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わたしはチャムケア! -光の少女戦士伝説的なやつ希望-  作者: 虎竜王NV
第二章:のこちゃんの怪人生、黎明編
20/21

05 のこちゃんと森の武神様?!


剣持(けんもち)(とら)() こと のこちゃん の人生は、()くなった父親がやくざ者だったので、生活環境的(せいかつかんきょうてき)な理由から波乱万丈(はらんばんじょう)になりそうだった。


結果としては、ティハラザンバーに強制変換(コンバート)という形で本当にそうなってしまったにせよ、それまでも割とビックリする事が多かった様に当人も認識(にんしき)している。


(おさな)(ころ)は、お父さんに()れられてお出かけすると、街でやたら(いか)つい顔やガッシリした体つきの男の人たちから次々(つぎつぎ)と声をかけられて、その(たび)にドキドキしていた。


お正月に神社みたいな大きなお屋敷(やしき)へ新年のご挨拶(あいさつ)に行けば、和服姿(わふくすがた)のお(じい)さんから大きなお年玉(ぶくろ)をもらって、()い上がったりもした。


(あと)から思い返せば、あのお(じい)さんがお父さんの親分だったのだろうと気が付いて、その羽振(はぶ)りの良さにも合点(がてん)がゆく。


のこちゃんからすると、お父さんは、お父さんである。


だから一緒(いっしょ)に歩いていても日常(にちじょう)の一コマにすぎないのだが、そう言えば、(まわ)りの道行く人たちには()けられていた気もする。


見ず知らずの人からとは言え、あからさまな態度(たいど)をとられれば、幼心(おさなごころ)にはショックだったに(ちが)いない。


そんな生活だったので、やはり()くなった母親の実家である佐橋(さはし)の家へ引き取られると決まった時は、子供心にも、それなりの(あつか)いをされる覚悟(かくご)をしていた。


けれど実際に()()してみると、意外にも家族として(あたか)かく(むか)えられただけでなく、自分専用(せんよう)の部屋まで用意されていたのには(おどろ)かされた。


ただ、それに合わせて転校した小学校では何故かやくざ者の娘という噂話(うわさばなし)が流れていて、クラスメイトたちからは()けられ教師たちからも()(もの)(あつか)う様に(せっ)せられたので、予想した肩身(かたみ)(せま)さを思わず体験してしまったのだが。


これは、ビックリしたと言うよりも、戸惑(とまど)ったと言った方が正しい。


いくら父親がやくざ者だったとは言え、当然ながら、数々(かずかず)修羅場(しゅらば)をくぐってきました的な経歴(けいれき)などは無いのこちゃんである。


当初は、学校生活をしてゆく中で平凡(へいぼん)女児(じょじ)に過ぎないその実態(じったい)(まわ)りに知られてゆけば、いつか(おさ)まるだろうと思っていた。


ところが、誰も噂話(うわさばなし)の向こう(がわ)にいる本人を見ることはなく、のこちゃんは、気が付けばそのまま孤立(こりつ)してしまった。


そんな暗澹(あんたん)たる小学校生活が続く中、叔母(おば)に当たる きょう姉さん は、のこちゃんを(はげ)ます様に自身の趣味(しゅみ)である特撮ヒーロー作品をたくさん見せてくれた。


その関連(かんれん)から(いも)づる(しき)で、のこちゃんは日曜日の朝、(つい)にチャムケアシリーズと運命の出会いをしたのだ。


その衝撃(しょうげき)たるや、それまでくすんで見えていた世の中が、(またた)()色鮮(いろあざ)やかな景色(けしき)へと反転(はんてん)したほどである。


言うなれば、『ローリンゲット!チャムケア』の主人公ケアタリアーの口癖(くちぐせ)である、"うはぁ~、ライブし~にっく!"そのままであっただろう。


ケアタリアーに変身する鳥社(とりやしろ)(ひな)は、幼少期(ようしょうき)から小学生時代の(すべ)ての時間を、長い闘病生活(とうびょうせいかつ)(うば)われてしまっていたのだが、中学生に上がる段となってようやく病床(びょうしょう)より解放(かいほう)された経緯(けいい)を持つ。


苦しかった入院中を(ささ)えてもらった両親をはじめとする多くの人たちへ、また、未来へ向けて()み出せる事への感謝と世界はこんなにも(うつく)しかったのだという感動から、自然と口をついてこぼれ出たセリフである。


それは、チャムケアと出会い、どんどん元気さを()(もど)していったのこちゃん自身にも(ふか)()さった。


しかも、『ローリンゲット!チャムケア』の放送と合わせて中学校へ上がり、気の合う友だちができて一気に生活が明るく変わった辺りもシンクロしたものだから、あまりにも分かりみが強すぎた。


(のち)に、実はその大病(たいびょう)の原因だった事が判明(はんめい)した敵の幹部怪人(かんぶかいじん)(たお)展開(てんかい)でファンの間でも賛否(さんぴ)が分かれたものの、ケアタリアーに感情移入(かんじょういにゅう)(はげ)しかったのこちゃんは、もちろんガッチガチの肯定派(こうていは)である。


当該(とうがい)エピソードの視聴中(しちょうちゅう)には、憤慨(ふんがい)しながらふざけるなそんなヤツぶっとばせと、テレビの前で熱く応援(おうえん)していたのも仕方がない。


(いず)れにしろ、チャムケアに出会う前ののこちゃんからしてみれば想像(そうぞう)がつかなかった楽しい生活であり、その中で起こった一つ一つの出来事(できごと)(おどろ)きの連鎖(れんさ)だった。


人間、生きていれば何が起こるか分からないとは、よく言ったものである。


もっとも、一番の驚愕(きょうがく)は、生涯(しょうがい)をティハラザンバーとして(あらた)められてしまった事なのだが。


凡庸(ぼんよう)な中二女子のそれから、巨体へ白銀(しろがね)(よろい)を部分的に(まと)った、黄金の毛並みに漆黒(しっこく)縞模様(しまもよう)を持つ直立した虎の様な怪人(かいじん)へのイメチェンと来れば、なかなかのギャップだろう。


ちなみに、のこちゃん本人は、怪人(かいじん)である事を(みと)めていない。



中身がのこちゃんのまま人生をティハラザンバー生へ移行(いこう)してからこちら、元聖女(せいじょ)であるトレーナーのフォローがあるとは言え、やはり(おどろ)きの連続であった。


そしてそこへ、今また一つの事案(じあん)が追加された。


ティハラザンバーの咆吼(ほうこう)(こた)えるかの様に、埴輪(はにわ)の巨人が、まるで意志がある者のごとく(しゃべ)ったのだ。


「(…知性があるの?!)」


相手が(あらかじ)め決められた行動をなぞるだけの単純な存在であれば、こちらから呼びかけたり(みずか)らの()をお(おわ)びする事に、意味は無い。


しかし、正確に大きな(つるぎ)(あやつ)埴輪(はにわ)の巨人の攻撃行動には、(まわ)りの状況(じょうきょう)をしっかり認識(にんしき)している様な手堅(てがた)さが見えた。


何より、ティハラザンバーの存在を観測(かんそく)して行動していたきらいがあるのだから、自律性(じりつせい)(うかが)える。


であれば、のこちゃん自身が予測(よそく)した通り、埴輪(はにわ)の巨人の本質(ほんしつ)は、状況次第(じょうきょうしだい)(みずか)ら動作を適宜(てきぎ)()()えられる自律型(じりつがた)ロボットに似たモノの可能性が高い。


のこちゃんが期待したのは、会話ではなかった。


神器(じんぎ)恩恵(おんけい)(つう)じるとされる言葉によって、戦わない意志を(とど)ける事。


それにより、埴輪(はにわ)の巨人の動作モードの()()えをうながし、()()えず攻撃を()めさせられないかという(こころ)みだったのだ。


あわよくば、そのまま平穏(へいおん)(おさ)まって欲しかったのである。


そのアプローチ自体は、間違(まちが)っていないだろう。


ただし、埴輪(はにわ)の巨人が自由意志を持っている様な、想定(そうてい)よりも(さら)に高度な存在だった場合は、その前提(ぜんてい)も変わってくる。


突然の事だったので、(すべ)てをハッキリと聞き取れた訳ではないのだが………


「(何か(ゆる)せないみたいな事を言っていた様な)」


そもそも、最初から"思うところ"があってティハラザンバーを絶対(ぜったい)抹殺(まっさつ)しようと追ってきた絶殺(ぜっころ)巨人であったのなら、よほどの事でもない限り急な戦闘の停止(ていし)(むずか)しい。


登山家(とざんか)がそこに山があるから(のぼ)ると言うのであれば、埴輪(はにわ)の巨人がティハラザンバーを(おそ)うのは、そこにティハラザンバーがいるからという事になる。


やりたいからやる。


それが、意志を持つ者の面白(おもしろ)さであり、厄介(やっかい)さでもある。


登山(とざん)の際には、天候(てんこう)や足場のコンディションこそ気にしても、(のぼ)られる山の気持ちなど想定(そうてい)されていない。


もしも本当に山が遠慮(えんりょ)して欲しいと人間の言葉で(うったえ)えかけてきたなら、さすがに大凡(おおよそ)登山家(とざんか)は、(おどろ)いて撤収(てっしゅう)するだろう。


だが中には、どんな事があろうと初志貫徹(しょしかんてつ)してしまう登山家(とざんか)もいるかも知れない。


同様に、埴輪(はにわ)の巨人は、のこちゃんの(もう)()を聞いた上で引く気もないらしかった。


当のティハラザンバーは、巨木(きょぼく)(みき)に頭を下にした格好(かっこう)で、へばりついたまま(かた)まっている。


のこちゃんは、思い切り動揺(どうよう)していた。



「って、今、敵対宣言(てきたいせんげん)された気がするんですけど、(つく)られたモノに意志は無いってトレーナーさん言ってませんでした?言ってませんでした?」


大切な苦情なので、つい2回()(かえ)してしまった。


『ふむ、2回言わなくとも、話は(つう)じているぞ。

確かに、"(ちから)道筋(みちすじ)"が(とら)えられぬ以上は、何者かによって(つく)られたモノに心など無いと、言っている通りであろうよ…のこ』


のこちゃんが"()らめきの流れ"と(とら)え、トレーナーが"(ちから)道筋(みちすじ)"と言うそれは、意志ある者の攻撃の軌道(きどう)前触(まえぶ)れの様に察知(さっち)する極意(ごくい)である。


生前(せいぜん)白銀(しろがね)(よろい)聖女(せいじょ)()ばれていた(ころ)のトレーナーが見出(みいだ)したらしい。


トレーナーご謹製(きんせい)のティハラザンバーには、(はじ)めから(そな)わっていた特典(とくてん)能力(のうりょく)といった所だろうか。


これまで便利に利用していたのであるが、埴輪(はにわ)の巨人の攻撃からは、それが見えなかった。


しかし、現に埴輪(はにわ)の巨人は、意志がある者の様に言葉を発したのだ。


本当に知性を(そな)え、(みずか)らの意志にそって攻撃を実行しているとすれば、その理屈(りくつ)矛盾(むじゅん)する。


そもそも、(つく)られた者と言うのであればティハラザンバーと何が(ちが)うのかと、のこちゃんがトレーナーに反論(はんろん)しようとしていたところ、眼下(がんか)埴輪(はにわ)の巨人に動きがあった。


ティハラザンバーの咆吼(ほうこう)余韻(よいん)(おさ)まり、しばし静寂(せいじゃく)()(もど)していた巨木(きょぼく)大森林(だいしんりん)に、(かた)い物が(いきお)いよくぶつかった様な甲高(かんだか)い音が(ひび)く。


そちらへ注意を(もど)してみれば、黄土色(おうどいろ)の顔を守る様に左右へ展開していた青黒い岩のフェイスガード、所謂(いわゆる)"(かぶと)吹返(ふきかえし)"部分が()じて顔を(かく)す形へ変わっていた。


目の位置にだけ(ほそ)(みぞ)隙間(すきま)が残り、そこから外をのぞける(つく)りになっているのだろう。


埴輪(はにわ)よろしく元々(もともと)の目が(あな)であったにも係わらず、視認(しにん)が必要な構造(こうぞう)になっているとなれば、その奧にカメラの様な、埴輪(はにわ)の巨人にとっての重要な部分があるのかも知れない。


どうやら、戦闘で顔へ、つまり弱点への損傷(そんしょう)を発生させないための措置(そち)らしい。


「あんなギミックまであったのか………」


ヒーローっぽくてちょっと格好良(かっこうい)いかも的な感心をのこちゃんがしていると、埴輪(はにわ)の巨人の足下(あしもと)で、地面がミシリと悲鳴を上げる。


何が起きているのだろうかと、事態(じたい)把握(はあく)がなされる前に、地上へ出ていた巨木(きょぼく)の根ごとその地面が()ぜた。


あろう事か、全身を(いわ)(よろい)(おお)われた重そうな姿でありながら、埴輪(はにわ)の巨人は、(いきお)いよく跳躍(ちょうやく)して見せたのだ。


巨大な(つるぎ)も、ティハラザンバーへ痛恨(つうこん)斬撃(ざんげき)をお見舞(みま)いせんと、力をためて()りかぶられている。


「はあ!?!」


岩塊(がんかい)が重さを感じさせないスピードで(おのれ)に向かって飛んでくるだけでも恐ろしいのに、人の形で、しかも攻撃態勢(こうげきたいせい)までとっているのだ。


みるみる近づくその迫力(はくりょく)たるや、のこちゃんに限らず、パニック必至(ひっし)のシチュエーションだろう。


あれほどのヘビー級が身軽(みがる)にジャンプするはずがないという思いこみがあったからこそ、(つるぎ)(とど)かない巨木(きょぼく)の高い場所に陣取(じんど)っていた訳であり、その意表(いひょう)()かれた形でもある。


のこちゃんは、何も方向を(さだ)めないまま、取りついていた(みき)からティハラザンバーを全力(ぜんりょく)離脱(りだつ)させた。


常人(じょうじん)の感覚であれば、()(すべ)も無く呆然(ぼうぜん)として、巨大な質量(しつりょう)に押し(つぶ)されるまで動けなかったに(ちが)いない。


瞬時(しゅんじ)反応(はんのう)できただけでも、ティハラザンバーになってからのあれやこれやで、のこちゃんも多少は成長していると言える。


その際、思わずキャーと(さけ)んでいたのは言うまでもない。


背後(はいご)からは、これまでの巨人の(つるぎ)(みき)をえぐった音とは(くら)べものにならない振動(しんどう)と、巨木(きょぼく)のざわめきが押し寄せる。


『待てっ、そちらは(まず)い、のこ!』


しかし、同時に、(あわ)てた様子のトレーナーから警告(けいこく)が発せられた。


その話を聞くにつけ、(こま)けぇこたぁ良いんだよのイメージが強い、豪快聖女(トレーナー)にしては(めずら)しい。


これには、のこちゃんもハッと(われ)に返った。


刹那(せつな)(ちゅう)(およ)ぐティハラザンバーの視界(しかい)が、一気に明るく(ひら)けてゆく。


「あっ!」


どうやら、(さかい)()けて、巨木(きょぼく)林立(りんりつ)する森からティハラザンバーは完全に飛び出てしまったのだ。


埴輪(はにわ)の巨人が見せた機動性に加え、執拗(しつよう)的確(てきかく)な攻撃行動を上乗(うわの)せする巨大な(つるぎ)のリーチは、障害物(しょうがいぶつ)の無い平地(へいち)において絶大(ぜつだい)脅威(きょうい)になるだろう。


しかも、(たよ)りの"()らめきの流れ"は()きで、その(すべ)てに対処(たいしょ)しなくてはならない。


事態(じたい)を理解すると、のこちゃんは、やっぱり引けば良かったと後悔(こうかい)(かさ)ねた。



ティハラザンバーは、湖畔(こはん)沿()って(ひら)けた土地へ(いきお)いよく着地する。


()()白銀(しろがね)のブーツが土煙(つちけむり)を上げ、地面を(けず)って(いきお)いを殺してゆく。


やや前かがみのくの字になりながら、大きな擦過音(さっかおん)と共に地を(すべ)り、それでも立つ姿勢(しせい)(くず)さない。


こんな状態(じょうたい)(ころ)んだりしないのは、猫的な身体になった超バランス感覚のおかげなのだろう。


それはそれとして、性懲(しょうこ)りもなくうかつな行動を()(かさ)ねた事で、のこちゃんの気持ちは(ころ)んでいた。


「やっちゃったぁ!!」


言っても仕方がないと分かっていても、(さけ)ばざるを()ない。


『そらっ、注意を途切(とぎ)らせるな、追ってくるぞ…のこっ』


「うえっ」


のこちゃんは、地上を滑走(かっそう)する(いきお)いを利用して、スピンターンしながら涙目のティハラザンバーを森の方へ向き(なお)らせた。


その途端(とたん)に、空中を(せま)ってくる、大きな人型(ひとがた)岩塊(がんかい)が目に入る。


恐らく、埴輪(はにわ)の巨人は、それまでティハラザンバーがいた巨木(きょぼく)激突(げきとつ)した後、(みき)()って追跡(ついせき)跳躍(ちょうやく)(ふたた)びやってのけたのだ。


やはり、その鈍重(どんじゅう)そうな姿に反した機動性には、目を(みは)るものがある。


青みがかった金属製の剣身(けんしん)陽光(ようこう)反射(はんしゃ)して、大きな光の(つるぎ)と化していた。


上から下へ、体重と加速の乗った(やいば)(ひらめ)きが、空中から容赦(ようしゃ)なくティハラザンバーを(ねら)う。


着地の後を考えない、いかにも頑丈(がんじょう)(つく)りの身体をアテにした、豪快(ごうかい)攻撃体勢(こうげきたいせい)だ。


しかも、そこに正確さまで()せ持つのだから、いかにも合理的(ごうりてき)(たち)が悪い。


その意味では、巨体ぶりを生かした圧倒(あっとう)でもあり、のこちゃんのイメージ通りロボ系のそれなのかも知れない。


有無(うむ)を言わせないその行動力(こうどうりょく)には、恐怖さえも(おぼ)える。


生きて(きず)つき(たお)()る者の視点からすると、それは、素朴(そぼく)率直(そっちょく)な感想に(ちが)いなかった。


相変わらず、肝心(かんじん)な"()らめきの流れ"は見えておらず、自分がいかにあのガイドラインを(たよ)り切っていたかと実感するのこちゃんである。


「こんなの、どうしろって?!」


と言いつつも、埴輪(はにわ)の巨人が突貫(とっかん)してくる軌道(きどう)(はず)して、のこちゃんは何とか(かわ)す。


客観的(きゃっかんてき)に見れば、視認(しにん)してから到達(とうたつ)までは、一瞬(いっしゅん)であった。


その(またた)()に、巨体のリーチによる攻撃範囲(こうげきはんい)からの離脱(りだつ)こそ容易(たやす)くなさそうなものだが、ティハラザンバーにはそれを可能とするポテンシャルがある。


直後、埴輪(はにわ)の巨人の激突(げきとつ)した衝撃(しょうげき)が、大地を()らす。


幾度(いくど)かバウンドして、地面を(いきお)いよく(ころ)がったかと思えば、そのまま何事もなかったかの様に巨体がスックと()き上がった。


残念ながら、大きな(つるぎ)も折れたりはしていない。


存在の(すべ)てが、(あき)れるほどの強度(きょうど)だ。


『ふむ、戦闘巨人(ゴーレム)とは()くあるべきか…のこ』


トレーナーが変な感心をしている中で、のこちゃんは戦慄(せんりつ)していた。


実際に、(そび)え立つ様な埴輪(はにわ)の巨人と対面してみた所、背丈(せたけ)の差が思っていた以上なのである。


ファーストコンタクトが、"たまたまそこにいた動物"の(てい)偽装(ぎそう)した()つん()いだったので、正直よく分からなかったのだ。


尖角兵団(せんかくへいだん)の頭であるベルクも間近(まぢか)だと(あお)ぎ見る感じだったものの、これは、それ以上かも知れない。


もう、ティハラザンバーでさえ4メートルくらいはあるのだから、人間のサイズから見ればビルに近い高さがある。


ちょっとしたどころか、十分(じゅうぶん)に巨大ロボの(いき)へと()()んでいるだろう。


「こんなの、どうしろって………」


(さき)ほど思わず(さけ)んだ事を、またポツリと()(かえ)してしまう、のこちゃんである。


遠からず近からず、両者の(あいだ)絶妙(ぜつみょう)(はな)れたためこうして観察できるものの、(つるぎ)の間合いに入ってしまったらそんな余裕(よゆう)は無くなるだろう。


のこちゃんは、考える。


恐らく、逃げてもあの(いきお)いで追ってくるとなると、シマユリとの合流が(むずか)しい状況(じょうきょう)は変わっていない。


停戦(ていせん)(もう)()ても受け付けないとなれば、どうにかして(しの)ぐしかないのだが、そのどうにかする手段が、戦う以外に思いつかない。


かと言って、何が(ゆる)せないのか知らないものの、(おそ)ってくる理由がハッキリしないまま、なし(くず)しに埴輪の巨人(こんなの)と正面からぶつかるのは、()りかかる()()にしても納得(なっとく)がいかない。


のこちゃんは、意を決して、(ふたた)埴輪(はにわ)の巨人へ()びかけようと思った。


本当に知性があって、何かしら原因(げんいん)があるのならば、(こた)えてくれるかも知れない。


「あ、あのっ、さっきも言ったんですけど、こちらに戦うつもりはありませんっ。

攻撃してくる理由を教えてください!」


「………………モハヤ、モンドウムヨウッ」


(こた)えてくれなかった。


いや、会話が成立したのだから、埴輪(はにわ)の巨人に知性はあるらしいという確証(かくしょう)()られたのだろう。


そして、やはり戦いは()けられそうにない確認(かくにん)も。


「………こうなっちゃった以上、何か作戦はないですか?」


どうしても戦わなければならないとすれば、シマユリの安全を確保(かくほ)して逃げる時間を(かせ)ぐためと、今は強引に納得(なっとく)しておく。


となれば、無力化までとゆかずとも、せめて埴輪(はにわ)の巨人をしばらく動けなくするくらいの形勢(けいせい)にしなくてはならない。


ただ、正直な所、のこちゃんにはやれる自信が無かった。


ここは、歴戦(れきせん)のトレーナーに(たよ)るしかない心情が(まさ)る。


『ふむ、心許(こころもと)ないのならば、双剣(そうけん)(かま)えておけば良い…のこ』


(さく)など立てずとも、白銀(しろがね)(よろい)と同じく神器(じんぎ)なのだから、力任(ちからまか)せで()るわれている大きさだけの(つるぎ)に打ち負ける理由など無いと、トレーナーは軽い口調(くちょう)で助言した。


()えて、余裕(よゆう)のある態度(たいど)(しめ)し、のこちゃんの気負(きおい)いを(かる)くしようという心遣(こころづか)いなのだろう。


しかし、(せん)だって警告(けいこく)したのもハッキリ不安要素(ふあんようそ)があるからに(ちが)いないと、のこちゃんは確信している。


それは、他でもない、のこちゃん自身の事であろうと。


ティハラザンバーそのものについては、伝説の神獣(しんじゅう)と伝説の聖女が愛用していた神器(じんぎ)が材料なのだから、その能力(のうりょく)も折り紙付きだ。


これまでも、トレーナーと共に、ずいぶんと助けられてきたという自覚はある。


「ですよね」


それに、この事態(じたい)収拾(しゅうしゅう)させると決めたのは、のこちゃん自身なのだ。


自信があろうと無かろうと、今は、挑戦(ちょうせん)するしかない。


のこちゃんは、双剣(そうけん)を押し入れから取り出して、ティハラザンバーの両手に(にぎ)らせた。


それを()()けと見たのか、埴輪(はにわ)の巨人は、おもむろにティハラザンバーへ向かって()けだす。


岩の山が地響(じひび)きを立てて(せま)る。


その手にある(つるぎ)も、これまで以上に大きく見えた。



(あらた)めて明るい所で見てみると、全身を(おお)う青黒い岩の(よろい)もどこか神々(こうごう)しい意匠(いしょう)細工(さいく)であり、気のせいかやや光を(はな)っていた。


ヒロイックなフェイスガードのギミックも合わせて、埴輪(はにわ)の巨人が、自分(ティハラザンバー)(くら)べると何か正義っぽいなと思ったのこちゃんである。


多少、自虐(じぎゃく)も入っているかも知れない。


「あれ?、もしかしてシマユリちゃんが言っていた、武神様(ぶしんさま)って…」


『集中するのだ…のこ』


思い切り加速できるのだろう。


障害物(しょうがいぶつ)の無い平地を()ける埴輪(はにわ)の巨人は、巨体故(きょたいゆえ)歩幅(ほはば)加味(かみ)しても、(すさ)まじいスピードだった。


同時並行(どうじへいこう)して、手にした(つるぎ)が、その長大(ちょうだい)剣身(けんしん)見合(みあ)う大きな()をくるりと(えが)く。


それも、むやみに()(まわ)している訳ではない。


ティハラザンバーへ()(さき)到達(とうたつ)した時、最大威力(さいだいいりょく)になる様に、全力(ぜんりょく)かつ冷徹(れいてつ)調整(ちょうせい)されている。


巨体より()()ろされるというだけでも脅威度(きょういど)(はか)()れず、(かわ)そうとして下手(へた)体勢(たいせい)(くず)す方がむしろ命取りと、感覚的に(わか)ってしまう。


「………………ッ」


埴輪(はにわ)の巨人が、裂帛(れっぱく)気勢(きせい)()()んだ。


地面が()れ、必殺の()(さき)(はし)る。


「来た!」


暴威(ぼうい)()ぶには、あまりにも(はや)(するど)斬撃(ざんげき)と言えた。


確かに、ティハラザンバーの眼力(がんりき)をもってすれば、その剣筋(けんすじ)見失(みうしな)う事はない。


それでも、のこちゃんとしては、双剣(そうけん)交差(こうさ)させて受けるのが精一杯(せいいっぱい)であった。


それも、ティハラザンバーの身体能力(のうりょく)があってこそなのだ。


刹那(せつな)、大きな(つるぎ)双剣(そうけん)が火花を()らし、金属と金属が正面から激突(げきとつ)した重い衝撃(しょうげき)が腕から全身へと波及(はきゅう)する。


「はうっ」


「………………ッ」


受け止めた!とのこちゃんが喜色(きしょく)を上げた瞬間(しゅんかん)埴輪(はにわ)の巨人は(つるぎ)()めた(ちから)(ゆる)め、ティハラザンバーの体勢(たいせい)をあっけなく(くず)した。


必死(ひっし)力比(ちからくら)べの様なつもりで前のめりになっていた、その裏をかかれた形である。


咄嗟(とっさ)()みとどまったものの、間髪入(かんはつい)れず、ティハラザンバーの背後(はいご)より衝撃(しょうげき)が走る。


「あっ…」


前段(ぜんだん)斬撃(ざんげき)には(とお)(およ)ばないとは言え、埴輪(はにわ)の巨人が(つるぎ)一撃(いちげき)を加えたのである。


距離(きょり)が近すぎて(さいわ)いしたのか、(みじか)()りで、さほど威力(いりょく)が乗っていなかったらしい。


一応、背中(せなか)白銀(しろがね)(よろい)部分へ(かわ)の服ごしだった事も(さいわ)いして、ダメージは通っていない。


のこちゃんは(あわ)てて、双剣(そうけん)の片方を埴輪(はにわ)の巨人との間に()()ませ、続く斬撃(ざんげき)(ふせ)いだ。


「この!」


今回も初撃(しょげき)ほどの威力(いりょく)は無く、ティハラザンバーの腕力(わんりょく)をもって、(なん)無く巨大な(つるぎ)()(かえ)す。


ただ、(くず)されてしまったバランスからの無理矢理(むりやり)(あやつ)った剣撃(けんげき)とあって、格好(かっこう)は良くない立ち回りだ。


「………………ッ!」


近接(きんせつ)不都合(ふつごう)を理解したらしい埴輪(はにわ)の巨人は、(みずか)らティハラザンバーより距離(きょり)を取るべく、バックステップで飛びすさった。


大きな(つるぎ)威力(いりょく)十全(じゅうぜん)とするためには、それ相応(そうおう)距離(きょり)が必要なのだ。


()()みの時といい、足を(さば)(たび)に地面がズシンと()れるので、やはり見た通りの重量(じゅうりょう)ではあるのだろう。


もちろん、のこちゃんもこれ(さいわ)いにと、ティハラザンバーの残念な体勢(たいせい)(ととの)える。


『こやつ、巧者(こうしゃ)ではないか…のこ』


手強(てごわ)いぞと、トレーナーの口調(くちょう)は、心底(しんそこ)感心(かんしん)した明るいものだ。


(うれ)しくないんですけど………」


間近(まぢか)(あい)まみえてみれば、ティハラザンバーの頭は、埴輪(はにわ)の巨人の腰くらいまでしかなかった。


(あらそ)って難敵(なんてき)なのは、実際に当たる前から分かりきっていた。


とは思いつつも、確かに、"()らめきの流れ"が無い以上、五感(ごかん)()()ませて、この身体を最大限(さいだいげん)駆使(くし)しなければならない状況(じょうきょう)(ちが)いないと、のこちゃんは気を()()める。


こうしている今だって自信は無いままだ。


見上げて対峙(たいじ)しなければならない、埴輪(はにわ)の巨人も怖い。


しかし、そんな自分がトレーナーの言葉に(ささ)えられて、立ち向かえているのもまた事実である。


のこちゃん(ひと)りであったなら、こうはなっていなかっただろう。


それにしても、(さき)ほどの(あわ)てた警告(けいこく)は、何だったのだろう。


(あん)ずるな、いくらでも勝機(しょうき)はあろうよ…のこ』


双剣(そうけん)(にぎ)るティハラザンバーの両手に、(ちから)()められた。



バックステップから一拍(いっぱく)()いて、埴輪(はにわ)の巨人が大きな(つるぎ)(かま)(なお)す。


両手で(つか)(にぎ)り、剣身(けんしん)を巨体の下段(げだん)右後方へ、引きずる様に(かく)す形だ。


剣道で言う、脇構(わきがま)えが近いだろう。


「………………ッ」


自分からは(しゃべ)らない埴輪(はにわ)の巨人なのだが、攻撃する気満々(まんまん)姿勢(しせい)(くず)さないため、その仕草(しぐさ)一つ一つに鬼気迫(ききせま)るものを感じる。


のこちゃんが警戒(けいかい)を強めると、埴輪(はにわ)の巨人は、(ふたた)びステップを()みだす。


(つるぎ)(かま)えた姿勢(しせい)のまま、その場で直立した巨体を左方向へ、回転ドアの様にターンさせた。


ズシンと地が()れ、一回、二回、三回、くるりくるりと素早くそのまま連続回転し始める。


ステップの(たび)に回転の速度も()して、地の()れは、地響(じひび)きへとなってゆく。


足捌(あしさば)きが正確であるからか、回転する巨体の(じく)が安定していて、さながらフィギュアスケートのスピンだった。


「これって…」


状況的(じょうきょうてき)には、前に()()いをした(おおかみ)獣人(じゅうじん)のセイランが見せた、(よど)みの無い回転で攻撃を仕掛(しか)ける舞踏(ぶとう)の様な体術(たいじゅつ)()ている。


しかし、こちらには軽妙(けいみょう)さのかけらも無く、視界を(おお)(かく)す様な巨大な岩塊(がんかい)が、ド迫力(はくりょく)でスピンしているのだ。


どちらかと言えば、落石(らくせき)とか崩落(ほうらく)とか、大規模(だいきぼ)な事故現場に遭遇(そうぐう)した感じである。


それでも、双方(そうほう)共通(きょうつう)しているのは、その場で大きな力を生み出すために回転するのが有用(ゆうよう)という事だろう。


巨大な物体が高速回転しているため周囲(しゅうい)に風が巻き起こり、土埃(つちぼこり)(はげ)しい。


視界を(さえぎ)るほどでないにせよ、もうもうとした空気が辺りに立ちこめ始める。


場所が湖岸(こがん)とあって、水面(みなも)の様子は、振動(しんどう)により波立(なみだ)っていた。


まなじティハラザンバーの五感(ごかん)(するど)いため、風を切り地を()らす轟音(ごうおん)間近(まぢか)で当てられ、のこちゃんの危機感(ききかん)(あお)られる。


「うっ…くっ…」


間もなく、回転は最高潮(さいこうちょう)へと(たっ)した。


『ふむ、そろそろ仕掛(しか)けてくるぞ。

こやつの思惑(おもわく)は、分かっているのであろう?…のこ』


トレーナーの(ささや)いた通り、地響(じひび)きを共なって、スピニング埴輪(はにわ)の巨人はティハラザンバーへ急接近(きゅうせっきん)を開始する。


恐らく、その回転する(いきお)いで(わき)(かま)えた(つるぎ)()()くつもりと、のこちゃんはすぐに(さっ)しがついた。


「…はい、もちろん…」


もちろん、分かった所で、上手(じょうず)対処(たいしょ)できるとは言っていない。


セイランの時は、わざと攻撃を受けてその(いきお)いで飛び退()けたものの、あれこそ"()らめきの流れ"が見えていたから可能だった曲芸(きょくげい)である。


下手(へた)をすれば、威力(いりょく)が最高になっている(つるぎ)直撃(ちょくげき)されかねないだろう。


それでも、そのままボーッと()()っている訳にもいかず、普通に飛び退()かせる事を始め色々(いろいろ)とティハラザンバーで退避行動(たいひこうどう)(こころ)みたのだが、その(たび)ピタリと方向を(さだ)めて()(せま)ってくるのだ。


巨大ゆえに、追跡(ついせき)する効率(こうりつ)の良さは、残念ながら埴輪(はにわ)の巨人へ有利(ゆうり)(はたら)いている。


(かく)れる場所が無い場合、地を()う虫などがどれほど必死に逃げ回ろうと、人間がちょっと身をひねったくらいですぐに(つか)まえられてしまう関係性が分かり(やす)い。


しかも、ティハラザンバーの毛並みが金色にピカピカ光っていて目立つものだから、そうそう見失(みうしな)われる事は無いだろう。


そう考えると、平地(へいち)のリスクは、なかなかに(きび)しいものだった。


「だめだ、()()れないっ」


埴輪(はにわ)の巨人が(つか)れて攻撃行動を中断する事も無いであろうし、(いず)れ、その攻撃圏内(こうげきけんない)(とら)えられるのは明白(めいはく)である。


(みずうみ)波打(なみう)(ぎわ)()(つめ)められ、これが背水(はいすい)(じん)かぁなどと、やや諦観(ていかん)気味(ぎみ)にしみじみと思ったのだが………


「あっ、そうか!」


『さて、どうするのだ?…のこ』


こうですと、のこちゃんは、素早(すばや)双剣(そうけん)を押し入れへしまって、ティハラザンバーを(みずうみ)()()ませた。


振動(しんどう)波立(なみだ)湖面(こめん)に、新しく大きな水柱(みずばしら)が立つ。


何も、窮地(きゅうち)にあって、背水(はいすい)に入ってはいけない決まりなど無い。


それに、チャムケアと同じ放送枠(ほうそうわく)でお馴染(なじ)みのフルヘルムナイトシリーズでも、どんな(ひど)いダメージを()わされていようと、川や海といった水の中へ落ちたら生存確定(せいぞんかくてい)とまで言われているくらい何とかなるものなのだ。


むしろ、ピンチ展開の時には、視聴者の安心のために奨励(しょうれい)されているフシまである。


のこちゃんの個人的な感想です。



咄嗟(とっさ)にとは言え、本気でティハラザンバーを跳躍(ちょうやく)させたので、かなり水深(すいしん)のある(おき)まで到達(とうたつ)できたらしい。


(みずうみ)(そこ)へ立てば、完全に身体が水没(すいぼつ)していて、陽光(ようこう)(きら)めく水面(すいめん)を見上げている。


しかし、埴輪(はにわ)の巨人ならば、せいぜい肩くらいまでの(ふか)さだろう。


()()んだ衝撃(しょうげき)で発生した気泡(きほう)(おさ)まってゆくと、水中の見通(みとお)しも良くなってゆく。


このくらいの深度(しんど)になれば何かしら水棲生物(すいせいせいぶつ)がいそうなものの、湖岸(こがん)と同様に魚の一匹も見あたらないのは、今の(さわ)ぎで逃げ出してしまったのだろうか。


息を止めて、グッと閉じたティハラザンバーの口から、多少の(あわ)がこぼれ()かぶ。


「ん?こんな状態(じょうたい)でも声が出せるんだね」


また新しい能力(のうりょく)を発見してしまったと、のこちゃんは、ハハハと(かわ)いた笑いもこぼした。


『ふむ、思い切ったな…のこ』


トレーナーの語気(ごき)には、どこか(おどろ)きが(ふく)まれている様子だった。


「いえ、これくらいで(あきら)める相手とは、思ってませんよ」


それでも、あのまま無策(むさく)でぶつかるよりマシだろう。


その上、水にステップの足を取られて回転を阻害(そがい)できるし、ただでさえ目立つティハラザンバーの姿もごまかせる。


そうなれば、のこちゃんでも、つけ()(すき)が生まれるかも知れない。


『いや、確か(おお)ティハラは、体毛(たいもう)がベットリして感覚が(にぶ)るとかで水が苦手だったと記憶している…のこ』


「そ、そうでしたか」


平時(へいじ)ならば()(かく)、その要素(ようそ)()()いだティハラザンバーが戦いで水に落ちては(まず)いと懸念(けねん)していたのだが、(みずか)()()むとは思わなかったぞ…のこ』


「ああ、さっきの警告(けいこく)って、そういう事ですか…」


魔の神獣(しんじゅう)といっても変な所が猫っぽいなと、のこちゃんは、身体(ティハラザンバー)をくねくねさせて何か異変(いへん)がないか確認する。


気をそらしたのは、ほんの一瞬(いっしゅん)であった。


刹那(せつな)強烈(きょうれつ)な爆発音と水圧(すいあつ)(おそ)われ、一気に押し流される。


不意(ふい)()かれた形なので、ティハラザンバーは水のうねりになす(すべ)もなく(ころ)がり、湖底(こてい)でもみくちゃに翻弄(ほんろう)されてしまった。


「?!?!?!?!?!?!?………」


文字通り目を回す、のこちゃんである。


『落ち着くのだ、あれが回転の(いきお)いを殺さずに、()()んできたのであろうよ…のこ』


こちらを見失(みうしな)ってはいないはずであるから攻撃に注意するのだと、淡々(たんたん)状況(じょうきょう)の見立てを話すトレーナーの言葉で、のこちゃんは落ち着きを()(もど)していった。


爆発に()衝撃(しょうげき)を発するほど、あの回転には、エネルギーがあったという事だろう。


いきなりぶつかってみなくて正解である。


それに、この身体(ティハラザンバー)は、そこそこヤワじゃない事を思い出す。


「そ、そう言えば、最初からティハラザンバーを見つけて来てたっぽいですからね」


埴輪(はにわ)の巨人は、目視(もくし)以外の感知方法(かんちほうほう)を持っていると考えるのが自然である。


どうりで、あんなスピンをしていても、正確に追跡(ついせき)されてしまう訳だ。


もっとも、ティハラザンバーもそんな埴輪(はにわ)の巨人を感知(かんち)し返したのだから、相手の事は言えないのだが。


しかし、水の中では、それもよく分からなくなっている。


確かに、(おお)ティハラ由来(ゆらい)の部分は、水が苦手だったらしい。


またしても早まった行動だったのかと、のこちゃんが意気消沈(いきしょうちん)しかけた所で、次の動きが見えた。


『失敗でもない様だぞ、身構(みがま)えよ…のこ』


「え!?」


トレーナーが言うやいなや、頭上(ずじょう)に影が()す。


ハッとして見上げれば、水面の上から()りかかってくる、埴輪(はにわ)の巨人の姿があった。


恐らく、水中での直接的な攻撃の続行(ぞっこう)(いと)い、その機動力(きどうりょく)をもってわざわざ飛び上がった模様である。


もう、回転はしていない。


(おのれ)が水の外に()り、(つるぎ)だけを打ち入れるのであれば、まだマシであっただろうよ…のこ』


埴輪(はにわ)の巨人は、自身の巨体ごと湖面(こめん)再突入(さいとつにゅう)して、()りかぶった大きな(つるぎ)(はな)つ。


「!!!!!!!!!!………あっ」


当然ながら、その巨体が(ゆえ)に、水の中で生み出される衝撃(しょうげき)によってティハラザンバーは押し流される。


加えて、巨大な(つるぎ)剣筋(けんすじ)も水の影響(えいきょう)(わず)かに阻害(そがい)された。


これでは、正確な攻撃などできはしないだろう。


(すなわち)ち、のこちゃんが期待した、つけ()(すき)(しょう)じているのだ。


まぁ、(しょう)じれば良いなぁくらいの思いつきだったので、これを(ねら)っていた訳ではなく、所謂(いわゆる)"結果オーライ"なのだが。


『なるほど、恐れていただけでは、活路(かつろ)見出(みいだ)せぬのであろうな…のこ』


トレーナーが感心した口調(くちょう)で何やら言っている様子だったのだが、のこちゃんは、現在このチャンスをどう生かすべきか必死(ひっし)思案(しあん)のまっ最中(さいちゅう)で、それどころではない。


いざ"つけ()(すき)"ができても、どうつけ()るのか考えていなかったのだから、それはそうなる。


あまり戦いの経験則(けいけんそく)も無いので、これといった(ひらめ)きもないまま、(あせ)りが(つの)るばかりであった。


つい、そう言えば『ハードチャレンジ!チャムケア』のケアタラッタは、敵の身体に()()まれて、チャムケア史上初(しじょうはつ)の"チャムケアの浄化必殺技(じょうかひっさつわざ)をその身に受けたチャムケア"だったよなぁとか、余計(よけい)雑念(ざつねん)現実逃避(げんじつとうひ)しそうになる。


ただ、その(あいだ)も今度はうねる水に翻弄(ほんろう)される事なく、流れに動きを合わせ、ティハラザンバーを埴輪(はにわ)の巨人の(まわ)りで移動させていた。


またぞろ、湖底(こてい)にて()つん()いとあり格好良(かっこうよ)くはないのだが、文字通り虎視眈々(こしたんたん)獲物(えもの)(ねら)(てい)に見えなくもない。


それを(まず)状況(じょうきょう)判断(はんだん)したのだろう。


埴輪(はにわ)の巨人は、(ふたた)び水中より(だっ)しようと、跳躍(ちょうやく)(ちから)をためるべく(ひざ)をくの字にして身をかがめる。


その瞬間(しゅんかん)、のこちゃんにも()めるべきポイントが(ひらめ)いた。


「それだ!」


『ふむ、好機(こうき)だな…のこ』


のこちゃんは、渾身(こんしん)(ちから)で、ティハラザンバーに湖底(こてい)()らせた。


水の抵抗(ていこう)をものともせず、(はじ)()んだティハラザンバーは、両方の(こぶし)標的(ひょうてき)(さだ)めた場所へ思い切り()き入れる。


(うら)みはないけど、ごめんね!」


「………………ッ?!」


シマユリを危険に()()ませないためにも、この訳の分からない追跡者(ついせきしゃ)の機動力を、できるだけ(うば)っておきたい。


ティハラザンバーの位置も良かった。


埴輪(はにわ)の巨人が()げた(ひざ)真裏(まうら)を、直接(ちょくせつ)(ねら)えたのだ。


つまり、乾坤一擲(けんこんいってき)(ひざ)カックンである。


水中に(にぶ)い音が(ひび)き、埴輪(はにわ)の巨人は、脱力(だつりょく)する様な動きで仰向(あおむ)けに(たお)れる。


全身を(ささ)える(かなめ)へダメージを通せた事により、自重(じじゅう)で上半身が()()られたのだろう。


手応(てごた)えも確かだった。


ただ、ぶつけたり(ころ)んだりと何も心当(こころあ)たりがないのに痛くなる(ひざ)で苦労していたおばあちゃんの事を思い出して、のこちゃんは少しだけ後ろめたかったのだが。



自重(じじゅう)がかなりあるとは言え、水中で転倒(てんとう)したのでは、(あた)えた衝撃度(しょうげきど)の意味で心許(こころもと)ない。


時間を(かせ)ぐならば、何かもう一押(ひとお)ししておきたい、のこちゃんであった。


膝裏(ひざうら)への痛打(つうだ)を成功させた後、その場から緊急退避(きんきゅうたいひ)したティハラザンバーを、湖底(こてい)で横たわってる埴輪(はにわ)の巨人へ(ふたた)接近(せっきん)させる。


恐らく、(ひざ)へのダメージ次第(しだい)なのだが、戦闘力(せんとうりょく)を決定的に(うば)えた訳でもないため、かなりの注意が必要だろう。


「………()き上がらないですね」


『ふむ、(つつ)いてみるか?…のこ』


しかし、一押(ひとお)しを追加しようにも、現在ティハラザンバーが打てる手は少ない。


「もったいないけど、双剣(そうけん)の片方で、足をここへ()いつけるとか…」


漂流結界(ひょうりゅうけっかい)の"(おり)"の中、双剣(そうけん)神獣(しんじゅう)(おお)ティハラを(ふう)じていたイメージを、のこちゃんは思い(えが)いた。


もの(すご)(いきお)いで近づき、埴輪(はにわ)の巨人が対応(たいおう)できない内に(つらぬ)いて、全力(ぜんりょく)離脱(りだつ)すれば何とかなるかも知れない。


『ふむ、それは無理だろうよ…のこ』


「あっ、やっぱり大切な神器(じんぎ)を、そんな使い方したら(まず)いですよね、言ってみただけですっ」


天空の女神(リナリーシア)関連に対して大凡(おおよそ)がセンシティブなトレーナーである。


怒られる前にと、速攻(そっこう)予防線(よぼうせん)()るのこちゃんは、かなりの早口だった。


割と本気だったのだが。


『いや、神器(じんぎ)は、その身から遠ざける事ができないと言った方が良いだろう。

以前、"双剣(そうけん)"と"のこの(たましい)"は、同化(どうか)して(つな)がっていると(かた)った事を(おぼ)えているな?…のこ』


そう言えばそんな事を聞いた様な気がするなと、のこちゃんは、朧気(おぼろげ)な自分の記憶を(さぐ)る。


「え~と確か、わたしの成長に合わせて、一緒(いっしょ)に強くなるとかなんとか…」


語尾(ごび)がごにょごにょしているのこちゃんにお(かま)いなく、トレーナーは続ける。


(すで)双剣(そうけん)は、白銀(しろがね)(よろい)と同じく、のこ自身と決して()(はな)せぬ存在となっている。

それは、精神的(せいしんてき)な意味はもちろんなのだが、身体からもほぼ(はな)れないという事なのだ。

目の前に()くくらいはできても、使い()てる様なマネをした所で、すぐに手元へ(もど)って()よう…のこ』


だから、戦いの中での投擲(とうてき)もかなわぬぞとの説明に、のこちゃんは、伝説のイメージで見た(せい)ザンバー=リナが、双剣(そうけん)()()いて何かを飛ばす攻撃をしていた姿を思い出した。


あれは、遠い間合いの相手へ双剣(そうけん)対処(たいしょ)せざるを()ない場合、使われるものなのだろう。


「(そうだ、あれ、かなり格好良(かっこうい)いから、やり方を(おそ)わらないと!)」


そんな攻撃をティハラザンバーが使用すると、いかにも怪人(かいじん)っぽい絵になる事を、のこちゃんはまだ気が付いていない。


それはそれとして、現在の問題をどうするかである。


近づいてみたものの、埴輪(はにわ)の巨人が急に動いても()けられるであろう位置で、ティハラザンバーは手を出しあぐねていた。


気軽に(さわ)っても大丈夫(だいじょうぶ)状態(じょうたい)なら、サクッと近づいて、(さら)(しば)るものでもあれば事足(ことた)りる話なのだが。


そもそも、押し入れの中に緊縛(きんばく)用のロープを用意していないので、これからは、こんなケースも想定(そうてい)して準備(じゅんび)しておいた方が良いのかも知れない。


と言うよりも、双剣(そうけん)が気軽に使い()てられないらしいので、もう少し色々(いろいろ)選択肢(せんたくし)()やす必要がありそうだ。


いざとなったら使い()てる気でいたのかと、トレーナーに怒られそうなので、本心はぼかしておく。


その辺り、何かと気をかけてくれる、ジャガー獣人(じゅうじん)のベニアにでも相談してみよう。


そんな調子で、のこちゃんがうわの(そら)になるクセを、見抜(みぬ)かれていたのであろうか。


横たわっていた埴輪(はにわ)の巨人が、突然、(つるぎ)(にぎ)っていない方の手をティハラザンバーへ()ばした。


手を動かす事の比喩(ひゆ)ではない。


本当に(うで)()びて、(またた)()に、ティハラザンバーの足を(つか)んだのだ。


もちろん、上腕部(じょうわんぶ)から切り離して(うで)だけ飛んでいたら何かが(あぶ)なかったものの、物理的(ぶつりてき)()びているだけなので、あるあるの範疇(はんちゅう)である。


「なっ?!」


『ほう、これはまた面白い仕掛(しか)けだな…のこ』


「………………ッ!!」


水中は不利と判断(はんだん)しての擬態(ぎたい)だったのだろう。


(たお)れた姿で、ティハラザンバーの(すき)(ねら)っていたに(ちが)いない。


埴輪(はにわ)の巨人は、一気(いっき)(うで)を元の長さに(もど)し、ティハラザンバーを引き()せた。


「なにそれぇ!?!」


またしても、(つるぎ)(とど)かないであろう距離(きょり)を安全とする思いこみで、その(うら)をかかれた形である。


()た様な失敗を()(かえ)してしまったショックもあってか、のこちゃんは気が動転(どうてん)して、反抗(はんこう)の行動へと切り返せない。


一瞬(いっしゅん)でティハラザンバーを抱きかかえると、埴輪(はにわ)の巨人は(いき)いよく()き上がり、そのまま跳躍(ちょうやく)して湖中(こちゅう)より脱出(だっしゅつ)してみせた。


水飛沫(みずしぶき)(はげ)しく広く(ちゅう)()()る中で、(みずうみ)から飛び出した岩塊(がんかい)(から)()られた何かが、金色にきらきら光っている。


(はた)から見れば、ある意味、そんな幻想的(げんそうてき)光景(こうけい)だった。


実際は、ティハラザンバーが埴輪(はにわ)の巨人に羽交(はがい)()めされた状態(じょうたい)で、拉致(らち)されているにすぎない。


いや、湖岸(こがん)へ向けての強制空中搬送(きょうせいくうちゅうはんそう)が、状況(じょうきょう)説明としては適当(てきとう)だろうか。


『そら、次の仕掛(しか)けが始まるぞ…のこ』


本当に楽しそうなトレーナーの口調(くちょう)に、何をのんきなと、のこちゃんから発せられた怒気(どき)は、精神的(せいしんてき)活力(かつりょく)へと転換(てんかん)される。


活力(かつりょく)(もど)れば、思考力(しこうりょく)も復活する。


一番の起爆剤(きばくざい)は失敗を()(かえ)してしまった(はず)ずかしさも(よみがえ)ったせいなのだが、そんな気勢(きせ)いが、豪腕(ごうわん)でガッチリ拘束(こうそく)され身動きの取れないティハラザンバーに双剣(そうけん)(にぎ)らせた。


白獅子(しろじし)御大将(おんたいしょう) こと じっさん との決闘でも見せた様に、押し入れの中から直接(ちょくせつ)、両手へ顕現(けんげん)したのだ。


何かコツがあるのかもと思いつつも、反撃(はんげき)のチャンスとばかりに、のこちゃんは、気持ちを()()える。


しかし、反撃(はんげき)するにしても、()ずは、この拘束(こうそく)()かねばならない。


何とか、双剣(そうけん)埴輪(はにわ)の巨人に()き立てられないものかと、もがいてみる。


「この…おわっ?!」


埴輪(はにわ)の巨人はそんなのこちゃんの思惑(おもわく)を許さず、おそらく跳躍(ちょうやく)到達地点(とうたつちてん)(おぼ)しき湖岸(こがん)平地(へいち)へ、思い切りティハラザンバーを()()てた。


それなりの高さからなので落下のエネルギーも加わり、無防備(むぼうび)に地面へ(たた)きつけられれば、ティハラザンバーといえどもただでは()まないだろう。


「………………ッ」


そして、(ふたた)び空中にて大きな(つるぎ)(かま)えなおすと、埴輪(はにわ)の巨人は、追撃(ついげき)する形でティハラザンバーを(ねら)うつもりらしかった。



みるみる(せま)地表(ちひょう)()()たりにして、いつもののこちゃんならば、半狂乱(はんきょうらん)だったのかも知れない。


「あったまきた、ひとの事をゴミみたいにして!」


しかし、今は怒気(どき)(まさ)ってなのか、反骨(はんこつ)反撃(はんげき)モードなのか、やる気に()ちて状況判断(じょうきょうはんだん)(みょう)にスムーズである。


地面へ向かって投げ飛ばされたティハラザンバーは、のこちゃんの"このままで()ましてなるものか"の意向(いこう)()み、クルリと宙返(ちゅうがえ)りして体勢(たいせい)()()える。


足を下に、追ってくる埴輪(はにわ)の巨人へ正面から顔を向け、キッと見据(みす)えた。


両腕(りょううで)が左右に開かれ、双剣(そうけん)は、(つばさ)の様に広げられている。


落下する姿勢(しせい)(みょう)に安定している事に、のこちゃんは気が付いていない。


『ふむ、良い調子だ…のこ』


(はげ)ましていると(おぼ)しきトレーナーなのだが、語気(ごき)(ふく)まれる喜色(きしょく)が、現在ののこちゃんにはニヤニヤしている感じに聞こえてしまう。


もう、実際に動かなきゃならないこっちの身にもなってくださいよと、(さら)怒気(どき)の火へ油が(そそ)がれる。


間もなく、ティハラザンバーは、そのままの(いきお)いで足から大地に到達(とうたつ)した。


着地の轟音(ごうおん)が、巨木(きょぼく)大森林(だいしんりん)にもこだまする。


身体へかかるはずであった落下の衝撃(しょうげき)を逃がすために、また地面を滑走(かっそう)したのだが、その(あと)がだいぶえぐれていてエネルギー量の大きさを物語っていた。


白銀(しろがね)ブーツの頑丈(がんじょう)さも大きいものの、大凡(おおよそ)負荷(ふか)は、ティハラザンバーの身体能力(のうりょく)でいなしたのだろう。


あとは、それでも(ころ)ばない猫的な超バランス感覚サンキューといった所である。


間髪入(かんはつい)れず、埴輪(はにわ)の巨人が相変(あいか)わらずな()()攻撃姿勢(こうげきしせい)で、落下の加速と重量(じゅうりょう)と共に()りかかってきた。


「………………ッ!」


(つるぎ)と言うよりも、巨体そのものが風を切る音で(せま)る。


「ふざけんっ、なっ」


状況判断(じょうきょうはんだん)がスムーズであっても冷静(れいせい)とは言い(がた)いのこちゃんは、即座(そくざ)()(こう)からの迎撃(げいげき)へと()()った。


通常(つうじょう)精神状態(せいしんじょうたい)であれば、そのまま(つぶ)されかねないと、退避行動(たいひこうどう)優先(ゆうせん)しただろう。


トレーナーも(もく)して、のこちゃんの選択を()(とら)えている模様(もよう)である。


しかし、交差(こうさ)させて受ける(ひま)が無いので、身体の左右へハの字に開いていた双剣(そうけん)を、()き出されて来る大きな(つるぎ)(はさ)()む様に直接(ちょくせつ)ぶつけた。


まさしく、おうナンボのもんじゃいやったらぁ的な、完全に(いきお)(まか)せの暴挙(ぼうきょ)と言える。


生半(なまなか)刀剣(とうけん)であれば、埴輪(はにわ)の巨人が持つ質量(しつりょう)に負けて、(くだ)かれるのがオチなのであろうが………


「え!?」


予想された激突(げきとつ)衝撃(しょうげき)(しょう)じない。


「………コレハッ?!?」


その代わり、突如(とつじょ)として、ティハラザンバーと双剣(そうけん)起点(きてん)強烈(きょうれつ)突風(とっぷう)が発生した。


それは、自重(じじゅう)と落下のエネルギーを()せた埴輪(はにわ)の巨人の(いきお)いに、カウンターとして()(とど)めるに(とど)まらない威力(いりょく)暴風(ぼうふう)である。


埴輪(はにわ)の巨人は、一瞬(いっしゅん)ふわりと()かぶ様な挙動(きょどう)を見せた後、ティハラザンバーの前から()き飛ばさた。


双剣(そうけん)(たた)き付けられた所から、大きな(つるぎ)(くだ)()る。


ついでに、たいしたものであろうとトレーナーのドヤ声が続いた。


『その手に()るは、他ならぬ天空の女神(リナリーシア)様の神器(じんぎ)なのだ。

こと、この大気が(みち)()であれば、地上であれ空であれ何も恐れる事はない…のこ』


何なら、この大気に斬撃(ざんげき)威力(いりょく)だけを乗せて飛ばせるのだぞと、自慢(じまん)めいた方向へ話が展開してゆく。


一方、のこちゃんは、いつもの様に急で大事(おおごと)な現象にビックリして(かた)まっていたので、ノーリアクションである。


数泊(すうはく)の間を置いて、あれ、じゃあ水の中って本当にヤバかったのかもと、通常運転の復活と共に、のこちゃんの危機感(ききかん)も仕事をし始める。


何しろ、(おお)ティハラの部分はハッキリと水が苦手であり、逆に大気の満ちていない場での神器(じんぎ)微妙(びみょう)そうなのだ。


「う、運が良かったんですね………」


怒気(どき)(たか)ぶっていた気持ちが、すとんと一瞬(いっしゅん)で引いた。


やはり、トレーナーが危惧(きぐ)していた通り、ティハラザンバーにとって水中は鬼門(きもん)という事なのだろう。



()き飛ばされた埴輪(はにわ)の巨人を見やれば、大地に投げ出された格好(かっこう)(たお)れ、もぞもぞ()き上がろうとする所だった。


「………………ッ………ッ」


今度こそはダメージがあるらしく、動きがぎこちない。


この様子なら、十分(じゅうぶん)に目的を達成(たっせい)できたと、のこちゃんは安堵(あんど)する。


シマユリと合流しても、(うし)ろを気にする事なく武神様(ぶしんさま)を探しに行けるはずである。


ただ、(さき)ほど(いだ)いた疑念(ぎねん)の通り、シマユリの言う武神様(ぶしんさま)埴輪(はにわ)の巨人だった場合は、状況(じょうきょうえ)がかなり(こじ)れてしまうのだが。


「まさかね…」


刹那(せつな)、何かの光がティハラザンバーを背後(はいご)から()らす。


()けるのだっ、のこ!』


またしても、らしくない(あわ)てたトレーナーの警告(けいこく)だった。


「え…」


それと同時に、不意(ふい)衝撃(しょうげき)がティハラザンバーを(はじ)き飛ばす。


「がはっ?!」


身体がきりもみ状態(じょうたい)となって、地面へ(ころ)がされる。


まるで、強く一点に(しぼ)られた密度(みつど)の高い衝撃(しょうげき)で、無理矢理バランスを(くず)された感覚である。


大丈夫(だいじょうぶ)かっ、のこ!』


そして、()()かれた様な痛みが、衝撃(しょうげき)()()く。


「うぐっ……」


のこちゃんが(とら)える"()らめきの流れ"は、確かにそこに()った。


しかし、背後(はいご)からの不意打(ふいう)ちとあり、気か付いたのはトレーナーのみだったのだ。


知覚(ちかく)し、対処(たいしょ)できてこその手段である。


のこちゃんはショック状態(じょうたい)(おちい)って、ティハラザンバーを(うめ)かせる事しかできない。


(さら)に、相次(あいつ)ぐ"()らめきの流れ"と共に、光の衝撃(しょうげき)()()ちをかけた。


その都度(つど)、ティハラザンバーは(はじ)かれ、周囲(しゅうい)の地面も(えぐ)れてゆく。


どうやら、光による射撃(しゃげき)の様な攻撃らしい。


のこちゃんがティハラザンバーへと生まれ変わって以来(いらい)、感じた事のない激痛(げきつう)が、次々(つぎつぎ)に全身を(おそ)う。


『しっかりせよ、のこ!、のこ!』


「……くあぁぁ、あぁぁっ」


それでもティハラザンバーにしてみれば許容範囲(きょようはんい)のダメージなのか、生き物ならば持っているであろう精神(せいしん)苦痛(くつう)から()(はな)安全装置(あんぜんそうち)(はたら)かず、のこちゃんの意識(いしき)は失われないままである。


()しくも、のこちゃんとティハラザンバーの(いびつ)さが垣間見(かいまみ)えた瞬間(しゅんかん)だった。


周辺(しゅうへん)土煙(つちけむり)が立ち、その中で(ころ)がったティハラザンバーが、黄金の毛並みを(かがや)かせながらのたうつ。



しばらくすると攻撃は()み、林立(りんりつ)する巨木(きょぼく)の間にうずくまる暗闇(くらやみ)の中から、その(やみ)を切り取った様な人影が湖岸(こがん)の開けた土地へ歩み出てきた。


「まぁ、派手(はで)(あば)れちゃってなぁ…」


若くはない、粗野(そや)で野太い男の声であった。


背丈(せたけ)は2メートル前後の、人間であろうか。


ティハラザンバーに(くら)べれば、半分ていどにすぎない。


全身が漆黒(しっこく)のその姿は、(よろい)とは(ちが)雰囲気(ふんいき)金属装甲(きんぞくそうこう)で、頭からつま先までを(おお)う。


左右に羽根飾(はねかざ)りを付けた丸い頭部には、双眸(そうぼう)(おぼ)しき二つの光点(こうてん)(とも)っている。


その者は、埴輪(はにわ)の巨人を一瞥(いちべつ)して、あ~あとため息を()いた。


「どこのどいつか知ったこっちゃねぇんだけどな、あのデカブツはこっちの獲物(えもの)なんでな、結構(けっこう)これが手間(てま)かかってんだよ………………

横から勝手(かって)に手ぇ出してんじゃねぇぞ!」


要は、埴輪(はにわ)の巨人に対する、先約(せんやく)主張(しゅちょう)である。



処刑騎士団(しょけいきしだん)のアビスガルダ、暗闇(くらやみ)色の男は、そう名乗った。


続きます。

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