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わたしはチャムケア! -光の少女戦士伝説的なやつ希望-  作者: 虎竜王NV
第一章:のこちゃん、怪人になる
12/21

08 のこちゃんのチャムケア・アクション


全体の印象としては、公立中学校の体育館(たいいくかん)くらいだろうか。


高い天井(てんじょう)と大きな(かべ)だけの殺風景(さっぷうけい)な広い部屋。


仕方なくのこちゃんが所属してしまった異次元(いじげん)踏破(とうは)傭兵団(ようへいだん)"魔刃殿(まじんでん)"の施設(しせつ)には、あちらこちらにこういった訓練(くんれん)に使えそうなスペースが点在(てんざい)しているらしい。


現在そのひとつでは、のこちゃんことティハラザンバーと、セイランとの素手どうしによる立ち合いが続いていた。


セイランは、光沢のある灰色の毛並みがしっぽまでピカピカモフモフな、(おおかみ)獣人(じゅうじん)の若い女性だ。


それを仕切るのは、(つや)のある(うす)い水色の毛並みが印象的な、(おおかみ)獣人(じゅうじん)クラスター破壊牙々(はかいがが)(ひき)いる老矛(ろうぼう)である。


のこちゃんを案内してきたジャガーの獣人(じゅうじん)ベニアも、立ち合いの様子を真剣なまなざしで見守っている。



ティハラザンバーへ次々(つぎつぎ)と攻撃を()()すセイランの姿は、ひとことで言えばコマであった。


身体に(たて)(しん)でも通っているかの様な安定した回転を右へ左へ、時に真正面(ましょうめん)から、時に意表(いひょう)()いた角度からと、その動きには、清流(せいりゅう)(ごと)一切(いっさい)(よど)みが無い。


息切(いきぎ)れの気配(けはい)も見せず、緩急(かんきゅう)をつけて自由自在(じゆうじざい)()びて来るその手足には、一々(いちいち)必殺の威力(いりょく)(ともな)っているのだ。


今もまた、セイランが右腕に()められた(ちから)()(はな)つ様に(こぶし)()()けば、ギリギリ(かわ)したティハラザンバーの黄金の毛並みをざわめかせる。


間髪(かんはつ)()れずにセイランは、その右(こぶし)()()いた(いきお)いを生かして、右足を()み込ませティハラザンバーの足を()()かんと(するど)(ねら)った。


「!?!」


咄嗟(とっさ)に、足を引いたティハラザンバーの動きを予測(よそく)していたのか、セイランは切り込ませた右足を(ゆか)(じく)へと切り替え、空気を()()く様な左の後ろ(まわ)()りで低空からティハラザンバーの脇腹(わきばら)()ぐ。


急激(きゅうげき)な回転の加速に、それを(ささ)えるセイランの軸足(じくあし)(せっ)する(ゆか)では、(えぐ)る様な擦過音(さっかおん)(ひび)く。


セイランの()りがティハラザンバーの白銀(しろがね)(よろい)部分に(かす)って火花を散らせると、同時にティハラザンバーは、攻撃にはね飛ばされたかと見紛(みまご)うほどの(いきお)いで(みずか)ら飛び退()いた。


とりあえずは、セイランが攻撃を()()挙動(きょどう)範囲(はんい)から、一時的に(のが)れた格好(かっこう)である。


もっとも、みすみすそれを(ゆる)すセイランではなく、間を置かずに追撃(ついげき)が行われる。


「……ティハラザンバーよ、お前も少しは手を出して見せぬか」


老矛(ろうぼう)は、少し(あき)れた口調(くちょう)で、ティハラザンバーにセイランへの攻撃を指示(しじ)する。


戦いにおける素養(そよう)見極(みきわ)めるためとして行われているこの立ち合いでは、のこちゃんが格闘技の素人(しろうと)である事から、セイランの一方的な攻撃をティハラザンバーの身体能力で何とかしのぐという形に終始(しゅうし)していた。


確かに、ティハラザンバーの戦闘センスを見極(みきわめ)る意味で、これでは今ひとつな状況(じょうきょう)なのだろう。


なのだろうが…


「!(無理)、!!(無理無理)、!!!(無理無理無理)、!!!!(無理無理無理無理………………)」


口に出す余裕(よゆう)がないだけで、セイランの(たた)みかける猛攻(もうこう)の前では、ただただテンパるしかないのこちゃんである。


のこちゃんに出来る事と言えば、セイランの(はな)()らめきの流れを、ティハラザンバーの運動神経を駆使(くし)して必死に()けるだけだった。


とにかくよく見て、何が何でも()けるしかない。


()けるったら()けるのである。


どうしても()けられない場合は、白銀(しろがね)(よろい)部分の頑丈(がんじょう)さを(たよ)って受けたり(はじ)いたりと応急的(おうきゅうてき)対応(たいおう)で、のこちゃんもまた(ちが)う意味のフル回転中であった。


もはや、心情(しんじょう)だけならば、這々(ほうほう)(てい)なのだ。



『ふむ、それにしては、よく攻撃を(さば)けていると思うぞ…のこ』


この状態では、トレーナーの(ささ)やかな気遣(きづか)いも(むな)しい。


「うう、生きてさえいれば、いつか良いことがあるさって意味ですね…」


『いや、気休めを言っているのではないよ。

ここまで対処(たいしょ)できているのは、相手の動きが見えているからに他ならないのだから、同様に光明(こうみょう)も見えてこようという意味だ…のこ』


「見えているって言うか、トレーナーさんに教わったアレを必死に()けてるだけなんですけどっ」


小さな声で抗議(こうぎ)するのこちゃんに、それならばとトレーナーが話しを続ける。


『力の道筋(みちすじ)を流れとして(とら)える事には、()れたのであろう?

あとは、相手の実際の動きと合わせて見られるのであれば、(おの)ずとこちらから()()拍子(ひょうし)も分かってこよう。

そら、(たと)えば今だ…のこ』


確かに言われてみれば、間断(かんだん)なく(はな)たれている様なセイランの()らめきの流れにも、一瞬(いっしゅん)ぷつりと途切(とぎ)れる時があるなぁとのこちゃんは思い当たる。


そしてその直後には、(かなら)ず強い()らめきの流れと共に、いくらこの身体(ティハラザンバー)でも直撃したらヤバイと直感させられる攻撃が(おそ)ろしい速度で…


「来た!うぉっとぉ」


もう必殺の威力(いりょく)は当たり前となっていて、それを超えてくる攻撃となると、ティハラザンバーでも()けられるかどうかスレスレの精一杯(せいいっぱい)なのだ。


しかしトレーナーの言う通りだとすれば、これまでは一方的に()められていたとあって、ちょっと試したくなるのも人情(にんじょう)である。


たった今、下からすり上げる様にそのヤバイ()り技を(はな)ったばかりのセイランは、連続して同様の強い攻撃を出すつもりなのだろう。


再び、()らめきの流れを一瞬(いっしゅん)途切(とぎ)れさせながら、ティハラザンバーに無防備(むぼうび)な背中を(さら)す形になっていた。


「!」


しかも、接近(せっきん)戦の最中とあって、そこには余裕(よゆう)で手が届くのだ。


「えいっ」


のこちゃんは、少し(ちから)()めて、そのセイランの背中を平手でトンと()いてみた。


「ふはっ?!」


『ふむ、()()()()()だ…のこ』


セイランは、ティハラザンバーの不意の反撃に(おどろ)いたのか、攻撃の予備動作中にバランスを(くず)されて、変な声と共にその場でたたらを()んだ。


「ほう、セイランの悪い(くせ)見破(みやぶ)っておったか」


「へー、やるなぁ…」


老矛(ろうぼう)とベニアが感心の声を上げる。



強い攻撃を()()すその手前で、力を()める事を優先するあまり、無意識(むいしき)に身体の動きがほんの一瞬(いっしゅん)止まってしまう。


それが、老矛(ろうぼう)の言うセイランの悪い(くせ)だった。


幾度(いくど)となく()老矛(ろうぼう)から注意され、自分でもどうにか克服(こくふく)しようとしている最中のセイランなのだが、初対面(しょたいめん)のティハラザンバーに容易(たやす)くそこを()かれてしまっては、まるで面目(めんもく)が立たない。


しかも、得意(とくい)とする格闘戦の土俵(どひょう)(じょう)でとなれば、尚更(なおさら)である。


おっとっと…と、二三歩(にさんぽ)(くず)した体勢(たいせい)から無理矢理(むりやり)に持ち(なお)したセイランは、(くや)しげにしつつも改めてティハラザンバーへ向かい(かま)えた。


どうやら、かいてしまった(はじ)は、その場で雪辱(せつじょく)()たしてしまうタイプなのだろう。


セイランの(ひとみ)が、らんと光を(はっ)する。


『ふむ、今のであやつは、本気になった様だぞ…のこ?』


「えっ、ちょっとさわっただけじゃないですか!?」


トレーナーの指摘(してき)を確かめてみれば、セイランは、その身から(はっ)する()らめきの流れの密度(みつど)を変えていた。


なるほど、()()()は、いずれもこれまでより力強(ちからづよ)くて(はげ)しい。


「ええぇぇ………」


ここまでセイランの方が圧倒的(あっとうてき)手数(てかず)であったし、白銀(しろがね)(よろい)部分とは言え何発も当てられているのだから、少しやり返したくらいで本気になられては理不尽(りふじん)な話である。


老矛(ろうぼう)も、セイランに対しては、ティハラザンバーの(ちから)を引き出せと言っていた。


しかし、その者の逆鱗(げきりん)()れたり地雷(じらい)()む行動は、あらかじめ内容を知る(よし)もなければ不可抗力(ふかこうりょく)で、そもそもが理不尽(りふじん)以外の何者でもない。


所謂(いわゆる)(おこ)られ(ぞん)というヤツである。


こういう場合は、やらかした方が不運だったと、(あきら)めるのが()(ことわり)なのだ。


『昨日の白獅子(しろじし)何某(なにがし)に比べれば、可愛(かわい)いものであろうよ。

先ほども言った様に、(みずか)らの身体をどう動かすのか、イメージを(つか)むのだ。

こちらからも(せめ)るとなれば、相手は対応(たいおう)余儀(よぎ)なくされて、力の道筋(みちすじ)()(よう)もまた変わってこよう…のこ』


この身体は(かなら)ずイメージに(こた)えてくれるであろうと、トレーナーが事も無げに言う。


こんな窮々(きゅうきゅう)とさせられた状態で、格闘技の経験(けいけん)が無いのにイメージなんてどう(つか)めば良いのか…と再びテンパりかけたのこちゃんは、ふと思いついた。


「格闘技じゃないけど…」



セイランは、ひゅっと呼気(こき)(はっ)すると同時に、(はじ)け飛ぶ様にティハラザンバーへ(せま)る。


それと同時に、殺到(さっとう)してくる明らかに()け切れない()らめきの流れの数々(かずかず)を、のこちゃんは見た。


接近(せっきん)戦ともなれば、大凡(おおよそ)の場合、大柄(おおがら)なティハラザンバーの身体は、大きな脅威(きょうい)を相手へ(あた)えうる。


ただ、セイランもさほど負けていない上背(うわぜい)があり、師匠(ししょう)老矛(ろうぼう)によって(きた)えられた技を(もっ)てすれば、その大柄(おおがら)さは、むしろ攻撃を当て(やす)格好(かっこう)標的(ひょうてき)と言えた。


手加減(てかげん)(かせ)(はず)したならば、その精度(せいど)()ね上がり、まず攻撃を(はず)す事は無いだろう。


何より、セイランにしてみれば、()の前で醜態(しゅうたい)(さら)したまま終わらせて良いはずが無い。


セイランは、現在()()る最高の自分を(もっ)てティハラザンバーに当たるつもりだった。


「悪いがなっ…」


身体を上下させず高速でスライドする様に()けているセイランは、その(いきお)いを殺さぬまま、低空の宙返(ちゅうがえ)りをする。


宙返(ちゅうがえ)りからは、すかさず、つま先を(とが)らせた足が()びた。


突進(とっしん)伸身(しんしん)(いきお)いを合わせる、渾身(こんしん)前蹴(まえげ)りである。


この場合は、相手の意表(いひょう)を突く意図(いと)があるにせよ、目標とするティハラザンバーに攻撃範囲(はんい)が広く取れる分、思い切り打ち出せる点が大きい。


その挙動(きょどう)をじっと見ていた老矛(ろうぼう)は、わずかに(まゆ)()せる。


しかし、その瞬間(しゅんかん)、ティハラザンバーの姿がセイランの眼前(がんぜん)からかき消えた。


「何っ?!」


(くう)を切った前蹴(まえげ)りから(なん)なくその場に着地したセイランは、ざっと(まわ)りを探しても見つからないティハラザンバーの行方(ゆくえ)を、消去法(しょうきょほう)宙空(ちゅうくう)へ求める。


確かに、セイランの上にティハラザンバーは、いた。


それはまるで、天井(てんじょう)()り付いた様な姿であった。


「できた!」


のこちゃんは、何度か体験した跳躍力(ちょうやくりょく)があれば、ジャンプで一気に天井(てんじょう)へ飛びつく様なマネが可能な気がしたのだ。


そのためには、どんな体勢(たいせい)からでも足で着地できる、ティハラザンバーの姿勢(しせい)制御(せいぎょ)の身体能力があればこそである。


そしてこれは、待避(たいひ)だけのために起こした行動ではない。


ぶっちゃけると、本当に天井(てんじょう)()り付ける訳ではないので、そのまま落っこちてしまう前にまたそこから飛び出す必要がある。


だったら、その(いきお)いを使ってセイランへ反撃しようという寸法(すんぽう)なのだ。


イメージしたのは、初代チャムケアがOP映像で見せた、敵に宙高(ちゅうたか)くふき飛ばされた様な状況(じょうきょう)から、高層建築(こうそうけんちく)(おぼ)しき建物の側面(そくめん)一瞬(いっしゅん)着地をして反撃の体勢(たいせい)(ととの)える仕草(しぐさ)である。


それはその後も、劇中で何度も使用されたり、別のシリーズタイトルでもオマージュされたりと、チャムケアの歴史の中でもなかなか印象的なアクションなのだ。


のこちゃんは、天井(てんじょう)へ着地する時にジャンプの(いきお)いを吸収(きゅうしゅう)させる様たわめた、ティハラザンバーの(あし)と全身の筋肉を再びハネさせた。


ただ、いくら広いとは言え体育館(たいいくかん)(ゆか)天井(てんじょう)ていどの距離(きょり)なので、ここから急遽(きゅうきょ)やれる攻撃方法はキックくらいしかないだろう。


「そう言えば、キックなんてした事ないな…」


などと思いつつ、のこちゃんは空中(くうちゅう)姿勢(しせい)を変えて、とりあえずセイランにティハラザンバーの足を向ける。


「やあぁ!」


形だけのキックとは言え、なかなかの(いきお)いなので、当たればかなりのダメージになるだろう。


しかし、セイランは、それを()けるでもなく迎撃(げいげき)へと打って出た。


瞬時(しゅんじ)に身体を(ちぢ)めて(ちから)()めると、全身を使って、その(ちから)を一気に()(はな)つ。


今日、セイランが見せた中でも最高で最強の上段(じょうだん)横蹴(よこげ)りである。


(はっ)!!」


ティハラザンバーのキックとセイランの()りが、真正面(ましょうめん)から激突(げきとつ)した。


その衝撃(しょうげき)は、ブーツ状の白銀(しろがね)(よろい)部分で大きな金属音を(ひび)かせ、部屋の空気を振動(しんどう)させる。


(いきお)いまかせでほとんど攻撃の(てい)を成していないのこちゃんと(ちが)い、セイランは、最大のインパクトを(たた)き出す的確(てきかく)な瞬間をその技に合わせ、後手(ごて)に回った不利(ふり)相殺(そうさい)させた。


拮抗(きっこう)して、行き場を失った二人分の攻撃エネルギーが、両者を別々(べつべつ)の方向へと大きくはじき飛ばす。


それでも、相変わらず何とか足から着地を成功させるティハラザンバーと、姿勢(しせい)良く音もなく着地するセイランの双方(そうほう)にダメージの様子は見られない。


間髪入(かんはつい)れず、セイランは、次の攻撃を仕掛(しかけ)けるべく地を()った。


(あわ)てて、のこちゃんも(いきお)いよくティハラザンバーを走らせる。



(みずか)ら相手の真正面(ましょうめん)へ向かうとは、何か考えがあるのか…のこ?』


「う~ん、まぁ…」


一つできたなら、もう少し試したくなるのもまた人情(にんじょう)である。


チャムケアシリーズと言えば肉弾戦(にくだんせん)代名詞(だいめいし)であり、中でものこちゃんが印象的だったのは、やはり『Joy!フロイラインチャムケア』のケアアンティアだろう。


『Joy!フロイラインチャムケア』は、おしとやかなご令嬢(れいじょう)(はな)やかな世界をモチーフとしたタイトルで、主人公が変身するケアアンティアも花のチャムケアという可愛(かわい)らしさなのだが、ギャップ(ねら)いなのか、最初から最後まで全身全霊(ぜんしんぜんれい)(たた)きつける様な壮絶(そうぜつ)バトルを()(ひろ)げる作風なのである。


特に、序盤(じょばん)撃退(げきたい)した敵の幹部(かんぶ)がパワーアップを果たし、逆襲(ぎゃくしゅう)のために仕掛(しか)けられた作戦で心を()られそうになったアンティアが、(あや)うい状態からほぼ自力で復活するくだりには涙しつつも興奮(こうふん)させられたファンも多い。


その際、挿入歌(そうにゅうか)として使用された「フロイラインの情熱(じょうねつ)」は、主人公の体が部分的に少しずつケアアンティアに変身してゆく事で、立ち直る経過(けいか)象徴(しょうちょう)させるという演出と相俟(あいま)って、(あつ)い反撃のアクションを(いろど)った珠玉(しゅぎょく)の名曲と言わざるを()ないのこちゃんである。


当然(とうぜん)、きょう姉さんからお下がりのMyPhone(マイフォン)には、高音質で入れてあった。


そんなケアアンティアが初めて変身した時に見せた超低空(ていくう)の突撃とそれに続く転がる様な怪物との(はげ)しい戦闘描写(びょうしゃ)では、主人公の健気(けなげ)さを応援する気持ちも手伝って、あっという間に作品世界へ意識を没入(ぼつにゅう)させられた記憶がのこちゃんの中で鮮明(せんめい)(よみがえ)る。


「これだ!」


のこちゃんは、走りながら思い切り足を()()らせて、地面スレスレを水平にティハラザンバーを跳躍(ちょうやく)させた。


ケアアンティアよろしく、ティハラザンバーの低空(ていくう)突撃で、セイランとの距離は一気に(ちぢ)む。


「なっ…」


またしても不意を突かれた形のセイランは、咄嗟(とっさ)にその身を(ちゅう)へ逃がしてやり()ごし、上からティハラザンバーに攻撃を(くわ)えようとした。


しかし、そこは、ケアアンティアのイメージ()最中(さいちゅう)なのこちゃんである。


脳内では、怪物の攻撃から俊敏(しゅんびん)に身をかわし、積極的(せっきょくてき)接近(せっきん)戦を仕掛(しか)けるその勇姿(ゆうし)走馬燈(そうまとう)の様に再生されているのだ。


のこちゃんは、イメージに(なら)って低空(ていくう)突撃の中で思い切り(ゆか)へ手をつき、強制的(きょうせいてき)に身体の移動方向(いどうほうこう)転換(てんかん)させると、横回転のきりもみ状態ではね上がった。


その高いテンションと(いきお)いのまま、上空(じょうくう)のセイランを追いかけて、腕で(はら)いのけようという(こころ)みだろう。


「やあっ!」


『そら、相手の力の道筋(みちすじ)もよく見るのだ…のこ』


トレーナーに注意され、のこちゃんは、ハッとした。


こんな状況でも、セイランの()らめきの流れは、(したた)かにティハラザンバーを(とら)えていたのだ。


油断(ゆだん)のならない格闘巧者(かくとうこうしゃ)である。


だが、もう()(はら)う腕の動きは止められない。


のこちゃんは、予想されるセイランの攻撃を、アームカバー状の白銀(しろがね)(よろい)部分で受ける事に腹をくくった。


腕の軌道(きどう)を無理矢理に合わせたその直後、空中で双方(そうほう)の攻撃が激突(げきとつ)し、再び大きな金属音が(ひび)かせる。


「間に合った!」


セイランは上から()みつける様な()りを出していたのだが、空中であったために力が入りきらず、ティハラザンバーの腕払(うでばら)いに力負(ちからま)けをしてしまった。


「くっ、馬鹿力(ばかぢから)め…」


不覚(ふかく)にも体勢(たいせい)(くず)してしまったセイランだったが、ティハラザンバーのきりもみ運動は、まだおさまっていない。


身体の横回転にまかせ、(はら)いをした腕とは逆の方の腕が、攻撃の予備動作を終えた状態で空中のセイランへ正対(せいたい)する。


「うっ」


「やあああぁぁぁっっ!!」



ちなみにケアアンティアは、(はがね)のメンタルをグーパンチに乗せて、正面から敵を粉砕(ふんさい)しにかかるストロングスタイルのチャムケアである。


のこちゃんは、そんな感じでティハラザンバーの(こぶし)を前へ、セイランに向けて(とき)(はな)った。


『ふむっ、良いな…のこ』


改めて言うまでもないが、ティハラザンバーの身体は、魔の神獣(しんじゅう)(おお)ティハラとそれを()った白銀(しろがね)(よろい)聖女(せいじょ)からできている。


(かく)となっているのこちゃんこそ単なるチャムケア好きの中二女子にすぎないものの、要するにそれは、伝説(でんせつ)()()()()がもらった服を着て歩いている様な存在なのだ。


そんなアレな存在が、空中でまったく力が入らない状態でとは言え、その気になって渾身(こんしん)の攻撃を()り出せばどうなるのか。


先ほどのイメージも何も無い、形だけでっち上げたキックとは(わけ)が違う。


トレーナーの言った通り、のこちゃんがその(こぶし)()めたいわばチャムケア好きの(たましい)に、身体(ティハラザンバー)(こた)えた。


()ずは、(まわ)りの空気を巻き込む様なうねりが、ティハラザンバーの(こぶし)追従(ついじゅう)する。


うねりは、空間そのものを()()く様な振動(しんどう)へと昇華(しょうか)し、衝撃(しょうげき)奔流(ほんりゅう)となって(ねら)った(さき)穿(うが)つのだ。


衝撃波(しょうげきは)とは、よく言ったものである。


実際、()()かれた空気は部屋の中にも係わらず暴風(ぼうふう)逆巻(さかま)かせ、震動(しんどう)が部屋どころか建物そのものを(はげ)しく()らした…


「ぬぅっ」


「はぁ?!」


のだが、その現象(げんしょう)一瞬(いっしゅん)にして霧散(むさん)した。


立ち合いを注視(ちゅうし)していた老矛(ろうぼう)とベニアも、何が起きたのか分からぬまま、この成り行きに驚愕(きょうがく)(きん)()ない。


「え…」


ただし、一番ビックリしたのは、攻撃を(はな)ったのこちゃんご本人だろう。


嵐の様な衝撃波(しょうげきは)発生(はっせい)(あわ)てて、のこちゃんが途中(とちゅう)(こぶし)()()めたので、威力(いりょく)はすぐにしぼんでしまったのだ。


絵に()いた様な、虎頭蛇尾(ことうだび)である。


その結果、キョトンとした顔のままティハラザンバーは(ゆか)に落っこちて、(したた)かに頭を打った。


「あ(いた)っ!!」


『ふむ、最初だから仕方ないが、ゆくゆくは胆力(たんりょく)(やしな)ってゆかねばならないな…のこ』


トレーナーのダメ出しで、のこちゃんは、ハッと(われ)に返る。


「なな、何ですか今のは…ルックスはともかく、こんなの出しちゃったら本当に怪人(かいじん)じゃないですか!?」


(ゆか)に転がったまま、小声でのこちゃんは、トレーナーにクレームを入れた。


(おお)ティハラが()た様な(ちから)を使っていたから、恐らくは、それをティハラザンバーも()()いだのであろうよ。

その身一つで()()びようと思うのなら、戦いに有利(ゆうり)になる能力(のうりょく)は、少しでも多い方が良いのだ。

逆に、良かったと(よろこ)ぶべき事実(じじつ)ではないか?…のこ』


まさかの怪人(かいじん)要素肯定(こうてい)論に、のこちゃんは唖然(あぜん)とする。


そしてそれは、凶悪(きょうあく)容姿(ようし)と運動性が高い大柄(おおがら)な身体に、殺意(さつい)の強い大きな武器を()(まわ)して、手から(なぞ)衝撃波(しょうげきは)を出す系怪人(かいじん)(ぞう)とは言え、のこちゃんの基本的な戦闘スタイルが完成(コンプリート)した事を意味した。


もちろん、これからの成長を考えれば、前途洋々(ぜんとようよう)と言えなくもない。


全然(ぜんぜん)(うれし)くない………………」



(さいわ)いにも、ティハラザンバーの(こぶし)は、セイランからそれていた。


しかし、一瞬(いっしゅん)だけ猛威(もうい)をふるった衝撃(しょうげき)余波(よは)に飛ばされたセイランは、(ゆか)尻餅(しりもち)をついた姿で呆然(ぼうぜん)としている。


特に、身体へ(きず)()った様子は無いのだが、よほどティハラザンバーの(ちから)(おどろ)いたのであろうか。


まだ部屋の中の空気が少しそよいでいて、セイランの(ほお)辺りでは、光沢のある灰色の毛並みが(かす)かに()れた。


「………ティハラザンバー、お前もか…」


何かをポツリと(つぶや)いたセイランの声をかき消す様に、警報(けいほう)(おぼ)しき大きな音が、建物全体へと(ひび)(わた)る。


のこちゃんは、救急車(きゅうきゅうしゃ)かな?などとボンヤリ思ってから、再びビックリして飛び起きた。


「何これ、サイレン!?、火事?!、地震?!」


タイミングを考えれば明らかにティハラザンバーの引き起こした現象に対する警戒警報(けいかいけいほう)なのだが、その自覚は無いのこちゃんである。


狼狽(うろた)えるな、(まわ)りの者をよく見るのだ…のこ』


「え?あ…」


なるほど言われてみれば、この(むね)を主に使っているらしい(おおかみ)獣人(じゅうじん)クラスターの老矛(ろうぼう)やセイランはともかく、ジャガーの獣人(じゅうじん)であるベニアさえも特に動揺(どうよう)をしていなかった。


もしかすると、これくらいの警報(けいほう)など、魔刃殿(ここ)ではそれほど(めずら)しい事でもないのかも知れない。


「ああ、そうなんだ、(おどろ)いたぁ」


本当の所は、前日にティハラザンバーが暴れて出ていったり、白獅子(しろじし)御大将(おんたいしょう)ことじっさんと決闘させられたりしていた時に警報(けいほう)()っていたので、"また()らしたか"といった(みな)の反応だったのであるのだが。


やれやれと言わんばかりに、老矛(ろうぼう)(ふところ)から小さな道具らしき物を取り出し、手元でそれを操作(そうさ)をすると間もなく、警戒警報(けいかいけいほう)停止(ていし)した。


警報(けいほう)()れていないのこちゃんが安堵(あんど)していると、いつの間にかセイランは、ティハラザンバーの後に立っていた。


何も言わずにティハラザンバーを見つめているので、これには、さすがにギョッとしたのこちゃんである。


「なっ、何でしょうか?」


「次は、今のをどんどん使ってくれて(かま)わない」


セイランは、ティハラザンバーの(はな)った衝撃波(しょうげきは)間近(まぢか)(せっ)していても、まだやる気十分であった。


むしろ、(ひとみ)から(はっ)する光りは、(つよ)まっている。


戦うスタイルがどうやら怪人(かいじん)型に決定された直後とあって、()えてやる気の欠片(かけら)も無いのこちゃんは、マジですかぁと引き気味なのだが。


「もう、良いであろう。

双方(そうほう)とも(もど)れ、これまでとする。」


セイランを(たしな)める様に、老矛(ろうぼう)が立ち合いの終了を()げた。


老師(ろうし)?!」


間違(まちが)えるなセイラン。

今日のこれは、あくまでもティハラザンバーの素養(そよう)(はか)る事が目的なのだ。

お前も育成組(いくせいぐみ)なのだから、こやつとは、これから(いく)らでも稽古(けいこ)する機会があるだろう…(ちが)うか?」


「………………はい…」


不承不承(ふしょうぶしょう)な様子で、セイランは(うなず)く。


どうやら、本当に終わらせて良いらしい。


もちろん、のこちゃんは態度に出ない様に細心(さいしん)の注意を(はら)いつつ、心の底から、そして、心の中に(とど)めたままでバンザイをしていた。



「ってことは、トマト…ティハラザンバーの育成組(いくせいぐみ)入りに、納得(なっとく)したんですか?」


老矛(ろうぼう)言質(げんち)に、すかさずベニアが確認を入れる。


左様(さよう)

(われ)(あず)かるに()る者と(はん)じた………ティハラザンバーよ」


老矛(ろうぼう)は、ティハラザンバーが(こぶし)(はな)った先の天井(てんじょう)をチラリと見やってから、のこちゃんへ呼びかけた。


「…え?あ、はいっ」


「ご苦労だった、今日はもう良い。

明日からは育成組(いくせいぐみ)へ参加する様に…また、ベニアカーラ・ベニアについてくれば集まる場所も分かろう。」


(くわ)しい予定はそこで話すと、老矛(ろうぼう)がこの場を()めくくろうとしたその時である。


何やら、部屋の出入り口の方で騒然(そうぜん)とした気配(けはい)がわき起こり、大勢(おおぜい)(おおかみ)獣人(じゅうじん)が、どやどやと(なだ)()んできた。


どこか殺気立(さっきだ)っている様に、のこちゃんには見える。


一同が目を(みは)る中で、(おおかみ)獣人(じゅうじん)たちは、素早く老矛(ろうぼう)の前に整列(せいれつ)をしてゆく。


ティハラザンバーを気にしているのか、チラチラ見ている者も多い。


『こやつらには、見覚(みおぼ)えがあるな…のこ』


小柄(こがら)体格(たいかく)に、簡素(かんそ)(よろい)姿と短い(やり)の様な武器を持っているお(そろ)いの()()ちで、のこちゃんは、昨日(きのう)自分を()(かこ)んだ警備(けいび)担当(たんとう)の者たちと思い当たる。


「あんまり、良い印象は持たれてないですよねぇ…」


整列(せいれつ)()んでも、彼らの雰囲気(ふんいき)はピリついていた。


何事(なにごと)だ、物々(ものもの)しい。

今の警報(けいほう)なら、(すで)状況(じょうきょう)は終了しておる。

(すみ)やかに、通常(つうじょう)の配置へ(もど)る様に…」


老矛(ろうぼう)は、現状に問題の無い事を伝える。


しかし、お待ち下さいとリーダーらしき者が大勢(おおぜい)の中より進み出て、緊張(きんちょう)した口調(くちょう)報告(ほうこく)をした。


「お(かしら)襲撃者(しゅうげきしゃ)です!」


続きます。

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