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わたしはチャムケア! -光の少女戦士伝説的なやつ希望-  作者: 虎竜王NV
第一章:のこちゃん、怪人になる
14/21

10 第一章・結び


無理矢理(むりやり)に大穴を穿(うが)たれた大気が轟音(ごうおん)の悲鳴を上げる。


その大穴を()めるべく、大気は(まわ)りの空気を巻き込んで強い気流を生みだし、瞬時(しゅんじ)暴風(ぼうふう)と化した。


(はげ)しい戦いが各地に大きく拡大(かくだい)してゆく様子を"戦嵐(せんらん)()()れる"などとファンタジックに(たと)えたりするが、本当に暴風(ぼうふう)によって()がれてしまった場合は、おちおち地上で戦ってなどいられないだろう。


事実、ティハラザンバーが空を()()いたと錯覚(さっかく)させるほどの極大(きょくだい)衝撃波(しょうげきは)(はな)っている間、地上の戦闘は(こお)りついており、敵味方の区別無くそこにいたすべての者が灰塵(かいじん)へと消えてゆく(つばさ)の怪物たちを(あお)ぎ見ていた。


「何だありゃ?………ティハラザンバーのヤツか!うわ、えげつねぇーなぁ」


(すさ)まじい剣を()るって、この戦いの機先(きせん)(せい)したじっさんこと白獅子(しろじし)御大将(おんたいしょう)だけは、そんな状況(じょうきょう)にあってゲラゲラ笑っている。


(のち)に、間近(まぢか)で成り行きのすべてを目撃していたジャガーの獣人(じゅうじん)ベニアからのこちゃんが聞かされた話によれば、力任(ちからまか)せでティハラザンバーの両手の平を組み合わせたと同時に、20を下らない(つばさ)の怪物たちが衝撃波(しょうげきは)の通る辺りの空中へ突然(とつぜん)集まったという。


それも、怪物たちの意志(いし)とは関係無く、まるで見えない大きな手でかき集められた様に不自然な体勢(たいせい)での集結(しゅうけつ)だったらしい。


もしかすると、手の平を組み合わせる事に強い抵抗(ていこう)(しょう)じていたのは、(つばさ)の怪物たちへそんな影響(えいきょう)(およ)ぼしていたからなのかも知れない。


それが本当ならば、単なる強い攻撃と言うよりも、ティハラザンバーの能力による一方的な蹂躙(じゅうりん)に近い。



――――――――――――――――



「おお、天晴(あっぱ)れなものよ」


ドラゴン系クラスターの尖角兵団(せんかくへいだん)(ひき)いる豪傑(ごうけつ)ベルクも、つい先ほど自身で見極(みきわ)めた若者の迅速(じんそく)なる頭角(とうかく)顕現(けんげん)には、期待も相俟(あいま)って思わず賛称(しょうさん)の言葉をもらした。


特に戦闘中では、指示(しじ)鼓舞(こぶ)といった必要な事以外を(しゃべ)らないベルク本来の性格とあって、(まわ)りの者を(おどろ)かせる。


やがて暴風(ぼうふう)(おさ)まり、それまで恐らく(つばさ)の怪物をアテにしつつ何とか()みとどまっていた襲撃者(しゅうげきしゃ)の部隊は、動ける者の全員が一目散(いちもくさん)に戦闘を放棄(ほうき)して壊走(かいそう)を始めた。


さすがに一撃で全滅(ぜんめつ)させられるとは、想像していなかったに(ちが)いない。


ティハラザンバーの見せた(ちから)は、その心を折るに十分な脅威(きょうい)だった訳である。


そのまま(ほう)っておいても広がる荒野(こうや)自滅(じめつ)しそうなものの、異次元(いじげん)踏破(とうは)傭兵団(ようへいだん)"魔刃殿(まじんでん)"としての面子(めんつ)があるのか、尖角兵団(せんかくへいだん)は、ベルク(みずか)らの指揮(しき)即時(そくじ)襲撃者(しゅうげきしゃ)たちの追撃(ついげき)を開始した。


魔刃殿(まじんでん)に手を出した(おろ)(もの)がどうなるのか、その末路(まつろ)と共に()へ知らしめよ!」


全身を(うろこ)に守られるドラゴン系の獣人(じゅうじん)は、()きんでた筋力(きんりょく)耐久力(たいきゅうりょく)といった生来(せいらい)の身体能力が戦いに()いても優位(ゆうい)(はたら)き、戦闘(せんとう)()れない者でも生き残り(やす)特性(とくせい)を持つ。


そして、それが続けば歴戦(れきせん)勇士(ゆうし)へと(なん)なく育ってゆき、最終的には、一騎当千(いっきとうせん)猛者(もさ)へと完成する。


()えるベルクの号令(ごうれい)で、尖角兵団(せんかくへいだん)猛者(もさ)()れが一斉(いっせい)(きば)をむいた。


しかも、逃げる敵の背中へ向けての文字通り掃討戦(そうとうせん)とあって、敗者(はいしゃ)の結末としては、抵抗できない所を一方的にひねり(つぶ)されてゆく最悪の(たぐい)である。


最初に手を出してきた自業自得(じごうじとく)ではあるにせよ、悲惨(ひさん)と言うほかない。


尖角兵団(せんかくへいだん)では、各々(おのおの)に自前の強固な(うろこ)があるため(よろい)(るい)する装備が必要ないのか、軍服的な布の服をお(そろ)いで(あつら)えている。


入団の時期によって色が変わるらしく、現在の新人たちは白を基調(きちょう)としていた。


ほぼ(かえ)()ちの危険がない追撃(ついげき)とあり、白い兵団服(へいだんふく)を身に(まと)う者らは、張り切ってポイントを(かせ)いでいる姿が目立つ。


新人でもドラゴン系クラスターの面目躍如(めんもくやくじょ)と言うべきか、襲撃者(しゅうげきしゃ)たちは金属の甲冑(かっちゅう)で全身を(かた)めているにも係わらず、その装甲(そうこう)ごと身体をかち割られたり(つぶ)されたりとみるみるその数を()らしていった。


常軌(じょうき)(いっ)したティハラザンバーの衝撃波(しょうげきは)(くら)ぶべくもないものの、蹂躙(じゅうりん)という意味では、こちらがまだ現実的な様相(ようそう)なのだろう。



そんな中で、白い兵団服(へいだんふく)にも係わらず、率先(そっせん)して掃討戦(そうとうせん)(くわ)わらない者がいた。


一応、標的(ひょうてき)の方から近づいて来れば、手にした(やり)片付(かたづ)けるもののそれ以上の動きはない。


(つや)やかな濃い青と白銀(しろがね)(うろこ)がツートーンでしなやかな肢体(したい)(おお)う、それは、若い女性のドラゴン系獣人(じゅうじん)である。


(うろこ)と同様の青い角は、頭部の両側面(そくめん)より二本ずつ後方へ(けい)四本が優美(ゆうび)に、それでいて遠慮(えんりょ)の無い感じに()びている。


顔はドラゴンのそれなものの、凹凸(おうとつ)の少ないつるりと鋭利(えいり)刃物(はもの)の様であり、青黒いまっすぐな長い(かみ)をたてがみの(ごと)くたなびかせる。


深い(みずうみ)の水面を彷彿(ほうふつ)とさせる濃い水色の(ひとみ)は、逃げまどう襲撃者(しゅうげきしゃ)の背に(とら)われる事なく、側防塔(そくぼうとう)の屋上にポカンとつっ立っているティハラザンバーへ向けられていた。


「あれは、神獣(しんじゅう)(おお)ティハラの衝撃波(しょうげきは)……………………

ティハラザンバーとは、つまり………そういう事でしたか」


今日、尖角兵団(せんかくへいだん)遠征(えんせい)より帰還(きかん)してからの話なのだが、ぽっと出の新人が白獅子(しろじし)御大将(おんたいしょう)(わた)()ったという(うわさ)は耳にしていた。


そもそも、不真面目(ふまじめ)さで(つぶ)ぞろいと名高い猫系クラスターであり、白銀(しろがね)(よろい)聖女(せいじょ)伝説(でんせつ)にあやかったと(おぼ)しき安直(あんちょく)な名前のティハラザンバーを、最初は取るに足らない手合(てあ)いであろうと(あなど)ってもいた。


しかし、たった今、それは早計(そうけい)だったと思い知らされたのである。


「アインさん、ご(らん)になりまして?

今のは、いったい何ですの………(すさ)まじいなんてくらいじゃ言い表せない(ちから)でしたわ??」


アインスブラウ、"アイン"と呼ばれたそれが、青の印象的なドラゴン獣人(じゅうじん)の名である。


「ガラ、あれが今期の育成組(いくせいぐみ)へ入ったという、ティハラザンバーらしいですね」


「…ああ、(うわさ)は、わたくしも聞いていますわ」


アインと同じく白い兵団服(へいだんふく)のガラもまた、尖角兵団(せんかくへいだん)に連なる、若い女性のドラゴン系獣人(じゅうじん)である。


この掃討戦(そうとうせん)にあまり乗り気ではないのも、アインと同様らしかった。


見た目は、メタリックなショッキングピンクと(うす)桃色(ももいろ)で構成された(うろこ)と、頭部から太く豪快(ごうかい)に左右へそそり立つ二本の角という派手(はで)さに加え、長い金色のクセっ毛がゴージャスに(まと)められている。


顔は、本人(いわ)く"シュッとしている"らしいドラゴンのそれであり、ルベライトの様な濃い紅色(べにいろ)の大きな(ひとみ)圧倒的(あっとうてき)だ。


ちなみに、ルベライトとは宝石のピンクトルマリンの事でありチャムケアシリーズにもアイテムとして登場するので、のこちゃんがガラを知れば思う所もあるのかも知れない。


「いくら打診(だしん)されても興味(きょうみ)はありませんでしたが…ガラ、(わたし)は、育成組(いくせいぐみ)へ参加する事にしました」


アインの急な宣言(せんげん)に、ガラは少し目を丸くする。


「あら、どういう…いえ、アインさんが参加するのなら、わたくしもしない訳にはゆきませんわね」


背丈(せたけ)もさほど変わらないアインの視線の先をガラが見やれば、当のティハラザンバーは、(あわ)てた様子でちょうど屋上の奥へ下がる所だった。



――――――――――――――――



『まさしく、かつて(おお)ティハラが自在(じざい)(あやつ)っていた衝撃波(しょうげきは)そのものだったぞ…のこ』


などとトレーナーがお気楽な高評価をのたまっていた頃には、襲撃者(しゅうげきしゃ)たちから戦う意志が失われて総崩(そうくず)れになっており、魔刃殿(まじんでん)(ぜい)掃討戦(そうとうせん)へと状況(じょうきょう)推移(すいい)させていた。


「………………!?」


ハッと(われ)に返ったあと(あわ)てて後へ引っこんだものの、のこちゃんは(こころ)此処(ここ)(あら)ずな状態で、ティハラザンバーの足取りも明らかにふらついている。


ティハラザンバーが見せた超常現象(ちょうじょうげんしょう)的な(ちから)には、(おおかみ)獣人(じゅうじん)のセイランとジャガーの獣人(じゅうじん)ベニアも想定範囲(そうていはんい)を超えていたと見えて、さすがに(おどろ)きを(かく)せない様子だ。


もっとも、のこちゃん自身ビックリを超越(ちょうえつ)してしまって、精神状態(せいしんじょうたい)呆然(ぼうぜん)から自失(じしつ)(いた)過程(かてい)で言えば、現在は丁度(ちょうど)まん中くらいな感じである。


押しちゃいけないボタンをうっかり押して、取り返しのつかない事態(じたい)をその手で(まね)いてしまったものの、どう考えても挽回(ばんかい)はできない上に、これから自分が何をすれば最善(さいぜん)なのかまったく見当がつかない焦燥感(しょうそうかん)が近いだろうか。


(もう)(ぶん)ない、ティハラザンバー。

この結果の前に、疑念(ぎねん)をはさんでくる者はおるまい、よくやった」


「………はぁ」


(おおかみ)獣人(じゅうじん)クラスターの長であり"育成組(いくせいぐみ)"の指導(しどう)を受け持つ老矛(ろうぼう)は、上機嫌(じょうきげん)でティハラザンバーを()めた後、(ほう)けたティハラザンバーの生返事(なまへんじ)(とが)めることもなく、今日の所はこれまでと解散(かいさん)(むね)をその場の(みな)に伝えた。


のこちゃんはベニアと共に、セイランも老矛(ろうぼう)()(したが)って、各々(おのおの)帰路(きろ)へとつく。


その道すがら、ベニアは、ティハラザンバーの様子を気遣(きづか)ってなのか、何か思案(しあん)げな様子で(だま)ったままである。


猫系クラスターが住む(とう)(もど)ると、軽い挨拶(あいさつ)だけして、二人は素気(すげ)なく別れた。



自分の部屋へ到着(とうちゃく)したのこちゃんは、ドアを閉めると、そのまま寝台(ベッド)へティハラザンバーの身体をえいやぁと投げ出す。


黒豹(くろひょう)獣人(じゅうじん)のパニアから昨日あてがわれたばかりの部屋とは言え、一人になれれば、やはりホッとするものなのだ。


ゴロンと仰向(あおむけ)けに体勢(たいせい)を変えると、深いため息を()きながら、その顔を両手で(おお)う。


「手が(ふる)えてる…」


のこちゃんは、ティハラザンバーの両手を見ながらポツリと(つぶや)いた。


(あん)ずるな、初陣(ういじん)では誰しもそんなものだ。

この先、無事に()()びるためには、()れるしかない…のこ』


トレーナーの説明では、戦争に兵器として利用すれば敵を躊躇(ちゅうちょ)無く(ほふ)り、野生だと誰彼(だれかれ)(かま)わず(おそ)いかかって殺戮(さつりく)する性質(たち)の悪い怪物との事であった。


そしてあの場合、(おそ)われる前に対処(たいしょ)できたのは、色々(いろいろ)な意味で正しかったとのこちゃんも思っている。


しかし、である。


「あんな簡単に、消しちゃったのか………………わたしが」


(おのれ)の意志を持って現実に生きていた()()()()()れごと跡形(あとかた)もなく抹殺(まっさつ)してしまえるその(ちから)は、正直な所、のこちゃんにしてみれば単純に恐ろしかったのだ。


傭兵(ようへい)などという立場にあれば、いずれこの(ちから)で人を()状況(じょうきょう)は、どうしても()()ない事だろう。


(たと)えそれが自分を(たお)そうと向かってくる敵で、この身を守るためにやむを()なかったとしても、結局はそれをくり返してしまう自分を想像しただけで恐ろしい。


『ふむ、(ちから)は、強かろうが弱かろうが、(ちから)である事に変わりはない。

強い(ちから)(おく)すれば飲み込まれ、弱い(ちから)(さげす)めば、本来できたはずの事もままならなくなる。

それが必要な(ちから)ならば、相応(そうおう)に使いこなすだけなのだ…のこ』


(はげ)ましとも説得(せっとく)とも取れるトレーナーの言葉に、初代チャムケアが初めて意志のある敵幹部怪人(かんぶかいじん)(ほうむ)ってショックを受けていた時、変身アイテムを()ねたパートナー妖精のヨイフルは「あいつは発生した混沌(こんとん)のエネルギーに(かえ)っただけヨル」と、明るい口調(くちょう)で気にするなと主人公を言いくるめていたなぁとか思い出す相変(あいか)わらずなのこちゃんである。


言われてみれば、敵の殲滅(せんめつ)は、チャムケアも通った道なのだ。


言われていないが。


それはそれとして、現実では、間違(まちが)いなく(むずか)しい事だろう。


ただ、思えばチャムケアの歴史は、市井(しせい)()らす凡庸(ぼんよう)な少女たちが、偶然(ぐうぜん)()たその身に(あま)(ちから)を自分の意志で正義のために生かしてゆく記録だったはず。


そう考えると、いまの自分ができる事、やるべき事に一条(ひとすじ)光明(こうみょう)見出(みいだ)せる気がした。


「使いこなす………か」


それが何であれ、恐ろしいと感じるのは、(おのれ)がそれを知らないからという話をのこちゃんも聞いた事がある。


知らないなら知れば良い。


知っても(なお)それが恐ろしいのならば、そしてそれが必要なものならば、その時は、恐ろしさを()まえた上で正面から向き合うしかない。


()()ないのであれば、その時その時で最善(さいぜん)()くすしかないのだ。


その上で、なるべく穏便(おんびん)解決方法(かいけつほうほう)(さぐ)ってゆく。


現代日本の中二女子キャパシティーに準拠(じゅんきょ)したそのていどが、現時点では、のこちゃんのリアルな限界(げんかい)だろう。


のこちゃんは、もう一度深いため息を()くと、両手の平でティハラザンバーの顔をばしんと(たた)いた。


「ここでやらなきゃ、乙女(おとめ)名折(なお)れだよ!」


それから『スカウトチャムケア♯』に登場する主人公ケアメルティの決めゼリフで自分に気合いを入れ、果断(かだん)なる気概(きがい)(もっ)て、ティハラザンバーの身体を寝台(ベッド)から(いきお)いよく立ち上がらせる。


この、ティハラザンバーという身に(あま)(ちから)制御(せいぎょ)には、のこちゃん自身が強くなるしかない。


そして、そのためには訓練が必要であり、始めるなら少しでも早い方が良いに決まっている。


このままなし(くず)しで本当に(かい)人生(じんせい)を歩んでしまっては、チャムケアの気高(けだか)(たましい)()()ぐ、のこちゃんの本懐(ほんかい)ではない。


チャムケアは絶対に(くじ)けないのだ。



『ふむ、()がいなくなっても、今の力を上手(うま)く使いこなして、しぶとく()()びるのだぞ…のこ』


あれ?とのこちゃんは、この流れに既視感(きしかん)(おぼ)えた。


昨晩(さくばん)も、のこちゃんが気合いを入れた所で、トレーナーは(いず)れ自分が消えてしまう運命にあると告白してきたのだ。


「な、何か………良くない感じですか、トレーナーさん?」


どこか不穏(ふおん)さを感じるトレーナーの物言いに、のこちゃんは、恐る恐るお(うかが)いを立てる。


『良くないと言うほどの事ではないのだが…のこ』


よくよく話を()いてみれば、先ほどの全力(ぜんりょく)(はな)った衝撃波(しょうげきは)で、押し入れにあった余剰(よじょう)エネルギーが半分ほど失われたとの事であった。


「いやいやいやいや、だからダメじゃないですか!!」


『しかし、安心して良い。

特殊(とくしゅ)結界(けっかい)の大きさがかなり(ちぢ)んでしまったのだが、双剣(そうけん)が飛び出さぬ様に形状(けいじょう)調整(ちょうせい)上手(うま)くできた。

どうやら、()には、その辺りの管理(かんり)も可能らしい…のこ』


これから(こま)かな調整(ちょうせい)()(まか)せよとトレーナーにどや声で言われた所で、安心材料にはまったくならない。


こんな事でうっかりトレーナーが消える事態(じたい)になれば、恐れていた通り、早々(そうそう)にのこちゃんが(ひと)りでティハラザンバーをやる羽目(はめ)になってしまう。


「訓練の前に、()ず、こっちを何とかしないと!」


(あわ)てて、のこちゃんは、部屋を飛び出した。



――――――――――――――――



ストレートブーツが、石材(せきざい)(ゆか)にコツコツと足音を(ひび)かせる。


猫系クラスターが使う(とう)廊下(ろうか)を、ベニアは、黙々(もくもく)と自分の部屋に向かって歩いていた。


(しず)けさが支配(しはい)する、直近(ちょっきん)荒野(こうや)にて現在も続いているであろう殺戮(さつりく)喧噪(けんそう)とは、まるで無縁(むえん)の世界の様だった。


もう()れてしまったのか、建物の(かべ)(ゆか)が素材むき出しの無骨(ぶこつ)な造りでも、特にこれといって思う所は無さそうである。


「………………(本当に、猫系(ここ)って、他人(ひと)気配(けはい)しないよねー)」


のこちゃんのみならず、育成組(いくせいぐみ)へ参加している者は全員が新人であり、ベニアもまた魔刃殿(まじんでん)在籍(ざいせき)して日が(あさ)い方であった。


育成組(いくせいぐみ)の参加者は、それぞれのクラスターがこれぞと見こんだ将来有望(しょうらいゆうぼう)な若者であり、()わば幹部(かんぶ)戦士の候補(こうほ)たちなのだ。


しのぎを(けず)るライバルしか(まわ)りにいない環境(かんきょう)とあり、親類であるパニアのコネクションだけではどうにもならない、そんな実力を問われる集まりに名を(つら)ねている時点で、ベニアも並みの器量(きりょう)のはずもない。


実際の所、ティハラザンバーと分かれる前の思案(しあん)げな様子は、これからの(おのれ)の身の()り方を模索(もさく)しての姿である。



ティハラザンバーとは、昨日紹介(しょうかい)されて、今日ほんの一時(ひととき)行動を共にしたに()ぎない。


ベニアにしてみれば、すべてはこれから次第(しだい)としか言えない間柄(あいだがら)だった。


同じクラスターから育成組(いくせいぐみ)へ参加するならば、仲の良い方がお(たが)いに有利(ゆうり)な事は間違(まちが)いない。


最初にベニアから相棒(あいぼう)ポジションを希望したのは、そんな打算(ださん)があったからこその、本心である。


どんな育ち方をしたのか、ティハラザンバーの怖い姿に似合(にあ)わない素直な性格には、不思議(ふしぎ)に思いつつも好感(こうかん)が持てた。


その辺りは、中二女子を素体(そたい)として最近でっち上げられた存在だと、ベニアどころか魔刃殿(まじんでん)の全員が()(よし)もない事なので戸惑(とまど)うのも仕方がないのだが。


見た目と(ちが)って意外とつきあい(づら)くもなさそうで、セイランとの模擬戦(もぎせん)で見せたその実力も及第(きゅうだい)を超えてきたとなれば、ティハラザンバーと組む事にはこれといった問題もないはずであった。


「………………(あんなのを見せられたらねー)」


よもや、訓練(くんれん)スペースで少し見せたあの(ちから)があそこまでの(すさ)まじさだったとは、誰が予測(よそく)できただろうか。


ベニアが目撃(もくげき)したその真なる恐ろしさは、もちろん破壊力(はかいりょく)もさる事ながら、すべての(つばさ)の怪物を衝撃波(しょうげきは)射線(しゃせん)(じょう)へ引き寄せて、そのまま空中に固定(こてい)してしまった事である。


あれでは、(ねら)われたら最後、(のが)れられるものも(のが)れられない絶対的(ぜったいてき)破滅(はめつ)強要(きょうよう)だろう。


まさしく、ベニアは、想像を()するという経験をさせられた。


「………………(アレを見て、興味(きょうみ)を持ったヤツは多いだろうねー)」


ただ、ティハラザンバーは、明らかに諸刃(もろは)(つるぎ)であるのだが、それと同時に強力なカードには(ちが)いない。


要は、(あつか)い方によって、どうにでもなり()るのだ。


「………………(パニアおばさんも、その辺を()り込んで、(めい)のアタシを紹介(しょうかい)したんだろうねー)」


昨日、パニアの事をティハラザンバーは、それと分かる憧憬(しょうけい)の念を(もっ)て女幹部(かんぶ)賞賛(しょうさん)していた。


確かに、傭兵団(ようへいだん)などという戦闘を生業(なりわい)とする組織にあり、女の身ながら一つのクラスターを仕切っているという事実は、運を(ふく)めた実力しかものを言わぬ世界にあって生半可(なまはんか)台頭(たいとう)ではないだろう。


(おさな)い頃からパニアの武勇伝(ぶゆうでん)をよく聞かされていたベニアとしては、ティハラザンバーが(あこが)れる気持ちもよく分かる。


まぁ、チャムケア基準(きじゅん)(あこが)れなので誤解(ごかい)(はなは)だしいのだが、それはさておき。


どうせならば、自分も魔刃殿(まじんでん)中核(ちゅうかく)へと()()がり、(あこが)れのパニアと肩を並べるくらいになりたい気概(きがい)がベニアにはあるのだ。


そのためには、際立(きわだ)った(ちから)が必要になってくる。


(さいわ)い、ティハラザンバーとベニアの価値観には、通底(つうてい)するものがあると感じられた。


ならば、この幸運な(めぐ)り合わせに乗っからない手はない。


環境(かんきょう)戸惑(とまど)う様子のティハラザンバーには、何かにつけ世話を焼く感じで仲良くなっていき、同じクラスターの相棒(あいぼう)として定着さえしてしまえば良いのだ。


ベニアは、これから育成組(いくせいぐみ)でティハラザンバーと共に、上手(うま)くやるつもりであった。


ベニアが思案(しあん)していた(おのれ)の身の()り方とは、(うま)くその(ちから)を最大限に有効活用(ゆうこうかつよう)させてもらう、その方法である。



――――――――――――――――



「………………(それにしても、白獅子(しろじし)御大将(おんたいしょう)やパニアおばさんが期待をかけるだけあって、あいつ使えるよね…)」


「ベニア!ご飯を食べられる所ってドコ!?」


のこちゃんはトレーナーが消えない様にするため、しっかりご飯を食べたり、ちゃんと睡眠(すいみん)して意識的にエネルギーの回復を(はか)からなければならないと、()食堂(しょくどう)に当たる場所を探して(とう)の中を走り回っていたのだ。


そんな最中(さなか)、たまたま姿を見つけた、しかも色々(いろいろ)と親切に教えてくれたベニアに食堂(しょくどう)所在(しょざい)(ただ)すのは、自然な事である。


突然のティハラザンバー出現に、仰天(ぎょうてん)したベニアがその場で1メートルくらい飛び上がったのは言うまでもない。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵



(くだん)の爆発事件から数日が経過(けいか)した午後、7月の終盤(しゅうばん)にも係わらず、すでに真夏(まなつ)と言わんばかりの強い陽射(ひざ)しが街を容赦(ようしゃ)なく焼く。


日によってゲリラ豪雨(ごうう)などと呼ばれる雨天(うてん)も少なくないのだが、現在は、雲ひとつ無いくすんだ青空が広がっている。



そこは、都内を(いず)れかへ向かって走行している、高級リムジンのリアシートであった。


広い車内は、質の良い革張(かわば)りの内装(ないそう)(あわ)せ、シートもゆったりとした相応(そうおう)なソファーであり、スーツ姿の成人男性が複数人乗車していても窮屈(きゅうくつ)さの欠片(かけら)もない。


空調(エアコン)の効いた紫外線(しがいせん)と熱をカットするサイドウィンドウから光が(やわ)らかく()らすその快適(かいてき)な空間は、ひととき酷暑(こくしょ)を忘れさせ、さながら移動する応接室(おうせつしつ)といった所である。


その中に、私立スタープレーン学園初等部の夏期(かき)制服を着用した低学年と(おぼ)しき少女が、大人たちに()ざってちょこんと座っていた。


両方の(ひざ)に大きめの絆創膏(ばんそうこう)()られていて痛々(いたいた)しさがあるものの、肩までのびたクセのあるストロベリーブロンドの髪が窓から差し込む陽光(ようこう)反射(はんしゃ)して、その身に(まと)雰囲気(ふんいき)はキラキラと(はな)やいでいる。


抜ける様な白い肌と強い意志を宿す大きな(あお)()が印象的なその少女は、男性の一人から一冊(いっさつ)の手帳を小さな手で受け取ると、真剣(しんけん)なまなざしで見入り始めた。


「それが、現場で発見された生徒手帳です。

身分証(みぶんしょう)証明写真(しょうめいしゃしん)(うつ)る女子生徒は、お嬢様(じょうさま)(おっしゃ)っていた方で間違(まちが)いありませんか?」


剣持(けんもち)(とら)()…これがあのひとの………………はい、間違(まちが)いありません、この方でした」


それは、爆発事件の現場にて警察が押収(おうしゅう)していた、表面が()げてしまったのこちゃんの生徒手帳である。


「確かに、重症者(じゅうしょうしゃ)死亡者(しぼうしゃ)の中に、この方…剣持(けんもち)(とら)()さんはおられなかったのですね?」


「はい、当日作られた生存者(せいぞんしゃ)名簿(めいぼ)()せて、何度も確認した(むね)の報告を受けています」


「そう………………やはり、あの時、消えてしまったのかも知れませんね」


少女は、顔を上げ、手帳を(わた)してきたスーツの男性へと()(なお)る。


()()は、こちらでお(あず)かりしても?」


「ええ、その方はあの場に存在していませんでした。

ならば、押収(おうしゅう)されるはずもない物でしょう。

そちらのお役に立てるのなら、どうぞお(おさ)め下さい、お嬢様(じょうさま)


「ありがとうございます」


少女は、無垢(むく)の白いハンカチを取り出すと、のこちゃんの生徒手帳を大事そうに(くる)み、手元のポーチへしまった。


そして、その場の全員へ視線を一巡(いちじゅん)させた後おもむろに、しかし、表情を(かた)くして話し始める。


此度(こたび)のあの爆発は、恐らく(わたくし)個人(こじん)(ねら)った敵の仕業(しわざ)()んでおります。

皆様(みなさま)には、対策(たいさく)や後始末でこれからも斯様(かよう)なご迷惑をおかけするかも知れませんので、()ずお()びを…」


少女はぺこりと頭を下げる。


しかし、警察の関係者らしいその男性は、(あわ)ててそれを止めさせた。


「いけません、お嬢様(じょうさま)

敵が奸計(かんけい)をめぐらせ凶行(きょうこう)(およ)ぶのは、お嬢様(じょうさま)(われ)らの(かなめ)と理解しての事です。

ならば、(われ)らは全力(ぜんりょく)でお助けこそすれ、迷惑をかけるなどと気負われるそのお気遣(きづか)いこそが心外(しんがい)とお心得(こころえ)下さい」


他の男性たちも追随(ついずい)する。


「お嬢様(じょうさま)御神託(ごしんたく)()なければ、我々(われわれ)は敵の存在にも気づけず、(そな)える事もできなかったのですよ」


「それだけお嬢様(じょうさま)は、敵の脅威(きょうい)なのです。

どうか、気概(きがい)(もっ)て、我々(われわれ)にお(まか)せ下さい」


(まわ)りの男性たちから次々(つぎつぎ)と続く(はげ)ましの様な忠言(ちゅうげん)に、少女は(こま)った様に笑うと、もう一度ぺこりと頭を下げた。


「わかりました。

これからも皆様(みなさま)(ちから)をお()し下さい」


しっかりとした物言いの中に垣間見(かいまみ)える年齢(ねんれい)相応(そうおう)屈託(くったく)の無さが、スーツの男性たちには(まぶ)しかったらしい。


やや緊張感(きんちょうかん)が支配していたリアシートスペースの空気が、つかの間、ゆったりとした(やさ)しい空気に(つつ)まれる。


「しかしながら、この身に御神託(ごしんたく)()たとは言え、相手はこれまで(わたくし)たちの文化に(あら)れた事のない異界(いかい)の神です。

人の世界に侵入(しんにゅう)していた敵に警鐘(けいしょう)を鳴らしていただけたその事自体は、本当にその敵の存在を確認できた時点で有難(ありがた)かったのですが、それでも(いま)だ全面的に信用して良いものか分かりません………」


少女の言葉に、再び緊張感(きんちょうかん)がその場に(もど)される。


「ともあれ、(わたくし)たちの計画は順調(じゅんちょう)に実現しつつあります。

どうか皆様(みなさま)も、この()(およ)んでは、ご油断(ゆだん)されませぬ様にお願いいたします」


(りん)とした少女の下知(げじ)を受け、スーツの男性たちは、一斉(いっせい)(つつ)んで承諾(しょうだく)する意の姿勢(しせい)を取った。



それにしてもと、少女は、自分を救ってくれた剣持(けんもち)(とら)()が、この神託(しんたく)から始まった一連の状況(じょうきょう)に巻き込まれたのではないか?と(うたが)う気持ちを押さえられないでいた。


あの瞬間、少女の身を案じて笑ってくれた、あの人を犠牲(ぎせい)にしてしまったのではないかという恐れである。


間違(まちが)いなく、剣持(けんもち)(とら)()自身にとっても、あれは災禍(さいか)見舞(みま)われた恐ろしい瞬間だったはずである。


最初、少女には、彼女が何故(なぜ)笑っていたのか分からなかった。


しかし、どう思い出してみても、どう考えても、その手で爆炎(ばくえん)から救った自分の無事を知って安堵(あんど)していた様に感じるのだ。


少女は、現実でそんな人を見た事がなかった。


(おのれ)が最悪の状況(じょうきょう)の中で、たまたま目の前にいただけの他人を助け気遣(きづか)える、そんな(やさ)しい人を。


平時(へいじ)()いて、口では何とでも言えるだろうし、かくあるべきと日頃(ひごろ)から努力(どりょく)している人もいるだろう。


では、その瞬間が()()(おとず)れた時、実際に行動できるだろうか。


かく言う少女にも、そんな自信は無かった。


だからこそ、少女の(あお)(ひとみ)は、あの人の最後に見た笑顔を忘れる事ができない。


もしも人の(やさ)しさが強さならば、少女は、あの笑顔に(こた)えられるだけの強さを自分も持たなければならないと心に決めた。


現在、謎の敵に対する不退転(ふたいてん)の決意を(うなが)しているのは、あの時の情景(じょうけい)が大きく()めている。


そして、それは今後も変わらないであろうと確信できた。


しかし、だ。


もしこの事態(じたい)に神を名乗る超越者(ちょうえつしゃ)介在(かいざい)しているのならば、あの様な人は、まっ(さき)に救われるのではないかと強く思うのだ。


これまで遺体(いたい)が発見されていないのならば、もしかすると、あの人は何処(どこ)かで救われているのかも知れない。


しかし、その確証(かくしょう)は、何も無いのである。


最悪、神託(しんたく)すらこちらを利用するだけの目的であり、かの存在も敵の敵にすぎない可能性すらあり()ると少女は考慮(こうりょ)していた。


異界(いかい)の神リナリーシア…できる事ならば信じたいものですが」


その少女の小さな(つぶ)きが、(まわ)りの大人たちへ届く事はなかった。


次章へ続きます。

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