材料(ざいりょう)はそろっており、それをまとめる(ひらめ)きもあった。


ただ、これまでも思いつきの出典(しゅってん)は、大凡(おおよそ)がチャムケア関連に(かぎ)られるのだ。


現に今も、のこちゃんの脳内では、『チャムケア!POPPIN'(ポッピン)PLANET(プラネット)』のBGM、"死闘!チャムケア対ブラックタンブル"が()(ひび)いている。


順風満帆(じゅんぷうまんぱん)でソウロウ!」


しかも、のこちゃんからその主人公であるケアフローリッシュの口癖(くちぐせ)が発せられたので、どうやらこれもチャムケアが元ネタである事は決定的となった。



『チャムケア!POPPIN'(ポッピン)PLANET(プラネット)』は、初代の『チャムケア!』と続編の『チャムケア!Marvelous(マーベラス・)Howl(ハウル)』に続くシリーズ3作目で、『P◎P』などと(りゃく)される。


人気だった初代2作のフォーマットを()()いだ作風なので、放送開始の当初(とうしょ)こそは、目新(めあたら)しさが希薄(きはく)などの不評(ふひょう)を買ってしまい、今ひとつ()るわなかった。


ヒット作の続編によく見られる"約束された成功"の文脈(ぶんみゃく)(とら)えられてしまったのだろうと、のこちゃんは、()であるきょう姉さんからの解説(かいせつ)を受けている。


しかし、チャムケア初の"フォームチェンジ"や敵幹部(てきかんぶ)の少女が味方に転向(てんこう)する所謂(いわゆる)"光落ち"に"EDでダンスする"などの要素(ようそ)が、6作目の『スマッシュチャムケア!』をはじめ、後年(こうねん)のシリーズに影響(えいきょう)(あた)えた意味では、決して(すみ)()けない作品である。


もちろん、のこちゃんも大好きなのだ。


"空を()ぶ"で、のこちゃんがまっ(さき)にイメージしたのは、この『P◎P』であった。


と言っても、登場するケアフローリッシュとケアハーンに、飛行能力(ひこうのうりょく)は無い。


飛行能力(ひこうのうりょく)を持つチャムケアは、7作目『ハードチャレンジ!チャムケア』や、シリーズ10作目の周年記念タイトル『ラックネスサージチャムケア!』など、確かに存在している。


だが、ところせましと3D空間(くうかん)縦横無尽(じゅうおうむじん)()(まわ)機動力(きどうりょく)と、それを生かしたフィジカルバトルに重きを置く作風がそもそものチャムケアである。


跳躍(ちょうやく)(つな)げての空中戦こそ、本来(ほんらい)の見せ場とも言えるのだ。


シリーズ15作目の周年記念タイトルである『TUGって!チャムケア』でも、初期メンバーであるケアシュトラールが自分の必殺技に乗って飛行(ひこう)する荒技(あらわざ)を使うものの、(つばさ)を意味する名の主人公ケアフリューゲルは、跳躍(ちょうやく)を利用したバトルスタイルが印象的だった。


そして、それらに(さき)がけて、シリーズ屈指(くっし)大跳躍(だいちょうやく)を見せたのが、『P◎P』のケアフローリッシュとケアハーンである。


ケアフローリッシュとケアハーンには、(しぇー)なる光に守られる特徴(とくちょう)があり、戦闘中にそれを利用したバリアを()ったりする。


その応用(おうよう)(おぼ)しき光のサポートによって大跳躍(だいちょうやく)もなされるのだが、バリアになるなら足場にもなるとばかりに、空中で次の大跳躍(だいちょうやく)へと無限(むげん)(つな)げられるのだ。


それは、まさしく空を()けるが(ごと)く、飛行(ひこう)しているのと変わらない空間機動(くうかんきどう)を可能とする奇跡(きせき)のチャムケア・アクションに(かぞ)えられるだろう。


つまり、双剣(そうけん)のサポートによる跳躍(ちょうやく)の空中コントロールは、その辺りが、のこちゃんにインスパイアされているのだ。


今、ティハラザンバーは"天空の女神(リナリーシア)様の神器(じんぎ)"という名の(しぇー)なる(ちから)によって、文字通り大空(おおぞら)()けていた。


ちなみに、"(しぇー)なる"の正しい読み方は、"(せい)なる"である。


()えてそう読むこれも、ファンによる作品の愛し方の一つとだけ付け加えておこう。



「いい加減(かげん)にしろって言ってんだよっ、この()(とら)野郎がっ!」


(ちゅう)(おど)り出たティハラザンバーに、地上に(もど)ったアビスガルダからは、(いか)りの()もった方術(ほうじゅつ)砲煙弾雨(ほうえんだんう)とばかりに()()なく(はな)たれ上がった。


その一撃一撃が、大ダメージ必至(ひっし)破壊力(はかいりょく)である。


(ねら)いの正確(せいかく)さと(はな)たれた瞬間(しゅんかん)着弾(ちゃくだん)する(じゅつ)性質(せいしつ)で、なかなかの厄介(やっかい)さなのだ。


それは、必殺(ひっさつ)(むれ)と言っても、過言(かごん)ではない。


のんびりしていたら、すぐに()()とされてしまうだろう。


のこちゃんは、次々(つぎつぎ)()げつけられる"()らめきの流れ"に双剣(そうけん)対処(たいしょ)しながらも、ティハラザンバーを空中で()ねまわらせた。


双剣(そうけん)の右で方術(ほうじゅつ)()()すと同時に、左で暴風(ぼうふう)発射(はっしゃ)するといった具合(ぐあい)である。


当然、その逆もあり、時には両方を使う。


『おお、上手(うま)い、上手(うま)いではないか…のこ』


トレーナーにとっても新鮮(しんせん)戦法(せんぽう)だったらしく、その声は、それまでよりも()をかけてこの状況(じょうきょう)(きょう)じていた。


「あんっ…まりっ…(しゃべ)りっ…かけないでっ…くださいっ…」


しかし、当初(とうしょ)は思った通り動けたにせよ、()けるためと()()すための双剣(そうけん)操作(そうさ)(かさ)なる内に、のこちゃんにかかる負荷(ふか)もやはり()してゆく。


攻撃を(さば)両腕(りょううで)(いそが)しさに頭が()いつかなくなって、イメージする事の継続(けいぞく)(むずか)しい。


そうなると、どんどん場当(ばあ)たり的で、力任(ちからまか)せのデタラメな動きになってしまっていた。


元々(もともと)、空を()ぶ生活に()れていたのなら話も変わってくるのだろうが、のこちゃんは、地に足をつけた庶民派(しょみんは)なのだ。


熟練(じゅくれん)飛行機(ひこうき)パイロットでも、(とき)として、飛行中(ひこうちゅう)天地(てんち)を見失う空間識失調(くうかんしきしっちょう)を起こすと言われている。


初心者(しょしんしゃ)であるのこちゃんが、地上へ全力(ぜんりょく)突進(とっしん)して激突(げきとつ)していないだけでも、十分(じゅうぶん)奇跡的(きせきてき)である。


上、上、下、下、左、右、左、右な滑空(かっくう)をしたかと思えば、明後日(あさって)方向(ほうこう)()んで、(なな)(うえ)へと()(のぼ)る。


もはや、(未確認) (飛行) (物体)と化していたものの、本当の所は、(なか)神器(じんぎ)(ちから)翻弄(ほんろう)されていたに()ぎない。


それでも、何の法則性(ほうそくせい)も無いその滅茶苦茶(めちゃくちゃ)挙動(きょどう)は、方術(ほうじゅつ)(ねら)いを(さだ)めさせない効果(こうか)を上げていた。


もちろん、地上のアビスガルダに(とど)いていなかっただけで、のこちゃんは、それなりに悲鳴も上げている。


「くそっ、図体(ずうたい)でけーくせに、動きがテキトーすぎて当たりゃしねぇ!」


一方で、相手のそんな状態(じょうたい)をつゆ知らず、アビスガルダには(あせ)りが見え始めた。


かなりの弾数(たまかず)(ほこ)術者(じゅつしゃ)であろうとも、さすがにここまで手間取(てまど)ってしまっては、(おの)ずと限界(げんかい)(おとず)れる。


ここは、(いた)(わけ)けという(てい)で引くのもアリかと、そんな考えを脳裏(のうり)によぎらせていた。


つまり、面倒(めんどう)()けたいという、弱腰(よわごし)垣間見(かいまみ)せたのだ。


確かに、大きなダメージを(あた)えて(たお)したと思えば急に復活し、自信のあった方術(ほうじゅつ)()()され、現在は、ピンボール玉の様なふざけた姿(すがた)を空の上で()(ひろ)げている。


ティハラザンバーが相手では、いちいち奇想天外(きそうてんがい)と言うほか無く、調子(ちょうし)(くる)うのも仕方(しかた)ないのかも知れない。


だが、前線(ぜんせん)で戦うに(かん)してベテランとも言って良いアビスガルダのそれは、普段ならば絶対にしない緊張感(きんちょうかん)の切らせ方だった。


そして、そんな姿勢(しせい)は、一瞬(いっしゅん)(すき)として(あらわ)れてしまうものである。


アビスガルダは、無意識(むいしき)にしたバックステップで、それまでの攻撃リズムをずれさせた。



(とき)をほぼ同じくして、のこちゃんもまた、この状況(じょうきょう)(あせ)っていた。


まぁ、こちら(がわ)(かん)しては、そりゃそうだろうなとしか言い様がないものの。


ただ、これも(おお)ティハラによる補助(ほじょ)効果(こうか)なのか、そんな制御不能(せいぎょふのう)そうな()()(かた)をしていても、のこちゃんの目は(まった)(まわ)っていない。


「あれっ、何でこっちに()んだ?あれっ、あっ良いのか?あれっ、あれぇーっ?!」


目は(まわ)っていないのだが、何とかしなくてはと、気だけが動転(どうてん)している感じだろう。


(いず)れ、こういった局面(きょくめん)()れてくれば、冷静(れいせい)判断(はんだん)もできる様になるはずである。


しかし、今は、ティハラザンバーの並外(なみはず)れた反射神経(はんしゃしんけい)持久力(じきゅうりょく)で、何とか乗り切れているだけの話だった。


それでも、アビスガルダの方術(ほうじゅつ)対処(たいしょ)できているのは、神器(じんぎ)影響(えいきょう)なのか文字通(もじどお)り神がかっている。


『ふむ、やはり、いきなりでは無理もあるか…のこ』


さすがに()かれていたトレーナーも、そのパニックぶりを見て平静(へいせい)さを取り(もど)し、今は、のこちゃんを(あん)じている。


『いっその事、この身体(ティハラザンバー)頑丈(がんじょう)さに(まか)せて、流れを変える手もあるのではないか?…のこ』


要は、面倒(めんどう)なのでまた突貫(とっかん)して蹴散(けち)らしてしまえという、いつもの豪快聖女(ごうかいせいじょ)らしい訓示(くんじ)だった。


とは言え、確かに、このままではどうしようもないと、のこちゃんも身につまされていたところなので、一応(いちおう)()()けではある。


「だ、だったら、あれだ、あれをやってみようっ」


"あれ"とは、もちろんチャムケア・アクションの事である。


のこちゃんとて、無為(むい)に?()ねまわっていた訳ではない。


もちろん、人間の平衡感覚器官(へいこうかんかくきかん)であれば瞬殺(しゅんさつ)されていたに(ちが)いない、デタラメな空中運動にしれっと()えられている自分にも気が付いている。


しかし、それ以上の発見は、この無茶(むちゃ)空間機動(くうかんきどう)成立(せいりつ)させている要因(よういん)が、双剣(そうけん)だけでなかった事だろう。


何と、のこちゃんのイメージを実現させるべく白銀(しろがね)(よろい)の部分からも強風(きょうふう)()き出されていて、空中では、(こま)やかな姿勢(しせい)コントロールをアシストしていたのだ。


どんな()ね方をしていていようとも、やけに黒い(かわ)の服がバタバタし続けているなぁと、素朴(そぼく)に思った所から判明(はんめい)へと(いた)った。


()れた全身の体毛(たいもう)(かわ)かす時に、ティハラザンバー自身による発熱(はつねつ)に加え、風を発生させてドライヤーの様な効果を生んでいた事を(おぼ)えていたのも大きい。


言うなれば、双剣(そうけん)白銀(しろがね)(よろい)神器(じんぎ)連携(れんけい)である。


同じ天空の女神(メーカー)神器(ガジェット)なので、こういった事も仕様(しよう)なのかも知れないなどと、のこちゃんは、デジタルネイティブ世代らしい納得(なっとく)のし方をしていた。


そんな、心の準備が(かた)まった(おり)である。


不意(ふい)に、それまでのアビスガルダから()()され続けていた攻撃が、()を開けた気がしたのは。


ならば、あとは、決行(けっこう)あるのみだろう。


「やぁーっ!」


のこちゃんは、双剣(そうけん)の片方だけを真上(まうえ)()()して、白銀(しろがね)(よろい)からの強風(きょうふう)脳天(のうてん)からつま先を(じく)にティハラザンバーの身体を高速回転(こうそくかいてん)させると、頭からアビスガルダへ向かって急降下(きゅうこうか)した。


もう片方は、身体にそって(うしろ)に下げたまま、暴風(ぼうふう)推進力(すいしんりょく)(がかり)だ。


みんな大好き、回転(かいてん)して攻撃である。


身体の回転(かいてん)を利用して攻撃するのは、何も、破壊牙々(はかいがが)(おおかみ)獣人(じゅうじん)セイランや埴輪(はにわ)の巨人に(かぎ)ったものではない。


当然、チャムケアにも、そういったアクションは存在している。


特にケアナイトとケアライトの活躍するシリーズ初代では、ケアライトが、相手の力を利用して戦う中国武術で言うところの化勁(かけい)の様なスタイルで、身体を回転(かいてん)させて自分よりもはるかに大きな敵の怪物を()()ばしたり地面へ(たた)きつけたりしているのだ。


さすがに、そんなテクニックは持ち合わせていないにせよ、のこちゃんが(あこが)れていない訳がない。


ただし、どう考えても目を(まわ)すため、これまで自分が回転(かいてん)するのは思いもしなかったのであるが………


「目が(まわ)らないと分かったのでー!!」


ティハラザンバーは、(はじ)()んだドリル()の様に、(きり)もみ状態(じょうたい)一直線(いっちょくせん)に空間を()(すす)む。


回転(かいてん)に合わせ、()()された白銀(しろがね)(かたな)はジューサーミキサーの()の様にスピンして、()びせ来るアビスガルダの方術(ほうじゅつ)(ぐん)をことごとく()()していった。


落下(らっか)(いきお)いも(くわ)わり、かなりのスピードで(せま)っている。


「本当に、ばかばかしい事ばっかりしやがる…」


そのまま、先端(せんたん)(けん)穿(うが)ちに来ると予想したアビスガルダは、(ふたた)(みずか)らも跳躍(ちょうやく)した。


それも、ティハラザンバーの飛来(ひらい)する軌道(きどう)を読んで、(ちか)からず(とお)からずギリギリの所をすれ(ちが)う様にである。


いくら空中での方向転換(ほうこうてんかん)ができるにしても、(いきお)いがつき()ぎているこの現状(げんじょう)では、(かなら)ずいったん着地してから次の攻撃動作(こうげきどうさ)にせざるを()ないだろう。


強くて大きなアクションは、それ(ゆえ)に、むしろ予測(よそく)がし(やす)い。


何なら、横を(とお)()ぎる時に、(いや)がらせで方術(ほうじゅつ)一二発(いちにはつ)(たた)()んでも良い。


それで(かせ)いだ(わず)かな時間があれば、アビスガルダには、この場を何とかできる自信があった。


そして、やはり潮時(しおどき)判断(はんだん)したらしく、跳躍(ちょうやく)の先は、自分が出てきた巨木(きょぼく)大森林(だいしんりん)へと向かっている。


『ほう、こやつめ、()(ぎわ)をわきまえている様だぞ…のこ』


「えっ、逃げるの?!」


言われてみれば、あれだけ派手(はで)方術(ほうじゅつ)をばらまいていたのだ。


そのために、何かしらの消耗(しょうもう)(ともな)うならば、退却(たいきゃく)するのも納得(なっとく)のいくところなのだが。


「ここまでやっといて仕留(しと)められないのはムカつくが、んな所で、死力(しりょく)()くすつもりも()ぇーからなっ」


ティハラザンバーに接近(せっきん)するアビスガルダは、忌々(いまいま)しそうに(どく)づきながら、暗闇(くらやみ)色の顔に(とも)らせた双眸(そうぼう)の光を強くさせる。


「…(ちが)う!!」


のこちゃんは、咄嗟(とっさ)に、(うしろ)()げていた双剣(そうけん)のもう片方をアビスガルダに向けて()り上げる。


時空刑事(じくうけいじ)が、電飾(でんしょく)格好良(かっこうよ)く目を光らせる演出(えんしゅつ)は、必殺剣(ひっさつけん)()るう時のお約束だからだ。


その刹那(せつな)両者(りょうしゃ)の空間で、何かが()()えた。


それも、強い反動(はんどう)(ともな)った、これまでアビスガルダが使用していた方術(ほうじゅつ)とは、異質(いしつ)なものである。


「クソっ、(かん)まで良いのかよっ!」


アビスガルダは、今度こそ本気で撤収(てっしゅう)するらしく、ティハラザンバーを()()る様な姿勢(しせい)を取った。


「ああっ、逃げられちゃう」


ティハラザンバーの回転(かいてん)強引(ごういん)に止めて何とか体勢(たいせい)(ととの)えたのこちゃんだったが、アビスガルダの姿は、すでに双剣(そうけん)(とど)範囲(はんい)にない。


双剣(そうけん)背後(はいご)(まわ)して暴風(ぼうふう)のブレーキをかけていても、最初につけた(いきお)いが(おさ)まらず、両者(りょうしゃ)距離(きょり)(ひら)くばかりである。


『何か仕掛(しか)けていたとは、よく気がついたな…のこ』


鉄板(てっぱん)ですから」


また、よく分からない事を言うのこちゃんに、少し()()いてトレーナーは続けた。


『………その発想力(はっそうりょく)(もっ)てすれば、もはや双剣(そうけん)斬撃(ざんげき)()ばせるだろうよ。

(はな)れた相手へ(つるぎ)威力(いりょく)(とど)くイメージをするのだ…のこ』


それは、のこちゃんが伝説の中で見た、(せい)ザンバー=リナの(わざ)の事だろう。


彎刀(わんとう)()()いて、その威力(いりょく)だけを(おお)ティハラへと投げつけていたのだ。


「あれですか…」


これまで、のこちゃんは、チャムケアのインスパイアから、ティハラザンバーで色々(いろいろ)としでかしてきた。


しかし、武器を()(あつか)う場合、基本的に素手(すで)で事に当たるチャムケア準拠(じゅんきょ)では、イメージが(むず)しいのだ。


何なら、『TUGって!チャムケア』の主人公ケアフリューゲルは、最初の幹部怪人(かんぶかいじん)と中ボス決戦を(むか)えた時、顕現(けんげん)したチャムケアの(けん)を自らの矜恃(きょうじ)(はん)するからと、(おのれ)の手でチャムケア相応(そうおう)のアイテムへと(つく)()えてしまった。


敵を(たお)すだけがチャムケアではない。


そんなメッセージを読み取って、玩具(おもちゃ)販促(はんそく)と理解しながらも、あの奇跡(きせき)のくだりはシリーズ屈指(くっし)の名場面と、のこちゃんも(たましい)(きざ)()んでいる。


一方で、『OK!チャムケア4!』の続編である『OK!チャムケア4forFaraway(フォーファラウェイ)!』では、青いチャムケア、ケアセオリツがサフィールフレッシュというエネルギーで弓矢(ゆみや)()した必殺技を使ったり、どう見ても(けん)の形をしているアイテムをステッキと()()って全員(ぜんいん)で必殺技を(はな)つ時に使用している。


ただ、劇場版で主人公のケアククリが、そのステッキをまるで(けん)の様に使いラスボスをめった()りにして(たお)していたのは、ご愛敬(あいきょう)である。


『スワイプチャムケア!』のケアビースティも、青いチャムケアとしてケアセオリツを継承(けいしょう)し、氷で作られた弓矢(ゆみや)であるビースティ・ブラスト・アーバレストという必殺技を使う。


攻撃を"()ばす"のは、弓矢(ゆみや)でイメージがしやすいのかも知れないものの、あくままでも(けん)(はな)つとするならば、どうもピンと来ない。


他にも、『ラックネスサージチャムケア!』の主人公ケアマブリーはエネルギーでマブリーリベルトマホークを作りだし怪物を(たた)()り、『ローリンゲット!チャムケア』の主人公ケアタリアーもアイテムからエネルギーの剣身(けんしん)()やして接近戦(せっきんせん)に使ったりする。


結局、敵を(たお)さなければお話にならないので、攻撃的なチャムケアだって、それはそれで良いものである。


チャムケアは、みんな(ちが)って、みんな良い。


とは言え、(いず)れも、双剣(そうけん)から斬撃(ざんげき)()ばすイメージには直結(ちょっけつ)しない。


『バシバシ!チャムケア』のレイケンリュウナギナタは、元は古代(こだい)に存在したチャムケアの武器だったものの、ライバルポジションであるレイナの手に(おさ)まっているから、()しい気がしつつも何か(ちが)う。


のこちゃんからしてみれば、実に(なや)ましい話なのだ。


チャムケアに(かぎ)らなければ、パッと思いつくのは、(けん)(たくわ)えられたエネルギーで戦う、それこそ時空刑事(じくうけいじ)のシャイニングソードだろう。


(やみ)()()く様に、シャイニングソードのかけ声で剣身(けんしん)(かがや)かせ、その戦いを決定する必殺技を(はな)つのだ。


(おさな)(ころ)、きょう姉さんと一緒(いっしょ)に見ていた事を、今でもよく(おぼ)えている。


そう言えば、時空刑事(じくうけいじ)の音楽を担当していた劇伴作曲家(げきばんさっきょくか)巨匠(きょしょう)は、初代チャムケアにも楽曲(がっきょく)提供(ていきょう)しているから、あながち無関係でもない。


あれこれ(まよ)っている(ひま)がないので、ここは、きょう姉さんの(ちから)()りる感じでなら、シャイニングソードのイメージもアリな気がしてきたのこちゃんである。


「し、シャイニングソード!」


大凡(おおよそ)の場合は、好事家(こうずか)(ちから)()りても最適解(さいてきかい)からは遠くなるにせよ、のこちゃんからしてみれば、心強(こころづよ)いに(ちが)いないのだろう。


ちなみに、のこちゃんが"あれですか"と言ってから、ここまでのうんちくと葛藤(かっとう)にかかったタイムは、わずか0.05秒に()ぎない。


のこちゃんのイメージに(こた)えたと(おぼ)しき双剣(そうけん)刀身(とうしん)は、高速(こうそく)振動(しんどう)(ともな)って、煌々(こうこう)とまばゆい光を(まと)い始める。


不意(ふい)刀身(とうしん)円筒形(えんとうけい)へ変わったりしないか?というのこちゃんの余計(よけい)心配(しんぱい)をよそに、(かがや)きの(きわ)まった双剣(そうけん)は、またしても広げられた翼の(ごと)くティハラザンバーの左右に展開した。


双剣(そうけん)()るうための姿勢制御(しせいせいぎょ)なのか、白銀(しろがね)(よろい)からはこれまでにない強風(きょうふう)四方八方(しほうはっぽう)へと()()れ、ティハラザンバーの身体を空中で安定させる。


黄金の体毛(たいもう)が、双剣(そうけん)(かがや)きに(てら)されて、キラキラと光を反射(はんしゃ)する。


黒い(かわ)の服が、(はげ)しく音を立てて(ひるがえ)っている。


大気が咆吼(ほうこう)を上げる様にうねり、逆巻(さかま)く。


『ほうっ、神器(じんぎ)がこんな状態(じょうたい)になるのは、初めて見るぞ!…のこ』


そんなトレーナーの感嘆(かんたん)の言葉を()()けに、のこちゃんの気持ちが()()けて、ティハラザンバーは(かがや)双剣(そうけん)()り上げた。


同時に、(ひざ)から下を(おお)白銀(しろがね)のブーツが(さら)なる強風(きょうふう)(はっ)して、あたかも大地を()みしめる様な足触(あしざわ)りになる。


これなら、(たと)え宙に浮いている状態であろうとも、渾身(こんしん)斬撃(ざんげき)(はな)てるだろう。


もしかすると、ティハラザンバーが大跳躍(だいちょうやく)する時にも、白銀(しろがね)のブーツは、一役買(ひとやくか)ってくれていたのかも知れない。


(いず)れにせよ、おっとり必殺剣(ひっさつけん)準備(じゅんび)完了(かんりょう)した。


あとは、のこちゃんの()()次第(しだい)なのだが………


「ジャバンッダイブレイクッッ!」


ここに(いた)って、躊躇(ちゅうちょ)は無いらしい。


"ジャバンダイブレイク"とは、きょう姉さんが何度もマネして見せてくれた、初代時空刑事(じくうけいじ)の必殺技である。


のこちゃんの気迫(きはく)(こた)えて、即座(そくざ)にティハラザンバーが豪腕(ごうわん)を爆発させた。


()()かれた双剣(そうけん)からは、遠ざかるアビスガルダへと向けて、刀身(とうしん)(まと)っていた発光(はっこう)()(はな)たれる。


それは、具現化(ぐげんか)した双剣(そうけん)威力(いりょく)とでも言うべき、(かがや)きの双撃(そうげき)であった。


うなりを上げて中空(ちゅうくう)()二条(にじょう)閃光(せんこう)によって、大気の咆吼(ほうこう)は、()()かれる悲鳴へと変わる。


()れるものを()つ。


ただ光っているだけと訳が(ちが)う、その性質(せいしつ)は、まさしく(やいば)のそれである。


「チクショウが!」


アビスガルダは、(せま)(かがや)きの双撃(そうげき)(おのれ)との(あいだ)に、何やらこれまでとは(ちが)った方術(ほうじゅつ)を展開させた。


光による射撃(しゃげき)の他にも、いくつか、方術(ほうじゅつ)のレパートリーを(かく)()っていたらしい。


空間が大きな円状(えんじょう)(ゆれ)れて、アビスガルダの姿ごと、(まる)風景(ふうけい)(ゆが)む。


刹那(せつな)双撃(そうげき)が"そこ"へと直撃(ちょくげき)した。


まるで、(かべ)でもあったかの様な、大きな激突(げきとつ)の音が大空を(ふる)わせる。


続けて、衝撃(しょうげき)全方位(ぜんほうい)伝播(でんぱ)する。


防御(ぼうぎょ)反応(はんのう)をしたと(おぼ)しき方術(ほうじゅつ)(まる)(ゆが)みが、漆黒(しっこく)へと変わる。


にわかに、双撃(そうげき)威力(いりょく)を受け止めたかに見えた。


一拍(いっぱく)()余韻(よいん)(のこ)す。


しかして、ガラスが()れる様な甲高(かんだか)い音と共に、黒い(まる)二筋(ふたすじ)亀裂(きれつ)を走らせる。


間髪入(かんはつい)れず、その方術(ほうじゅつ)は、自動車のフロントガラスが粉々(こなごな)(くだ)ける様に()ぜた。


そして、その向こうからは、胸を押さえた暗闇(くらやみ)色の人影が大森林(だいしんりん)(かげ)の中へ落ちて消えてゆく。


アビスガルダに、断末魔(だんまつま)(たぐい)は無かった。



『ふむ、みごとだ…のこ』


トレーナーは、満足げに、のこちゃんを(ねぎら)う。


大技(おおわざ)成功(せいこう)させて、(なか)放心状態(ほうしんじょうたい)になっていたのこちゃんは、ただアビスガルダが落ちる(さま)を見ていただけである。


白銀(しろがね)(よろい)の部分から()き出されていた強風(きょうふう)徐々(じょじょ)に弱まって、ティハラザンバーは、ゆっくりと地上へ()()りてゆく。


だらりと下げられた両腕(りょううで)(にぎ)双剣(そうけん)からも、時折(ときおり)、落下のスピードを調整(ちょうせい)する様な暴風(ぼうふう)断続的(だぞくてき)(はっ)している。


(いた)れり()くせりな神器(じんぎ)連携(れんけい)なのだが、のこちゃんは、それに(まった)く気がついていない。


ぼーっと、アビスガルダが消えた大森林(だいしんりん)方角(ほうがく)(なが)めている。


『しかし、あやつが"あれ"を()えおったのは、意外であったな…のこ』


肢体(したい)()()られておらず、バラバラになっていない。


トレーナーの評価(ひょうか)は、それだけでも驚嘆(きょうたん)(あたい)すると言ったところだろうか。


やがて、(われ)に返ったのこちゃんは、ティハラザンバーの感覚をもってしても、アビスガルダの気配(けはい)(まった)(つか)めない事を知った。


「………………()げられたかも」


そう言いながらも、どこかホッとしていた、のこちゃんである。


何だかんだと、相手は、会話のできた人間だった。


やはり、傭兵(ようへい)の身分にある(かぎ)()けられ()ない"この手で敵対者(てきたいしゃ)()つ"という覚悟(かくご)は、()だそれほど(かた)まりきっていないのだ。


しかし、(たと)(みずか)らが選択(せんたく)した戦いであろうとも、現代日本の中二女子キャパシティーならば、それなりの時間と経験(けいけん)が必要には(ちが)いなかった。


逆にすんなり()れてしまったら、のこちゃんが危惧(きぐ)して()まない、それこそ(かい)人生(じんせい)まっしぐらである。


今は、これで良いのだろう。


『ふむ、あやつめ、色々(いろいろ)多芸(たげい)手練(てだ)れには(ちが)いなかった様だな…のこ』


トレーナーは、ならば(いず)れまた(あい)まみえるやも知れぬなと、豪快聖女(ごうかいせいじょ)らしい明快(めいかい)さで、再戦(さいせん)をほのめかす。


ティハラザンバーの(すさ)まじい攻撃を(しの)いだアビスガルダに、戦士として相応(そうおう)敬意(けいい)(いだ)いる模様(もよう)だった。


強敵は、何度でも歓迎(かんげい)するというスタンスなのだ。


「それ、イヤですね」


縁起(えんぎ)でもないと、のこちゃんは、(しぶ)い声をこぼす。


今回は、シマユリの事で見過(みす)ごせなかったので、仕方がない。


それにしたって、やくざ者と因縁(いんねん)ができて良い事なんて一つもないと、のこちゃんは知っている。


ああいった手合(てあ)いとは、できれば、もう二度と(かか)わり()いたくないのだが。


ただ、傭兵(ようへい)という言葉に反応(はんのう)していた気がするので、ティハラザンバーが魔刃殿(まじんでん)(せき)()(かぎ)り、その可能性は高くて洒落(しゃれ)にならない。


「(確か、処刑騎士団(しょけいきしだん)とか言ってたっけ…)」


その名前に注意しようと、のこちゃんは、(きも)(めい)じた。


意趣返(いしゅがえ)しとばかりに、また不意打(ふいう)ちをされたら、(いた)い目を見るのは確実である。


そうでもないわよと(おお)ティハラが言った様な気がしたものの、それこそ気のせいだろう。


どちらにせよ、奇襲対策(きしゅうたいさく)を考えた方が良いのは、目に見えている。


考えると言えば、(おお)ティハラの愛称(あいしょう)の事を思い出して、のこちゃんは気が重くなった。


強面(こわもて)巨大(きょだい)な魔の神獣(しんじゅう)なのに、感性が繊細(せんさい)って、難問(なんもん)()ぎるのだ。


下手(へた)なニックネームにすれば、(おこ)られるに(ちが)いない。


"トレーナー"だって、テキトーに決まった様なものである。


その意味で、豪快聖女(ごうかいせいじょ)気風(きっぷ)の良さには、ずいぶんと助けられていると思うのこちゃんであった。



「あの…押し入れは、大丈夫でしたか?」


以前、(つばさ)の怪物を衝撃波(しょうげきは)壊滅(かいめつ)させた時に、押し入れにあった余剰(よじょう)エネルギーが半分になってしまった。


のこちゃんが"押し入れ"と()特殊(とくしゅ)結界(けっかい)は、どうやらその余剰(よじょう)エネルギーで形成(けいせい)されているらしく、ティハラザンバーの攻撃技などでエネルギーを使い()ぎると維持(いじ)(むずか)しくなる。


そして、トレーナーこと、かつての白銀(しろがね)(よろい)聖女(せいじょ)(せい)ザンバー=リナの意識(いしき)特殊(とくしゅ)結界(けっかい)定着(ていちゃく)しているので、運命を(とも)にしてしまうのだ。


戦闘弱者(バトルおんち)のこちゃんとしては、ティハラザンバーに(ひと)りで取り残される事態(じたい)を、絶対に()けなければならない。


『ふむ、先ほどの(わざ)は、天空の女神(リナリーシア)様の神器(じんぎ)()るところが大きかったのでな、さほど影響(えいきょう)されておらんよ…のこ』


「良かったです」


ポツリと(つぶや)かれた、それは、心からの安堵(あんど)の言葉だった。


それにしてもと、トレーナーは、話を続ける。


()は、生前(せいぜん)の戦いに当たり空を()ぼうと思った事が無かった。

よもや、あんな使い方があろうとは、目から(うろこ)とはまさしくこの事であろうよ。

そして、斬撃(ざんげき)()ばす双剣(そうけん)(あつか)いといい、ここからまた何を見せてくれるのか楽しみだよ…のこ』


もっとも、目から(うろこ)どころかもう肉体も()()わせていないがなと、トレーナーも聖女(せいじょ)ジョークを(まじ)えながら、のこちゃんの発想力(はっそうりょく)に感心は()きない様子である。


(すべ)てチャムケアが元ネタなので、のこちゃんは、はははと(かる)く笑って受け流すしかない。


ズルをしている訳ではないものの、トレーナーの期待に、(なぞ)(もう)(わけ)なさを(おぼ)えたのこちゃんである。


「ああ…」


元ネタと言えば、(いきお)いでシャイニングソードのイメージを使ったのは、のこちゃんも()()ちていなかった。


確かに、時空刑事(じくうけいじ)は好きなものの、あくまでもきょう姉さんの趣味(しゅみ)なのだ。


現在だと、自分の趣味(しゅみ)とは、少しズレてしまう事案(じあん)(ほか)ならない。


「…もしかして、この双剣(そうけん)から、音楽を()らしたりできませんかね?」


前述(ぜんじゅつ)したケアフリューゲルがチャムケアの(けん)から(つく)()えたのは、チューンブレードというステッキ系の能力補助(のうりょくほじょ)アイテムで、浄化(じょうか)必殺技を()()す時にメロディが流れる。


『………何を言っているのか、分からんよ…のこ』


それは、そうだろう。


「ですよねぇ」


少し残念な気分で、のこちゃんは、双剣(そうけん)を押し入れにしまった。


シマユリの事も合わせて、考える事が山積(やまづ)みである。



――――――――――――――――



まさか、ちょっと様子を見に来ただけで、二連戦(にれんせん)をする羽目(はめ)になるとは思わなかった。


()(かたむ)き始めた事に(あわ)てたのこちゃんは、シマユリのいる場所へ、大急ぎで(もど)る事にした。


遠目(とおめ)(ころ)がっている埴輪(はにわ)の巨人が武神様(ぶしんさま)疑惑(ぎわく)で気になったものの、今のところは、後回(あとまわ)しで良いだろう。


ティハラザンバーの感知能力(かんちのうりょく)には、シマユリの存在がハッキリと(しめ)されている。


休憩(きゅうけい)していた水辺(みずべ)岩場(いわば)から動いていないらしい。


恐らく、シマユリは、とっくにお昼寝(ひるね)から目を()ましているはずだ。


空から行くのは目立つので、のこちゃんは、大森林(だいしんりん)巨木(きょぼく)(あいだ)()う様にティハラザンバーを()けさせる。


そこそこ太めの(えだ)にぶつかっても、発泡(はっぽう)スチロールが当たって()れるていどな感触(かんしょく)で、(まった)く気にならない。


こんな事でさえ、(おお)ティハラの影響(えいきょう)なのか、前よりも身体能力がかなり上がっている気がした。


それならばと、遠慮無(えんりょな)全力(ぜんりょく)帰路(きろ)走破(そうは)するつもりである。


「まぁ、武神様(ぶしんさま)は、(あらた)めて(さが)すしかないかな!」


のこちゃんが勝手(かって)にそれっぽいと思っただけなので、今は、そうと()めつける必要(ひつよう)もない。


(たと)え、埴輪(はにわ)の巨人がシマユリに(ひど)い事をしたと判断(はんだん)する相手と果敢(かかん)に戦っていようとも、たまたまそうなってしまっただけではないだろうか。


以前きょう姉さんと見た、ぼろ寺に住むカステラ好きのお医者さんが、外道(げどう)悪行(あくぎょう)(はら)()えかねて、その手で殲滅(せんめつ)しにアジトへ乗り込んでゆく時代劇の主人公タイプだった可能性もあるだろう。


もしも、そんな強者(つわもの)がゴロゴロしている世の中なら、まんざら()てたものでもないと思ったのこちゃんである。


『ふむ、だが(さき)ほどのあやつが、"この森"に"あの戦闘巨人(ゴーレム)"を(ねら)ってきたのであれば、見込(みこ)みも(たか)かろうよ…のこ』


しかし、のこちゃんの現実逃避(げんじつとうひ)を、トレーナーはしれっと()(くだ)く。


シマユリは、武神様(ぶしんさま)に助けを(もと)めて、"この森"に来た。


"この森"にいた埴輪(はにわ)の巨人は、シマユリを守らんと、行動している。


思い返せば思い返すほど、状況(じょうきょう)符合(ふごう)してゆき、やっちまった感が強くなる。


迎撃(げいげき)するしかなかったとは言え、大きな(つるぎ)もダメにしちゃったし、何より、暴風(ぼうふう)でぶっ飛ばして大変な感じにしてしまったのだ。


湖畔(こはん)(はな)れる前に少し様子を見ていたら、()()がろうとしては横たわるを何度も()(かえ)していた。


そもそも、武神様(ぶしんさま)(さが)しだしてシマユリを(たく)そうとしていたのだから、これでは、本末転倒(ほんまつてんとう)(はなは)だしい。


「うう、そうですねぇ………」


のこちゃんは、やらかしの更新(こうしん)観念(かんねん)した。


また、シマユリを()れて、埴輪(はにわ)の巨人に会いに行ってみるしかないのかも知れない。


疾駆(しっく)するティハラザンバーとは裏腹(うらはら)に、のこちゃんの気分は、どんよりと(くも)ってゆく。


シマユリの待つ岩場(いわば)は、もうすぐそこに見えてくる(ころ)だろう。


まだ()が完全に(ぼっ)していないものの、大森林(だいしんりん)(やみ)には、夜が一足早(ひとあしはや)(おとづ)れている。


大地を()るティハラザンバーの足には、(さら)(ちから)(こめ)められた。


続きます。

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