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「はぁ…はぁ…、クソッ! 何でこんなにも数が居るんだよ!?」
「知るか! とにかく逃げるぞ! 奴らの足音が近い」
「逃げるって何処によ!? 追われたままじゃ町に行けないのよ」
あの人達、何であんなに焦っているのでしょうか。
たいして強くない集団、低レベルの装備、足りていない想像力。
逃げている先を、誘導されている事に気付いていない様ですね。
どうするのですか? キコツさん?
「当然、助太刀致す。如何に戦士と言えどもまだ子供。未来ある若人を失う訳にはいかぬ。龍悟殿、合わせられるか?」
「合わせるだけなら。鬼骨さんには並べないけど」
「上等。弥槻殿、援護を頼むぞ!」
あ、助けるんですか。
人間3人くらい、見捨てても問題ありませんよ? どうせ直ぐに増えるのですから。
まあ、やりますけど。
取り敢えず、その辺りのゴブリンの動きを止めれば良いですか? やりますよ?
「童共よ! 助太刀致す!」
「誰っ!?」
間違って考えている人が多い様ですが、魔人、魔族、魔物はそれぞれ別物です。
魔人は人間の一種ですが、魔族と魔物はほぼ同じです。違いと言えば、知性や理性を持って他種族と友好的かどうかですね。
魔族にもゴブリンは居ますが、小鬼とゴブリンは違います。
詳しくは、メチルさんやフィシリアさんに聞いてください。私よりも正確な答えが返ってくると思います。
「今は気にすんな! 取り敢えず俺達に任せろ!」
……臭いです。
流石魔物です。匂いで既に殺しにかかっていますね。こんな時に、聖術の浄化は便利です。
ある程度なら匂いも消してくれるのです。魔術にも似たものはありますが、あれは汚れを落とすだけなので染み着いた匂いは消せないので。
ともあれ、一掃完了です。
なにせ元魔王の剣豪に、現役勇者の人間兵器ですからね。この程度、障害にすらなりません。
「えーっと、君達は無事か? 」
「あ、はい。大丈夫……貴方達は?」
「俺は龍悟、それなりの戦士だ。あそこの人は鬼骨さんって言って、とても強い侍。で、彼女は弥槻さん、俺の嫁だ。ちょっとこの先の村に用があってな、向かってる最中にたまたま君達に居合わせたって所だ」
調べましたが、このゴブリン達には王が居るらしいですね。
どうしますか?
私はやりたくないです。無駄に数が多いですし、臭いので。
「規模はどの程度だろうか?」
そうですね…2000程でしょうか。
良くこれだけ増えて、騒ぎになっていませんね。
ほら人間って、このような事に敏感じゃないですか。
「いや弥槻さん。普通この数は騒ぐ案件だぞ? 余裕なのは、弥槻さん達みたいな一部だけだから」
「あぁーっ! こうしては居れん。村へ急がねば! ミレディ殿、ティティ殿、村の人が危険だ! 耐えていてくれ、ハルトマン殿!」
行ってしまいました。
かなり方角からずれていますが、キコツさんなら大丈夫です。きっと上手いこと村へ到着するでしょう。
龍悟さん。私達も行きましょう。
そして早く帰りましょう。
「待って。その集団の場所と、村からの距離は分かる?」
村は分かりませんが、群れなら村の反対方向ですよ。少なくとも、今すぐにどうにかなる距離ではありません。
この群れは数こそ多いものの、まだ発生して間もない様です。なので、大きな行動をとるとすれば今日から長ければ5日以内てしょうね。
手早くやれば、何事もなく帰れますよ。
「ん~…そうだな。早く帰って弥槻さんとイチャイチャしたいし。あっ、君達も帰っていいからね。もう用は無いから」
「貴方達はそれで良いんですか!? 早くギルドに報告しないと、近くに暮らす人達が危ないんですよ! 」
「だから?」
「…え?」
「だから何だと聞いてるんだ。まさか俺達に、群れに突っ込めなんて言わないよな? 見ず知らずの人間に、そんな危険な事を押し付けるってのか? そもそも、別に近くに知り合いが居るわけでもないし、どうなろうと知ったことじゃねぇな。君達の実力じゃ、ギルドの召集で集まっても死ぬだろうな。とっとと逃げた方が身のためだぜ。じゃ、俺ら行くから」
なんか違います。
これでも、魔族です。勇者に討たれる側の存在です。
興味こそなかったですが、勇者の情報は嫌でも入ってきます。この中には困っている人間を助け、人間に仇なす魔物を殺し尽くす。と聞いています。
「正直さ、魔王領に行くまで魔族って獣みたいなのだと思ってたんだよね。話してみると全然人でさ、流石に殺せないわ」
あ、龍悟さんも勘違いしているのですか。
私も魔族ですので、言っておかなくてはいけませんね。
あんなのと一緒にしないで下さい。
普段から魔族を魔族と呼んでいる龍悟さんなら、問題は起こらないと思いますが、間違っても魔物と一緒にはしていけませんよ。
流石に、それは失礼にあたりますので。
例えるなら、人間に猿と言うようなものです。
本能でしか生きないモノなど、獣と同等です。小鬼の人達でも、普通にゴブリンを殺しに行きますよ。あんなのは、害獣駆除でしかありません。
「成る程な、納得だわ。進路変更していい? 潰しに行く」
嫌ですが、良いですよ。
今回の私は、龍悟さんに着いてきただけなので。行くところへご一緒しますよ。