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わたしはチャムケア! -光の少女戦士伝説的なやつ希望-  作者: 虎竜王NV
第一章:のこちゃん、怪人になる
13/22

09 のこちゃんと異次元踏破傭兵団"魔刃殿"


のこちゃんがその目で見てきた限(かぎ)り、異次元(いじげん)踏破(とうは)傭兵団(ようへいだん)"魔刃殿(まじんでん)"の所在(しょざい)は、広大(こうだい)で荒涼(こうりょう)とした不毛(ふもう)の大地に隔絶(かくぜつ)されていた。


はからずもチャムケアの大ジャンプの様に高く飛び上がって全方位(ぜんほうい)を見渡したところ、彼方(かなた)に霞(かす)んでいる山まで、ほぼ緑や水辺(みずべ)が無いというガチの荒野(こうや)であったのだ。


妨(さまた)げる物は何も無く、乾(かわ)いた風の吹(ふ)き抜(ぬ)けてゆく空だけが果(は)てしなく広い、ただそれだけの荒れ地が延々(えんえん)と続いている。


魔刃殿(まじんでん)の施設(しせつ)は、中心に聳(そび)えている巨大な半球(はんきゅう)のオブジェ?を核(かく)とした建物群(ぐん)によって町の規模(きぼ)くらいあるのだが、文字通り陸(おか)の孤島(ことう)だった。



そんな場所への襲撃(しゅうげき)を考えると、少人数では辿(たど)り着くまで消耗(しょうもう)が激(はげ)しい上に、進入口(しんにゅうこう)が限られている事もあって侵入(しんにゅう)自体も難(むずか)しい。


例え入りこめた所で、前もってよほどの下調(したしら)べをしておかなければ、施設(しせつ)の何処(どこ)をどうするべきなのか途方(とほう)に暮(く)れる未来しかないだろう。


逆に軍隊などで取(と)り囲(かこ)む場合は、周(まわ)りに布陣(ふじん)するスペースが十分あるとは言え、八方が隠(かく)れる場所さえ無い丸見え状態なのである。


そもそも、大勢(おおぜい)でやって来るまでが地理的にも生命維持(せいめいいじ)的にも大変な上に、戦った後は、その来た道を再び帰らなくてはならないのだ。


戦いの素人(しろうと)であるのこちゃんでさえ、想像した時点でやらない方が良いと思える。


これほどの僻地(へきち)であればこそ、いったん飛び出してはみたものの、のこちゃんも魔刃殿(まじんでん)へ身を寄(よ)せるしかなかったのだ。


それにも係わらず、金属の甲冑(かっちゅう)で全身を固(かた)めた所謂(いわゆる)プレートアーマーの戦士からなる大部隊が、魔刃殿(まじんでん)を攻(せ)めるべく荒野(こうや)に展開していた。


よほどの自信があると見えて、陽光(ようこう)の下(もと)、堂々(どうどう)と土煙(つちけむり)を上げながらである。


数千の頭数(あたまかず)であろう、軍団にも匹敵しそうな部隊を構成する戦士たちは、大凡(おおよそ)が歩兵(ほへい)と何某(なにがし)かの生き物に騎乗(きじょう)する騎兵(きへい)を中心としていた。


その襲撃者(しゅうげきしゃ)たちが軍隊なのかどうかは不明なのだが、ハッキリと指揮系統(しきけいとう)が機能(きのう)していると見えて、その行動に規律性(きりつせい)が窺(うかが)える。


一方向からの厚(あつ)い集中攻撃を想定(そうてい)した陣形(じんけい)なのか、全体的にそれほど広がらない様にしながら、今まさに配置(はいち)を完成しつつあるらしい。


ひしめき合う鎧(よろい)が、陽(ひ)の光をキラキラと反射(はんしゃ)させて、荒野(こうや)を無機質(むきしつ)に躍動(やくどう)せしめている。



「よく、こんな所まで、あんな大人数(おおにんずう)でやってこれたよね…」


素直(すなお)に、全員での移動はさぞや苦労しただろうなと、変な感心をしてしまうのこちゃんである。


これから襲撃(しゅうげき)される場所にいるという、現実感が乏(とぼ)しいのだろう。


『ふむ、ならばそれでも尚(なお)、攻(せ)めるに値(あたい)する"うま味"が魔刃殿(ここ)にあるのであろうよ。

飛び出した後、再びこちらへ赴(おもむ)く前に、独自の補給手段(ほきゅうしゅだん)があると見て良いと、余(よ)が話した事を憶(おぼ)えているか?…のこ』


「ああ、魔刃殿(ここ)の中には結構(けっこう)な人数がいるみたいだし、何か秘密があるって事かって、あ!」


そう言えば、のこちゃんは、最初に狼(おおかみ)獣人(じゅうじん)の警備(けいび)担当(たんとう)勢(ぜい)から包囲(ほうい)された時、食事を用意してくれるみたいな話を聞いた事と、魔刃殿(まじんでん)へ来てからこちら何も飲み食いしていなかった事を思い出した。


「でも、あんまりお腹が減(へ)ってる気がしないんだよなぁ………」


不思議(ふしぎ)に思いながら、のこちゃんは、ティハラザンバーのお腹をさする。


『もしかすると、睡眠(すいみん)をとらずに活動可能な事と、同じ理由かも知れないな…のこ』


「え!?それって………」


「先ほどから一人で何をぶつぶつ言っておる、ティハラザンバーよ」


トレーナーとの話しに夢中になって、のこちゃんは、一緒(いっしょ)に襲撃者(しゅうげきしゃ)の部隊を見ていた老矛(ろうぼう)から訝(いぶか)しまれてしまった。



現在、のこちゃんは、これから戦場にならんとする荒野(こうや)を一望(いちぼう)できる場所に立っていた。


魔刃殿(まじんでん)の外側を仕切る建築物(けんちくぶつ)の境界(きょうかい)部分には、平たい壁面(へきめん)のビルっぽい物や捻(ねじ)れた塔(とう)など、施設(しせつ)の内側に林立(りんりつ)しているそれと似た物が隙間(すきま)無く敷(し)き詰(つ)められている。


さながら歪(いびつ)な城壁(じょうへき)の様相(ようそう)を呈(てい)するそこには、大凡(おおよそ)の城(しろ)や砦(とりで)の防護壁(ぼうごへき)がそうである様に、警戒(けいかい)・警備(けいび)・防衛(ぼうえい)を担(にな)うための側防塔(そくぼうとう)が並びに点在(てんざい)する。


側防塔(そくぼうとう)の部分には、もれなく外側を見渡(みわた)せる広い屋上が用意されていて、高い位置から地上の状況(じょうきょう)がよく把握(はあく)できるのだ。


老矛(ろうぼう)は、狼(おおかみ)系獣人(じゅうじん)のクラスターを率(ひき)いる立場に加えて、有望(ゆうぼう)な新人を予(あらかじ)め鍛(きた)えて戦力としての底上げをする試(こころ)み、通称(つうしょう)"育成組(いくせいぐみ)"の指導(しどう)を受け持つ教育者(きょういくしゃ)でもある。


敵の襲撃(しゅうげき)を報(しら)せに集合した警備(けいび)担当者(たんとうしゃ)たちへ指示(しじ)を出した後、これも育成組(いくせいぐみ)の見学であると称(しょう)する老矛(ろうぼう)によって、ティハラザンバーはここへ連れて来られたのだ。


もちろん、ジャガーの獣人(じゅうじん)ベニアや狼(おおかみ)獣人(じゅうじん)のセイランたちも、一緒(いっしょ)に連れられて来ていた。


屋上は、余裕(よゆう)でティハラザンバーが歩き回れるくらいのスペースがあるため、皆(みな)で登(のぼ)っても窮屈(きゅうくつ)にならない。


ひょっとすると、のこちゃんが通っていた中学校の屋上よりも広いのではないだろうか。



「その、いきなりの事で、色(・)々(・)と(・)驚(おどろ)いてしまって…つい」


老矛(ろうぼう)に不意を突かれた形ののこちゃんは、苦しいと分かりながらも、言い訳をひねり出した。


少なくとも、ティハラザンバーとして目覚(めざ)めてから驚(おどろ)きの連続だったと言えるので、嘘(うそ)では無い。


「…そうか」


それで納得(なっとく)したのか不明なものの、片眉(かたまゆ)を少し上げると、老矛(ろうぼう)は襲撃者(しゅうげきしゃ)たちに視線を戻(もど)す。


そもそもトレーナーの事は、他人(ひと)にどう説明したら良いのか、自分でもよく分からない。


とは言え、これからもトレーナーとのやり取りは必須(ひっす)なのだから、説明しないならしないなりの対策(たいさく)を考える必要があると肝(きも)を冷(ひ)やしたのこちゃんである。


「………………(気をつけよう)」


「やっぱり、戦いが始まりそうな空気って、そわそわするよね!」


ちょっとした挙動不審(きょどうふしん)な空気になっていたティハラザンバーを気遣(きづか)う様に、ベニアは、それを戦う気分が高揚(こうよう)していると解釈(かいしゃく)したらしく、分かる分かると相(あい)づちを打(う)つ。


今後の事を思えば、ティハラザンバーが好戦的な性格とされるのは、また絡(から)まれたりしそうなのであまり歓迎(かんげい)すべき状態ではない気がするものの、頑(かたく)なな態度も反感を買い易(やす)くて同じくらいに拙(まず)い。


「え?、あぁ…そうかな、そうだね」


のこちゃんは、日本的な曖昧(あいまい)さと、小学校時代に培(つちか)った遠ざけられつつも悪感情(ヘイト)を集めない様に過ごすノウハウを駆使(くし)して、無難(ぶなん)に応(こた)えた。


同級生のみならずその親たちにも対面する機会があったので、咄嗟(とっさ)にのらりくらりとした対処(たいしょ)をする事には、それなりに慣(な)れている。


何より、それで場が収(おさ)まるなら仕方がないのだ。


『余(よ)も注意しよう…のこ』


真面目(まじめ)なトレーナーに、のこちゃんは、少し笑ってしまった。



驚(おどろ)いたと言えば、襲撃者(しゅうげきしゃ)の大部隊が展開する中に、全身を長い体毛に覆(おお)われた恐らくアフリカゾウより巨大な生き物が散見(さんけん)される事である。


空にはまた、別の全身を長い体毛に覆(おお)われた生き物が、そこそこ大きな翼(つばさ)で風を切りながらかなりの数で群(むれ)を成(な)している。


甲冑(かっちゅう)姿の戦士たちも中身が人間なのかハッキリとよく分からないものの、のこちゃんには、それらがどんな生き物なのかまったく判断(はんだん)がつかない。


「それより、何か、陸のでっかいのと、飛んでるでっかいのが………」


としか言い様がなかった。


『ふむ、あれらの怪物は、戦いの決定力(けっていりょく)として飼(か)い慣(な)らされているのであろうよ…のこ』


トレーナーは怪物について知っていた様で、特に陸の方は露払(つゆはら)いとして敵の軍勢(ぐんぜい)に突撃(とつげき)させたり、城塞(じょうさい)の防壁(ぼうへき)を突破(とっぱ)するために使役(しえき)されると説明を続けた。


「怪物なんだ、アレ」


確かに、あんな巨体で突進(とっしん)して来られたら、並大抵(なみたいてい)の脅威(きょうい)ではないだろう。


飛んでいる怪物も併(あわ)せ、長い体毛が金属の様に硬(かた)くて、なかなか頑丈(がんじょう)なので勢(いきお)いがつくと厄介(やっかい)なのだとトレーナーは話しを締(し)めくくる。


気をつけて簡潔(かんけつ)に話す様にしているらしい事が、のこちゃんには分かった。


「ふん、攻城(こうじょう)の策(さく)まで用意して来ている様だな。

あれらで、空から運んだとみえる…ご苦労な事だ」


のこちゃんの呟(つぶや)きに反応したのか、老矛(ろうぼう)は、翼(つばさ)の怪物たちを一瞥(いちべつ)すると歯牙(しが)にもかけない様子で独(ひと)りごちる。


「飛んでるのは、こっち来そうでヤダな…」


よく考えると、青空天井(あおぞらてんじょう)で己(おのれ)の姿も外へ晒(さら)しているこの状況(じょうきょう)は、不安と言えば不安である。


特に昼日中(ひるひなか)となれば、ティハラザンバーの黄金の毛並みは目立つ気がしてならないので、怪物の目につくのではないかとついキョロキョロ空を見てしまう。


いくら身体(ハード)がティハラザンバーでも、基本の中身(ソフト)は、小市民的な中二女子であるのこちゃんなのだ。



「見て見てティハラザンバー、魔刃殿(こっち)の戦力も出てるよ!」


ベニアに促(うなが)されて視線を地上へ動かしたのこちゃんは、展開する襲撃者(しゅうげきしゃ)側の部隊とは比較(ひかく)にならないほどの小さな集団が、その正面に真(ま)っ向(こう)から対峙(たいじ)している姿を確認する。


瞬間(しゅんかん)、先ほど集まっていた警備(けいび)担当(たんとう)の狼(おおかみ)獣人(じゅうじん)たちを連想したのこちゃんであったが、よく見れば角(つの)があったり体格が厳(いか)つかったりと、魔刃殿(まじんでん)には他にもまだまだ色々な種族(しゅぞく)がいる事が分かった。


よく思い出してみれば、引き続き施設(しせつ)内部の警備(けいび)をしっかりするようにと、老矛(ろうぼう)は指示(しじ)を出していた気がする。


外へは、出ていないだろう。


「尖角兵団(せんかくへいだん)か…確かに、丁度(ちょうど)戻(もど)る頃合(ころあ)いであったな」


「ああ、尖角兵団(せんかくへいだん)っていうのは、ドラゴン系のクラスターでね、魔刃殿(ここ)でも特にマッチョな連中なんだよ!」


何やら老矛(ろうぼう)が呟(つぶや)く横で、ティハラザンバーの頭の上から"?マーク"が出ていたのを察(さっ)したのか、ベニアが補足(ほそく)してくれた。


ただ、強いのは良いのだけど、まったく冗談(じょうだん)が通じないツマラナイ奴ばかりなんだと、悪評(あくひょう)で偏(かたよ)っている気はしたのだが。


「………それにしても、少なくない?」


「あれだけではない、周(まわ)りをよく見てみろ」


セイランもいくつか視線を巡(めぐ)らせて、のこちゃんを促(うなが)す。


明るく見晴らしの良い荒野(こうや)である事も手伝ってか、ティハラザンバーの目を凝(こ)らせば、大凡(おおよそ)の存在はのこちゃんにも認識(にんしき)できた。


「本当だ」


確かに、言われてみれば尖角兵団(せんかくへいだん)の他にも、魔刃殿(まじんでん)の戦士と思(おぼ)しき数名が襲撃者(しゅうげきしゃ)の部隊を囲(かこ)む様に散開(さんかい)していた。


だからと言って数が少ないのは変わらず、当然と言うべきか、襲撃者(しゅうげきしゃ)側もそれらに対して反応(はんのう)していない。


粛々(しゅくしゅく)と部隊配置(はいち)を整(ととの)える様子からは、正面の尖角兵団(せんかくへいだん)を含(ふく)め、大勢(おおぜい)の圧倒的(あっとうてき)な攻撃で一気に飲み込んでしまうつもりなのだろう。


その意味でも、怪物の存在が有効なのかも知れないと、のこちゃんは腑(ふ)に落(お)ちた。



「………あれ?、あの白っぽいのは、じっさんかな」


のこちゃんは、散らばっている戦士の中に、ティハラザンバーやベニアが所属する猫系クラスターの頭をやっているらしい者の姿を発見した。


『ふむ、昨日見せられた力の道筋(みちすじ)と違(たが)わぬな…のこ』


トレーナーが肯定(こうてい)し、すぐ前へ出たがるのは白獅子(しろじし)の悪い癖(くせ)よなどと、老矛(ろうぼう)もぼやいているのでやはり本人なのだろう。


そう言えば、黒豹(くろひょう)獣人(じゅうじん)のパニアからも立場に対する自覚が足りない的な説教されていたなと、のこちゃんは思い出した。


パニアは、ベニアのおばさんであり、じっさんの代わりに猫系を取(と)り仕切(しき)っている女幹部(かんぶ)である。


ティハラザンバーのおしりを気にして、服をくれた良い人なのだ。


ちなみに、パニアが猫系を取(と)り仕切(しき)っていると言っていたのは、じっさん本人なのでそれも本当なのだろう。


それは、それとしてである。


「あれ………パニアさんに、また怒られるんじゃないかな?」


素朴(そぼく)に思った事をのこちゃんが呟(つぶや)くと、ベニアは、ただただ乾(かわ)いた笑いをこぼしていた。


どうやら、怒られるらしい。


『そら、あやつから仕掛(しか)けるようだぞ…のこ』


トレーナーがそう言うやいなや、じっさんの放(はな)っていた揺(ゆ)らめきの流れは一気にふくれあがり、奔流(ほんりゅう)となって前方へと向かう。


「あっ、昨日わたしがされたのと同じ感じだ…って、え?!」


確かに、間近(まぢか)で見せられたモノとじっさんから感じるモノは同じなのだが、どう見ても様子がおかしかった。


上から見ていて分かるのは、じっさんの揺(ゆ)らめきの流れが勢(いきお)いをつけた後、膨張(ぼうちょう)と異様(いよう)な伸(の)び方を示(しめ)した事だ。


あたかも山奥の渓流(けいりゅう)がやがて大河(たいが)へと変遷(へんせん)する様に、大きく長く、そしてそれは、殆(ほとん)どの陸の怪物へと一直線に至(いた)っている。


最初から、陸の怪物をその直線上に捉(とら)えるための位置取りをしていたに違(ちが)いない。


相変わらず襲撃者(しゅうげきしゃ)の部隊には何も動きがなかったものの、のこちゃんが体験したあの空気が変わる怖さを察知(さっち)したのだろう、怪物たちが一斉(いっせい)にそわそわと落ち着つかなくなった。


「じっさんは、陸の怪物(ヤツ)をひとまとめでぜんぶ狙(ねら)ってるんだ!…でも、どうやって?」


のこちゃんの言葉に隣(となり)で驚(おどろ)きの声を上げたベニアは、集中してじっさんの挙動(きょどう)を注目(ちゅうもく)している。


『どうやっても何も、余(よ)も恐らく昨日の太刀筋(たちすじ)と同じ様なものだと思うぞ…のこ』


同じ感じがするのであろう?と改(あらた)めて問われても、それは間違(まちが)いないにせよ、状況(じょうきょう)が違(ちが)いすぎて戸惑(とまど)うばかりである。


「あっ、じっさんが構(かま)えたよ、ティハラザンバー…」


ベニアに声をかけられるまでもなく、既視感(きしかん)のある両手持ちの大上段へ大剣を掲(かか)げたじっさんの姿を、一刀(いっとう)のための踏(ふ)み込(こ)みまでは、のこちゃんもハッキリと捉(とら)えていた。


しかし、ティハラザンバーの眼をもってしても、あっけなく見失(みうしな)った。


その刹那(せつな)、一筋(ひとすじ)の疾風(はやて)が、襲撃者(しゅうげきしゃ)部隊を通(とお)り抜(ぬ)ける。


一拍(いっぱく)の間(ま)の後で、すべての陸の怪物とその直線上に存在していた甲冑(かっちゅう)の戦士が、その身体を真(ま)っ二(ぷた)つにされて地へ崩(くず)れ落ちた。


それ以外は、攻撃の余波(よは)で周(まわ)りを吹き飛ばす訳でもなく、他の甲冑(かっちゅう)の戦士たちに何事も起こらないまま静かなものである。


空気の変化に気が付かなかった甲冑(かっちゅう)の戦士たちは、自分が斬られた事に、若しくは隣(となり)の僚友(りょうゆう)が一瞬(いっしゅん)にして絶命(ぜつめい)した事にも気がつかなかっただろう。


ただ、その直後、両断(りょうだん)された怪物と戦士たちの死体から血液がまき散らされる段になり、ようやく自分たちは攻撃されたのだという事に理解がおよぶ。


我(われ)に返った襲撃者(しゅうげきしゃ)たちの動揺(どうよう)がどんどんとエスカレートしてゆくさ中、のこちゃんが気がついた時には、元々立っていた場所から襲撃者(しゅうげきしゃ)部隊の反対側へとじっさんもすでに移動を終えていた。


文字通り、一瞬(いっしゅん)にして、一直線に斬り進んだらしい。


『ふむ、やはり昨日のものと同じ太刀筋(たちすじ)であったな…のこ』


それ見た事かと言わんばかりのトレーナーの陽気な口調に、つまり、あそこで双剣(そうけん)が出てこなければティハラザンバーも真(ま)っ二(ぷた)つだったに違(ちが)いないと、今更(いまさら)ながら、のこちゃんは背筋(せすじ)を凍(こお)らせる。


「………………………………」


「………………………………」


じっさんの凄(すさ)まじい剣技(けんぎ)にのこちゃんとベニアがあっけにとられて言葉を失っている中、老矛(ろうぼう)は、セイランに話しかけた。


「見たかセイラン?

白獅子(しろじし)のヤツは、いまだにムラッ気も多い戦いたがりの粗忽者(そこつもの)ではあるが、殊(こと)接近戦に至(いた)っては一つの到達点(とうたつてん)であろう。

今日見た事は、必(かなら)ずお前の良き教材になるはずだ」


「はい、老師(ろうし)。

白獅子(しろじし)の御大将(おんたいしょう)、恐ろしいお方です………」


そう言いつつも、セイランは、チラリとティハラザンバーの方を見た。



思わぬ戦いの幕開(まくあ)けに襲撃者(しゅうげきしゃ)たちの部隊が浮き足だった機を逃(のが)さず、正面の尖角兵団(せんかくへいだん)と他の魔刃殿(まじんでん)の戦士たちは、一斉(いっせい)に敵へと襲(おそ)いかかった。


じっさんの剣とは打って変わり、どの攻撃も力任(ちからまか)せで派手な威力(いりょく)の大技を使って、端(はし)から襲撃者(しゅうげきしゃ)たちを蹴散(けち)らしている。


のこちゃんがようやく心の平静(へいせい)を取り戻した頃には、どうやら指揮系統(しきけいとう)も乱(みだ)れていて襲撃者(しゅうげきしゃ)部隊が数の優勢(ゆうせい)を無かった事に、ともすれば劣勢(れっせい)にも見えるほどだった。


それでも、何とか状況(じょうきょう)を立て直しつつ持ちこたえているのは、このまま壊走(かいそう)しても荒野(こうや)でのたれ死ぬしかないと分かっているからだろう。


「高みの見物か?老矛(ろうぼう)」


眼下(がんか)の戦闘に気を取られていた所、背後(はいご)から急に声がしたので驚(おど)いたのこちゃんが振り向けば、そこには、ティハラザンバーよりも二回りほど大きな身体の者が立っていた。


それは、偉丈夫(いじょうぶ)を絵に描いた様な分厚い逆三角の上半身とドッシリとした下半身に、鈍色(にびいろ)の鱗(うろこ)を全身に鎧(よろ)う武者(むしゃ)の様である。


尖(とが)った顔には、真紅(しんく)の瞳が炯々(けいけい)としており、言葉を発する度に開閉する顎(あぎと)からミッシリと並んだ鋭(するど)い牙(きば)がのぞく。


頭部からは、のこちゃんがいつか写真で見た水牛(すいぎゅう)の様な豪快(ごうかい)で立派な角(つの)が、上に横にと八本くらい聳(そび)える。


その身に纏(まと)う丈(たけ)が長い陣羽織(じんばおり)の下からは、やはり鈍色(にびいろ)の鱗(うろこ)を鎧(よろ)った太いしっぽが飛び出していて、強く主張(しゅちょう)している。


それは、まさしく直立したドラゴンであった。


「後学のための見学だ、ベルクよ」


老矛(ろうぼう)は、振り返りもせず、ツマラン事をわざわざ訊(き)くなとばかりに背後の直立ドラゴンへ言い放(はな)つ。


「なるほど、育成組(いくせいぐみ)の一環(いっかん)であるか…」


そのまま、老矛(ろうぼう)と直立ドラゴンは何やら低い声で話し始めたが、ティハラザンバーの耳にもよく聞き取れなかった。


「あれが、尖角兵団(せんかくへいだん)の頭だよっ」


ティハラザンバーの顔に自分の顔を寄(よ)せてきたベニアが、また、小声で補足(ほそく)してくれる。


確かに、現物を目(ま)の当(あ)たりにすれば、事前のマッチョ評(ひょう)にも頷(うなず)けたのこちゃんである。


「顔、怖いね…」


「………そうだね」


のこちゃんも小声で応(おう)じたのだが、今のベニアの間は何だったのだろうと、ちょっと引っ掛かった。


ともあれ、老矛(ろうぼう)と話しに来たのであれば関わりを持たないに越(こ)した事はないと、のこちゃんは、再び地上の戦闘へ意識(いしき)を向ける。


『ふむ、こやつにも何(いず)れ挑(いど)んでみるのも良いと思うぞ…のこ』


トレーナーがまたしてもご無体(むたい)な事を言い出したので、のこちゃんは、乾(かわ)いた笑いで聞き流す。


ちなみに"ご無体(むたい)な"とは、きょう姉さんと一緒に見ていた時代劇で、悪者の偉(えら)い人が立場の弱い人へ理不尽(りふじん)な要求(ようきゅう)を突きつける際によく言われていたものである。


使い方は合っているはずと、のこちゃんは、余計(よけい)な事を考えて後の直立ドラゴンからできるだけ気をそらす。


あんな身体を真(ま)っ二(ぷた)つにされかねない危(あぶ)ない事は、じっさんだけでもう十分なので、自(みずか)ら望むなどもってのほかなのだ。


「其方(そち)が、ティハラザンバーであるな?」


それは、ティハラザンバーにしっぽがあれば、ビックリのあまり膨(ふく)らんで立っていた所であろう、その2だった。



さすがに無視する訳にもいかないので、はあ…と思わず出てしまった間の抜けた声と共に、のこちゃんは、直立ドラゴンの方へ渋々(しぶしぶ)向(む)き直(なお)った。


やはり顔が怖い。


ベニアが言う"魔刃殿(まじんでん)の一番のマッチョたち"を率(ひき)いる幹部(かんぶ)だけの事はあるのだろう。


大きな姿で、ティハラザンバーの身体をもってしても見上げる形のそれは、間近(まぢか)だからなのか威圧感(いあつかん)がとんでもない。


そんなのにまた突然(とつぜん)因縁(いんねん)をつけられて攻撃されたらヤダなと、のこちゃんは、どうしても悲しい気持ちになってしまう。


言うまでもなく、そうなれば命がけなのだ。


「ティハラザンバーよ、このベルクは、白獅子(しろじし)のヤツや我(われ)と同様に、いま戦っている尖角兵団(せんかくへいだん)を預(あず)かる者だ。

そうそう無意味に下の者へ手を出したりせぬから、お前もそんな顔をするな………まったく、白獅子(しろじし)のヤツは、下を育てる事に本当に向いておらぬな」


老矛(ろうぼう)は、ヤレヤレといった口調(くちょう)で、直立ドラゴンことベルクをのこちゃんに紹介(しょうかい)する。


「あ、はい………………」


「身共(みども)は、ベルクという。

遠征(えんせい)帰(がえ)り故(ゆえ)、白獅子(しろじし)が手ずから拾(ひろ)ってきたと噂(うわさ)に聞いた、其方(そち)の顔を見に来ただけである。

取って喰ったりせぬから、安心するが良い」


ベルクはそう言うと、ぐわっと身をかがめ、値踏(ねぶみ)みする様にティハラザンバーを頭からつま先にまで視線を這(は)わせ、思う所があるらしくフムフムと何やら頷(うなず)いている。


言われてみれば、老矛(ろうぼう)もそうであった様に理知的なスタンスで話しが通じそうではあるものの、目をそらしたら気が変わって攻撃されない保証(ほしょう)もない。


のこちゃんは、何かあればすぐ逃げられる様にベルクから注意をそらない事を努(つと)めつつも、より間近(まぢか)に見るベルクのドラゴン顔に戦慄(せんりつ)していた。


ティハラザンバーの頭部に比較すると、三倍以上の大きさがあるのだ。


気を抜(ぬ)けば折れそうなこの精神状態(せいしんじょうたい)では、『TUGって!チャムケア』の主人公ケアフリューゲルの様に心の中で自分を鼓舞(こぶ)し続けなければ、のこちゃんの胆力(たんりょく)が追いつかない。


ちなみに『TUGって!チャムケア』はシリーズ15作目の周年記念タイトルであり、ファンの間で結末に賛否両論(さんぴりょうろん)あるものの、いつも誰かを応援(おうえん)するために小さな体とすぐに折れてしまいそうな心を自(みずか)らの強い意志で鼓舞(こぶ)して戦い続けた主人公、ケアフリューゲルが根強(ねづよ)い人気を誇(ほこ)っている。


これまでも気弱になった時には、ケアフリューゲルの応援(おうえん)するフレーズを心の中で繰(く)り返(かえ)して、何とか持(も)ち直(なお)してきたのこちゃんなのだ。


「………………(ヤサカヤサカともだち!ヤサカヤサカ自分!ヤサカヤサカともだち…)」


ほどなくして、満足したのかベルクは姿勢(しせい)を戻(もど)す。


しかし、のこちゃんは少しホッとしたものの、油断大敵(ゆだんたいてき)とまだ警戒(けいかい)を緩(ゆる)めたりせず、じっとベルクの挙動(きょどう)を注意して見ていた。


ベルクはその様子に、目を細める。


「なるほど、それでティハラザンバーであろうかな…確かに力(ちから)は感じるな、面白い。

老矛(ろうぼう)よ、身共(みども)は構(かま)わぬ、其許(そこもと)の采配(さいはい)に委(ゆだ)ねよう」


ベルクはくふくふと楽しげに息を綻(ほころ)ばせながら老矛(ろうぼう)にそんな事を言ったかと思えば、ひょいと縁側(えんがわ)から庭へ出る様な気安さで、3~40メートルくらいありそうな側防塔(そくぼうとう)の屋上から戦闘中の地上へ飛び降りてしまった。


「えっ?!」


厳(いか)つい見かけによらず、足音も立てない身軽さの素早い行動であったため、意表を突かれたのこちゃんである。


しばらくして、地上からは低い地響(じひび)きが聞こえた。


「うわ、飛べたわけでもないのか………ビックリさせられっぱなしだったよ」


「ねー、マッチョでしょ?無駄(むだ)に頑丈(がんじょう)だから、やる事が何でも大雑把(おおざっぱ)なんだよ」


『ふむ、ティハラザンバーは、もっと高い所まで自力(じりき)で飛び上がった後、難(なん)なく着地していたではないか。

ここは、あれよりずいぶんと低い位置だぞ…のこ』


ベニアと一緒に下をのぞき込んでさすが幹部(かんぶ)怪人(かいじん)いやドラゴンと呆(あき)れていた所、トレーナーから軽くつっこまれてしまい、のこちゃんは、そう言えばそうだったと複雑な気持ちになった。


当然、改(あらた)めてティハラザンバーの脚力(きゃくりょく)をここで試(ため)すつもりは、毛頭(もうとう)ない。



「さて、ティハラザンバーよ、先ほどセイランとの手合わせで見せたア(・)レ(・)は、今ここでも使えるか?」


不意に話しかけてきた老矛(ろうぼう)の言葉に、のこちゃんは、へ?と再び間の抜けた声を出してしまった。


ア(・)レ(・)とは、やはり衝撃波(しょうげきは)の事であろう。


「あぁ…はい、出そうと思えば出せるとは思うんですけど………」


あの時、ケアアンティアのバトルスタイルをイメージして身体を動かす事に集中していたから、まさか衝撃波(しょうげきは)をこの手で発現(はつげん)させる事になるとは思わなかった。


しかし、トレーナーが言っていた"戦いに有利(ゆうり)となる能力(のうりょく)ならばあるに越した事はない"の理屈も分からざるを得(え)ないので、のこちゃんは、今後の練習次第(れんしゅうしだい)なのだが何とかする必要性も感じていた。


ただ、今すぐここでとなると、正直(しょうじき)言って自信は半々(はんはん)である。


ただ、感触(かんしょく)からすれば、何かしらチャムケアの技をイメージする事で形にできる気はするのだが。


「そうか」


ポツリとそう言うと、老矛(ろうぼう)は、手刀(しゅとう)の形にした手を空へ向けて伸(の)ばす。


その先には、地上の戦闘の流れ如何(いかん)によって攻撃にも参加しそうな様子を見せる、翼(つばさ)の怪物が群(むれ)を成(な)していた。


その数は、20を下らないだろう。


「月輪(がちりん)想拳(そうけん)、皆(みな)も見ておくが良い」


ティハラザンバーとベニアが注目し、セイランが姿勢(しせい)を正す中で、伸(の)ばされた老矛(ろうぼう)の手刀(しゅとう)の先が輝(かがや)き始める。


輝(かがや)く手刀(しゅとう)が軽く円を描(えん)けば、光の輪(わ)は老矛(ろうぼう)からするりと離(はな)れ、手近(てぢか)な翼(つばさ)の怪物へと向かって疾(はし)った。


そして、かわす間もなく二頭(にとう)の怪物が光の輪(わ)に焼き貫(つらぬ)かれ、バラバラにされた身体の部位を地上へとまき散らす。


淡々(たんたん)とした殺戮(さつりく)を残して光の輪(わ)は消えたのだが、怪物の群(む)れに、さし迫(せま)る脅威(きょうい)を識(し)らしめる結果となった。


翼(つばさ)の怪物たちの敵意が、側防塔(そくぼうとう)の屋上にいるティハラザンバーたちへと集中する。


群(むれ)全体が一斉(いっせい)に滑空(かっくう)を始め、勢いと狙(ねら)いをつけて、こちらへ殺到(さっとう)する気配を濃厚(のうこう)にしていた。


「ティハラザンバーよ、お前もア(・)レ(・)で、あの怪物どもを攻撃して見せよ」


「そんな、ご無体(むたい)な………」


思わず口に出してしまった、のこちゃんである。



「タイミングが悪かったのだ」


「え?」


「襲撃者(しゅうげきしゃ)はそれなりに現れるのだが、この様なそこそこの規模(きぼ)で部隊編成(ぶたいへんせい)を準備した、本格的な侵攻(しんこう)の形は滅多(めった)にないからな…」


老矛(ろうぼう)は、ティハラザンバーを正面から見据(みす)えて、お前が敵の内通者(ないつうしゃ)であると魔刃殿(まじんでん)内部で嫌疑(けんぎ)がかけられているとハッキリ伝えた。


一瞬(いっしゅん)、何を言われたのか理解できずにキョトンとしてから一拍(いっぱく)置いて、ティハラザンバーの目は丸くなり、口があんぐりと開かれる。


「ええええええっ?!?、いや、あたしは勝手に連れてこられて、でも、他に行ける所もないから、だから、それなりに覚悟もしてるのに、ええええええっ!?!」


もちろん根も葉もない濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)であるのだが、のこちゃんはそれを主張するあまり、動揺(どうよう)しすぎでかえって怪しい感じになってしまっていた。


『先(ま)ずは落ち着いて、こやつの話を聞くのだ…のこ』


「ああ、解(わか)っておる。

お前の馬鹿正直(ばかしょうじき)な戦い方を見れば、そんな腹芸(はらげい)のできる玉(たま)ではないとな…だが、実際にお前を見ておらぬ者どもは、そうもいかぬのだ」


新参者(しんざんもの)が未知の存在故(ゆえ)に避(さ)けられぬ負荷(ふか)があると、老矛(ろうぼう)は相変わらずヤレヤレとした口調(くちょう)で、ある意味ティハラザンバーの狂態(きょうたい)にも惑(まど)わされず言い聞かせた。


トレーナーの窘(たしな)めを併(あわ)せて、この老矛(ろうぼう)の淡々(たんたん)とした姿勢(しせい)により、こちゃんの気の動転(どうてん)にも多少のブレーキがかかる。


確かに、老矛(ろうぼう)は、教育者(きょういくしゃ)としての才覚(さいかく)が長(た)けているのかも知れない。


それにしても、信じてもらえて嬉(うれ)しい様な、貶(けな)されてムッとしている様な、どちらともつかない複雑な面持(おもも)ちで、のこちゃんはうーんと呻(うな)る。


『ふむ、なればこやつは、ティハラザンバー自身の手で敵勢(てきぜい)を攻撃して見せ、己(おのれ)の立場を衆目(しゅうもく)に知らしめよと言っている訳だな…のこ』


「ぐう………………」


追い詰められて文字通りぐうの音(ね)をこぼしているティハラザンバーから空へ視線を移し、老矛(ろうぼう)は話しを続けた。


「どうれ、怪物どもがそろそろ良い塩梅(あんばい)で集まって来る頃合(ころあ)いだな。

何も、完全に墜(お)として見せなくとも良い。

先ほど見せたア(・)レ(・)を、群(む)れた怪物の真(ま)ん中(なか)辺りへ派手(はで)に放(はな)てば、一応(いちおう)の体裁(ていさい)は整(ととの)うだろう」


そうなれば白獅子(しろじし)のヤツも我(われ)も先ほどのベルクもお前の後(うしろ)ろ盾(だて)になってやれると、老矛(ろうぼう)は、再度(さいど)ティハラザンバーに強く攻撃を促(うなが)す。


さすがにここまでお膳立(ぜんだ)てをされてしまえば、やらない選択肢は無い状況(じょうきょう)だとのこちゃんにも分かる。


のこちゃんは、不安でいっぱいになりながら、翼(つばさ)の怪物たちを見据(みす)えた。


あれから一気に怪物たちが殺到(さっとう)してこないのは、老矛(ろうぼう)の放(はな)った光の輪(わ)を警戒しているのだろう。


『怪物(あれら)は、使役(しえき)されれば使う者の思惑(おもわく)通りに人へ害を成(な)すが、野に放(はな)たれれば無差別(むさべつ)に人へ害を成(な)す類(たぐい)のものだ。

遠慮(えんりょ)せずに、あらぬ疑(うたが)いを晴(は)らせ…のこ』


トレーナーも、のこちゃんの気持ちを軽くするために、気を遣(つか)っている様だ。


こうなったら、恐らく怪物をビックリさせれば逃げたり落ちたりしてくれるかも知れないし、ダメならダメだったで何とかしてもらえるだろうとのこちゃんは腹をくくった。


「………出せれば良いんだけど…こんな状況(じょうきょう)は初めてだから、本当に知りませんよ?」


経験そのものがないと念を押したつもりののこちゃんなのだが、当の老矛(ろうぼう)は、分かった分かったと頷(うなず)くのみである。


「外しても牽制(けんせい)になるから、その代わりに、全力(ぜんりょく)で放(はな)て」


実の所、ティハラザンバーが田舎(いなか)から出てきたばかりで、大がかりな戦いに経験がないので戸惑(とまど)っているくらいにしか、老矛(ろうぼう)は思っていない。


本当に分かっているのかなぁとぼやくティハラザンバーの背(せ)に、今度は、ベニアとセイランが手を添(そ)えた。


「こっちもドキドキしてきたよ!」


「期待している」


「………善処(ぜんしょ)します」


文字通り、二人に背中を押されたこのシチュエーションは、なかなかチャムケアっぽいぞと少しだけテンションが上がるのこちゃんだった。



やはり、イメージしやすいのは必殺技である。


しかも、威力(いりょく)が凄(すご)そうな勢(いきお)いと派手(はで)さを重視するとなれば、初代チャムケアを思い出さざるを得(え)ない。


黒を基調(きちょう)としたケアナイトと白を基調(きちょう)としたケアライトの二人による記念すべきシリーズ最初の合体攻撃であり、二作目『チャムケア!Marvelous(マーベラス)Howl(・ハウル)』のそれは、放送二年目のパワーアップ版もである。


すでに、のこちゃんの脳内では、ファンからも親愛を込めて断罪(だんざい)の鐘(かね)やら処刑(しょけい)のファンファーレなどと呼ばれる必殺技のBGMが鳴り響いていた。


「あの…」


「何だ?」


「イメージを固(かた)めたいだけで、これから言う事には特に意味がないので、あまり気にしないでください」


老矛(ろうぼう)の方へティハラザンバーの首だけを向けて、のこちゃんは、少し恥(はず)ずかしそうに告(つ)げた。


「方術(ほうじゅつ)の詠唱(えいしょう)の様なものか?構わん、続けよ」


のこちゃんは頷(うなず)くと改(あらた)めて翼(つばさ)の怪物たちへ向き直り、ティハラザンバーの右手を開き思い切り前へ突き出して「ナイトゲイザー!」、同様に左手を天へと突き出し「ライトゲイザー!」と叫(さけ)んだ。


これは言うまでもなく、初代チャムケアの二人による必殺技の前段階に当たる仕草(しぐさ)であり、もう後に退(ひ)けないという、のこちゃんが覚悟(かくご)を宣言(せんげん)したものである。


大勢(おおぜい)の友だちを前にして、自信のないカラオケを歌う時に、いきなり絶叫(ぜっきょう)してしまうアレと似(に)た様なものだろう。


かくして、のこちゃんの明確なイメージに、身体(ティハラザンバー)は再び応(こた)えた。


その両手には、軽く周(まわ)りの空気を巻き込む様なうねりがまとわりつき始め、衝撃波(しょうげきは)の予兆(よちょう)が顕(あらわ)れる。


これは行けそうだぞと踏(ふ)んだのこちゃんは、呪文(じゅもん)の様に必殺技の口上(こうじょう)を情感(じょうかん)込めて、更(さら)にイメージを固(かた)めてゆく。


「チャムケアの気高(けだか)き魂(たましい)が!悪辣(あくらつ)な性根(しょうね)を粉砕(ふんさい)する!」


のこちゃんが調子に乗ってきたせいか、ティハラザンバーの全身からも発せられた衝撃波(しょうげきは)の予兆(よちょう)が両腕へと集中して行き、収束(しゅうそく)を見せ始めた。


両腕の周(まわ)りの空気が渦(うず)を巻き、それは、次第(しだい)に唸(うな)りを響(ひび)かせながら速度を増(ま)す。


刻々(こくこく)と変化を見せるティハラザンバーの様子を、周(まわ)りの三人も固唾(かたず)をのんで見守っている。


「チャムケア・グレイ・ストリーム!…」


ここにきてのこちゃんは、どうせなら翼(つばさ)の怪物たち全体に影響(えいきょう)させたいなぁと思い始めた。


老矛(ろうぼう)は外しても牽制(けんせい)になると言っていたものの、影響(えいきょう)が無かった怪物から襲(おそ)われてしまう可能性に気が付いたからだ。


しかし、攻撃が分散(ぶんさん)してしまったら、それはせっかく固(かた)めた必殺技のイメージと異(こと)なってしまう。


どうしたものかと悩(なや)みながら、のこちゃんは、ティハラザンバーの腕を伸(の)ばしたまま両手の平を前でガッチリと組み合わせ様とする。


その手の組み合わせがこの必殺技のミソなのだが、高速回転する空気の収束(しゅうそく)が原因なのか、強い抵抗(ていこう)が生(しょう)じてなかなか組み合わせられなかった。


「?!?!?!?!」


ここで止めたら、さすがに恥(は)ずかしすぎる。


目に見えて、のこちゃんは焦(あせ)り始めた。


そんなティハラザンバーの動きを察知(さっち)してなのか、或(ある)いは最大の脅威(きょうい)と見定(みさだ)めてなのか、怪物の群(む)れが遂(つい)に攻撃の態勢(たいせい)へ入る。


「…早くせよ」


「っくっ」


老矛(ろうぼう)にせっつかれて、慌(あわ)てたのこちゃんは、力任(ちからまか)せに両手の平をガッチリと組み合わせた。


ぎゅう…と組み合う手、これなのだ。


刹那(せつな)、両腕に収束(しゅうそく)していた高速回転する空気が一つの巨大な渦(うず)となりのこちゃんの視界を覆(おお)い尽(つ)くすと、衝撃波(しょうげきは)を放(はな)つ準備が整(ととの)った事を知らせる。


おっと、その前にこれを忘れてはいけないと、のこちゃんは、組んでいた両手を一旦(いったん)解(と)いて、同時に引いた両腕へ力(ちから)を込め、力(ちから)こぶを作る形にしてから再び前へ向かって突き出し手を開いた。


「マーベラスー!!」


一度整(ととの)った巨大な渦(うず)は、のこちゃんが訳の分からない動きをしても律儀(りちぎ)にその場にとどまっており、改(あらた)めて撃ち出す意志を受けるやいなや爆発的な反応を示(しめ)した。


大きく膨(ふく)らんだと思えば、しかし分散(ぶんさん)せずに、前方へのベクトルを維持(いじ)したまま極太(ごくぶと)に収束(しゅうそく)された衝撃波(しょうげきは)として一気に解放(かいほう)されたのだ。


トレーナーや老矛(ろうぼう)から言われた通りに、のこちゃんは全力(ぜんりょく)で撃ち出すイメージを紡(つむ)ぎ、ティハラザンバーから衝撃波(しょうげきは)を放(はな)った結果である。


巨大な渦(うず)から変化した衝撃波(しょうげきは)は、疾風怒濤(しっぷうどとう)の勢(いきお)いで、翼(つばさ)の怪物たちの群(む)れをまっすぐに撃ち抜(ぬ)いた。


周囲(しゅうい)の空気を巻(ま)き込(こ)んで大きく穿(うが)つそれは、さながら戦場の空が引(ひ)き裂(さ)かれた様な、圧倒的(あっとうてき)な光景だった。


やがて、衝撃(しょうげき)の奔流(ほんりゅう)が収(おさ)まれば、巨大な渦(うず)に塞(ふさ)がれていたのこちゃんの視界も晴れてゆく。


轟々(ごうごう)と、衝撃波(しょうげきは)の通りすぎた空間は文字通り一掃(いっそう)され、怪物の群(む)れは肉片(にくへん)ひとつ残さずに消滅(しょうめつ)してしまっていた。


「………………………………あれ?」


そこには、両手を前へ突き出す形で衆目(しゅうもく)に晒(さら)されている、ポカンとしたティハラザンバーの姿があった。


続きます。

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